この文庫版の解説は遠丸立氏である。そのなかで、高橋氏の作風について「虚無的な詠嘆徒労、無駄・・・・そんなさむざむとした情感が行文
に過剰に横溢しているところが目に止まる」と述べている。
氏の長所でもあり、欠点でもあるこの「劇画的情緒」の生地が若者の共感をよんでいると分析紹介している。至言であると思う。
最も作品に共感を覚えるか否かは、その時代を共有した各世代間によって違ってくるのは仕方ないが、当代風なウケを狙った70年代皮相的
な流行小説かと思えばそうでもない。ドストエフスキーの「悪霊」が、19世紀末ロシアのあった学生革命組織「斧の会」の指導者ネチャーエフと
仲間の裏切りを巡る殺人事件に取材して書かれたことは周知である。高橋氏は我々の記憶に鮮明に残る1972年の連合赤軍リンチ殺人事件
にヒントを得て、ドストエフスキーに倣ったのか。ところが「日本の悪霊」はリンチ殺人事件の起こる二年以前の公刊で、1971年に作者は物故
している。 憶測ではあるが、高橋氏が連合赤軍の事件を目の当たりにしていたら、どう解釈し作品を仕上げただろうか興味は尽きないところで
ある。
果たして、該作品は時代を超えて様々なかたちに変容する、普遍的な人間の精神構造に潜んだ「悪霊」の正体を追求した小説であろうか。
物語に登場する革命志向の若者たちをして、タイトルロールの悪霊と捉えるのは、「共産党宣言」に言う、ヨーロッパに「幽霊」が出るとした比喩
とは大いに異なるところであると、われわれは気づかなければならない。
革命資金調達に絡む山林地主殺害と強奪に加担した、村瀬狷輔ら革命仲間たちの仲違いと自殺事件。
追手を逃れ8年の月日を経過しながら、ふとしたきっかけから、自動車修理工場店主に対する強盗容疑で捕まった村瀬と担当刑事落合との数
奇な出会い。落合刑事は職業的直感で嫌疑不十分で時効になりかけている山林地主殺害事件の容疑事実究明のなかで、村瀬の係わりの有無
を調査する。叩けばホコリの出る村瀬への追求は落合刑事にとって管轄外である。その執念への深い拘わりはどこからくるのだろう。
一方村瀬狷輔は、未決囚として獄舎の内にあるものの、荒涼として一向に達成感の得られない過去の行動履歴の回想になすすべもない。
囚人仲間の痴態悪態に苛まれながら、留置場の壁に向かって誰に告白するのでもなく、革命行動の挫折を糊塗するほどに堕落してしまった自
分にムチ打つ日々である。
対極に位置にある二人の、取り憑かれたような者同士の接点を、高橋氏は問題提起し抉りだそうとしている。
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日本の悪霊 (新潮文庫) 文庫 – 1980/10/1
高橋 和巳
(著)
- 本の長さ459ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日1980/10/1
- ISBN-104101124108
- ISBN-13978-4101124100
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登録情報
- 出版社 : 新潮社 (1980/10/1)
- 発売日 : 1980/10/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 459ページ
- ISBN-10 : 4101124108
- ISBN-13 : 978-4101124100
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,082,446位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 11,668位新潮文庫
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著者について
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2014年1月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2023年1月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ドストエフスキーの悪霊も読んだが、仲間内でのリンチ殺害や仲間内の一人をスケープゴートにする内容だったが、仲間内同士の信頼が第一が、日本赤軍も体制批判をする批判グループで、批判と信頼が矛盾し、その結束を破り、仲間内の一人をリンチにして、暗殺するスケープゴート事件がありますが、新日本プロレスのNo.2の坂口征二が、日本の柔道界を逃げるように日本プロレス界へ、日本プロレスから逃げるように新日本プロレスへ、がネットにありましたが、その坂口征二が柔道で活躍してた際のオリンピックのメキシコオリンピック?に柔道の競技が何故かなかったらしく、新日本プロレスに来日したバッドニュースアレンが黒人ですが、柔道のオリンピック銅メダリストで、大卒でしたが、坂口征二のプロレスが国際プロレスのグレート草津のプロレスに似てますが、また馬場と猪木が抜けた日本プロレスが坂口征二に期待がされますが、坂口征二が抜けた後に大木金太郎が日本プロレスのメインイベンターでその日本プロレスが倒産してしまいますが、柔道界の期待の新人の大卒の坂口征二のプロレス界入りだと、その業界の先輩の付人経験をしなくてよいと思いますが、またG-spiritsという雑誌にその坂口征二のメキシコ遠征時の若い頃の写真があり、あごがあまりなく、歯の治療をしてるのかなと思い
2017年7月21日に日本でレビュー済み
「憂鬱なる党派」よりは観念的ではないので、スラスラ読めるし、一部は共感できる。
2016年8月17日に日本でレビュー済み
亀山先生著作からドストエフスキーの悪霊を基に書かれたと聞き購入。シガリョフが黒岩に移転しているだけとは!何よりも大事なのは平等なんどすね。
自由はないけど平等はあったソ連は良かったのかなあ?
さて日本はどちらへ?
自由はないけど平等はあったソ連は良かったのかなあ?
さて日本はどちらへ?