書庫整理のため再読.
購入当時,世の中がマーケティング,マーケティングとやかましかったことを覚えているが,本書もその流れに沿って,「時代の流れをどう予測するか?」を真面目に紹介していたりする.
文体は著者の常でおどけているが,同じ著者の後期のコラム――殆ど日記同然――に比べれば,かなり真面目.
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すなわち,具体的には以下のように紹介;
・「情報の時代に,一つ一つの情報と対応していては,何が何だか分からなくなります」
「ならば,どうすればいいのか.答えは簡単です.自分なりの情報処理パターンを作ることです.地図と言ってもいいし,パラダイム,世界観,何といってもいいです.このパターンは柔軟であれば何でもいいのです」
「現代が不安の時代と言われるのも,このパターンを人々が持てなくなった結果です」(p.3-4)
当方はこのくだりを読んで,奥山真司の「戦略の階層」を連想した次第.
・「もはや,人々は,無意味を楽しむほど強くなくなったと言っていいでしょう」(p.17)
・「若者の大多数は,どんどん集中力をなくす方向に進んでいます」(p.20-21)
・マスになるためのメカニズムは,「解答の無限延期」(p.27, 138-141)
・流行を作るというのは,でっち上げることではなくて,隠れた文脈を読むこと(p.67-69)
・『「他者」とは,自分と全く違うルールを持っていて,決して妥協できず,かつ,妥協しなければならない存在のことです』(p.76-77,87-88)
・「本当に賢いということは,幾つかの条件があります.
まず賢いこと.
これは当たり前です.
賢い若者は大勢います.
と同時に,体力があること.
睡眠5時間で何日フル稼働できるかです.
この二つを持っている若者も大勢います.
と同時に,人間関係に強いか.
ここら辺から,若者は,あぶなくなるのです」
「そして最後に,笑って無茶ができるかどうかです」
「これを一言で言うと,『一に体力,二に人柄,三,四がムチャクチャ,五に才能』となります」(p.160)
著者も「体力馬鹿」信仰を持っていることが,今読み返すと意外.
・「肝心なのは,自分のことをファシストだと思っているファシストなんて,現代にはいないということです」(p.171-172)
・「根拠のない禁止を信じているうちに,いつの間にか疑うことさえ禁止し,人々は禁止そのものを信じ込む.
様々なレベルで今,この禁止が復活し勝利し始めているように思えてならないのです」(p.196-197)
私見では,復活したのではなく,タブーは延々と形を変えながら続いてきているだけに過ぎず.
・「大ムーブメントになるものは,この無条件参加の幻想を持つことが必要なのです」(p.199-200)
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一方,ちょくちょく挟み込まれている小ネタは楽しい.
・「田村正和さんが,ある女優さんから『ねぇ,正和さん.あなた,いっつも田村正和やってて疲れない?』と聞かれた時,彼が何と言ったか知ってますか.彼は例のボソボソ声で」…(p.37)
ネタバレ防止のため,何と言ったかは本書を読んで確認されたし.
・「こいつはいまだに俺のことをコメディアンだと思っています」(p.132)
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ただ,本書の弱点,そして著者の弱点は,「次のトレンドを読む」ことに経済的価値がなくなると,用済み扱いされること.
世論に対するネットの力が強くなり,相対的にテレビの力が弱くなり,世論形成勢力が幾つもの小勢力に細分化されている現代では,小勢力の「次のトレンド」を一つ一つ読んでいても,手間がかかるだけで大して商業的価値は無し.
当方は深夜ラジオ番組の頃からの著者のファンなので,もっとメディアに露出してほしいのだが,本書出版前後の出まくりの状況に比べ,最近すっかり見なくなったのは,トレンド予測共々用済み扱いされているようで,非常に悲しい.
もっとも,
・マスコミが呼び込む客は,とてつもなく質が悪い(p.18)
といった本音を書いていたりするから,上述のそれがなくとも,マスメディアにとって「不都合な存在」となって露出減は避けれられなかったかもしれない.
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鴻上夕日堂の逆上 (新潮文庫 こ 24-1) 文庫 – 1993/10/1
鴻上 尚史
(著)
- 本の長さ278ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日1993/10/1
- ISBN-10410133711X
- ISBN-13978-4101337111
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登録情報
- 出版社 : 新潮社 (1993/10/1)
- 発売日 : 1993/10/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 278ページ
- ISBN-10 : 410133711X
- ISBN-13 : 978-4101337111
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,506,369位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 13,330位新潮文庫
- - 21,143位近現代日本のエッセー・随筆
- - 63,736位評論・文学研究 (本)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2014年2月8日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
内容も古くなく、今でも十分通じるところがあると思います。
とにかく、読んでください。
とにかく、読んでください。
2006年2月10日に日本でレビュー済み
行間から繰り返し聞こえてくるのは、「だまされるな。自分の頭で考えろ」という声。
178ページに掲載されている「フジテレビのからくり」からは著者の捨て身の覚悟が伝わってくる。第三舞台がキラメイたのは、著者のこの認識の深さゆえ。
バブル初期、80年代も後半にさしかかった頃、週刊朝日に連載されたエッセイ約50本。
178ページに掲載されている「フジテレビのからくり」からは著者の捨て身の覚悟が伝わってくる。第三舞台がキラメイたのは、著者のこの認識の深さゆえ。
バブル初期、80年代も後半にさしかかった頃、週刊朝日に連載されたエッセイ約50本。
2004年12月9日に日本でレビュー済み
93年に出版された本なので
出てくるのは「子猫物語」「ポートピア連続殺人事件」等、懐かしい名前。
それらが最先端の流行として語られています。
なのに私が未だに、年に1度は読み直しているのは、その切り口が今でも魅力的なためです。
”柔軟なパターン作成””自分で走ること”等、読むたびに自分を省みずにはいられません。
その時代を知っている、30代の方々にぜひオススメします!
出てくるのは「子猫物語」「ポートピア連続殺人事件」等、懐かしい名前。
それらが最先端の流行として語られています。
なのに私が未だに、年に1度は読み直しているのは、その切り口が今でも魅力的なためです。
”柔軟なパターン作成””自分で走ること”等、読むたびに自分を省みずにはいられません。
その時代を知っている、30代の方々にぜひオススメします!