日常を生きるなかで、こういう読み物が連れて行ってくれる世界がどれだけ潤いになっているか。
あらためて感じさせられた。
自分が読んだ本を人に薦める人がいる。今までは自分はあぁはならないぞと思っていたけど、汲々とした時を過ごしている人には何よりも、こういう世界に連れて行きたくなる。 だから、今は人に本を薦めるお節介も許せてしまう気分だ。
読み終えて、「宝くじを買わなくちゃ」と思った人もきっといる。わたしもだけど。
河野の生き方が、生きる世界が現実の煩わしさから遠いところにあるだけでなく、彼が抱えた人生の苦難に静かに向かう姿勢、滲み出る佇まいに共感を覚え、愛してしまった人たちが、彼の世界を創っていることもわかってくる。
ここには心地よくて、頼りにならない神の寄り添う『ファンタジー』の世界がある。
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海の仙人 (新潮文庫) 文庫 – 2006/12/22
絲山 秋子
(著)
宝くじに当った河野は会社を辞めて、碧い海が美しい敦賀に引越した。何もしないひっそりした生活。そこへ居候を志願する、役立たずの神様・ファンタジーが訪れて、奇妙な同居が始まる。孤独の殻にこもる河野には、二人の女性が想いを寄せていた。かりんはセックスレスの関係を受け容れ、元同僚の片桐は片想いを続けている。芥川賞作家が絶妙な語り口で描く、哀しく美しい孤独の三重奏。
- 本の長さ170ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2006/12/22
- ISBN-104101304513
- ISBN-13978-4101304519
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登録情報
- 出版社 : 新潮社 (2006/12/22)
- 発売日 : 2006/12/22
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 170ページ
- ISBN-10 : 4101304513
- ISBN-13 : 978-4101304519
- Amazon 売れ筋ランキング: - 189,323位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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1966年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。住宅設備機器メーカーに入社し、2001年まで営業職として勤務する。03年「イッツ・オンリー・ トーク」で文學界新人賞を受賞。04年『袋小路の男』で川端康成文学賞、05年『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、06年『沖で待つ』で芥川賞を 受賞する(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『 ダーティ・ワーク (ISBN-13: 978-4087465679 )』が刊行された当時に掲載されていたものです)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2006年5月8日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
『沖で待つ』『袋小路の男』を読んだときにも感じたのだけれど、絲山秋子作品の登場人物を見ていると【存在というものの本質的な孤独】を強く感じさせられる。と言っても、これは必ずしも否定的な意味ではないのだけれど…要するに全員が個として実に明確な輪郭を持って潔く存在しており、それぞれが孤高の存在として強い光を放っている。【個の本質的な独立性】とでも言おうか、そういうものを感じるのだ。
登場人物は、ときにはその「本質的孤高」とでも呼べそうなものを半自覚的に玩ぶ余裕を見せ、またときにはそれに制御できない苦しみを覚えて懊悩したりしながら、互いに向かって手を延べている。各々、他者との関係を紡いでいる。
独立した小宇宙どうしがダイナミックに引き合ったり反発しあったり交錯したりする、その関係性こそが絲山作品の機軸になっているように思われる。
人間の本質的な孤独が決して癒され得ないものだけれど、せめてそれをささやかに、美しく彩って眺め遣るぐらいのことはしてみてもいい。大切な人と一緒にであれば、それができるのだと思う。とどのつまりひとの関係というものは、こういう孤独を持ち寄り(共有するのではなく、あくまで「持ち寄る」だけだ)、笑い飛ばし合って束の間の安息を得るためのもの…これに尽きるんじゃないのかなぁ(まぁ、これはどちらかというと絲山作品を離れて、私の価値観の話になってしまうのだけれど)。
静謐の中に激情、諦念、希望…あらゆる情念を予感させるラストシーンが素晴らしい。【ガープの世界】を彷彿とさせられた。
登場人物は、ときにはその「本質的孤高」とでも呼べそうなものを半自覚的に玩ぶ余裕を見せ、またときにはそれに制御できない苦しみを覚えて懊悩したりしながら、互いに向かって手を延べている。各々、他者との関係を紡いでいる。
独立した小宇宙どうしがダイナミックに引き合ったり反発しあったり交錯したりする、その関係性こそが絲山作品の機軸になっているように思われる。
人間の本質的な孤独が決して癒され得ないものだけれど、せめてそれをささやかに、美しく彩って眺め遣るぐらいのことはしてみてもいい。大切な人と一緒にであれば、それができるのだと思う。とどのつまりひとの関係というものは、こういう孤独を持ち寄り(共有するのではなく、あくまで「持ち寄る」だけだ)、笑い飛ばし合って束の間の安息を得るためのもの…これに尽きるんじゃないのかなぁ(まぁ、これはどちらかというと絲山作品を離れて、私の価値観の話になってしまうのだけれど)。
静謐の中に激情、諦念、希望…あらゆる情念を予感させるラストシーンが素晴らしい。【ガープの世界】を彷彿とさせられた。
2017年8月3日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ゆっくり読みたいと思います。丑の日にうのつく
読み物で買いました。
読み物で買いました。
2012年6月23日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
死と身体欠損及び心的外傷を使うのは物語を印象付ける常套手段で、それを計算通りに使っているところが味なお話。ありえるようでありえない話をさらにありえない設定でありえるように刷り変えるのが得意な作者でもある。静謐と混濁のバランスも良い。
2010年6月4日に日本でレビュー済み
好きになる、ということは相手をまるごと受け入れることなのか?
絲山作品にはよく性的不能の男性が登場するが、本作品の場合は非常にやりきれない。
カッツオの前に突然現れた、孤独と救いを語る出来損ないの神「ファンタジー」。
世の中を避けて生きる、過去にがんじがらめのカッツオ。
愛されているとは感じつつも淋しさを抱いたまま命尽きる、かりんの強さ。
いつかカッツオの気持ちが自分に向くのでは?と傷ついていることに気付かずに片思いを続ける片桐。
そんな片桐を見守り続ける澤田。
重いエピソードを抱えた人物達だが、その語り口は激しいものではなく、静かに淡々と進む。
それがかえって、涙腺を窮する。
どれも優しくて、そして切ない。
お洒落で軽く読める印象をうけるが、実は鋭く深い。
最後に光まで失うカッツオが手に入れたものは絶望ではなく、ファンタジーが現れる前のかつて望んでいた平穏な日々であることを願う。
絲山作品にはよく性的不能の男性が登場するが、本作品の場合は非常にやりきれない。
カッツオの前に突然現れた、孤独と救いを語る出来損ないの神「ファンタジー」。
世の中を避けて生きる、過去にがんじがらめのカッツオ。
愛されているとは感じつつも淋しさを抱いたまま命尽きる、かりんの強さ。
いつかカッツオの気持ちが自分に向くのでは?と傷ついていることに気付かずに片思いを続ける片桐。
そんな片桐を見守り続ける澤田。
重いエピソードを抱えた人物達だが、その語り口は激しいものではなく、静かに淡々と進む。
それがかえって、涙腺を窮する。
どれも優しくて、そして切ない。
お洒落で軽く読める印象をうけるが、実は鋭く深い。
最後に光まで失うカッツオが手に入れたものは絶望ではなく、ファンタジーが現れる前のかつて望んでいた平穏な日々であることを願う。
2012年2月18日に日本でレビュー済み
ともかく全ての登場人物が他人に依存していない。
居候しているファンタジーでさえ
主人公・河野には手が掛からないと思われている。
それぞれに“孤独”でありながら、ネガティブではなく、
“孤独”を甘受しているところが好感持てる。
ともするとメロドラマに陥ってしまいそうな状況設定も、
淡々と乾いた文体で綴られている。
風景描写もイメージしやすく、作者のレベルの高さが伺える。
居候しているファンタジーでさえ
主人公・河野には手が掛からないと思われている。
それぞれに“孤独”でありながら、ネガティブではなく、
“孤独”を甘受しているところが好感持てる。
ともするとメロドラマに陥ってしまいそうな状況設定も、
淡々と乾いた文体で綴られている。
風景描写もイメージしやすく、作者のレベルの高さが伺える。
2016年9月9日に日本でレビュー済み
アブセント・エスケープ、ばかもの、末裔、のあとにこれを読みました。
73ページからの展開が受け入れられませんでした・・
急に展開が昼ドラっぽい感じになって、悲しかったです。
文章、人物の特徴などは好きなんですが。
別に、そんな事がなくても、人は一人で海に住むし、
いい大人でも、関係を持たない男女もいるのでは?
ファンタジーにファンタジーを求めすぎてしまったようです。
これで、絲山作品は卒業します。
73ページからの展開が受け入れられませんでした・・
急に展開が昼ドラっぽい感じになって、悲しかったです。
文章、人物の特徴などは好きなんですが。
別に、そんな事がなくても、人は一人で海に住むし、
いい大人でも、関係を持たない男女もいるのでは?
ファンタジーにファンタジーを求めすぎてしまったようです。
これで、絲山作品は卒業します。
2010年9月11日に日本でレビュー済み
文庫化された絲山作品を固め読みして、今作がその最後の一冊(もうじき(9月30日)『ばかもの』が文庫になるので次はそれを読むつもりです)。
これはいい。ここまで読んだ中でベストだった。
「ファンタジーがやって来たのは春の終わりだった。」と、いきなり、浮世離れした文から物語が始まります。ファンタジーのその飄々としたキャラクターに、徐々に話に引き込まれて行きました。
河野の、片桐の、中村の寂しさ、孤独が静かに漂っている。一つの大きな喪失を通して、河野の孤独は深まっていく。
解説で触れられている「性の回避」のほかに顕著な本作の特徴として、時間経過の描写があげられると思います。すいすいと、泳ぐように時が過ぎて行く。特に、「喪失」の後はその「速度」がさらに上がっていく。自然、表現もどんどんさらさらとしたものになっていき、それと反比例するように物語に内在する「寂しさ」は霧散せず深みを増していきます。
物語の最後、もうその「寂しさ」は表には現れない。しかしそれは絶望ではなく、たしかに血の通った「寂しさ」なのであると思いました。
これはいい。ここまで読んだ中でベストだった。
「ファンタジーがやって来たのは春の終わりだった。」と、いきなり、浮世離れした文から物語が始まります。ファンタジーのその飄々としたキャラクターに、徐々に話に引き込まれて行きました。
河野の、片桐の、中村の寂しさ、孤独が静かに漂っている。一つの大きな喪失を通して、河野の孤独は深まっていく。
解説で触れられている「性の回避」のほかに顕著な本作の特徴として、時間経過の描写があげられると思います。すいすいと、泳ぐように時が過ぎて行く。特に、「喪失」の後はその「速度」がさらに上がっていく。自然、表現もどんどんさらさらとしたものになっていき、それと反比例するように物語に内在する「寂しさ」は霧散せず深みを増していきます。
物語の最後、もうその「寂しさ」は表には現れない。しかしそれは絶望ではなく、たしかに血の通った「寂しさ」なのであると思いました。