本書は「自意識」の強い筆者の手記という形式であり、筆者は「だれひとり僕に似ている者がなく、一方、僕自身誰にも似ていない」(しかも、「もしかしたら、そんなものはもともと僕にはなかったもので、書物から仕込まれた借り物だったのかもしれないp84」ということに苦しめられているp83.本作では「苦悩こそ、まさしく自意識の第一原因に他ならないp65」としており、一般に言う自惚れのようなものとは異なる。むしろ自分を欺かずp245、批判的に分析しており、結果として自分の意識の底に流れているものに常に疑問を持っている。筆者は「思い出のなかには、親友にも打ち明けることができずに、自分自身にだけ、それもこっそりとしか明かせないようなこともあり、自分にさえ打ち明けるのを恐れるようなこともある。せめて、自分自身に対してぐらい、完全に裸になりきれるものか、真実のすべてを恐れずにいられるものか、試してみたいp73」としており、自分に正直でありたい(が実際は行動としては、なれない)人物である。本書でなされる筆者の醜い自分自身の分析とその娼婦リーザに対する告白は、後のドストエフスキーの作品「悪霊」のスタヴローギンのチホンに対する告白の場面に似ており、リーザとチホンの反応・評価も類似する点がある。
論理的には、数学の公式のように、人間の将来も、「人間が文明によって温和になり、従って、残虐さを減じて、戦争もしなくなるp42」ようにも思える。野蛮な人間も、やがて健全な理性と科学が人間の本性を完全に改造しp45、人間のすべての行為が法則によって計算されp45、チェルヌイシェフスキーの水晶宮のような理想的な未来の社会主義社会が建つp46という立場に対し、筆者は人間の恣欲p48がこれを妨げるとする。実際、この時代、フランス革命やアメリカ建国といった人類の理想を具現したようなことも、ナポレオンや南北戦争などの戦争に至ってしまう。そこで、筆者は「文明が人間のうちに作り上げてくれるのは、感覚の多面性だけであり…それ以外には何もありゃしないp43」とする。将来、恣欲と理性が完全に手を結べばp50、実際に一覧表のようなものができあがって、個々の人間も全人生を計算できることになりp50、「ぼくらが本当に例の一覧表やカレンダーを目指して進んでいくp51。ところが、筆者は、人間は時に、こうした「数学の公理」に縛られないことを(たとえ有害な事であっても)望む権利があり、「すくなくともそれが、僕らにとって一番大事で貴重なもの、つまり、僕らの個と個性とを僕らに残しておいてくれるp54」「二二が四だけが幅を利かすようになったら、もう自分の意志も糞もないじゃないか?p59」とする。すなわち、筆者は歴史に目を背けず科学的分析をしているのだが悲観的であり、短期的に数十年の予測・分析としては、戦争などに結局なるので人間の将来に希望が持てないという考えで、より長期的に、数百年、数千年の単位では、水晶宮ができても自由がないということで否定的である。しかし本当の水晶宮ができたと仮定した場合は、人類が内面でも発展し博愛・利他主義のような考え方にならないとおこらないので、その場合は、個々人が自由意志で、もっとも希望するところのものが平等で利他的な社会を自由がないと感じる人間もいないことになるであろうから、筆者の考えは未来についてかなり悲観的とは言える。
水晶宮(目的)を信じていない筆者だが、目的に達する経緯については重要性を認め、「人類がこの地上において目指している一切の目的もまた、目的達成のためのこの不断のプロセス、言い換えれば、生そのものの中に含まれているのであって、目的それ自体のなかには存在していないのかもしれないp62」としている。
しかし、戦争まで引き起こして守るほどの「自分の意志」というものが本当にあるのだろうかという点に関しては、筆者の最大の弱点・疑念とも言うことができ、実際、後半で娼婦のリーザに説教を垂れた筆者が、「まるで本を読んでいるみたいp183」と感想を言われたときに敏感に反応する。これは結局、自分の正論が誰かの受け売りで書物から学んだものに過ぎないことが自ら悟ったからである。一方のリーザはおそらく本など読んだこともない若い女であり、上記の発言も「彼女がことさら嘲笑的な口調のかげに身を隠そうとしたp184」ためであったのであるが、筆者が苦しみぬいて醜い自分を分析し、さらけ出して告白すると、その苦しみを本能的に理解し受け入れる、まさに「自分の意思(本能が近い)」を哲学的思考などなくして保持している。
筆者はリーザを妻として迎える夢を見、ネクラーソフの次の詩を引用するほどに内面は純粋な部分がある。「ためらわず、心のままに入っておいで、おまえは我が家の主婦なのだから!p220」。また、リーザに「僕はならしてもらえないんだよ…僕にはなれないんだよ…善良な人間には!p233」と告白する時点で、それが外面にも出つつある成長をみせる。「愛するとは、暴君のように振舞い、精神的に優位を確保することの同義語だp237」としている筆者がリーザの真の愛を理解し「彼女がやって来たのは、決して同情の言葉を求めるためではなく、僕を愛するためだったこと、なぜなら、愛のうちにこそ一切の復活が、あらゆる破滅からの一切の救いと新生が秘められているからだp238」とわかりながらも行動に移せない。彼女を受け入れないことによって「屈辱は彼女を高め、清めてくれるだろう…憎悪によって…あるいは、赦しによってだ…だが、それにしても、そのために彼女が楽になれるだろうか?p243」というように、自分の行為が正当化されないこと、彼女を結局不幸にする要素のほうが多いことまで理解するようになる。本書に書かれている男女の関係は一方が娼婦という極端な例ではあるが、こういった社会的には不釣り合いであるとかの理由で、パートナーを拒むということは現代でもあり、こうした点でも学ぶところは多い。
上記より、筆者は愛と自分固有のものp246に重きを置いているが、これをもって本源的なものとは主張するほどの哲学はない。この前後のロシアの歴史を考えると、社会主義・共産主義の理想を結局は実現不能な空想的なものとするが、それに替わるものについては、「ぼくがよりどころにできる本源的原因、その基礎とやらはどこにあるのだ?どこからそれをもってくればいい?ぼくなどはさしずめ思索の訓練を積んでいるから、どんな本源的原因をもってきても、たちまち別の、さらにいっそう本源的な原因がたぐり出されてきて、これが無限に続くことになるだろう。p33」としている点からみても、一つの真実というものは得られないというスタンスである。ひとつの信条を持ってそれを振り回すことが戦争などの悲劇に結びついてきたという思想があり、「人間が復讐するのは、そこに正義を見出すからだ、ということである。つまり、彼は本源的原因を、基礎を見出した、すなわち、正義を見出したのだから、当然、あらゆる点について安心できるわけであり、したがって、自分は名誉ある正義の事業を遂行しているのだという確信を抱くp33.」と書いていることは、過去の十字軍から後のスターリンや宗教の原理主義者が起こした戦争・粛清・虐殺によく当てはまる。
以下は抜粋。
いったい自意識をもった人間が、いくらかでも自分を尊敬するなんて、できることだろうか?p29
僕らは、真の「生きた生活」を、ほとんど労役かお勤めとみなすまでになっていて、それぞれ腹の中では書物式のほうがよほどましだとさえ思っているのだp244.
僕らから書物を取り上げて裸にしてみるがいい、僕らはすぐさままごついて、途方にくれてしまうだろう。どこにつけがよいか、何を指針としたらよいかもp246。
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地下室の手記 (新潮文庫) 文庫 – 1970/1/1
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誰にも愛されたことがない。人を愛したこともない。
社会から隔離された暗闇の部屋で綴られる、どす黒き魂の軌跡。
この作品を通過せずして、『罪と罰』『白痴』『カラマーゾフの兄弟』等の後年の大作は生れなかった。
極端な自意識過剰から一般社会との関係を絶ち、地下の小世界に閉じこもった小官吏の独白を通して、理性による社会改造の可能性を否定し、人間の本性は非合理的なものであることを主張する。人間の行動と無為を規定する黒い実存の流れを見つめた本書は、初期の人道主義的作品から後期の大作群への転換点をなし、ジッドによって「ドストエフスキーの全作品を解く鍵」と評された。
著者の言葉
この手記の筆者も『手記』そのものも、いうまでもなく、フィクションである。しかしながら、ひろくわが社会の成立に影響した諸事情を考慮に入れるなら、この手記の作者のような人物がわが社会に存在することはひとつもふしぎでないし、むしろ当然なくらいである。私はつい最近の時代に特徴的であったタイプのひとつを、ふつうよりは判然とした形で、公衆の面前に引きだしてみたかった。つまりこれは、いまなおその余命を保っている一世代の代表者なのである。(本書冒頭)
ドストエフスキー Фёдор М.Достоевский(1821-1881)
19世紀ロシア文学を代表する世界的巨匠。父はモスクワの慈善病院の医師。1846年の処女作『貧しき人びと』が絶賛を受けるが、1849年、空想的社会主義に関係して逮捕され、シベリアに流刑。この時持病の癲癇が悪化した。出獄すると『死の家の記録』等で復帰。1861年の農奴解放前後の過渡的矛盾の只中にあって、鋭い直観で時代状況の本質を捉え、『地下室の手記』を皮切りに『罪と罰』『白痴』『悪霊』『未成年』『カラマーゾフの兄弟』等、「現代の予言書」とまでよばれた文学を創造した。
江川卓(1927-2001)
1927年東京生れ。東京大学法学部卒。ロシア語は独学で、終戦後実地で鍛えあげた。『謎とき「罪と罰」』(読売文学賞)等の著書、パステルナーク『ドクトル・ジバゴ』等の翻訳がある。2001年、病没。
社会から隔離された暗闇の部屋で綴られる、どす黒き魂の軌跡。
この作品を通過せずして、『罪と罰』『白痴』『カラマーゾフの兄弟』等の後年の大作は生れなかった。
極端な自意識過剰から一般社会との関係を絶ち、地下の小世界に閉じこもった小官吏の独白を通して、理性による社会改造の可能性を否定し、人間の本性は非合理的なものであることを主張する。人間の行動と無為を規定する黒い実存の流れを見つめた本書は、初期の人道主義的作品から後期の大作群への転換点をなし、ジッドによって「ドストエフスキーの全作品を解く鍵」と評された。
著者の言葉
この手記の筆者も『手記』そのものも、いうまでもなく、フィクションである。しかしながら、ひろくわが社会の成立に影響した諸事情を考慮に入れるなら、この手記の作者のような人物がわが社会に存在することはひとつもふしぎでないし、むしろ当然なくらいである。私はつい最近の時代に特徴的であったタイプのひとつを、ふつうよりは判然とした形で、公衆の面前に引きだしてみたかった。つまりこれは、いまなおその余命を保っている一世代の代表者なのである。(本書冒頭)
ドストエフスキー Фёдор М.Достоевский(1821-1881)
19世紀ロシア文学を代表する世界的巨匠。父はモスクワの慈善病院の医師。1846年の処女作『貧しき人びと』が絶賛を受けるが、1849年、空想的社会主義に関係して逮捕され、シベリアに流刑。この時持病の癲癇が悪化した。出獄すると『死の家の記録』等で復帰。1861年の農奴解放前後の過渡的矛盾の只中にあって、鋭い直観で時代状況の本質を捉え、『地下室の手記』を皮切りに『罪と罰』『白痴』『悪霊』『未成年』『カラマーゾフの兄弟』等、「現代の予言書」とまでよばれた文学を創造した。
江川卓(1927-2001)
1927年東京生れ。東京大学法学部卒。ロシア語は独学で、終戦後実地で鍛えあげた。『謎とき「罪と罰」』(読売文学賞)等の著書、パステルナーク『ドクトル・ジバゴ』等の翻訳がある。2001年、病没。
- ISBN-104102010092
- ISBN-13978-4102010099
- 版改
- 出版社新潮社
- 発売日1970/1/1
- 言語日本語
- 寸法14.8 x 10.5 x 2 cm
- 本の長さ216ページ
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【新潮文】ドストエフスキー 作品 | 白痴と呼ばれる純真なムイシュキン公爵を襲う悲しい破局……作者の”無条件に美しい人間”を創造しようとした意図が結実した傑作。 | 世間から侮㚽の目で見られている小心で善良な小役人マカール・ジェーヴシキンと薄幸の乙女ワーレンカの不幸な恋を描いた処女作。 | 妻は次々と愛人を替えていくのに、その妻にしがみついているしか能のない”永遠の夫”トルソーツキイの深層心理を鮮やかに照射する。 | 賭博の魔力にとりつかれ身を滅ぼしていく青年を通して、ロシア人に特有の病的性格を浮彫りにする。著者の体験にもとづく異色作品。 | 極端な自意識過剰から地下に閉じこもった男の独白を通して、理性による社会改造を否定し、人間の非合理的な本性を主張する異色作。 |
カラマーゾフの兄弟〔上〕 | カラマーゾフの兄弟〔中〕 | カラマーゾフの兄弟〔下〕 | 悪霊〔上〕 | 悪霊〔下〕 | 死の家の記録 | |
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カラマーゾフの三人兄弟を中心に、十九世紀のロシア社会に生きる人間の愛憎うずまく地獄絵を描き、人間と神の問題を追究した大作。 | 無神論的革命思想を悪霊に見立て、それに憑かれた人々の破滅を実在の事件をもとに描く。文豪の、文学的思想的探究の頂点に立つ大作。 | 地獄さながらの獄内の生活、悽惨目を覆う笞刑、野獣のような状態に陥った犯罪者の心理──著者のシベリア流刑の体験と見聞の記録。 |
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青年貴族アリョーシャと清純な娘ナターシャの悲恋を中心に、農奴解放、ブルジョア社会へ移り変わる混乱の時代に生きた人々を描く。 | 独自の犯罪哲学によって、高利貸の老婆を殺し財産を奪った貧しい学生ラスコーリニコフ。良心の呵責に苦しむ彼の魂の遍歴を辿る名作。 | ロシア社会の混乱を背景に、「父と子」の葛藤、未成年の魂の遍歴を描きながら人間の救済を追求するドストエフスキー円熟期の名作。 |
登録情報
- 出版社 : 新潮社; 改版 (1970/1/1)
- 発売日 : 1970/1/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 216ページ
- ISBN-10 : 4102010092
- ISBN-13 : 978-4102010099
- 寸法 : 14.8 x 10.5 x 2 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 68,551位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 79位ロシア・ソビエト文学 (本)
- - 1,600位新潮文庫
- カスタマーレビュー:
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2022年1月23日に日本でレビュー済み
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本書は「特権簒奪のサイクル」による、
文明内における敗者の絶望を分析する書であり、
その反動としての「行き場のない精神代償」が描かれている。
本書が書かれた当時の時代背景は、
本格的にブルジョワ化する過渡期であり、その反動となるものが、
ロシア人の大多数である人間の醜悪で悲劇的な面の暴露《地下室》である。
・1861年、農奴解放令(国債償還のため、国を主体とした人間の合理化、客体化)
・水晶宮(啓蒙、進歩、合理的エゴイズム、弁証法)
(「義務に縛られずにすむ権利(特権)」という偶像崇拝)
ゴーゴリの『狂人日記』との違いは、
社会から隔たった《地下室》といった空間で、
社会生活時の《社会回想》を媒介としながら、
《自身の自由な空想》に耽っている点である。
「苦痛は快楽である(犠牲と精算)」といった逆説のテーゼは、
絶望における《精神の反動》の均衡であり、
最高に辱められ堕ち切ったところの反動としての快感享受のために、
脳内空想を張り巡らしながらも、
「書くこと」と「非行為」で均衡を保っている変態漢の『諸手記』が、
本書である。
私自身は、本書を読みながら、
なぜか「一人ごっつのラジカセ」を思い出してしまった。
文明内の人は例外なく、
同様の「一人ごっつのタイムスリップショッピングダンス」の、
商品説明OPのような劇に参加を強制させられている。
ダンスが《地下室》の側である。
------------------------------------------------------------------------------------
・人間のしてきたことといえば、ただひとつ、
人間が絶えず自分に向かって、
自分は、自分であって、たんなるピンではないぞ、
と証明し続けできたことに、尽きるように思えるからだ(49)
・こうしたいっさいをあきらめたしるしに、
自分のちっぽけな前脚でもひょいと振ってみせ、
自信なげなうわべだけの軽蔑の微笑でもうかべて、
こそこそと、自分の穴へもぐりこむしか、もう手がない(18)
・つまり、一言で言えば、万国史についてはなんでも言える、
どんな調子の狂った頭に浮かぶ想像でもかまわない(47)
・つまり、一言で言えば、もしそんなことになったら、
ぼくらはもう何をすることもなくなってしまう、
何でもかんでも受け入れるしか、手はないのですよ(43)(自分の全人生を計算)
・自由意志の法則、全部計算されてくしてしまうかもしれないんですから、、
・理性の勝利がもたらされる、例の一覧表によって計算できるから
・推計の可能性、数学の公理、実際に何やらの一覧表(43)
・わたしたちは敗者に対して厳しい
-----------------------------------------------------------------------------------
【本性と肉への執着への比率(本性:肉=精算:負債)】
【本性の水準】
(地下室)
・逆説家『手記』
・地下室—養われた虚栄に満ちた敵意(諸対象の自身の精神内での破壊)
・地下室—一人きりなりたかった
・絶縁—生きた生活(精神的な腐敗)
・ぼくの全生涯でもっとも汚辱に塗れた、もっとも滑稽な(124)
(地下室と社会回想)
・ぼくを押さえつけていた—不慣れな生きた生活
・時に「諸君」と上品じみながら、聞き手のいない空間に文字を並べ立てる
・しかし、この接近はいつも不自然なものとなって自然消滅の道をたどるのがつねだった
精神的な暴君になっていた、無制限に自分の思うまま
・結局のところ、ペテン師だという結論を導き出すために、
僕という人間が創られたわけではあるまい(58)
・僕の恣欲を消滅、理想抹殺—人間に必要なもの、独自の恣欲(57)
・人間は到達を好むくせに、完全に行きついてしまうのは苦手
・すくなくとも人間は、なぜかいつもこの2×2=4を恐れてきたし(53)
・一生涯、何にも増してぼくもいじめどおしだったのは、やはりこの自然法則
・血の滲むような屈辱、だれから受けたともわからぬ嘲笑こそ、
例の快楽のはじまりなのであり、ときにはそれが官能的な絶頂感にも達するわけなのだ(24)
・苦しむ人間の快楽—悪意のこもった呻き声
—自意識にとってきわめて屈辱的な、苦痛の無意味さ(23)
・敵はどこにも見えないのに痛みだけは厳存する
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予定された何かに利益に到達するいちばんの近道だと思いこむからなんです(42)
・結局、俗物に飲み込まれ執着から離れられない
・なんのためにネフスキー通りに行ったのか、それは知らない。
ただぼくは、機会さえあれば、いつもそこに惹き寄せられた(81)
・道を譲る譲らないで、空想袋小路
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【文明、特権システム∋簒奪∋生誕∋肉】
・ブルジョワ特権社会∋所有支配∋愛、憂鬱、癇癪
・すり替え、本源的原因の代用—無の内容を空のうつわに移しかえる(30)
・万事が合理化
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・精神的優位∋復讐、対象のない憎悪、屈辱
・執着—若さ∋権力∋愛憎、ファッション
—特権、優位∋骨の髄までしゃぶる
—父親が近づくと〜をはなして、全部をそっくり返して
・自分の服の見窄らしさ
・自然法則、統計学、計算されたノルム恣欲—石の壁
・冷笑型、反進歩主義の追従者(39)
・安っぽい幸福と高められた苦悩と、どちらがいいか(偶像崇拝と技術的な本性マゾ快楽)
------------------------------------------------------------------------------------
文明内における敗者の絶望を分析する書であり、
その反動としての「行き場のない精神代償」が描かれている。
本書が書かれた当時の時代背景は、
本格的にブルジョワ化する過渡期であり、その反動となるものが、
ロシア人の大多数である人間の醜悪で悲劇的な面の暴露《地下室》である。
・1861年、農奴解放令(国債償還のため、国を主体とした人間の合理化、客体化)
・水晶宮(啓蒙、進歩、合理的エゴイズム、弁証法)
(「義務に縛られずにすむ権利(特権)」という偶像崇拝)
ゴーゴリの『狂人日記』との違いは、
社会から隔たった《地下室》といった空間で、
社会生活時の《社会回想》を媒介としながら、
《自身の自由な空想》に耽っている点である。
「苦痛は快楽である(犠牲と精算)」といった逆説のテーゼは、
絶望における《精神の反動》の均衡であり、
最高に辱められ堕ち切ったところの反動としての快感享受のために、
脳内空想を張り巡らしながらも、
「書くこと」と「非行為」で均衡を保っている変態漢の『諸手記』が、
本書である。
私自身は、本書を読みながら、
なぜか「一人ごっつのラジカセ」を思い出してしまった。
文明内の人は例外なく、
同様の「一人ごっつのタイムスリップショッピングダンス」の、
商品説明OPのような劇に参加を強制させられている。
ダンスが《地下室》の側である。
------------------------------------------------------------------------------------
・人間のしてきたことといえば、ただひとつ、
人間が絶えず自分に向かって、
自分は、自分であって、たんなるピンではないぞ、
と証明し続けできたことに、尽きるように思えるからだ(49)
・こうしたいっさいをあきらめたしるしに、
自分のちっぽけな前脚でもひょいと振ってみせ、
自信なげなうわべだけの軽蔑の微笑でもうかべて、
こそこそと、自分の穴へもぐりこむしか、もう手がない(18)
・つまり、一言で言えば、万国史についてはなんでも言える、
どんな調子の狂った頭に浮かぶ想像でもかまわない(47)
・つまり、一言で言えば、もしそんなことになったら、
ぼくらはもう何をすることもなくなってしまう、
何でもかんでも受け入れるしか、手はないのですよ(43)(自分の全人生を計算)
・自由意志の法則、全部計算されてくしてしまうかもしれないんですから、、
・理性の勝利がもたらされる、例の一覧表によって計算できるから
・推計の可能性、数学の公理、実際に何やらの一覧表(43)
・わたしたちは敗者に対して厳しい
-----------------------------------------------------------------------------------
【本性と肉への執着への比率(本性:肉=精算:負債)】
【本性の水準】
(地下室)
・逆説家『手記』
・地下室—養われた虚栄に満ちた敵意(諸対象の自身の精神内での破壊)
・地下室—一人きりなりたかった
・絶縁—生きた生活(精神的な腐敗)
・ぼくの全生涯でもっとも汚辱に塗れた、もっとも滑稽な(124)
(地下室と社会回想)
・ぼくを押さえつけていた—不慣れな生きた生活
・時に「諸君」と上品じみながら、聞き手のいない空間に文字を並べ立てる
・しかし、この接近はいつも不自然なものとなって自然消滅の道をたどるのがつねだった
精神的な暴君になっていた、無制限に自分の思うまま
・結局のところ、ペテン師だという結論を導き出すために、
僕という人間が創られたわけではあるまい(58)
・僕の恣欲を消滅、理想抹殺—人間に必要なもの、独自の恣欲(57)
・人間は到達を好むくせに、完全に行きついてしまうのは苦手
・すくなくとも人間は、なぜかいつもこの2×2=4を恐れてきたし(53)
・一生涯、何にも増してぼくもいじめどおしだったのは、やはりこの自然法則
・血の滲むような屈辱、だれから受けたともわからぬ嘲笑こそ、
例の快楽のはじまりなのであり、ときにはそれが官能的な絶頂感にも達するわけなのだ(24)
・苦しむ人間の快楽—悪意のこもった呻き声
—自意識にとってきわめて屈辱的な、苦痛の無意味さ(23)
・敵はどこにも見えないのに痛みだけは厳存する
・ぼくがときたまとてつもないナンセンスをしたくなるのも
予定された何かに利益に到達するいちばんの近道だと思いこむからなんです(42)
・結局、俗物に飲み込まれ執着から離れられない
・なんのためにネフスキー通りに行ったのか、それは知らない。
ただぼくは、機会さえあれば、いつもそこに惹き寄せられた(81)
・道を譲る譲らないで、空想袋小路
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【文明、特権システム∋簒奪∋生誕∋肉】
・ブルジョワ特権社会∋所有支配∋愛、憂鬱、癇癪
・すり替え、本源的原因の代用—無の内容を空のうつわに移しかえる(30)
・万事が合理化
・文明内での愛—精神的優位を確保、同義語(暴君)
—諸対象に対して暴君のように振る舞う権利(198)
—愛の内に復活があると思っている—逆説(本性の代償)
・愛憎∋屈辱、憎悪、悔恨、自己呵責
・精神的優位∋復讐、対象のない憎悪、屈辱
・執着—若さ∋権力∋愛憎、ファッション
—特権、優位∋骨の髄までしゃぶる
—父親が近づくと〜をはなして、全部をそっくり返して
・自分の服の見窄らしさ
・自然法則、統計学、計算されたノルム恣欲—石の壁
・冷笑型、反進歩主義の追従者(39)
・安っぽい幸福と高められた苦悩と、どちらがいいか(偶像崇拝と技術的な本性マゾ快楽)
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2019年7月24日に日本でレビュー済み
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現代で言えば、自意識過剰な陰キャオタが、劣情解消のためリア充に交わろうとしたけどまったく入り込めず、逆ギレしてエロゲで鬱憤晴らそうとしたらこちらでもバッドエンドにしか行けず、どうしようもなく絶望して終わるみたいな感じで、とても面白く共感しました。
2017年3月11日に日本でレビュー済み
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ちびデブハゲ公務員なおっさんが俺がうまくいかないのは世の中が悪いと愚痴る内容です。
この本の前にカラマーゾフと罪と罰を読んでいたせいか
前2作が素晴らしすぎてあまり楽しめなかったのが正直な印象です。
とりあえず立ち読みか図書館でさらっと触れてから購入するか決めるといいと思います。
この本の前にカラマーゾフと罪と罰を読んでいたせいか
前2作が素晴らしすぎてあまり楽しめなかったのが正直な印象です。
とりあえず立ち読みか図書館でさらっと触れてから購入するか決めるといいと思います。
2019年10月16日に日本でレビュー済み
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この人と同じ精神構造行動パターンの人は共感できる
2023年4月9日に日本でレビュー済み
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混乱だろうと、暗黒だろうと、呪いだろうと、そんなものはすべて例の一覧表によって計算できるから、そうした推計の可能性ひとつだけでも、すべてを未然に押しとどめ、理性の勝利がもたらされる、と。だが、そうなったら人間は、わざと狂人になってでも、理性をふり捨て、自我を押しとおすだけの話である!(同書より)
文藝春秋2022年2月号の先崎彰容「『人新世の「資本論」』に異議あり」はかなり刺さった論考で、言及されていたので読んでみました。前半の主人公による怒濤の独白は圧巻。AIとかアルゴリズムが人間に取り変わることは到底不可能ということを160年前の書籍が明らかにしています。人間は意味不明なものに突き動かされるアホでそれゆえ素晴らしい、と。
後半はほとんどふざけたギャグ小説でこれを人間の本質とするにはあまりに暗すぎ極端すぎますが、ここでの問いに向き合わない薄っぺらいリベラルは広がらないと改めて考えさせられました。
文藝春秋2022年2月号の先崎彰容「『人新世の「資本論」』に異議あり」はかなり刺さった論考で、言及されていたので読んでみました。前半の主人公による怒濤の独白は圧巻。AIとかアルゴリズムが人間に取り変わることは到底不可能ということを160年前の書籍が明らかにしています。人間は意味不明なものに突き動かされるアホでそれゆえ素晴らしい、と。
後半はほとんどふざけたギャグ小説でこれを人間の本質とするにはあまりに暗すぎ極端すぎますが、ここでの問いに向き合わない薄っぺらいリベラルは広がらないと改めて考えさせられました。