SFマガジン1966年9月号から3回に分けて連載。2か月後の67年1月に「日本SFシリーズ」の1冊として刊行され、71年5月には「世界SF全集」に収録。この迅速さから、早川の編集長(福島正実)の力の入れようがわかろうというもの。
人間そっくりの火星人。見かけが人間と同じだというのに、火星人であることをどう証明するのか、あるいは人間でないことをどう証明するのか。火星人を名乗るセールスマンと放送作家の問答が、団地の1室で繰り広げられる。堂々めぐりの会話がみごと。そしてどんでん返し、そのどんでん返しもまたひっくり返される。巧いとしか言いようがない。
新潮文庫版の解説は福島正実。作品を解説せずに、安部公房がSFをどう見ていたかを述べている。福島はこれを書いて2カ月後に亡くなった。
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人間そっくり (新潮文庫) 文庫 – 1976/5/4
安部 公房
(著)
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事実と妄想の「境界」が、どろどろに。卓抜したロジックの展開。
日本の初期長編SFのひとつ。昭和42年刊行、早川書房〈日本SFシリーズ〉の一冊。
《こんにちは火星人》というラジオ番組の脚本家のところに、火星人と自称する男がやってくる。はたしてたんなる気違いなのか、それとも火星人そっくりの人間なのか、あるいは人間そっくりの火星人なのか? 火星の土地を斡旋したり、男をモデルにした小説を書けとすすめたり、変転する男の弁舌にふりまわされ、脚本家はしだいに自分が何かわからなくなってゆく……。異色のSF長編。
著者の言葉
だからぼくは、SFの流行などということを信じない。SFが、SF用の檻の中で、いくら豚みたいに繁殖してみせたところで、なんの自慢にもなりはしない。ぼくが夢みているのは、文学のなかでの、SF精神の復権なのである。自然主義文学によって占領された仮説文学の領地を奪回することなのである。(本書「解説」より)
本書「解説」より
この作品は一種独得な構造と雰囲気とを持っている。読者は、それに引きまわされ、目まいに似たものを感じないではいられない――ほとんどが会話と、ト書きに近い状況説明しかない小説なのに、状況そのものがくるくると二転三転して、何が事実で何が妄想なのか、その区別がしだいに曖昧化していく。ついには〈人間〉とは何か〈火星人〉とは何かの概念規定までが失われ、すべてはたんに〈そっくり〉なものでしかなくなる。
――福島正実(評論家)
安部公房(1924-1993)
東京生れ。東京大学医学部卒。1951(昭和26)年「壁」で芥川賞を受賞。1962年に発表した『砂の女』は読売文学賞を受賞したほか、フランスでは最優秀外国文学賞を受賞。その他、戯曲「友達」で谷崎潤一郎賞、『緑色のストッキング』で読売文学賞を受賞するなど、受賞多数。1973年より演劇集団「安部公房スタジオ」を結成、独自の演劇活動でも知られる。海外での評価も極めて高く、1992(平成4)年にはアメリカ芸術科学アカデミー名誉会員に。1993年急性心不全で急逝。
日本の初期長編SFのひとつ。昭和42年刊行、早川書房〈日本SFシリーズ〉の一冊。
《こんにちは火星人》というラジオ番組の脚本家のところに、火星人と自称する男がやってくる。はたしてたんなる気違いなのか、それとも火星人そっくりの人間なのか、あるいは人間そっくりの火星人なのか? 火星の土地を斡旋したり、男をモデルにした小説を書けとすすめたり、変転する男の弁舌にふりまわされ、脚本家はしだいに自分が何かわからなくなってゆく……。異色のSF長編。
著者の言葉
だからぼくは、SFの流行などということを信じない。SFが、SF用の檻の中で、いくら豚みたいに繁殖してみせたところで、なんの自慢にもなりはしない。ぼくが夢みているのは、文学のなかでの、SF精神の復権なのである。自然主義文学によって占領された仮説文学の領地を奪回することなのである。(本書「解説」より)
本書「解説」より
この作品は一種独得な構造と雰囲気とを持っている。読者は、それに引きまわされ、目まいに似たものを感じないではいられない――ほとんどが会話と、ト書きに近い状況説明しかない小説なのに、状況そのものがくるくると二転三転して、何が事実で何が妄想なのか、その区別がしだいに曖昧化していく。ついには〈人間〉とは何か〈火星人〉とは何かの概念規定までが失われ、すべてはたんに〈そっくり〉なものでしかなくなる。
――福島正実(評論家)
安部公房(1924-1993)
東京生れ。東京大学医学部卒。1951(昭和26)年「壁」で芥川賞を受賞。1962年に発表した『砂の女』は読売文学賞を受賞したほか、フランスでは最優秀外国文学賞を受賞。その他、戯曲「友達」で谷崎潤一郎賞、『緑色のストッキング』で読売文学賞を受賞するなど、受賞多数。1973年より演劇集団「安部公房スタジオ」を結成、独自の演劇活動でも知られる。海外での評価も極めて高く、1992(平成4)年にはアメリカ芸術科学アカデミー名誉会員に。1993年急性心不全で急逝。
- 本の長さ208ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日1976/5/4
- 寸法14.8 x 10.5 x 2 cm
- ISBN-104101121125
- ISBN-13978-4101121123
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他人の顔 | 壁 | けものたちは故郷をめざす | 飢餓同盟 | 第四間氷期 | 水中都市・デンドロカカリヤ | |
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【新潮文庫】安部公房 作品 | ケロイド瘢痕を隠し、妻の愛を取り戻すために他人の顔をプラスチックの仮面に仕立てた男。──人間存在の不安を追究した異色長編。 | 突然、自分の名前を紛失した男。以来彼は他人との接触に支障を来し、人形やラクダに奇妙な友情を抱く。独特の寓意にみちた野心作。 | ソ連軍が侵攻し、国府・八路両軍が跳梁する敗戦前夜の満州──政治の渦に巻きこまれた人間にとって脅迫の中の”自由”とは何か? | 不満と欲望が澱む、雪にとざされた小地方都市で、疎外されたよそ者たちが結成した”飢餓同盟”。彼らの野望とその崩壊を描く長編。 | 万能の電子頭脳に、ある中年男の未来を予言させたことから事態は意外な方向へ進展、機械は人類の苛酷な未来を語りだす。SF長編。 | 突然現れた父親と名のる男が奇怪な魚に生れ変り、何の変哲もなかった街が水中の世界に変ってゆく……。「水中都市」など初期作品集。 |
無関係な死・時の崖 | R62号の発明・鉛の卵 | 人間そっくり | 燃えつきた地図 | 砂の女 | 箱男 | |
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自分の部屋に見ず知らずの死体を発見した男が、死体を消そうとして逆に死体に追いつめられてゆく「無関係な死」など、10編を収録。 | 生きたまま自分の《死体》を売ってロボットにされた技師の人間への復讐を描く「R62号の発明」など、思想的冒険にみちた作品12編。 | 《こんにちは火星人》というラジオ番組の脚本家のところへあらわれた自称・火星人──彼はいったい何者か?異色のSF長編小説。 | 失踪者を追跡しているうちに、次々と手がかりを失い、大都会の砂漠の中で次第に自分を見失ってゆく興信所員。都会人の孤独と不安。 | 砂穴の底に埋もれていく一軒家に故なく閉じ込められ、あらゆる方法で脱出を試みる男を描き、世界20数カ国語に翻訳紹介された名作。 | ダンボール箱を頭からかぶり都市をさ迷うことで、自ら存在証明を放棄する箱男は、何を夢見るのか。謎とスリルにみちた長編。 |
密会 | 笑う月 | 友達・棒になった男 | 方舟さくら丸 | カンガルー・ノート | |
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夏の朝、突然救急車が妻を連れ去った。妻を求めて辿り着いた病院の盗聴マイクが明かす絶望的な愛と快楽。現代の地獄を描く長編。 | 思考の飛躍は、夢の周辺で行われる。快くも恐怖に満ちた夢を生け捕りにし、安部文学成立の秘密を垣間見せる夢のスナップ17編。 | 平凡な男の部屋に闖入した奇妙な9人家族。どす黒い笑いの中から”他者”との関係を暴き出す「友達」など、代表的戯曲3編を収める。 | 地下採石場跡の洞窟に、核シェルターの設備を造り上げた〈ぼく〉。核時代の方舟に乗れる者は、誰と誰なのか?現代文学の金字塔。 | 突然〈かいわれ大根〉が脛に生えてきた男を載せて、自走ベッドが辿り着く先はいかなる場所か──。現代文学の巨星、最後の長編。 |
飛ぶ男 | (霊媒の話より)題未定 安部公房初期短編集 | |
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安部公房の遺作が待望の文庫化! 飛ぶ男の出現、2発の銃弾、男性不信の女、妙な癖をもつ中学教師。鬼才が最期に創造した世界。 | 19歳の処女作「(霊媒の話より)題未定」、全集未収録の「天使」など、世界の知性、安部公房の幕開けを鮮烈に伝える初期短編11編。 |
登録情報
- 出版社 : 新潮社; 改版 (1976/5/4)
- 発売日 : 1976/5/4
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 208ページ
- ISBN-10 : 4101121125
- ISBN-13 : 978-4101121123
- 寸法 : 14.8 x 10.5 x 2 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 23,437位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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上位レビュー、対象国: 日本
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2023年5月11日に日本でレビュー済み
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ありがとうございました
2020年10月18日に日本でレビュー済み
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新潮文庫で出版されているものの中でも、安部公房の数学者チックな一面がこの小説ではみられるのではないだろうか。新潮文庫『笑う月』にこの小説のことが言及されているが、そちらも是非。
2016年3月10日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
いやあ素晴らしい。しかし、「さっさと警察呼べよ‼」って感じです。
安部公房の書く女性はみな艶やかで艶かしくかつ聡明で、したたか。それでいて言葉の返しがツボにくる。
安部公房の書く女性はみな艶やかで艶かしくかつ聡明で、したたか。それでいて言葉の返しがツボにくる。
2019年10月20日に日本でレビュー済み
数学には明るくないので正確かどうかはわかりませんが、現実と寓話の境界線などあってないようなもので、
連続性を保っているから詭弁良弁でどっちの世界にも行き来できてしまう。
それこそトポロジー的なのかもしれません。
甲田申由なんて名前、まさしくトポロジックじゃありませんか。
現実的な立場で読み進めれば、主人公は最終的には精神病院に強制的に入院させられているようですから、
最初から訪問者とその妻は医師と看護師であり、すべて主人公の妄想であったと考えることができます。
しかし、訪問者の話は意外と理路整然としており、そこから結論付けられるのはやはり主人公は地球病に罹った火星人ということになります。
現実と寓話の境界なんてないのかもしれません。
連続性を保っているから詭弁良弁でどっちの世界にも行き来できてしまう。
それこそトポロジー的なのかもしれません。
甲田申由なんて名前、まさしくトポロジックじゃありませんか。
現実的な立場で読み進めれば、主人公は最終的には精神病院に強制的に入院させられているようですから、
最初から訪問者とその妻は医師と看護師であり、すべて主人公の妄想であったと考えることができます。
しかし、訪問者の話は意外と理路整然としており、そこから結論付けられるのはやはり主人公は地球病に罹った火星人ということになります。
現実と寓話の境界なんてないのかもしれません。
2006年10月1日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
相対性の意味のなさを、明確に、わかりやすく、かつコミカルに描いている名作と思う。
そのテーマの奥深さにもかかわらず、安部公房の物語になるととってもわかりやすく、すっと入ってくるので不思議だ。
ものすごく難しい話を、たとえ話でわからせてくれるような印象を覚える。
そのテーマの奥深さにもかかわらず、安部公房の物語になるととってもわかりやすく、すっと入ってくるので不思議だ。
ものすごく難しい話を、たとえ話でわからせてくれるような印象を覚える。
2009年6月14日に日本でレビュー済み
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随分、前に「壁」を読んだことは、あるが、彼の作品は初心者です。
「人間そっくり」は、1966年の9−11月にSFマガジンに掲載され、1967年に早川書房から出版されている。
私は火星人であるというセールスマン(地球人?)が、主人公で火星のネタでラジオ番組を作っている先生の家にやってくる。同時に、電話がなり、その訪問者の妻だと名乗る人から「凶暴性があるので、30分以内に行くからうまく応対してください」頼まれる。最初は先生の奥さんが対応するが、そのうちに先生が応対し、火星人論議となっていく。人間そっくりなのが火星人なのか?地球人なのか?だれが証明できるのでしょうか?という問いかけです。いったい何が本当でなにが嘘なのか。何が本物で何が偽物なのか。あなたは証明できますか?
「そう、ぼくは、なんとしてでも知りたいのだ。いったい、この現実は、寓話が実話に負けたせいなのか。それとも、実話が寓話に負けたせいないのか。法廷の外にいるあなたに、お尋ねしたいのです。いまあなたが立っている、その場所は、はたして実話の世界なのでしょうか、それとも、寓話の世界なのでしょうか・・・・・」(本文から)
著者が、1924年(大正13年)東京生まれ、満洲育ち。1992年没(平成4年)。
代表作品
デンドロカカリヤ、壁、闖入者、東欧を行く、砂の女、他人の顔、燃えつきた地図、箱男、密会、方舟さくら丸、カンガルー・ノート、飛ぶ男。終りし道の標に、けものたちは故郷をめざす、終りし道の標に(改)
お勧めはどれでしょう?
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私は火星人であるというセールスマン(地球人?)が、主人公で火星のネタでラジオ番組を作っている先生の家にやってくる。同時に、電話がなり、その訪問者の妻だと名乗る人から「凶暴性があるので、30分以内に行くからうまく応対してください」頼まれる。最初は先生の奥さんが対応するが、そのうちに先生が応対し、火星人論議となっていく。人間そっくりなのが火星人なのか?地球人なのか?だれが証明できるのでしょうか?という問いかけです。いったい何が本当でなにが嘘なのか。何が本物で何が偽物なのか。あなたは証明できますか?
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著者が、1924年(大正13年)東京生まれ、満洲育ち。1992年没(平成4年)。
代表作品
デンドロカカリヤ、壁、闖入者、東欧を行く、砂の女、他人の顔、燃えつきた地図、箱男、密会、方舟さくら丸、カンガルー・ノート、飛ぶ男。終りし道の標に、けものたちは故郷をめざす、終りし道の標に(改)
お勧めはどれでしょう?
2020年5月25日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
その辺のレビューを見たら「ミイラ取りがミイラになる話」という概要は掴めているでしょう。
後半の畳みかけるような火星人とのやり取りと、
それに伴う主人公の狂気に陥る描写はなんともリニアで、真に迫るものがあります。
一概にサイコホラーとも言えないユーモラスさが感じられて、そこまで怖い物語ではないと思いますが、
狂気と正気の綱渡りをしているような心地になるようなスリリングさのある作品でした。
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それに伴う主人公の狂気に陥る描写はなんともリニアで、真に迫るものがあります。
一概にサイコホラーとも言えないユーモラスさが感じられて、そこまで怖い物語ではないと思いますが、
狂気と正気の綱渡りをしているような心地になるようなスリリングさのある作品でした。