ロボットである「ケンイチ」とロボットの知能にまつわる膨大な議論を中心とした、傑作SFミステリ。ただし内容のウエイトからすればミステリ系SFといったほうがいいかもしれない。
ロボットは考えることができるのか、そもそも考えるの定義とは何か。人間は考えることができているのか、人間は考えることができる、とはどういうことか。ロボットと知能にまつわる話はSFにずっとついて回る大きな主題のひとつであって、本作「デカルトの密室」もそれをメインテーマに据えた、本格的な小説である。
チューリング・テストにおける人間と機械の逆転、フレーム問題、サールによる中国人の部屋、デカルト劇場(カルテジアン劇場のこと?)、比類なき<私>というもの、ウェイソンによる選択課題とコスミデスの実験、ネットを介して拡散してゆく人工知能が描く宇宙像的な進化図、メタ視点問題など、哲学、数学、ロボット工学、認知心理学、ミステリー論を含め多岐にわたる分野から材をとられた溢れんばかりの衒学的思考を前にして初読時にははっきり言って思考停止に陥ってしまったが、いまいちど読み返してみればそれらの知識がただ並べ立てられただけではなく小説の中できわめて有効に活用されていることもわかる。(<私>って永井均のアレか、と実は再読時に気付いた。)
こんな中ロボットが関与する殺人事件が起こるのだが、どうやらそれらの莫大なことと関連があるらしい。ミステリサイドではなぜロボットが殺人を犯すのかというホワイダニットを中心に話は進む。
ただ予想通り読み通すのには恐ろしく体力は必要となり、これも予想通りだが評価が低い。
主人公のユウスケもロボットのケンイチも、他の登場人物となる男性もみな自分を「ぼく」と言い、場面転換も結構行われる。このために立ち止まって今しゃべっているこれは誰かと考える回数も増えるわけだが、解説でも言われている通りこれはおそらく恣意的にやっている。ちなみに本作のもう一人の主役と言ってもいいだろうフランシーヌという科学者が、他作者の某作品の某人物に設定が似ているとの話だが、両作を読んでみた限り違うといってよい。いずれも天才という設定だがこちらの方が品も(天才性を示す)描写も段違いに良い。(ついでに言えば「哲学者の密室」より哲学哲学しているが、これはまあよい。)
本作は「第九の日」収録作品の続編にあたる話だが、そちらも併せて読むと尚よいと思われる。いずれもあまり評価されなかった不遇な傑作である。続編が待たれる。
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デカルトの密室 (新潮文庫) 文庫 – 2008/5/28
瀬名 秀明
(著)
ヒト型ロボットが実用化された社会。ロボット学者の祐輔と進化心理学者の玲奈は、ロボットのケンイチと共に暮らしている。三人が出席した人工知能のコンテストで起こった事件から、悪夢のようなできごとは始まった。連続する殺人と、その背後に見え隠れする怜悧な意思が、三人を異世界へ引き寄せる――。人間と機械の境界は何か、機械は心を持つのか。未来へ問いかける科学ミステリ。
- 本の長さ617ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2008/5/28
- ISBN-104101214360
- ISBN-13978-4101214368
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登録情報
- 出版社 : 新潮社; 文庫版 (2008/5/28)
- 発売日 : 2008/5/28
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 617ページ
- ISBN-10 : 4101214360
- ISBN-13 : 978-4101214368
- Amazon 売れ筋ランキング: - 507,794位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 7,680位新潮文庫
- カスタマーレビュー:
著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2011年4月1日に日本でレビュー済み
2005年11月14日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
サイエンスのバックグランドという著者の経歴を信用して
楽しみにしていた人も多いと思いますが、
ちょっと難解すぎませんか。
デカルトの話についていける人が読者にどれくらいいるのでしょう。
ストーリーは楽しめるのですけど。
もっと他に書きようがあるのでは。著者らしさを
出そうとするとこうなるのでしょうが。
でも、最後まで読んで、難解だから
もう一回読もうと思って、最初から読み返したら
一度目より格段に楽しめましたよ。
そういう小説なんだと思いますよ。
楽しみにしていた人も多いと思いますが、
ちょっと難解すぎませんか。
デカルトの話についていける人が読者にどれくらいいるのでしょう。
ストーリーは楽しめるのですけど。
もっと他に書きようがあるのでは。著者らしさを
出そうとするとこうなるのでしょうが。
でも、最後まで読んで、難解だから
もう一回読もうと思って、最初から読み返したら
一度目より格段に楽しめましたよ。
そういう小説なんだと思いますよ。
2006年5月3日に日本でレビュー済み
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ロボットというと一般的なイメージとして"機械"の域を出ていない。またロボットの未来予想図として人間と共存している世界を思い描く。
そしてその世界を目指す際に思い至るのがどこからロボットでどこから人間なのか。その臨界点がどこなのか。
本書ではロボットと人間。脳と心の不思議さを物語として、どこか懐かしさも感じる味わいのあるストーリーとして提供している。
そしてその世界を目指す際に思い至るのがどこからロボットでどこから人間なのか。その臨界点がどこなのか。
本書ではロボットと人間。脳と心の不思議さを物語として、どこか懐かしさも感じる味わいのあるストーリーとして提供している。
2006年1月17日に日本でレビュー済み
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チューリングテスト、中国人の部屋、フレーム問題、人間原理といった用語をちりばめて、自我や認識、知能といったことにまつわる考察がこの小説の大黒柱になっています。
人間によって作られたロボットを中心に据えることで、自我や認識をメタ化して扱えるようにした物語作りはアイデアの面で優れているのではないでしょうか。
しかし、いかんせん、最後のまとめがなんだか、予定調和になっていて、主人公たちのように素直でも、心が清らかでもない私は、かえって居心地が悪いような不満が残りました。
あと蛇足ですが、「すべてがFになる」を意識しているような、キャラクターとエピソードが出てきます。これは出版元のマーケティング上の戦略か、筆者のライバル心?、いや遊び心?などと邪推してしまいました。
人間によって作られたロボットを中心に据えることで、自我や認識をメタ化して扱えるようにした物語作りはアイデアの面で優れているのではないでしょうか。
しかし、いかんせん、最後のまとめがなんだか、予定調和になっていて、主人公たちのように素直でも、心が清らかでもない私は、かえって居心地が悪いような不満が残りました。
あと蛇足ですが、「すべてがFになる」を意識しているような、キャラクターとエピソードが出てきます。これは出版元のマーケティング上の戦略か、筆者のライバル心?、いや遊び心?などと邪推してしまいました。
2012年11月11日に日本でレビュー済み
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難解だというレビューが多いようです。
確かに難解ですが、難解なわりに中に詰まっている知識はとても浅いです。
化学であったり薬学であったり、医学に係わるような分野が少なく、著者の専門で無いのは確かでしょうけれども
込み入った部分まで詳細に描く同著者の他作品に比べると、ひどく見劣りすると思います。
著者の持ち味が生かし切れていないばかりか
なぜ登場させたのか不明な登場人物も多く、ストーリーの顛末も粗末なものだったと思います。
書かれている文章のほとんどに意味が無く、どんどん読み飛ばしても展開がわかる内容だというのは非常に残念です。
Kindleで読む最初の書籍にチョイスしただけに残念な気持ちが残りました。
価格にも見合わないと思います。これが半値ぐらいだったら、あきらめもついたかもしれませんが
どうにも腑に落ちないのでレビューを書かせていただきました。
確かに難解ですが、難解なわりに中に詰まっている知識はとても浅いです。
化学であったり薬学であったり、医学に係わるような分野が少なく、著者の専門で無いのは確かでしょうけれども
込み入った部分まで詳細に描く同著者の他作品に比べると、ひどく見劣りすると思います。
著者の持ち味が生かし切れていないばかりか
なぜ登場させたのか不明な登場人物も多く、ストーリーの顛末も粗末なものだったと思います。
書かれている文章のほとんどに意味が無く、どんどん読み飛ばしても展開がわかる内容だというのは非常に残念です。
Kindleで読む最初の書籍にチョイスしただけに残念な気持ちが残りました。
価格にも見合わないと思います。これが半値ぐらいだったら、あきらめもついたかもしれませんが
どうにも腑に落ちないのでレビューを書かせていただきました。
2009年7月5日に日本でレビュー済み
AIもの。この前山本弘の『アイの物語』を読んだが、ここのところ、AIについて読む機会が多い。
『アイの物語』とはAIについての考え方も異なる。こちらのAI論の方がおそらくまっとうなのだろうが、なぜかアイの物語の人間とは異なるAIの知性という考え方に惹かれる。
この小説自体も、すごくスリリングで、あっという間に読み終えた。
『デカルトの密室』は、森博嗣の『すべてがFになる』から始まる真賀田四季シリーズと士郎正宗の『攻殻機動隊』の人形使いの話を思い起こさせた。
『アイの物語』とはAIについての考え方も異なる。こちらのAI論の方がおそらくまっとうなのだろうが、なぜかアイの物語の人間とは異なるAIの知性という考え方に惹かれる。
この小説自体も、すごくスリリングで、あっという間に読み終えた。
『デカルトの密室』は、森博嗣の『すべてがFになる』から始まる真賀田四季シリーズと士郎正宗の『攻殻機動隊』の人形使いの話を思い起こさせた。
2008年11月3日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
この作品は、背景は押井守監督の『攻殻機動隊』『イノセンス』がちらついて見え、内容では鈴木光司さんの『ループ』とほぼダブる。結局フランシーヌと真鍋は現実世界より下位のネット世界へ自我を解き放ち、そしてネット世界から見れば上位の世界にあたる現実世界を知覚するために、ロボットのケンイチを取り込もうとするわけだが(我々人間から見ればケンイチはロボットであるから現実とネット両方の世界を知覚できるからだ)、結局はつじつま合わせのようにしか思われない。疑問ばかりが残る小説だった。
2022年1月31日に日本でレビュー済み
途中で読むのが面倒になった。初めはシンギュラリティを扱った作品かと思ったが、それは前提だった。むしろAIに心があるかどうかは外形的に判別できないというテーゼを通奏低音として、自我の解放と拡張という主題が奏でられる。AIに自我があってもよい、人間の自我がAIに置換してもよい、その自我がネットワークを通じて世界を包摂してもよいではないか。即ち、アートマンのブラフマンへの合一である。デカルトは言わばダシである。2008年当時としてはたいした作品だが、作者は自分が発狂しないために書いたのではないかと妄想した。
作中、殺人事件が発生するがミステリーではない。サスペンスの要素はあるが、読者サービスであって、本筋は思弁的なサイエンス・フィクションである(と自分は思った)。デカルトのコギトは近代の科学と哲学の出発点だし、心身二元論や機械論的生命観は重要な問題提起だが、なにより作者自身が自我の牢獄に囚われているように見える。ミトコンドリアの染色体を擬人化したデビュー作以来、久しぶりに読んだが、妄想を科学的と誤解させるほど強力で魅力的な筆力は健在である。
作中、殺人事件が発生するがミステリーではない。サスペンスの要素はあるが、読者サービスであって、本筋は思弁的なサイエンス・フィクションである(と自分は思った)。デカルトのコギトは近代の科学と哲学の出発点だし、心身二元論や機械論的生命観は重要な問題提起だが、なにより作者自身が自我の牢獄に囚われているように見える。ミトコンドリアの染色体を擬人化したデビュー作以来、久しぶりに読んだが、妄想を科学的と誤解させるほど強力で魅力的な筆力は健在である。
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Jesse Perez
5つ星のうち1.0
One Star
2016年3月7日にアメリカ合衆国でレビュー済みAmazonで購入
I could not be able to read it because it comes in Japanes lenguage