自分のこれまでの人生を振り返り、「ああ、あの時の出来事がここにつながってくるのか」「あの出会いが、俺をこういうことにしたのか」と語る主人公ほか、江戸の庶民たち。彼らの人生が、感慨が、我が事のように身近に感じられ、身につまされる短篇が多かったです。
時代小説の名手・藤沢周平さんの作品のなかで、これは地味めの短編集だと思うんですけど、読み終えたあとでじわじわ効いてくるっていうか、余韻が後を引く作品が結構あって、味わい深い一冊でした。
全部で11の短篇が収められています。
拐(かどわか)し 1976年(昭和51年)初出
昔の仲間 1977年(昭和52年)初出
疫病神 1977年(昭和52年)初出
告白 1978年(昭和53年)初出
三年目 1976年(昭和51年)初出
鬼 1974年(昭和49年)初出
桃の木の下で 1975年(昭和50年)初出
小鶴(こつる) 1977年(昭和52年)初出
暗い渦 1978年(昭和53年)初出
夜の雷雨 1978年(昭和53年)初出
神隠し 1976年(昭和51年)初出
なかでは、「暗い渦」「神隠し」の二篇が印象に残る好篇でしたね。
「暗い渦」は、商売が軌道に乗り始め、これからという主人公・信蔵(しんぞう)が、人生の転機となった八年前の出来事に思いを馳せ、振り返る話。“禍福はあざなえる縄の如し”って格言(?)が、脳裏に浮かびましたねぇ。自分の思うとおりにはなかなか行かないのが人生の妙というもの。そこに運命の歯車ががたりと回る不思議があり、味わいがあり、面白味もあるのかもしれないと、信蔵の人生を眺めながら思ったことです。
一方、表題作の「神隠し」は、江戸を舞台にした私立探偵小説とでもいった風味の作品。十手(じって)持ちの御用聞き・巳之助(みのすけ)が、手下の飴売り・弥十(やじゅう)とともに、伊沢屋(いさわや)のおかみの失踪事件を調べていくてえ話。江戸の町は、ハードボイルド小説とも相性がいいのかな。ロス・マクドナルドの私立探偵小説、あるいはロマン・ポランスキー監督の映画『
チャイナタウン 製作25周年記念版 [DVD
]』に通じる雰囲気があるかなあ。最初はヤな奴に見えた巳之助が、話が進んでいくにつれて味のある、渋い私立探偵、じゃない、御用聞きに見えてくるから不思議。これ、面白かったです。
ほかにも、長年連れ添った妻の若かりし頃、行方不明になった出来事の真相が語られ、身近な人間の知られざる一面が浮かび上がる「告白」、記憶を失った若い娘と暮らす中、喧嘩三昧だった老夫婦の日常が変わっていく「小鶴」、この二篇も読みごたえのある佳品でした。
ちなみに、これまでに読んだ藤沢周平短篇で一番好きな作品は「鱗雲」(『
時雨のあと (新潮文庫)
』所収)。ラストシーンの素晴らしさ。泣くしかなかった。忘れがたい名品です。
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神隠し (新潮文庫) 文庫 – 1983/9/1
藤沢 周平
(著)
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失踪から三日、お内儀は不思議な色香をたたえ帰ってきた……。
市井の哀歓を情感深く描き出す江戸庶民十一景。
伊沢屋の内儀お品が不意に姿を消した。三日後にひょっこり戻ってきたが、やつれながらも何故か凄艶さを漂わせている……。
意表をつく仕掛けの表題作ほか、家出した孫の帰りを待ちわびる老婆を襲う皮肉な運命『夜の雷雨』、記憶を失った娘が子供のない夫婦にもたらしたひと時の幸福『小鶴』など、市井に生きる人々の感情の機微を、余情溢れる筆致で織り上げた名品全11編。
目次
拐(かどわか)し
昔の仲間
疫病神
告白
三年目
鬼
桃の木の下で
小鶴
暗い渦
夜の雷雨
神隠し
あとがき
解説 伊藤桂一
本書収録「拐し」についての著者自作解説
武家社会というものは消滅したが、市井の暮らしというものは現在に続いて、しかもいまの世相と重なりあう部分があるだろう、という意識が、幾分筆を軽くするようである。いろいろな人間がいて、いろいろな事件があったに違いない、と想像するだけなら楽しい。この小説もそういう想像の中から生まれたもののひとつである。(「解説」より)
藤沢周平(1927-1997)
山形県生れ。山形師範卒業後、結核を発病。上京して五年間の闘病生活をおくる。1971(昭和46)年、「溟い海」でオール讀物新人賞を、1973年、「暗殺の年輪」で直木賞を受賞。時代小説作家として、武家もの、市井ものから、歴史小説、伝記小説まで幅広く活躍。『用心棒日月抄』シリーズ、『密謀』、『白き瓶』(吉川英治賞)、『市塵』(芸術選奨文部大臣賞)など、作品多数。
市井の哀歓を情感深く描き出す江戸庶民十一景。
伊沢屋の内儀お品が不意に姿を消した。三日後にひょっこり戻ってきたが、やつれながらも何故か凄艶さを漂わせている……。
意表をつく仕掛けの表題作ほか、家出した孫の帰りを待ちわびる老婆を襲う皮肉な運命『夜の雷雨』、記憶を失った娘が子供のない夫婦にもたらしたひと時の幸福『小鶴』など、市井に生きる人々の感情の機微を、余情溢れる筆致で織り上げた名品全11編。
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本書収録「拐し」についての著者自作解説
武家社会というものは消滅したが、市井の暮らしというものは現在に続いて、しかもいまの世相と重なりあう部分があるだろう、という意識が、幾分筆を軽くするようである。いろいろな人間がいて、いろいろな事件があったに違いない、と想像するだけなら楽しい。この小説もそういう想像の中から生まれたもののひとつである。(「解説」より)
藤沢周平(1927-1997)
山形県生れ。山形師範卒業後、結核を発病。上京して五年間の闘病生活をおくる。1971(昭和46)年、「溟い海」でオール讀物新人賞を、1973年、「暗殺の年輪」で直木賞を受賞。時代小説作家として、武家もの、市井ものから、歴史小説、伝記小説まで幅広く活躍。『用心棒日月抄』シリーズ、『密謀』、『白き瓶』(吉川英治賞)、『市塵』(芸術選奨文部大臣賞)など、作品多数。
- 本の長さ309ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日1983/9/1
- 寸法14.8 x 10.5 x 2 cm
- ISBN-104101247064
- ISBN-13978-4101247069
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登録情報
- 出版社 : 新潮社; 改版 (1983/9/1)
- 発売日 : 1983/9/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 309ページ
- ISBN-10 : 4101247064
- ISBN-13 : 978-4101247069
- 寸法 : 14.8 x 10.5 x 2 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 114,951位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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著者について
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昭和2(1927)年、鶴岡市に生れる。山形師範学校卒業。48年「暗殺の年輪」で第六十九回直木賞を受賞。平成9(1997)年1月逝去(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『乳のごとき故郷 (ISBN-13: 978-4163726502 )』が刊行された当時に掲載されていたものです)
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上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2011年3月13日に日本でレビュー済み
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2013年7月30日に日本でレビュー済み
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藤沢周平の作風らしくないような気がします。
まだ途中までしか読んでいませんが、読む気がしません。
まだ途中までしか読んでいませんが、読む気がしません。
2019年6月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
やっぱり藤沢周平はいいです。
余韻が残り、ストレスが抜けていきます。
余韻が残り、ストレスが抜けていきます。
2018年4月7日に日本でレビュー済み
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この2〜3ヶ月、藤沢周平にハマりすぎ、短編ばかり10冊くらい読み漁ってます。
「神隠し」の中では、拐かし、昔の仲間、小鶴、夜の雷雨 が面白かったです。
私は武士物より市井の人々を書いた作品が好きです。
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私は武士物より市井の人々を書いた作品が好きです。
2016年6月17日に日本でレビュー済み
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読み始めるとどうしても長くなる。それだけ面白い!スリルもサスペンスもスペクタクルもないけれど、淡々と過ぎる江戸庶民の生活が綴られていて肩に力を入れず読めた。史実ものと違う、一服の清涼剤かもしれぬ。
2017年8月10日に日本でレビュー済み
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藤沢文学は、いずれも楽しく読んでいます。既に十数冊を読んでいます。
2021年7月26日に日本でレビュー済み
・11年ぶりの再読、当時の読後メモには、好みに合う作品が少なく、楽しめなかった、とある。
それが今回は、『何れも読ませる』、となった。何が変わったのか、年齢が60代から70代になっただけなのに、自分でも不思議に思えてならなかった。、
この本に収まる11篇、何れもちょっと見には、在り得ないような題材を掬い上げて、シリアスな筋立てにしながら、リアリティを失うことなく、人情の機微や心の深層を覗き見るような物語りに仕上げている。読んで静かな感動とともに、創作手腕に恐れ入る思いを強くした。作者40代にして、こうした題材を掬えるとは、それを好まないと退けた60代の自分は、何を求めていたのだろうか。しかし今は、『成る程』、と頷きながら、登場人物の心に、じっと目を凝らし耳を傾けている、自分がいた。
作者「あとがき」に、「案外苦労してまとめた小説」とある。「大半が30枚前後の短いもの」に、直木賞を受賞し時を置かずに、更に自らの作品世界を広げよう、とする作者の強い意気が読み取れた。
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作者「あとがき」に、「案外苦労してまとめた小説」とある。「大半が30枚前後の短いもの」に、直木賞を受賞し時を置かずに、更に自らの作品世界を広げよう、とする作者の強い意気が読み取れた。