歳末である。
スーパーや地元唯一のデパートへ行くと、ジングルベルの音楽が流れる。
な~んか、すごく久しぶりに聞いた。
テレビでは、ラストクリスマスやマライア・キャリーの『All i want for christmas is you』、山下達郎のクリスマス・イブのクリスマスソングが流れ、映画では、ウィンター・ワンダーランドが流れる時代が続いていた。
ボクの子供の頃だと、この季節はジングルベル一色になった。あとは、ホワイト・クリスマスだった。
ハードボイルドという語源は、固ゆで卵からだったと思う。
半熟が美味で、消化にも良いとされているけれど、ボクの好みは、お湯がグラングランになるくらいまで茹でた、黄身がカチンカチンになるくらいがちょうどよい。
いつのころからか、ハードボイルド小説が好きになった。
ミステリの読書の順番だと、クイーン、カー、クリスティーの順だった。
もちろん、その前に、松本清張や乱歩を読み、その前に黒岩重吾のような風俗小説風の都会派ピカレスクロマンにも、どっぷり浸った。
一人の作家にはまると、その作家の作品を読み漁るという行き当たりばったりの読み方だったので、ジグザグ模様の読書遍歴である。
海外本格ミステリもそうだったが、ハードボイルド小説も、ハメット、チャンドラー、ロスマクの順番を守って読んだ。
なぜだろう。
さて、固ゆで卵の茹で加減の固さなら、やはりハメットがその代表になるだろう。
ボクは、ロスマクの小笠原 豊樹さん訳の『ウィチャリー家の女』や『縞模様の霊柩車』の端正な作風が、好きだった。
もちろん、訳者の文章が滑らかで、素敵だったこともある。
チャンドラーは、カリフォルニアの陽光の中で、気障なセリフが飛び交い、あまり乾いているとはいえない感傷が揺曳する物語が、彼の作風だった。
妙に余韻が残ることに、抵抗があった。
たぶん、自分の感性への近親憎悪というヤツだろう。
あるべき姿としては、ハメットがハードボイルド小説の王道だと思っている。
鎧の下からチョロリどころか、メランコリックな描写が散見されるチャンドラーは、やはり、とても気になる作家だった。
時系列に読み進むと、『長いお別れ』が、後期チャンドラーの憂愁の頂点だろう。
和風チャンドラーといえば、生島治郎さんの『追いつめる』や三浦浩さんの『薔薇の眠り』を思い出す。
結城昌治さんの私立探偵真木シリーズは、ロスマクのイメージだった。『暗い落日』など、透明なタッチの乾いた文章が大好きだった。
河野典生さんも、ハメット、チャンドラー、ロスマクの系譜の人だった。
そんな中で、冒険ミステリとハードボイルド小説がクロスオーバーするときがある。
日本でも、そんな作品に、アラ還のころに出逢った。
志水辰夫さんの『裂けて海峡』だ。代表作といわれる『行きずりの街』よりも好きだ。
終章にかけてのパセティックで、破調の文体だが、思うがまま一気呵成に書き上げた迫力に、初老に差し掛かったボクは、打ちのめされた。
な、なんなんだ。この過剰な感傷が気持ちよいのは、なぜ?
やはり、ハードボイルド小説のエッセンスは、都会の夜の闇を無鉄砲に生きることを志しながら、タフにはなり切れない心情を、誰かに向かって伝えたいという一点にあるのではないか。
人生の残りを意識するのはさみしいことだけれど、映画を見て、読書し、そして楽しく酒が飲め、ゆっくりとまったりと、何事もなく生きていけるのは、とても幸せなことだ。(2020.12.14)
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裂けて海峡 (新潮文庫) 文庫 – 2004/8/28
志水 辰夫
(著)
海峡で消息を絶ったのは、弟に船長を任せた船だった。乗組員は全て死亡したと聞く。遭難の原因は不明。遺族を弔問するため旅に出た長尾の視界に、男たちの影がちらつき始める。やがて彼は愛する女と共にある陰謀に飲み込まれてゆくのだった。歳月を費やしようやく向かいあえた男女を、圧し潰そうとする“国家"。運命の夜、閃光が海を裂き、人びとの横顔をくっきりと照らし出す。
- 本の長さ446ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2004/8/28
- ISBN-10410134518X
- ISBN-13978-4101345185
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登録情報
- 出版社 : 新潮社 (2004/8/28)
- 発売日 : 2004/8/28
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 446ページ
- ISBN-10 : 410134518X
- ISBN-13 : 978-4101345185
- Amazon 売れ筋ランキング: - 631,677位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
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2020年9月3日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
古い作品ですが、気がつくと没入して読んでいます。地の文が上手い、ととある作家の方が言っており、手に取りました。良いです。一読をオススメします。
2019年7月21日に日本でレビュー済み
話の筋も立っているし、キャラクターもいいですね。
この時代背景とキャラクターの生活様式、行動様式はこの時代を生きた人しか書けないのかもしれない。リアリティも十分で、なかなかの傑作だと思いますが、少し、逃走シーンがくどいかなぁ。
この時代背景とキャラクターの生活様式、行動様式はこの時代を生きた人しか書けないのかもしれない。リアリティも十分で、なかなかの傑作だと思いますが、少し、逃走シーンがくどいかなぁ。
2014年2月12日に日本でレビュー済み
時にはユーモラスに時にはシリアスに綿密な文章構成によって物語が展開していくさまは圧巻である。
個々の人の運命を国家というものにおしつぶされようとして戦う主人公たちの生き様に共感がもてる。
個々の人の運命を国家というものにおしつぶされようとして戦う主人公たちの生き様に共感がもてる。
2010年3月11日に日本でレビュー済み
【書評】
歳月を費やしようやく向かいあえた男女を、圧し潰そうとする“国家”。
運命の夜、閃光が海を裂き、人びとの横顔をくっきりと照らし出す。
【感想】
いい、いいよ〜!志辰節!
SF⇒冒険小説との変遷で出会った作家。
文体がいい。
何十回と読み直しているが毎回いい!
男はつらい、女は悲しいのよね。
ラストの1行が超有名。
『天に星。地に憎悪。南溟。八月。私の死。』
歳月を費やしようやく向かいあえた男女を、圧し潰そうとする“国家”。
運命の夜、閃光が海を裂き、人びとの横顔をくっきりと照らし出す。
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SF⇒冒険小説との変遷で出会った作家。
文体がいい。
何十回と読み直しているが毎回いい!
男はつらい、女は悲しいのよね。
ラストの1行が超有名。
『天に星。地に憎悪。南溟。八月。私の死。』
2007年10月27日に日本でレビュー済み
主人公は、双葉海運の社長「長岡知巳」。
実弟の乗り組んだ船の沈没に疑問を感じ、その謎を解明しようとし、国家権力に追われる身となります。
特攻艇震洋の基地跡に暮らし慰霊碑の墓守をする「花岡康四郎」、恋人「理恵」と共に闘う様子がテンポ良くスリリングに描かれており、途中で読むのを止められなくなります。
月並みな表現になりますが、状況設定・人物描写・物語の展開・心理描写どれをとっても傑作だと思います。
逃れるチャンスがあったにも関わらず、それを潔しとせずに立ち向かった「長尾知巳」が拘った人間の価値とは何だったのでしょう?
人生には幾つかの岐路があり、人それぞれ、自分の価値観に鑑み方向を決めていると思います。
多分、決断した大部分については人生の終焉を迎えてみないと正解だったのか否かは分らないのでしょうが、自分の価値観に対する拘りは持ち続けたいですね。
本作品を読んで色々と考えさせられました。
実弟の乗り組んだ船の沈没に疑問を感じ、その謎を解明しようとし、国家権力に追われる身となります。
特攻艇震洋の基地跡に暮らし慰霊碑の墓守をする「花岡康四郎」、恋人「理恵」と共に闘う様子がテンポ良くスリリングに描かれており、途中で読むのを止められなくなります。
月並みな表現になりますが、状況設定・人物描写・物語の展開・心理描写どれをとっても傑作だと思います。
逃れるチャンスがあったにも関わらず、それを潔しとせずに立ち向かった「長尾知巳」が拘った人間の価値とは何だったのでしょう?
人生には幾つかの岐路があり、人それぞれ、自分の価値観に鑑み方向を決めていると思います。
多分、決断した大部分については人生の終焉を迎えてみないと正解だったのか否かは分らないのでしょうが、自分の価値観に対する拘りは持ち続けたいですね。
本作品を読んで色々と考えさせられました。
2008年4月24日に日本でレビュー済み
私をシミタツファンにした一冊。
志水辰夫の不朽の名作である。
出来るなら、講談社文庫版を手に入れて、最後の一行どちらがいいか
読み比べて欲しい。
ちなみに私は、講談社版のほうが好きです。
志水辰夫の不朽の名作である。
出来るなら、講談社文庫版を手に入れて、最後の一行どちらがいいか
読み比べて欲しい。
ちなみに私は、講談社版のほうが好きです。