阿川弘之提督三部シリーズの中で最高傑作です。
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井上成美 (新潮文庫) 文庫 – 1992/7/29
阿川 弘之
(著)
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一億総玉砕だけは避けねばならぬ。孤高にして清貧。日米開戦を強硬に反対した、最後の海軍大将の反骨心溢れる生涯。「海軍提督三部作」。
帝国海軍きっての知性といわれた最後の海軍大将・井上成美。彼は、無謀な対米戦争に徹頭徹尾批判的で、ドイツとの軍事同盟も一度は潰させ、兵学校校長時代は英語教育廃止論をしりぞけ、敗戦前夜は一億玉砕を避けるべく終戦工作に身命を賭し、戦後は近所の子供たちに英語を教えながら、清貧の生活を貫いた。
「山本五十六」「米内光政」に続く、著者のライフワーク海軍提督三部作堂々の完結編。
本書「解説」より
この阿川伝記を読み進めてゆくと、この根っから批評家的人物、アンチ・ヒーローともいうべき井上の頭上に、次第に栄光の冠が輝きはじめるのを認めずにいられない。自己劇化、自己栄光化には縁遠い気質の持主であり、きわめて潔癖にこれを斥(しりぞ)け、拒否しつづけた人物の生涯に、いつか仄かな後光がきざし始める。これはまことに感動的な瞬間であり、敗戦後にこういう軍人がいたのか、戦前、戦中、戦後を通じてこれほど見事な鮮烈さで己れを貫き通した日本人がいたのかと、ぼく自身は、涙を抑えがたかった。
――佐伯彰一(文芸評論家)
阿川弘之(1920-2015)
広島市生まれ。1942(昭和17)年、東大国文科を繰上げ卒業し、海軍予備学生として海軍に入る。戦後、志賀直哉の知遇を得て師事。1953年、学徒兵体験に基づく『春の城』で読売文学賞を受賞。同世代の戦死者に対する共感と鎮魂あふれる作品も多い。芸術院会員。主な作品に『雲の墓標』『舷燈』『暗い波濤』『志賀直哉』のほか、『山本五十六』『米内光政』『井上成美』の海軍提督三部作がある。
帝国海軍きっての知性といわれた最後の海軍大将・井上成美。彼は、無謀な対米戦争に徹頭徹尾批判的で、ドイツとの軍事同盟も一度は潰させ、兵学校校長時代は英語教育廃止論をしりぞけ、敗戦前夜は一億玉砕を避けるべく終戦工作に身命を賭し、戦後は近所の子供たちに英語を教えながら、清貧の生活を貫いた。
「山本五十六」「米内光政」に続く、著者のライフワーク海軍提督三部作堂々の完結編。
本書「解説」より
この阿川伝記を読み進めてゆくと、この根っから批評家的人物、アンチ・ヒーローともいうべき井上の頭上に、次第に栄光の冠が輝きはじめるのを認めずにいられない。自己劇化、自己栄光化には縁遠い気質の持主であり、きわめて潔癖にこれを斥(しりぞ)け、拒否しつづけた人物の生涯に、いつか仄かな後光がきざし始める。これはまことに感動的な瞬間であり、敗戦後にこういう軍人がいたのか、戦前、戦中、戦後を通じてこれほど見事な鮮烈さで己れを貫き通した日本人がいたのかと、ぼく自身は、涙を抑えがたかった。
――佐伯彰一(文芸評論家)
阿川弘之(1920-2015)
広島市生まれ。1942(昭和17)年、東大国文科を繰上げ卒業し、海軍予備学生として海軍に入る。戦後、志賀直哉の知遇を得て師事。1953年、学徒兵体験に基づく『春の城』で読売文学賞を受賞。同世代の戦死者に対する共感と鎮魂あふれる作品も多い。芸術院会員。主な作品に『雲の墓標』『舷燈』『暗い波濤』『志賀直哉』のほか、『山本五十六』『米内光政』『井上成美』の海軍提督三部作がある。
- ISBN-10410111014X
- ISBN-13978-4101110141
- 出版社新潮社
- 発売日1992/7/29
- 言語日本語
- 寸法14.8 x 10.5 x 2 cm
- 本の長さ724ページ
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春の城 | 雲の墓標 | 山本五十六〔上〕 | 山本五十六〔下〕 | 井上成美 | 米内光政 | |
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【新潮文庫】阿川弘之 作品 | 第二次大戦下、一人の青年を主人公に、学徒出陣、マリアナ沖大海戦、広島の原爆の惨状などを伝えながら激動期の青春を浮彫りにする。〈読売文学賞受賞〉 | 一特攻学徒兵吉野次郎の日記の形をとり、大空に散った彼ら若人たちの、生への執着と死の恐怖に身もだえる真実の姿を描く問題作。 | 戦争に反対しつつも、自ら対米戦争の火蓋を切らねばならなかった連合艦隊司令長官、山本五十六。日本海軍史上最大の提督の人間像。〈新潮社文学賞受賞〉 | 帝国海軍きっての知性といわれた井上成美の戦中戦後の悲劇――。「山本五十六」「米内光政」に続く、海軍提督三部作完結編!〈日本文学大賞受賞〉 | 歴史はこの人を必要とした。兵学校の席次中以下、無口で鈍重と言われた人物は、日本の存亡にあたり、かくも見事な見識を示した! |
登録情報
- 出版社 : 新潮社 (1992/7/29)
- 発売日 : 1992/7/29
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 724ページ
- ISBN-10 : 410111014X
- ISBN-13 : 978-4101110141
- 寸法 : 14.8 x 10.5 x 2 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 157,167位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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著者について
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1920(大正9)年広島県生まれ。東大国文科を繰上げ卒業、海軍に入り、中国で終戦。戦後、志賀直哉に師事し、『春の城』、『雲の墓標』、『山本五十六』『米内光政』『井上成美』の海軍提督三部作などがある。『食味風々録』は読売文学賞受賞作品。1999年に文化勲章を受章。
カスタマーレビュー
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上位レビュー、対象国: 日本
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2022年7月27日に日本でレビュー済み
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正直言って、井上成美提督のことは良く知りませんでした。「米内・山本は知ったつもり」程度の知識はありました。本書を読んで、井上のような提督がいたから日本は滅びなかったのだと理解しました。珊瑚海海戦が当時の海軍主流には不評だったようですが、産經新聞社発行の「珊瑚海海戦」と合わせて読むと、むしろ日本海軍が珊瑚海の戦闘を冷静に分析せずに井上の責任にしてしまったことがミッドウェイ海戦の大敗北に繋がったようです。本書361ページの「珊瑚海電文綴」の記述は井上と南雲に対する当時の海軍全般の評価が良くわかります。決して「物量に負けた」のではなく「作戦面でも精神面」でも負けたことが良くわかりました。
2022年1月11日に日本でレビュー済み
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海軍大将の戦後の困窮に、海軍兵学校の有志が支援を申し出、これを峻拒する高潔さ。有志の知恵の限りの申し出に、しぶしぶ応じる頑固さ。近隣の姉弟に僅かな謝礼で英語を教え続ける粘り強さ。晩婚の夫人の一風変わった人柄の妙。海軍省次官として対艦巨砲主義の愚を指摘して戦艦大和の修繕を止めさせ、駆逐艦などの小艦艇の修繕を優先させる合理主義。東南アジア侵略戦争が米英との戦争の発火点になるとして反対する勇気。
惜しむらくは、仙台の少年時代の生活がほとんど描かれていないこと。昭和天皇が井上は学者で戰下手だからねと、作戦も失敗を庇った言葉。読後の爽やかさに思わず涙しました。
惜しむらくは、仙台の少年時代の生活がほとんど描かれていないこと。昭和天皇が井上は学者で戰下手だからねと、作戦も失敗を庇った言葉。読後の爽やかさに思わず涙しました。
2021年9月5日に日本でレビュー済み
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むかし読んだ本。読み返そうと思って探していましたが、書店では なかなか見つからなかったので助かりました。阿川弘之氏の提督三部作。名作です。
2021年2月1日に日本でレビュー済み
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帝国海軍きっての知性、当初から対米戦争に反対し、終戦工作を成し遂げた海軍大将の物語である。終章まで、戦前戦中と、退役した戦後の話が交互に描かれている。
武功は華々しくない。知謀を巡らし果敢に決断した戦場の提督ではないようだ。が、敗戦後の日本に大きな影響を残した旧軍人の1人なのは間違い無い。
井上成美らしさを最も感じるのは第11章だろう。当時の世情に左右されず、敗戦を予測し、軍人としての立場に徹しながら、戦後を見通した教育を遺した。
軍人として勝利に向け突き進むわけではなく、責任から離れ批判に終始するわけではなく、最善の未来のために自身が出来ることをやり切り、無私を最後まで貫いた私の人、と言えるだろう。
武功は華々しくない。知謀を巡らし果敢に決断した戦場の提督ではないようだ。が、敗戦後の日本に大きな影響を残した旧軍人の1人なのは間違い無い。
井上成美らしさを最も感じるのは第11章だろう。当時の世情に左右されず、敗戦を予測し、軍人としての立場に徹しながら、戦後を見通した教育を遺した。
軍人として勝利に向け突き進むわけではなく、責任から離れ批判に終始するわけではなく、最善の未来のために自身が出来ることをやり切り、無私を最後まで貫いた私の人、と言えるだろう。
2018年9月25日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
評者は2018年9月現在で82歳の引退した町医者である。
ここ十年ほど、必要あって、日清・日露戦争時代の脚気の抑制をめぐる陸海軍医間の一種の論争(脚気紛争といわれる)を調べているうちに、陸軍と海軍の軍医の陣営の間には、物の見方考え方に特有の相違が目立ち、それが年代とともに顕著になってゆくのを暗然とした思いで眺めた経験がある。一言でいえば、海軍軍医陣の思考は科学的であり、陸軍の思考はイデオロギー的であるといえる。その陸軍軍医陣にあって、イデオロギー的医学をうちたてたのは石黒忠悳という軍医総監であり、それに最大の貢献をしたのがその配下の森林太郎(鷗外)である。鷗外など、軍医としてはとても評価に値するような医師ではなく、むしろ、まちがった医学イデオロギーを信奉することにより、日清・日露戦争を通じ、無辜の兵士数万人を脚気死させた国賊ともいってさしつかえない存在である。
言う迄もなく鷗外は医師と文士の二足のワラジを履き通した男であるが、この医師としての否定的な面を無視して、いつまで文士鷗外を文豪呼ばわりして尊崇の対象とするのか。これが現在私が抱いている結論である。(参照・再評価!文学者が書かない森鴎外の暗部の医学史・群馬県歯科医学会雑誌20、21、22巻)
さて、ここからが井上成美論になる。
やがて、上記の陸軍軍医陣の空気は、鷗外がイデオローグとして奉仕した晩年の山県有朋元帥をとおして軍全体に広まり、海軍に存在していた科学的思考も、だんだんイデオロギー的思考に籠絡されて太平洋戦争へと至る。私がしらべたところでは、第一次世界大戦以後の日本の軍部は、概ねこのような陸軍の大気団の気圧の支配下にあり、この支配に抵抗し科学的推測に基づいて日米開戦に反対したのは、米内光政-山本五十六-井上成美-高木惣吉という海軍のラインの小さな気団のみになった。この小気団の圧力は、大気団の気圧に比べれば問題にもならない。しかし、皇軍不敗の大気団のイデオロギーにも係わらず、戦争の帰趨は、連合艦隊の壊滅という明瞭な客観的事実の前に明らかになってゆくが、気団の方は却って狂的な迷走気団となり、広島・長崎の原爆投下のあと、からくも生き残った米内光政-井上成美-高木惣吉というラインの奮鬪で終戦が実現した。本書の主人公である井上成美は、このラインをフル活動させることで「本土決戦」という迷走気団の狂的イデオロギーの跋扈を食い止めた最大の貢献者である。
評者は何十年か前、阿川弘之が「山本五十六」を公刊したとき、すぐ購入して読みふけり、一読いちじるしく落胆した。その作品にではない。その作品が主人公とした連合艦隊司令長官山本五十六提督という男にである。とくに山本が、日米開戦の見通しについて近衛文麿から質問された時「やれと言われれば半年や一年は存分に暴れてみせるが、その後のことは自信がない」という意味の答えをしたと知った時、五十六とはこんなアイマイな言を弄する武人にすぎなかったのかという痛切な思いがしたことを今も忘れることができない。こんな男のどこが偉かったのか。本書にはそれに対する井上の批判が、じつに胸がすくような文体で書かれている。
本書には、その他にも、我々がしらないでいた事がまだ沢山書かれている。その一例。
戦中のある日、「ある会合の席上、三笠宮が、自身陸軍少佐の身分でありながら軍の悪口を言い出したことがあった。『自分は陸軍へ入りたくなかったんだが、陛下の御命令でやむを得ず入った。今の陸軍は、お上の気持ちは踏みにじる、庶民のことは頭から馬鹿にしてかかる。どうして此のようなことが公然とまかり通るのか、一度徹底的な体質改善をする必要があるのではないかと思う』」。(45頁)
私は60年安保を経験した後もしばらくは、昭和天皇には戦争責任があり、退位もしない天皇は無責任と考えていた者であるが、本書を見てその考えがまちがっていたと、じっくり考えて自分の昭和史観を訂正した。帝国日本の軍の統帥の最高位者である大元帥の天皇に、平気でウソ八百を並べて騙し、国民を破滅の淵までに追い込んだ責任は、形式上はともかく、実質上は天皇には全くない。
目からウロコが落ちたとは、この時の私の気持ちをいうのであろう。評者は、本書を読んで得難い経験をした。評者は阿川弘之氏には、文芸作家としてそんなに敬意を持っている者ではないが、本書から受けた感動だけは忘れることができない。そのうえ本書の巻末にある佐伯彰一氏の解説は、じつに名解説である。この歳になって再読三読しても言うことがない。
ここ十年ほど、必要あって、日清・日露戦争時代の脚気の抑制をめぐる陸海軍医間の一種の論争(脚気紛争といわれる)を調べているうちに、陸軍と海軍の軍医の陣営の間には、物の見方考え方に特有の相違が目立ち、それが年代とともに顕著になってゆくのを暗然とした思いで眺めた経験がある。一言でいえば、海軍軍医陣の思考は科学的であり、陸軍の思考はイデオロギー的であるといえる。その陸軍軍医陣にあって、イデオロギー的医学をうちたてたのは石黒忠悳という軍医総監であり、それに最大の貢献をしたのがその配下の森林太郎(鷗外)である。鷗外など、軍医としてはとても評価に値するような医師ではなく、むしろ、まちがった医学イデオロギーを信奉することにより、日清・日露戦争を通じ、無辜の兵士数万人を脚気死させた国賊ともいってさしつかえない存在である。
言う迄もなく鷗外は医師と文士の二足のワラジを履き通した男であるが、この医師としての否定的な面を無視して、いつまで文士鷗外を文豪呼ばわりして尊崇の対象とするのか。これが現在私が抱いている結論である。(参照・再評価!文学者が書かない森鴎外の暗部の医学史・群馬県歯科医学会雑誌20、21、22巻)
さて、ここからが井上成美論になる。
やがて、上記の陸軍軍医陣の空気は、鷗外がイデオローグとして奉仕した晩年の山県有朋元帥をとおして軍全体に広まり、海軍に存在していた科学的思考も、だんだんイデオロギー的思考に籠絡されて太平洋戦争へと至る。私がしらべたところでは、第一次世界大戦以後の日本の軍部は、概ねこのような陸軍の大気団の気圧の支配下にあり、この支配に抵抗し科学的推測に基づいて日米開戦に反対したのは、米内光政-山本五十六-井上成美-高木惣吉という海軍のラインの小さな気団のみになった。この小気団の圧力は、大気団の気圧に比べれば問題にもならない。しかし、皇軍不敗の大気団のイデオロギーにも係わらず、戦争の帰趨は、連合艦隊の壊滅という明瞭な客観的事実の前に明らかになってゆくが、気団の方は却って狂的な迷走気団となり、広島・長崎の原爆投下のあと、からくも生き残った米内光政-井上成美-高木惣吉というラインの奮鬪で終戦が実現した。本書の主人公である井上成美は、このラインをフル活動させることで「本土決戦」という迷走気団の狂的イデオロギーの跋扈を食い止めた最大の貢献者である。
評者は何十年か前、阿川弘之が「山本五十六」を公刊したとき、すぐ購入して読みふけり、一読いちじるしく落胆した。その作品にではない。その作品が主人公とした連合艦隊司令長官山本五十六提督という男にである。とくに山本が、日米開戦の見通しについて近衛文麿から質問された時「やれと言われれば半年や一年は存分に暴れてみせるが、その後のことは自信がない」という意味の答えをしたと知った時、五十六とはこんなアイマイな言を弄する武人にすぎなかったのかという痛切な思いがしたことを今も忘れることができない。こんな男のどこが偉かったのか。本書にはそれに対する井上の批判が、じつに胸がすくような文体で書かれている。
本書には、その他にも、我々がしらないでいた事がまだ沢山書かれている。その一例。
戦中のある日、「ある会合の席上、三笠宮が、自身陸軍少佐の身分でありながら軍の悪口を言い出したことがあった。『自分は陸軍へ入りたくなかったんだが、陛下の御命令でやむを得ず入った。今の陸軍は、お上の気持ちは踏みにじる、庶民のことは頭から馬鹿にしてかかる。どうして此のようなことが公然とまかり通るのか、一度徹底的な体質改善をする必要があるのではないかと思う』」。(45頁)
私は60年安保を経験した後もしばらくは、昭和天皇には戦争責任があり、退位もしない天皇は無責任と考えていた者であるが、本書を見てその考えがまちがっていたと、じっくり考えて自分の昭和史観を訂正した。帝国日本の軍の統帥の最高位者である大元帥の天皇に、平気でウソ八百を並べて騙し、国民を破滅の淵までに追い込んだ責任は、形式上はともかく、実質上は天皇には全くない。
目からウロコが落ちたとは、この時の私の気持ちをいうのであろう。評者は、本書を読んで得難い経験をした。評者は阿川弘之氏には、文芸作家としてそんなに敬意を持っている者ではないが、本書から受けた感動だけは忘れることができない。そのうえ本書の巻末にある佐伯彰一氏の解説は、じつに名解説である。この歳になって再読三読しても言うことがない。
2014年12月28日に日本でレビュー済み
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最後の海軍大将・井上成美。阿川さんはその実像を美化せず淡々と描いている。
理知の人・井上の靱さと現実とのズレまで描かれている。そして、晩年の意外な脇の甘さも。
米内光政や山本五十六のように歴史の劇的場面の登場者でもない井上成美は大変難しい素材だったのではないかと思う。おそらく、解説の佐伯彰一さんの文章に本書執筆事情の委曲は尽くされていると思う。
そして阿川さんの抑制の効いた文章の妙にはいつも感心する。
個人的ことを一言。大学受験時に使っていた世界史の参考書の著者・護雅夫氏が江田島(海軍兵学校)の若い教官だったと知った。ふーん、激動の昭和史だなぁと、紋切り型だが一種の感懐に浸りました。
理知の人・井上の靱さと現実とのズレまで描かれている。そして、晩年の意外な脇の甘さも。
米内光政や山本五十六のように歴史の劇的場面の登場者でもない井上成美は大変難しい素材だったのではないかと思う。おそらく、解説の佐伯彰一さんの文章に本書執筆事情の委曲は尽くされていると思う。
そして阿川さんの抑制の効いた文章の妙にはいつも感心する。
個人的ことを一言。大学受験時に使っていた世界史の参考書の著者・護雅夫氏が江田島(海軍兵学校)の若い教官だったと知った。ふーん、激動の昭和史だなぁと、紋切り型だが一種の感懐に浸りました。