解釈の多義性、記憶の曖昧さ、相反する事実、物語は重層的に厚みのある世界を照らし出していく。殺人事件の起こってしまった状況を聞き込みという方法で浮かび上がらせようと試みるがビカリオ兄弟が行なったということと、アンヘラ・ビカリオがバヤルド・サン・ロマンを愛していたということ以外に事実は語られず、断片的な情報は錯綜する。それでも、その事件に纏わる人々の想いは重なり、ひとつの世界を形づくる。それこそが現実世界だというように。しかし、それは夢の中の出来事のように矛盾している。
後半に入って、人びとの証言からいくつもの、いくつもの偶然が重なり、予告されていたにも拘わらず未然に殺人を防ぐことができず、それは起きてしまったということが判明する。
始まりの意味を終わりが指し示す。
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予告された殺人の記録 (新潮文庫) 文庫 – 1997/11/28
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共同体の崩壊、古い時代の終焉、怨嗟、愛憎……、事項が重なり合って悲劇は起こる――。
大ベストセラー『百年の孤独』の著者の、もうひとつの代表作。
町をあげての婚礼騒ぎの翌朝、充分すぎる犯行予告にもかかわらず、なぜ彼は滅多切りにされねばならなかったのか?閉鎖的な田舎町でほぼ三十年前に起きた、幻想とも見紛う殺人事件。
凝縮されたその時空間に、差別や妬み、憎悪といった民衆感情、崩壊寸前の共同体のメカニズムを複眼的に捉えつつ、モザイクの如く入り組んだ過去の重層を、哀しみと滑稽、郷愁をこめて録す、熟成の中篇。
本文冒頭より
自分が殺される日、サンティアゴ・ナサールは、司教が船で着くのを待つために、朝、五時半に起きた。彼は、やわらかな雨が降るイゲロン樹の森を通り抜ける夢を見た。夢の中では束の間幸せを味わったものの、目が覚めたときは、身体中に鳥の糞(ふん)を浴びた気がした。「あの子は、樹の夢ばかり見てましたよ」と、彼の母親、プラシダ・リネロは、二十七年後、あの忌わしい月曜日のことをあれこれ想い出しながら、わたしに言った。「その前の週は、銀紙の飛行機にただひとり乗って、アーモンドの樹の間をすいすい飛ぶ夢を見たんですよ」……
ガブリエル・ガルシア=マルケス Marquez, Gabriel Garcia(1927-2014)
コロンビアの小さな町アラカタカに生まれる。ボゴタ大学法学部中退。自由派の新聞「エル・エスペクタドル」の記者となり、1955年初めてヨーロッパを訪れ、ジュネーブ、ローマ、パリと各地を転々とする。1955年処女作『落葉』を出版。1959 年、カストロ政権の機関紙の編集に携わり健筆をふるう。1967年『百年の孤独』を発表、空前のベストセラーとなる。以後『族長の秋』(1975年)、『予告された殺人の記録』(1981年)、『コレラの時代の愛』(1985年)、『迷宮の将軍』(1989年)、『十二の遍歴の物語』(1992年)、『愛その他の悪霊について』(1994年)など次々と意欲作を刊行。1982年度ノーベル文学賞を受賞。
野谷文昭
1948年神奈川県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科・文学部現代文芸論専修教授。東京外国語大学外国語学研究科修士課程修了(ロマンス系言語)。主な訳書にガルシア=マルケス『予告された殺人の記録』ボルヘス『七つの夜』プイグ『蜘蛛女のキス』コルタサル『愛しのグレンダ』等。著書に『マジカル・ラテン・ミステリー・ツアー』『ラテンにキスせよ』『越境するラテンアメリカ』等がある。
大ベストセラー『百年の孤独』の著者の、もうひとつの代表作。
町をあげての婚礼騒ぎの翌朝、充分すぎる犯行予告にもかかわらず、なぜ彼は滅多切りにされねばならなかったのか?閉鎖的な田舎町でほぼ三十年前に起きた、幻想とも見紛う殺人事件。
凝縮されたその時空間に、差別や妬み、憎悪といった民衆感情、崩壊寸前の共同体のメカニズムを複眼的に捉えつつ、モザイクの如く入り組んだ過去の重層を、哀しみと滑稽、郷愁をこめて録す、熟成の中篇。
本文冒頭より
自分が殺される日、サンティアゴ・ナサールは、司教が船で着くのを待つために、朝、五時半に起きた。彼は、やわらかな雨が降るイゲロン樹の森を通り抜ける夢を見た。夢の中では束の間幸せを味わったものの、目が覚めたときは、身体中に鳥の糞(ふん)を浴びた気がした。「あの子は、樹の夢ばかり見てましたよ」と、彼の母親、プラシダ・リネロは、二十七年後、あの忌わしい月曜日のことをあれこれ想い出しながら、わたしに言った。「その前の週は、銀紙の飛行機にただひとり乗って、アーモンドの樹の間をすいすい飛ぶ夢を見たんですよ」……
ガブリエル・ガルシア=マルケス Marquez, Gabriel Garcia(1927-2014)
コロンビアの小さな町アラカタカに生まれる。ボゴタ大学法学部中退。自由派の新聞「エル・エスペクタドル」の記者となり、1955年初めてヨーロッパを訪れ、ジュネーブ、ローマ、パリと各地を転々とする。1955年処女作『落葉』を出版。1959 年、カストロ政権の機関紙の編集に携わり健筆をふるう。1967年『百年の孤独』を発表、空前のベストセラーとなる。以後『族長の秋』(1975年)、『予告された殺人の記録』(1981年)、『コレラの時代の愛』(1985年)、『迷宮の将軍』(1989年)、『十二の遍歴の物語』(1992年)、『愛その他の悪霊について』(1994年)など次々と意欲作を刊行。1982年度ノーベル文学賞を受賞。
野谷文昭
1948年神奈川県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科・文学部現代文芸論専修教授。東京外国語大学外国語学研究科修士課程修了(ロマンス系言語)。主な訳書にガルシア=マルケス『予告された殺人の記録』ボルヘス『七つの夜』プイグ『蜘蛛女のキス』コルタサル『愛しのグレンダ』等。著書に『マジカル・ラテン・ミステリー・ツアー』『ラテンにキスせよ』『越境するラテンアメリカ』等がある。
- 本の長さ158ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日1997/11/28
- 寸法14.8 x 10.5 x 2 cm
- ISBN-104102052119
- ISBN-13978-4102052112
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登録情報
- 出版社 : 新潮社 (1997/11/28)
- 発売日 : 1997/11/28
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 158ページ
- ISBN-10 : 4102052119
- ISBN-13 : 978-4102052112
- 寸法 : 14.8 x 10.5 x 2 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 26,113位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 6位スペイン文学
- - 11位スペイン・ポルトガル文学研究
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2021年12月14日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
とにかく登場人物が多く、さらに場面転換の激しさも相まって
理解が追い付かなくなります。
読み込みが足りず、物語としてはそれほどおもしろいと感じなかったけれど、
時折出てくる船着き場や婚礼といった情景描写には圧倒されました。
なかでもクライマックスに描かれる閉鎖的な町を覆う
ぴんとはりつめた空気はすさまじく、没入して読みました。
理解が追い付かなくなります。
読み込みが足りず、物語としてはそれほどおもしろいと感じなかったけれど、
時折出てくる船着き場や婚礼といった情景描写には圧倒されました。
なかでもクライマックスに描かれる閉鎖的な町を覆う
ぴんとはりつめた空気はすさまじく、没入して読みました。
2021年12月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
大衆それぞれの思いすごしによって防ぐことのできなかった事件。圧倒される。
2012年11月3日に日本でレビュー済み
かの有名な『百年の孤独』を10年程前に読んだが、正直言って何が面白いのか分からなかった。ひたすら冗長だった記憶しかない。今回、10年ぶりにマルケスの著作を読んだわけだが、残念なことに同じような読後感しか得ることができなかった。本作は非常にコンパクトで読みやすい。血の匂いが立ち込める、独特の世界観を多少は味わうことができた。ただ、如何せん私には合わない作家のようだ。トルストイの『戦争の平和』のように、登場人物がとにかく無数であり、話を追いかけて行くだけでも結構億劫であった。主な登場人物を帯に記載するだけで、劇的に読みやすくなると思うのだが、どうだろうか。中上健次が影響を受けたと言われる、血縁が支配する濃密な世界観も、読む人を選ぶのではないだろうか。
2007年5月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
殺人が予告されている。
「まさかな〜」と、私も物語の中の村人Aになった気分でした。
話の内容も、よくありそうな、無さそうな。
身近なようで幻想的でもある。
読了後に何かモヤモヤのようなモノが残って、
そのスッキリしない感じが再読へと誘うのでしょうか。
初のガルシア・マルケス作品、私にとっては特別です。
「まさかな〜」と、私も物語の中の村人Aになった気分でした。
話の内容も、よくありそうな、無さそうな。
身近なようで幻想的でもある。
読了後に何かモヤモヤのようなモノが残って、
そのスッキリしない感じが再読へと誘うのでしょうか。
初のガルシア・マルケス作品、私にとっては特別です。
2021年10月21日に日本でレビュー済み
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分かりづらく半端に表現されていた違和感が最後にピタっとハマる構成。アンヘラ・ビカリオの解放。通読した時、少なくとも自分は2回衝撃を受けた。味わい深く、心に引っ掻き傷を残す傑作。
2015年2月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
文章構成が巧みに考えられている。サンティアゴ・ナサールが殺されることが最初から分っていて、それがいろいろな角度から描かれている。そして、最後の現実的な死の描写に至っており、最後まで緊張感をもって読まされた。
2019年5月30日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
"自分が殺される日、サンティアゴ・ナサールは、司教が船で着くのを待つために、朝、五時半に起きた"【百年の孤独】で広く知られる著者が"自身の最高傑作"と述べている本書は、実際に起きた殺人事件をルポルタージュ風に描く事で、異邦人に対する共同体の怖さを暗喩的に伝えてくる150ページ弱のその内容の密度に驚かされる。
一方で【偶然が幾つも重なって起きた】凄惨な事件にも関わらず、マジックリアリズム的な、どこかユーモラスな文章"腸に泥がついていたのを気にして、手でゆすって落としたほどだったよ"とかが幾つも挿入されていて、関西人的には【そんなわけあるか!】的なツッコミの余地を残してくれているのも面白い。(内容と関係ないが、なぜか日本版の表紙が"仮面の画家"アンソールなのも個人的にはツッコミポイント)
百年の孤独に挫折した誰か。ラテン文学の一冊目を探す誰か。はたまた"薮の中"好きな誰かにオススメ。
一方で【偶然が幾つも重なって起きた】凄惨な事件にも関わらず、マジックリアリズム的な、どこかユーモラスな文章"腸に泥がついていたのを気にして、手でゆすって落としたほどだったよ"とかが幾つも挿入されていて、関西人的には【そんなわけあるか!】的なツッコミの余地を残してくれているのも面白い。(内容と関係ないが、なぜか日本版の表紙が"仮面の画家"アンソールなのも個人的にはツッコミポイント)
百年の孤独に挫折した誰か。ラテン文学の一冊目を探す誰か。はたまた"薮の中"好きな誰かにオススメ。