平安末期の世を生き、出家人として方々を旅しながら多くの歌を残し伝説化された歌聖・西行。多くの謎に満ちた西行の足跡を辿りながら著者独自の西行像に迫る論考はさすがに説得力がある。
とりわけ、西行の残した多くの歌からこの謎めいた人物像を探ることは容易であるはずはない。それゆえに明恵上人を書き上げた後に西行に取りかかるまでに十数年の歳月を要したことも肯けるというもの。それも推敲とか執筆に費やしたというよりもむしろ躊躇いのような悶々とした時間を過ごしただけとの言葉もイメージできるからおもしろい。
おもえば、詞書と歌による様式で世界と向きあい自身に対峙する修行(試み)は、自然との同化による自己消滅こそが解脱への到達ということだったのだろうか。
風になびく冨士の煙の空に消えて ゆくへも知らぬわが思ひかな
いつとなき思ひは富士の煙にて 折臥す床や浮島が原
いうなれば、このように自然に対峙し宇宙と同化する境地こそが西行の即身成仏の思想とみることができる。人間味あふれるこの思ひこそ西行の魅力であり不確かさであり謎ともいえる所以といえるのだろうか。
それにしても芭蕉や山頭火、李白や杜甫にしても、どうして方々を旅するのだろうと不思議に思えてくるのだが、その足跡を追体験しながら随筆をまとめる作業とは執筆者独自の創造の世界として経験されるほかない。
福田和也は解説でそのことにふれ、白洲氏の文章は、何にも似ていない。西行を語ることは、歌について語ることであり、仏教について語ることであり、旅を語ることであり、山河を語ることであり、日本人の魂と祈りを語ることであった。としている。
また、『明恵伝』の記述をめぐる虚実にふれて、瞬時に世の虚妄にかかわる認識に通底させて、西行の姿を追い、見つめる読者の目を、西行が「虚空の如き心」で世界を見ていた認識と一致させてしまう文章の動きは、批評と呼ぶのすらさかしらに思われる程で、流暢な運びのうちに視界を転換し、「虚」と「実」の間に広がる、生々しい歌の在処を照らしだす。そのとき白洲正子の文章の中に西行が現れる、という。
個人的には残念ながらそこまで読み切ることはできないけれど、ディスクールとしては納得できるし、含蓄のある新たな西行伝ということもできるだろう。
春風の花を散らすと見る夢は さめても胸のさわぐなりけり
おのづから花なき年の春もあらば 何につけてか日を暮らすべき
待賢門院への思い、この濃密な息苦しさ、官能へと、花へと、身をさらす西行。
本著は西行とともに旅を楽しむことも、多くの謎とともに数奇のあり様を探ることも、想像力をかき立てられる傑出した一冊であることは疑いようがない。
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西行 (新潮文庫) 文庫 – 1996/5/29
白洲 正子
(著)
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平安末期の動乱の世を生きた歌聖・西行。
ゆかりの地を訪ねつつ、その謎に満ちた生涯の真実に迫る。
ねがはくは花のしたにて春死なむ そのきさらぎの望月の頃――
23歳で出家し、1190年2月73歳で寂すまで平安末期の動乱の世を生きた西行。その漂泊の足跡を実地にたどりつつ、歌の読み込みに重点を置き、ゆかりの風物風土の中で味わうことによって自ずと浮かび上がってくる西行の人間的真実。待賢門院への思いなど、謎に満ち、伝説化された歌聖の姿に迫り、新たな西行像を追求する。
目次
空になる心
重代の勇士
あこぎの浦
法金剛院にて
嵯峨のあたり
花の寺
吉野山へ
大峯修行
熊野詣
鴫立沢
みちのくの旅
江口の里
町石道を往く
高野往来
讃岐の院
讃岐の旅
讃岐の庵室
二見の浦にて
富士の煙
虚空の如くなる心
後記
西行関係略年表
数奇、煩悩、即菩堤 福田和也
著者の言葉
私は手に入るかぎりの本に目を通してみたが、西行の謎は深まるばかりであった。もちろん学者の中には綿密な考証を行った方たちがおり、少からずお世話になったことは事実だが、考証と人間の本質とは違う。結局西行という人間は、自作の歌の中にしか生きていないことを知ったのは、連載を何回かつづけた後で、そんなことも実際に書いてみなければ判らぬことであった。私は和歌もまったくの素人であるが、幸いなことに西行の歌は比較的わかりやすいので、そこから目をそらさずに書いて行くことにした。(「後記」)
白洲正子(1910-1998)
1910年東京生まれ。幼い頃より能を学び、14歳で女性として初めて能舞台に立ち、米国留学へ。1928年帰国、翌年白洲次郎(1902〜1985)と結婚。古典文学、工芸、骨董、自然などについて随筆を執筆。『能面』『かくれ里』『日本のたくみ』『西行』など著書多数。1998年没。
ゆかりの地を訪ねつつ、その謎に満ちた生涯の真実に迫る。
ねがはくは花のしたにて春死なむ そのきさらぎの望月の頃――
23歳で出家し、1190年2月73歳で寂すまで平安末期の動乱の世を生きた西行。その漂泊の足跡を実地にたどりつつ、歌の読み込みに重点を置き、ゆかりの風物風土の中で味わうことによって自ずと浮かび上がってくる西行の人間的真実。待賢門院への思いなど、謎に満ち、伝説化された歌聖の姿に迫り、新たな西行像を追求する。
目次
空になる心
重代の勇士
あこぎの浦
法金剛院にて
嵯峨のあたり
花の寺
吉野山へ
大峯修行
熊野詣
鴫立沢
みちのくの旅
江口の里
町石道を往く
高野往来
讃岐の院
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讃岐の庵室
二見の浦にて
富士の煙
虚空の如くなる心
後記
西行関係略年表
数奇、煩悩、即菩堤 福田和也
著者の言葉
私は手に入るかぎりの本に目を通してみたが、西行の謎は深まるばかりであった。もちろん学者の中には綿密な考証を行った方たちがおり、少からずお世話になったことは事実だが、考証と人間の本質とは違う。結局西行という人間は、自作の歌の中にしか生きていないことを知ったのは、連載を何回かつづけた後で、そんなことも実際に書いてみなければ判らぬことであった。私は和歌もまったくの素人であるが、幸いなことに西行の歌は比較的わかりやすいので、そこから目をそらさずに書いて行くことにした。(「後記」)
白洲正子(1910-1998)
1910年東京生まれ。幼い頃より能を学び、14歳で女性として初めて能舞台に立ち、米国留学へ。1928年帰国、翌年白洲次郎(1902〜1985)と結婚。古典文学、工芸、骨董、自然などについて随筆を執筆。『能面』『かくれ里』『日本のたくみ』『西行』など著書多数。1998年没。
- 本の長さ304ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日1996/5/29
- 寸法14.8 x 10.5 x 2 cm
- ISBN-104101379025
- ISBN-13978-4101379029
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日本のたくみ | 西行 | 白洲正子自伝 | 私の百人一首 | ほんもの―白洲次郎のことなど― | |
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価格 | ¥649¥649 | ¥880¥880 | ¥605¥605 | ¥572¥572 | ¥649¥649 |
【新潮文庫】白洲正子 作品 | 歴史と伝統に培われ、真に美しいものを目指して打ち込む人々。扇、染織、陶器から現代彫刻まで、様々な日本のたくみを紹介する。 | ねがはくは花の下にて春死なん……平安末期の動乱の世を生きた歌聖・西行。ゆかりの地を訪ねつつ、その謎に満ちた生涯の真実に迫る。 | この人はいわば、魂の薩摩隼人。美を体現した名人たちとの真剣勝負に生き、ものの裸形だけを見すえた人。韋駄天お正、かく語りき。 | 「目利き」のガイドで味わう百人一首の歌の心。その味わいと歴史を知って、愛蔵の元禄時代のかるたを愛でつつ、風雅を楽しむ。 | おしゃれ、お能、骨董への思い。そして、白洲次郎、小林秀雄、吉田健一ら猛者と過ごした日々。白洲正子史上もっとも危険な随筆集! |
登録情報
- 出版社 : 新潮社; 改版 (1996/5/29)
- 発売日 : 1996/5/29
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 304ページ
- ISBN-10 : 4101379025
- ISBN-13 : 978-4101379029
- 寸法 : 14.8 x 10.5 x 2 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 41,258位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
(1910-1998)東京・永田町生れ。薩摩隼人の海軍軍人、樺山資紀伯爵の孫娘。幼時より梅若宗家で能を習う。14歳で米国留学、1928(昭和3)年帰国。翌年、白洲次郎と結婚。1943年『お能』を処女出版。戦後、小林秀雄、青山二郎らを知り、大いに鍛えられて審美眼と文章をさらに修業。1964年『能面』で、また1972年には『かくれ里』で、ともに読売文学賞を受賞している。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2018年7月19日に日本でレビュー済み
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定年退職し時間ができたことから手当たり次第に色々な本を読んでいる。
専らの関心事は日本中世。その周辺を巡っているうちに和歌の世界にたどり着いた。
そして西行にめぐりあうことになる。
入門書のつもりで白洲さんのこの本を選んだが、実に面白い!
西行、業平を「数奇者」と表現しているが、現代の数奇者こそ白洲夫婦ではないだろうか。
西行の足跡に沿った記述であるが、それが京都案内としても読める。
京都を歩くときには是非この本を携えていきたいと思った。
専らの関心事は日本中世。その周辺を巡っているうちに和歌の世界にたどり着いた。
そして西行にめぐりあうことになる。
入門書のつもりで白洲さんのこの本を選んだが、実に面白い!
西行、業平を「数奇者」と表現しているが、現代の数奇者こそ白洲夫婦ではないだろうか。
西行の足跡に沿った記述であるが、それが京都案内としても読める。
京都を歩くときには是非この本を携えていきたいと思った。
2015年5月25日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
西行は出家することにより、北面の武士というエリートとしての地位だけでなく、妻子も捨て、立身出世を求めない。
もし、とどまっておれば保元の乱で崇徳上皇側に加勢し、死んでいたかもしれず、今日の西行は存在しなかったろう。
なにが幸いするかわからない。いずれにせよ、無謀とも思える出家によって歴史に残ることが出来た。
しかも、特定の寺院にも属さず全くの自由人として自己愛に徹する。こんなこと、誰にだってできることではない。
だから、半分、羨ましがられて、今でも尊敬を受けるのだろう。
なんといっても、私の願いは桜の花のもとで春死にたい。2月15日(旧暦で今の4月初めに相当。)ごろが良い。
この有名な短歌の希望はほぼ達せられた。共感できる人が多いだろう。
ところで西行は平清盛と同い年である。清盛は俗世間に興味を持ちすぎたばかりに一族を破滅に追いやったかもしれない。
西行はそういう意味でも妻子まで捨てた(捨てられた妻子の目線にたてば、最悪のオヤジになる。)から、旅と歌に明け暮れること
ができた。どこまでも自由人であったが、いずれの寺院にも属さない乞食僧と同じだから生活環境は厳しかったろう。
だが、待てよ。西行は、生きているときから高名だったから、支援者に事欠かなかったはずだ。羨ましい人生である。
白洲女史の本書を読めば西行の実態に迫れる。西行の入門書として最適である。
岩波新書の西行、辻邦正の西行伝とも時間があれば併読すると理解が進むであろう。
ここまで拝読いただきありがとうございます。
もし、とどまっておれば保元の乱で崇徳上皇側に加勢し、死んでいたかもしれず、今日の西行は存在しなかったろう。
なにが幸いするかわからない。いずれにせよ、無謀とも思える出家によって歴史に残ることが出来た。
しかも、特定の寺院にも属さず全くの自由人として自己愛に徹する。こんなこと、誰にだってできることではない。
だから、半分、羨ましがられて、今でも尊敬を受けるのだろう。
なんといっても、私の願いは桜の花のもとで春死にたい。2月15日(旧暦で今の4月初めに相当。)ごろが良い。
この有名な短歌の希望はほぼ達せられた。共感できる人が多いだろう。
ところで西行は平清盛と同い年である。清盛は俗世間に興味を持ちすぎたばかりに一族を破滅に追いやったかもしれない。
西行はそういう意味でも妻子まで捨てた(捨てられた妻子の目線にたてば、最悪のオヤジになる。)から、旅と歌に明け暮れること
ができた。どこまでも自由人であったが、いずれの寺院にも属さない乞食僧と同じだから生活環境は厳しかったろう。
だが、待てよ。西行は、生きているときから高名だったから、支援者に事欠かなかったはずだ。羨ましい人生である。
白洲女史の本書を読めば西行の実態に迫れる。西行の入門書として最適である。
岩波新書の西行、辻邦正の西行伝とも時間があれば併読すると理解が進むであろう。
ここまで拝読いただきありがとうございます。
2019年2月19日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
うーん、レビューが難しいですね。なんとか読み通しましたが、かなりしんどかった。まず明確な西行像というのが浮かんでこないし、和歌についても歌そのものというよりは時代背景など周辺部分をことこまかに語っている感じである。深い教養と西行ゆかりの地を自らの足でまわった実体験に裏打ちされた作品だということは読んでいてよくわかりましたが、著者と互角以上の教養のない人には楽しめない作品なのでは。少なくともはじめて西行を読もうという人は手に取るべきではないと思う。
2017年3月31日に日本でレビュー済み
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西行の自歌合「御裳濯川歌合」(俊成判詞)と交互に並行して読むと、心を洗われるような「御裳濯川歌合」と、博識だが、週刊誌を読むような西行観を印象付けられる本書は、やはり、どこか違うと思われる。