吉川三国志のラストを飾る読み所満載の巻。三国の勢力が安定しているにも関わらず、劉備から託された漢王朝復活を目指す孔明は潔しとせず、兵力の不利は承知で北伐を敢行し、魏の軍師司馬懿仲達と対決する。劉備から遺子劉禅が暗愚であれば国王となるよう命じられていたにも関わらず、それを無視してあくまで劉禅の臣下として兵を進めるが、暗君に足を引っ張られる事多し。孔明は決して信義にもとる事のない正義の人で、君臣の立場を最後まで守るのだ。そして、将来を嘱望し目を掛けていた馬謖が命令に背いて自己判断で敗戦を招くや、軍法通り「泣いて馬謖を斬る」。司馬懿との長期戦では互いの力を知り尽くした好敵手として、どちらも動けず。司馬懿は自分を上回る知謀の孔明を恐れて手が出せないし、孔明は圧倒的兵力差があるためカウンターにしか勝機が見出せないのだ。だが最終戦場五丈原で、激務に疲弊した孔明が病に倒れる。死期を悟った孔明は自分亡き後を予測して様々な人に策を授けるも、遂にその時が来る。孔明の死を察した司馬懿は遂に自ら決戦に乗り込むが、孔明が生前に作らせていた彫像に騙され、慌てて軍を引く「死せる孔明、生きる仲達を走らす」。
吉川英治は孔明の死没で三国志を終え、蜀の滅亡までの部分は省いて理由も説明しているがこれは正解。彼の三国志は畢竟人間を描いたのであり、孔明が有終の美を飾ったのである。
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