ガンで余命数ヶ月と言われた中野重治を看とるため集る仲間たち。その臨終に至るまでが微細に綴られています。
驚くのは当時の文学仲間たちのその濃密な付き合いぶり。著者の息子までが病人のために奔走します。医者との話し合いにまで仲間たちが加わっているのは驚きです。
中野重治の臨終に続き密葬、告別式で筆者は友人代表の役目を果たす。その間の未亡人を含めた多くの友人知己に対する温かくも鋭い洞察が読みごたえあり。
その後舞台は戦前へ。中野重治とともに同人誌「驢馬」を創刊し、結婚し子を産み、プロレタリア作家として自らも筆を執った文学修行の日々が事細かに描かれます。故郷の餅を持参する中野重治の姿とその気遣いに対する筆者の細やかな思いが中々良く描かれています。
本書は恋情と言って良いほどの友情が書かせた一冊ですね。二人の付き合いはとても濃厚な数十年であったことが伺えました。病床の中野の脚を筆者がさする場面(56頁)や「中野重治は、もういない」と呟く場面(75頁)、そして何より、最後の、中野の遺骨を手で掬い福井の中野家の墓に掘った土の中に入れる場面が美しいです。
なお、中学時代名作と思った「くれない」が「(多分出版社に)強いられて」書いたというのは意外でした。名作に変わりはないとは思いますが。あと日本共産党の、仲間にスパイのレッテルを貼って葬るやり口や、数限りない分裂騒ぎが多くの人々を不幸にしたことも良くわかりました。
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夏の栞: 中野重治をおくる (新潮文庫 さ 4-4) 文庫 – 1989/6/1
佐多 稲子
(著)
- 本の長さ198ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日1989/6/1
- ISBN-104101082049
- ISBN-13978-4101082042
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登録情報
- 出版社 : 新潮社 (1989/6/1)
- 発売日 : 1989/6/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 198ページ
- ISBN-10 : 4101082049
- ISBN-13 : 978-4101082042
- Amazon 売れ筋ランキング: - 592,065位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2015年9月30日に日本でレビュー済み
長年、友情を培った相手が死去する際の、悲しみ、後悔、切なさ。
社会主義に関心がなくても、十分読むに足る一冊。
男女の間にある友情とは、必然的に恋愛を含んでいる。
その部分をうまく書いているのがいい。
社会主義に関心がなくても、十分読むに足る一冊。
男女の間にある友情とは、必然的に恋愛を含んでいる。
その部分をうまく書いているのがいい。
2023年12月8日に日本でレビュー済み
20年以上前に新潮文庫の夏の栞を買った。日本の情念が込められているようで、久しぶりにそういうものを読んでみたいと思ったのだ。しかしずっと読まないでいた。特に才気あるものではないだろうと、何度も整理しようかと思った。でも残った。
令和5年の今、本を整理を始めた。また夏の栞がその候補の一冊となった。処分の前にどのようなものか、ちょっと確認してみようと思った。
日本文学を味わったのは何年振りだっただろう。若き日の吉祥寺でいろいろ読んだ本で描かれた情念を久しぶりに味わった。
佐多稲子の文体はわかりづらいところはある。しかし奥行きがある。舞のような文体で幾重にも重なった人間模様を描く。デジタル時代の読み物とは違う。始めから終わりまで、佐多稲子の中野重治への秘めた想いを感じながら読んだ。しかし佐多稲子はそれを言葉にしない。中野重治も佐多稲子への想いを秘す。しかし、それがほとばしる「告白」を書いている。作家佐多稲子を見出したのは自分だと。この中野の言葉は奥野健男の解説にあります。(「くれない」の作者にことよせて)
昭和の空気の中に入って、生きることを感じてみたいという人には一読の価値があります。
令和5年の今、本を整理を始めた。また夏の栞がその候補の一冊となった。処分の前にどのようなものか、ちょっと確認してみようと思った。
日本文学を味わったのは何年振りだっただろう。若き日の吉祥寺でいろいろ読んだ本で描かれた情念を久しぶりに味わった。
佐多稲子の文体はわかりづらいところはある。しかし奥行きがある。舞のような文体で幾重にも重なった人間模様を描く。デジタル時代の読み物とは違う。始めから終わりまで、佐多稲子の中野重治への秘めた想いを感じながら読んだ。しかし佐多稲子はそれを言葉にしない。中野重治も佐多稲子への想いを秘す。しかし、それがほとばしる「告白」を書いている。作家佐多稲子を見出したのは自分だと。この中野の言葉は奥野健男の解説にあります。(「くれない」の作者にことよせて)
昭和の空気の中に入って、生きることを感じてみたいという人には一読の価値があります。
2005年1月23日に日本でレビュー済み
佐多稲子の中野重治への愛情が、行間から匂い立つ。男と女という、微妙な距離感、緊張感を漂わせながら、互いに文学的才能と情熱に信頼を置くゆるぎない関係性。ふたりが「あなたのかわりはいない」と思い交わすまでの、五十年に及ぶ出来事をつづる筆致は、中野の死の悲しみをひきずるかのように、湿り気を帯びる。情がからまり、多少のこなれなさがある文章だが、それを差し置いても、気持ちの強さで読ませる傑作だ。書かずにはおれない、という気持ちで書かれた文章にかなうものなどない。
2012年6月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
自身を小説家として発見してくれた恩人でもあり、また思想上の先達でもある男との生涯に亙る付き合いを質素ではあるが時に情熱的に時に淡々と美しく文で綴ってある殆ど小説のようなエッセイである。
「私は、中野さんとのつきあいで、自分の、女であるというのが残念でしょうがないんです。私が、女でなかったら、男だったら、もっとちがうつきあいが…… 」
中野と『『驢馬』の時代からのつきあいとして』葬儀委員長に推されたときに佐多の感じた悔しさの『意味不明瞭』と本人も知る言葉が胸に響く。
夫の故郷で『墓石の台石の下にすでに掘』られた『土』の上に(骨)『壺の中に両掌を差し出して骨を掬うと、その両掌を穴の内に移して、さらさらとそそぎ』入れた妻、原の気丈な決意が痛々しくも壮麗な美としてラストを飾る。
「私は、中野さんとのつきあいで、自分の、女であるというのが残念でしょうがないんです。私が、女でなかったら、男だったら、もっとちがうつきあいが…… 」
中野と『『驢馬』の時代からのつきあいとして』葬儀委員長に推されたときに佐多の感じた悔しさの『意味不明瞭』と本人も知る言葉が胸に響く。
夫の故郷で『墓石の台石の下にすでに掘』られた『土』の上に(骨)『壺の中に両掌を差し出して骨を掬うと、その両掌を穴の内に移して、さらさらとそそぎ』入れた妻、原の気丈な決意が痛々しくも壮麗な美としてラストを飾る。
2010年9月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ちょっと高価な講談社の文芸文庫でも、あえて手を出したくなる装丁に拍手!
さて、いわゆるプロレタリア文学の分野に、特に固執しているわけではなく、又、精通していないのですが、佐多稲子さんだけは、何となく文体や描写力が実に魅力的でとても好きです。
その作品の中で異色と言える「夏の栞」は、彼女が尊敬してやまない、中野重治さんが亡くなったその夏のいきさつを見事に描写し、かつ走馬灯のような思い出の数々を印象的に書き綴って、読む者の感動を誘います。とてもすぐれた作品です。
さて、いわゆるプロレタリア文学の分野に、特に固執しているわけではなく、又、精通していないのですが、佐多稲子さんだけは、何となく文体や描写力が実に魅力的でとても好きです。
その作品の中で異色と言える「夏の栞」は、彼女が尊敬してやまない、中野重治さんが亡くなったその夏のいきさつを見事に描写し、かつ走馬灯のような思い出の数々を印象的に書き綴って、読む者の感動を誘います。とてもすぐれた作品です。