面白いかつまらないかと言えば面白かった、特に上巻が。
三浦哲郎なら不思議のない面白さだが、その三浦哲郎ともあろう作家がどうしてこんな嫌な味の作品を書いたのか、下巻の展開を惜しく思う。
男なら名声と金を得たら本音は思うさま女にうつつをぬかしてみたい、それを作家にあてはめると、地歩が不動になったら本能のままにこういう女をとことん書いてみたい、というところか。あるいはそういう読者の欲求を汲んでか。
それならそれで大衆読者の一人としてじゅうぶん興味深く思う。そこに妙なアンファンテリブルなど持ちこまなければよかったのだ。『木馬の騎手』を一歩も二歩も進めた試みがあったかのもしれないが、まるでのどかな人間村に宇宙人を連れてきたみたいにそぐわない。
お陰でこれ以上はないというくらい徒に読み味の嫌な、しかもそのために薄っぺらな小説になってしまった。つくづくもったいない。
それがなければ著者の名声に見合ったものを十分具現している上巻の、および子供に背かれるまでの、主人公登世なのに。その人柄に内包される賢さに照らして、子供の言うがままに引きずり倒されていく自虐的なまでの無為無策ぶりにこそ背筋が寒くなり、微妙なところではあるが、リアリティーが(或いは小説的リアリティーが)感じられない。安直なところで、あるいは設定路線にそってバタバタまとめたなという感じがしてしまう。
結核が不治の病でもなくなった時代に、しかも本当に金がないわけでもないのに、「病気になんかなっていられない」で自分を破滅へ追いやっていくのも説得力に欠け安直感を逃れ得ない。
そもそもの始めからこれしかないというような結末の帳尻合わせときてはもはや言葉なく、ただただ静かに頁を閉じる以外になかった。
まあ連載小説ならこんなものかとも思うが、一方で、下巻の展開と結末は別として、連載小説でここまで書けるのはさすがすごいなとも同時に思う。
これに似て半ばを過ぎるまでは素晴らしいの一語なのに後半からしめくくりにかけてで悔し涙が出る作品として忘れられないのが黒岩重吾の『さらば星座』と笹山久三の『四万十川』だった。
小説の良し悪し真価は結末のまとめ方にその多くがあり、難しさもそこにあり、と見る。
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夜の哀しみ 下巻 (新潮文庫 み 6-13) 文庫 – 1996/2/1
三浦 哲郎
(著)
- 本の長さ306ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日1996/2/1
- ISBN-104101135134
- ISBN-13978-4101135137
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登録情報
- 出版社 : 新潮社 (1996/2/1)
- 発売日 : 1996/2/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 306ページ
- ISBN-10 : 4101135134
- ISBN-13 : 978-4101135137
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,191,258位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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