神経難病の治療を専門とする著者が東大教養課程の文系学生を対象に講義したものを纏めた書。主に、遺伝子診断を行なう事で治癒(あるいは症状緩和)する難病"も"あるという趣旨の真摯な書で、題名(改題すべき)から想像される様な安易な遺伝子決定論ではない。本来、無条件に遺伝子診断を薦めてもおかしくない立場にありながら、そうした行為に警鐘を鳴らしている点に好感が持てた。即ち、胎児に対する無条件の遺伝子診断(及びその結果の誤判断)はナチスが行なったホロコーストを、一般人(両親)レベルへと転化させるだけという主張である。それを避けるには、遺伝の仕組みを良く理解して(全ての遺伝子が必ず発現する訳ではない)、遺伝子診断の結果を両親が自己責任で理解・判断する事が肝要であるとの趣旨であり、そのための講義である。いったん、「優生学」から「遺伝学」へと正しく舵取りしたからには、後戻りは出来ないとの強い姿勢が窺える。
このため、遺伝子、DNA、タンパク質、RNA等の基本的説明から始まり、優性・劣性遺伝を含めた遺伝の仕組みへと話が進んで行く(中には初耳の専門用語も出て来る)のだが、著者のザックバランな講義口調(笑いを意識しているらしい)と豊富な挿絵のため、殆ど抵抗なく読み進められる。この合間に、コラム等で男女の脳には性差がない事(女性が言語機能に優れており、男性が空間認識能力に優れているという俗説は根拠がない)、B型の血液を持つ人間の分布で蒙古のヨーロッパ侵攻の痕跡が分かる事、喫煙がCO2増加の主原因の1つである事(ちなみに、現在のCO2の濃度は中生代の1/5程度の由)、結婚出来るか否かの基準が<近交係数>で数値的に判断出来る事、同性愛は病気ではない事等の多彩な話題を盛り込んで、読む者を飽きさせない。
また、難病だけではなく身近な病気に対するアドバイス、寿命に纏わる話、そして最後には「意識」に関する論考がある。特に、「意識=神経回路」と言い切っている点は、「意識」に関する世界的権威者が"魂"と絡めて論じているのに比べて、ずっと科学的かつ潔い。とにかく、何かを判断するためには、正しい科学的知識(裏付け)が必須という姿勢が全体を貫いていて小気味良い。一部の専門用語を除けば高校生レベルでも理解出来る内容で、若い世代を中心に幅広く読まれるべき優れた啓蒙書だと思った。
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サルの小指はなぜヒトより長いのか: 運命を左右する遺伝子のたくらみ (新潮文庫 い 114-1) 文庫 – 2013/8/28
石浦 章一
(著)
毛が薄いのは進化なのだろうか? 男と女の脳で決定的に違うことって何? 生命にまつわるフシギを科学のメスで大解剖。遺伝病、ダイエット、長寿の秘密など身近なトピックで生物学の知識がないカチカチの文系アタマでも分かるよう、やさし~く噛み砕いた東京大学の超人気講義。同時収録のコラムでは科学的思考で社会問題を読み解く! 『生命に仕組まれた遺伝子のいたずら』改題。
- 本の長さ366ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2013/8/28
- ISBN-104101277915
- ISBN-13978-4101277912
登録情報
- 出版社 : 新潮社 (2013/8/28)
- 発売日 : 2013/8/28
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 366ページ
- ISBN-10 : 4101277915
- ISBN-13 : 978-4101277912
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,115,703位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 11,822位新潮文庫
- - 102,528位科学・テクノロジー (本)
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2013年9月9日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2014年1月18日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
講義のテープ起こしを本にしただけであまりにも同じことを繰り返すだけのタイトルだけしか評価のできない本であった。編集者のレベルを疑う。
2013年8月30日に日本でレビュー済み
2013/09/01発行
2006年4月に羊土社から発行されたものを文庫化したもの
筆者の専門は神経性の難病だという。例えばアルツハイマーや自閉症。
それをどうやって分子生物学や遺伝子工学で解き明かすかに日夜腐心しておられるようだ。
例えば有名なオリヴァー・サックス、ラマチャンドラン、山鳥重、養老孟司、米山公啓(ちょっとイロモノ)、なだいなだ(ちょっと古い)なんかと比べると面白くない。
生々しい臨床の話があまり出てこないからかもしれない。
しかし全てのトピックは遺伝子や神経細胞等が原因であること(仮説?)で締めている。
つまりそういったモノを上手く操れば神経性の病気を治りますよと。
最後に意識は脳の前障にある神経細胞であるというモヤモヤした仮説を立てている。
必ず生物に対して起こり得る事象は原因物質があるというスタンスは崩さない。
つまりは遺伝子工学や分子生物学への橋渡し的入門書なのです。
2006年4月に羊土社から発行されたものを文庫化したもの
筆者の専門は神経性の難病だという。例えばアルツハイマーや自閉症。
それをどうやって分子生物学や遺伝子工学で解き明かすかに日夜腐心しておられるようだ。
例えば有名なオリヴァー・サックス、ラマチャンドラン、山鳥重、養老孟司、米山公啓(ちょっとイロモノ)、なだいなだ(ちょっと古い)なんかと比べると面白くない。
生々しい臨床の話があまり出てこないからかもしれない。
しかし全てのトピックは遺伝子や神経細胞等が原因であること(仮説?)で締めている。
つまりそういったモノを上手く操れば神経性の病気を治りますよと。
最後に意識は脳の前障にある神経細胞であるというモヤモヤした仮説を立てている。
必ず生物に対して起こり得る事象は原因物質があるというスタンスは崩さない。
つまりは遺伝子工学や分子生物学への橋渡し的入門書なのです。
2016年5月31日に日本でレビュー済み
一般啓蒙書なんでしかたないんだけど、ちょっと説明を簡略化し過ぎだと思います。
はなし言葉で書かれているので、遺伝子のことを言っているのか、塩基対のことを
言っているのか曖昧なところもあったりして、物足りない。
あと、「コラム」には、著者の本職とは全く関係の無い温暖化の話などが、断定的に
書かれていて、ちょっと不快。本文でも、専門以外のことで、しかも間違ったことを
言い切っていたりする。講義でならいいけど、本にする時は、専門家に見せて確認を
とるべきだったのでは。
何よりも残念だったのは、講義と言いながら9回分しかないこと。半期の講義なら
試験を除いて14回はやって下さい。文科省に叱られますよ。
はなし言葉で書かれているので、遺伝子のことを言っているのか、塩基対のことを
言っているのか曖昧なところもあったりして、物足りない。
あと、「コラム」には、著者の本職とは全く関係の無い温暖化の話などが、断定的に
書かれていて、ちょっと不快。本文でも、専門以外のことで、しかも間違ったことを
言い切っていたりする。講義でならいいけど、本にする時は、専門家に見せて確認を
とるべきだったのでは。
何よりも残念だったのは、講義と言いながら9回分しかないこと。半期の講義なら
試験を除いて14回はやって下さい。文科省に叱られますよ。