読むのに時間がかかってしまったのですが、たいへん面白かった。魔の山という題名から、ドイツの神秘的なファンタジー小説みたいなものを想像していたのですが、全然違った。魔の山とは、物語の舞台となる山の上、高地にある診療所のこと。主人公の青年ハンス・カストルプがこの療養所で経験することが、あれやこれやと描かれていく。はじめは、3週間の滞在のつもりが・・・。ここで出会う人々、起こる出来事を読んでいくと、確かに魔の山かも、と思う。カバーの本の紹介に、ドイツ教養小説の最高傑作とある。教養小説とは、何ぞやと思い、Wikipediaで調べてみると「主人公がさまざまな体験を通して内面的に成長していく過程を描く小説のこと。」とのこと。なるほど!と納得。日本だと、夏目漱石の「三四郎」などが、そうらしい。黒澤明の映画なんかも、三船敏郎の主人公などが成長していくところが教養小説っぽいですね。ただ、この小説の主人公は、積極的に成長していくというよりは、時間の停滞のなかで、なんとなく人間が形作られていくようで、不思議な感覚がある。読みはじめて、はじめに興味を持ったのは、主人公の物語というよりも、まえがきにもある、作者の時間についての考察でした。話のところどころに、時間というものについての考えが述べられている。「永遠のスープ」とか面白い比喩だと思った。最近、時間があるので、今まで名前だけ知っていた名作といわれる文学作品をよく読むのですが、読むと、たいていは、もっと若いうちに読んでおけばよかったと思うことが多い。この本は、(個人的なことですが)やることもなく時間がたくさんある今、読んでじっくり味わえる小説でした。同じことを繰り返す毎日、いつの間にか10年が過ぎてしまった・・・などと感じる人にも、この作者の考察は興味深く、何かを考えさせてくれるかもしれない。忙しくしているから時間が経つのが早いのか?何もしていなければ時間はゆっくり過ぎていくのか?自分の体験に照らし合せて、ちょっと考えてしまいました。そんな興味で、読み進めていったのですが、だんだんとこのカストルプ青年の物語にひきこまれていく。上巻のハイライトは、やはり「ワルプルギスの夜」でしょう。その前の「まぼろしの肢体」というところも、妙にエロティックで読ませる(別に、エロなシーンではありません)。下巻にも、いくつものハイライトといえる章がある。わたしは、そのハイライトというべき盛り上がる章の合間にあるセテムブリーニ、ナフタという論客の論争で、読むのに時間がかかってしまった。そんなに内容をしっかり理解しなくてもいいように思うのですが、つい時間をかけてしまった。もう一度、この本を一気に読み直してみたいなと思っています。もう、ハンス・カストルプっていう名前は、ずっと忘れないかもしれないなぁと思う。あとクラウディア・ショーシャ夫人も・・・。スラスラ読める本ではないかもしれませんが、主人公が体験する出来事のかたまり(章)ごとに、時間をかけて読み進めていってもいいと思う。チャレンジする価値はあると思います。などと、書くと大げさに思われるかもしれませんね。あくまでも、自分の読み方であり、感想です。面白い小説です。
下巻は、上巻にくらべてドラマチックな出来事が多い。読者も、作者と共にハンス・カストルプの考えや振る舞いなどを見守るような気持ちで読んでいるからなのか?心を動かされる。そんな中、「巨大な鈍感」という言葉(章)にドキっとした。「それは、時間のない生活、心配も希望もない生活、・・・放縦な生活、死んだ生活であった。」というところ。自分も巨大な鈍感に囚われているのではないか?などと考えてしまった。自分にとって、この巨大な鈍感を打破するものは、「霹靂(へきれき)」となるものは何なのだろう?
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魔の山 下 (新潮文庫 マ 1-3) 文庫 – 1969/3/25
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ひとりの少年が様々な経験を重ね、人間として成長していく過程を描いた教養小説。
完成までに十二年の年月を費やした大作。この後、マンはノーベル文学賞を受賞した。
カストルプ青年は、日常世界から隔離され病気と死に支配された“魔の山”の療養所で、精神と本能的生命、秩序と混沌、合理と非合理などの対立する諸相を経験し、やがて“愛と善意”のヒューマニズムを予感しながら第一次大戦に参戦してゆく。
思想・哲学・宗教・政治などを論じ、人間存在の根源を追究した「魔の山」は「ファウスト」「ツァラトストラ」と並ぶ二十世紀文学屈指の名作である。用語、背景などについての詳細な注解を付す。
本文より
時間とは何か。これは一個の謎である――実体がなく、しかも全能である。現象世界の一条件であり、ひとつの運動であって、空間内の物体の存在とその運動に結びつけられ、混ざり合わされている。しかし運動がなければ、時間はないであろうか。時間がなければ、運動はないのであろうか。さあ尋ねられるがいい。時間は空間の機能のひとつであろうか。それとも逆であろうか。あるいは、ふたつは同じものだろうか。さあ問いつづけたまえ。……(第六章)
トーマス・マン Mann, Thomas(1875-1955)
ドイツ、リューベックに生れる。実科高等学校を中退し、火災保険会社の見習い社員となるが一年で辞め、大学の聴講生となる。1894年、処女短編「転落」を発表し、詩人デーメルに認められた。1901年『ブデンブローク家の人々。ある家族の没落』で注目を集め、以降、『トニオ・クレーゲル』『ヴェニスに死す』『マーリオと魔術師』など話題作を次々と発表。1924年、11年の歳月を費やして長編『魔の山』を完成させた。1929年、ノーベル文学賞受賞。他に『ワイマルのロッテ』『ヨゼフとその兄弟たち』『選ばれし人』等著書多数。
高橋義孝(1913-1995)
東京生れ。東大独文科卒。九大、名大、桐朋学園大等で独文学教授を歴任。翻訳の他、評論、随筆でも高い評価を得た。『森鴎外』(読売文学賞)『現代不作法読本』『文学研究の諸問題』『近代芸術観の成立』等著書多数。
完成までに十二年の年月を費やした大作。この後、マンはノーベル文学賞を受賞した。
カストルプ青年は、日常世界から隔離され病気と死に支配された“魔の山”の療養所で、精神と本能的生命、秩序と混沌、合理と非合理などの対立する諸相を経験し、やがて“愛と善意”のヒューマニズムを予感しながら第一次大戦に参戦してゆく。
思想・哲学・宗教・政治などを論じ、人間存在の根源を追究した「魔の山」は「ファウスト」「ツァラトストラ」と並ぶ二十世紀文学屈指の名作である。用語、背景などについての詳細な注解を付す。
本文より
時間とは何か。これは一個の謎である――実体がなく、しかも全能である。現象世界の一条件であり、ひとつの運動であって、空間内の物体の存在とその運動に結びつけられ、混ざり合わされている。しかし運動がなければ、時間はないであろうか。時間がなければ、運動はないのであろうか。さあ尋ねられるがいい。時間は空間の機能のひとつであろうか。それとも逆であろうか。あるいは、ふたつは同じものだろうか。さあ問いつづけたまえ。……(第六章)
トーマス・マン Mann, Thomas(1875-1955)
ドイツ、リューベックに生れる。実科高等学校を中退し、火災保険会社の見習い社員となるが一年で辞め、大学の聴講生となる。1894年、処女短編「転落」を発表し、詩人デーメルに認められた。1901年『ブデンブローク家の人々。ある家族の没落』で注目を集め、以降、『トニオ・クレーゲル』『ヴェニスに死す』『マーリオと魔術師』など話題作を次々と発表。1924年、11年の歳月を費やして長編『魔の山』を完成させた。1929年、ノーベル文学賞受賞。他に『ワイマルのロッテ』『ヨゼフとその兄弟たち』『選ばれし人』等著書多数。
高橋義孝(1913-1995)
東京生れ。東大独文科卒。九大、名大、桐朋学園大等で独文学教授を歴任。翻訳の他、評論、随筆でも高い評価を得た。『森鴎外』(読売文学賞)『現代不作法読本』『文学研究の諸問題』『近代芸術観の成立』等著書多数。
- 本の長さ806ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日1969/3/25
- 寸法14.8 x 10.5 x 2 cm
- ISBN-104102022031
- ISBN-13978-4102022030
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魔の山〔上〕 | 魔の山〔下〕 | トニオ・クレーゲル ヴェニスに死す | |
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カスタマーレビュー |
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価格 | ¥1,155¥1,155 | ¥1,265¥1,265 | ¥539¥539 |
【新潮文庫】トーマス・マン 作品 | 死と病苦、無為と頹廃の支配する高原療養所で療養する青年カストルプの体験を通して、生と死の谷間を彷徨する人々の苦闘を描く。 | 美と倫理、感性と理性、感情と思想のように相反する二つの力の板ばさみになった芸術家の苦悩と、芸術を求める生を描く初期作品集。 |
登録情報
- 出版社 : 新潮社; 改版 (1969/3/25)
- 発売日 : 1969/3/25
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 806ページ
- ISBN-10 : 4102022031
- ISBN-13 : 978-4102022030
- 寸法 : 14.8 x 10.5 x 2 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 43,066位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
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イメージ付きのレビュー
5 星
人生の時間を考えたい方へ
"『エンジニアー私は自分の表現をよく覚えています。(中略)礼節、進歩、労働、生命に対立する力、その悪魔的な息吹から青年の魂を守ることは、教育者のもっとも崇高な義務なのです』"1924年発刊の本書は【教養小説の名作】として思想・哲学・宗教・政治、そして時について考えさせてくれる。個人的には随分昔の学生時に挫折してから今回、主宰する読書会の課題本に設定した事で再挑戦、長年にわたる積ん読本にからの解放を目指すべく手にとりました。さて本書はダボス会議でも有名な、スイスはダボスにある国際サナトリウムを舞台に思わぬ挫折から【先が見えない療養生活を過ごす事になった若者】を一応の物語の主人公にして、中国やロシア、イタリア、オーストリアにオランダといった様々な国籍の魅力的な登場人物が現れては消えていくわけですが。名脇役の先生役ゼテブリーニの饒舌さ、そして論敵となるナフタとの【討論における博識さ】には圧倒させられました。また本書では、近年のサブカル文脈で言えば『セカイ系』【主人公とヒロインなどの個人の関係が世界の危機などの大問題に発展するストーリー展開を持つ作品】とも言うべきか。時間経過を前半スローペースから始まり、駆け足だったり、ばっさりだったりとアップダウンしながらも、舞台は7年間あくまで【サナトリウム周辺から動かず】思想・哲学・宗教・政治を語り尽くしていくわけですが。何度も出てくる豪勢な食事シーンとも合わさって【胃もたれ的な生のコッテリさ】と、一方で人生の縮図を眺めているような【確かで静かな死の余韻】が対比されている様で何ともジンワリとした読後感でした。サナトリウム小説を探す誰か、あるいは人生の時間について考えたい誰かにもオススメ。PS 読書会の課題本としても盛り上がります。
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2023年12月22日に日本でレビュー済み
2018年12月22日に日本でレビュー済み
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(上巻レビューに続く)
上巻の国際サナトリウムのやや淡々とした療養生活の物語は、下巻に入り俄然動きがめまぐるしくなる。
まず、セテムブリーニの好敵手ナフタの登場。啓蒙主義と進歩の理想を掲げる人文主義者セテムブリーニに対し、ナフタは保守反動のイエズス会士にしてブルジョア民主主義を否定するボルシェビズムやニヒリズムの共鳴者として激しい論争を繰り広げる。スコラ哲学を奉じるイエズス会士に社会主義を擁護させる設定が面白いが、主人公のハンス・カストルプは人間的にも思想的にもセテムブリーニに共感しつつも、ナフタの鋭い論理展開に惹きつけられていく。実際、著者はナフタの議論の方を長く丁寧に書き込んでおり、説得力という点ではナフタに軍配が上がると言ってもよいほどである。近代民主主義の世紀末的行き詰まりやロシア革命などの時代背景を踏まえ、著者は民主主義と自由のアポリアを提示し、読者に問題を投げかけているのである。このあたりの議論は、ワイマール民主主義が崩壊してナチスドイツの独裁政治が登場するのを予言しているかのようであり、冷戦崩壊後の現代においてもなお解決されないアポリアとして現代性がある。哲学的思想的な議論ではあるが、対立と矛盾を丁寧に読み解きたい。
その後、いとこヨーアヒムの死、ショーシャ夫人の帰還とそのパトロンの怪人物ペーペルコルンの登場、さらには降霊術の流行といったエピソードが語られるが、最後の方はやや付け足し的で、なくもがなという感もある。
こうした様々な体験を経て主人公の療養生活は無頓着で「放恣な形式の自由」に至るが、そうしたまどろみの自由が第一次大戦の「霹靂」で打ち破られて、物語は急転直下終局へ向かう。
なお、この著作の全編で主人公の音楽への愛着が語られ、それは第7章の蓄音機のエピソードで頂点に達する。もちろん、当時の蓄音機はモノラルの貧弱なものであったろうが、当時としては画期的な技術で感動をもたらしたことが感じられて興味深い。特に主人公は歌曲「菩提樹」に深い共感を寄せているが、この曲は言うまでもなくシューベルトの歌曲集「冬の旅」第5曲の有名な曲で、失恋した若者が菩提樹に愛の言葉を彫り、木の枝のざわめきに死への誘いを感じる場面が歌われる。この歌詞が主人公が兵士として突撃していく場面で再び引用されるのは主人公の死を暗示するものだろうか。ただ、この歌詞の翻訳部分は文語体の高踏的な訳になっていて、その意味がわかりにくい。現代語訳を別途参照した方がいい。
最後に、著書の表題である「魔の山」とはどういう意味か。原文は“Der Zauberberg”、英語では“The magic moutain”なので、「悪魔の山」(devil mountain)ではなく、「魔法の山」とか「魔術の山」といったニュアンスである。ちなみに、ベートーベンの第9交響曲の合唱で、“Deine Zauber binden wieder,・・・”(歓喜の不思議な力が、世間が厳しく分け隔てたものを再び結びつける)と繰り返し歌われるときのZauber(不思議な力)である。
文中にも「錬金術的魔術」という言葉が度々出てくるが、主人公が高地のサナトリウムという世俗から離れた環境で様々な精神的感情的陶冶を受けることを指しているのだろう。モラトリアムのようでいて、著者はこうした「精神と肉体の冒険」が人間形成にとって重要なものと考えているのである。
上巻の国際サナトリウムのやや淡々とした療養生活の物語は、下巻に入り俄然動きがめまぐるしくなる。
まず、セテムブリーニの好敵手ナフタの登場。啓蒙主義と進歩の理想を掲げる人文主義者セテムブリーニに対し、ナフタは保守反動のイエズス会士にしてブルジョア民主主義を否定するボルシェビズムやニヒリズムの共鳴者として激しい論争を繰り広げる。スコラ哲学を奉じるイエズス会士に社会主義を擁護させる設定が面白いが、主人公のハンス・カストルプは人間的にも思想的にもセテムブリーニに共感しつつも、ナフタの鋭い論理展開に惹きつけられていく。実際、著者はナフタの議論の方を長く丁寧に書き込んでおり、説得力という点ではナフタに軍配が上がると言ってもよいほどである。近代民主主義の世紀末的行き詰まりやロシア革命などの時代背景を踏まえ、著者は民主主義と自由のアポリアを提示し、読者に問題を投げかけているのである。このあたりの議論は、ワイマール民主主義が崩壊してナチスドイツの独裁政治が登場するのを予言しているかのようであり、冷戦崩壊後の現代においてもなお解決されないアポリアとして現代性がある。哲学的思想的な議論ではあるが、対立と矛盾を丁寧に読み解きたい。
その後、いとこヨーアヒムの死、ショーシャ夫人の帰還とそのパトロンの怪人物ペーペルコルンの登場、さらには降霊術の流行といったエピソードが語られるが、最後の方はやや付け足し的で、なくもがなという感もある。
こうした様々な体験を経て主人公の療養生活は無頓着で「放恣な形式の自由」に至るが、そうしたまどろみの自由が第一次大戦の「霹靂」で打ち破られて、物語は急転直下終局へ向かう。
なお、この著作の全編で主人公の音楽への愛着が語られ、それは第7章の蓄音機のエピソードで頂点に達する。もちろん、当時の蓄音機はモノラルの貧弱なものであったろうが、当時としては画期的な技術で感動をもたらしたことが感じられて興味深い。特に主人公は歌曲「菩提樹」に深い共感を寄せているが、この曲は言うまでもなくシューベルトの歌曲集「冬の旅」第5曲の有名な曲で、失恋した若者が菩提樹に愛の言葉を彫り、木の枝のざわめきに死への誘いを感じる場面が歌われる。この歌詞が主人公が兵士として突撃していく場面で再び引用されるのは主人公の死を暗示するものだろうか。ただ、この歌詞の翻訳部分は文語体の高踏的な訳になっていて、その意味がわかりにくい。現代語訳を別途参照した方がいい。
最後に、著書の表題である「魔の山」とはどういう意味か。原文は“Der Zauberberg”、英語では“The magic moutain”なので、「悪魔の山」(devil mountain)ではなく、「魔法の山」とか「魔術の山」といったニュアンスである。ちなみに、ベートーベンの第9交響曲の合唱で、“Deine Zauber binden wieder,・・・”(歓喜の不思議な力が、世間が厳しく分け隔てたものを再び結びつける)と繰り返し歌われるときのZauber(不思議な力)である。
文中にも「錬金術的魔術」という言葉が度々出てくるが、主人公が高地のサナトリウムという世俗から離れた環境で様々な精神的感情的陶冶を受けることを指しているのだろう。モラトリアムのようでいて、著者はこうした「精神と肉体の冒険」が人間形成にとって重要なものと考えているのである。
2021年2月23日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本の表紙(カバー)が、切れていました。
今まで沢山の本を注文していますが、ほとんどビニールでキッチリ包まれていたため、不具合はありませんでした。
今回の注文は、本が2冊と袋詰めのシリカゲルだったのですが、段ボールに3点平たくそのまま入っていました。
これでは、破れたりしても当然です。
魔の山の下巻を直ぐに読みたかったので、返品せずこのまま読む事にしました。
魔の山、難解な箇所が時々出てきて、読み進みが悪いけど、とても好きです。
破れていたのは本の責任ではないので、☆は5つにしました。
今まで沢山の本を注文していますが、ほとんどビニールでキッチリ包まれていたため、不具合はありませんでした。
今回の注文は、本が2冊と袋詰めのシリカゲルだったのですが、段ボールに3点平たくそのまま入っていました。
これでは、破れたりしても当然です。
魔の山の下巻を直ぐに読みたかったので、返品せずこのまま読む事にしました。
魔の山、難解な箇所が時々出てきて、読み進みが悪いけど、とても好きです。
破れていたのは本の責任ではないので、☆は5つにしました。
2020年11月16日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
執筆に10年の年月をかけたノーベル賞受賞作品。以前から読みたいと思いながら果たせなかつた作品がコロナで出来た時間をたっぷりかけて読破できたドイツ文学の傑作。