怪力で発火能力を持ち、神出鬼没で時さえもあやつるナゾのホームレスに襲われる主人公たち。追われ、逃げながらも正体をつきとめようともがく人間たちの姿は感動的だが、この物語の不幸は〈創られた恐怖〉よりも、挿話の〈’90年代アメリカで本当にあった残虐事件簿〉の恐怖の方が数倍勝っていることだろうか。今回に限らず、現実の解決しがたい難問をフィクションに持ち込むと、文学性はともかくとして、優れたエンターテインメントにはなりえないようである。日本の村上春樹をはじめ、この現実の闇に囚われてその影響下から抜け出せぬ作家は多く、それが作品にミソをつけているとすればたいへん残念なことである。
どんな姿も持ちえる怪物が、わざわざホームレス(しかも、鼻が曲がりそうな臭気さえ伴って)の姿をとることが腑に落ちず。怪物本体はけっこうナルシストなのにな。
ワンちゃんが大活躍するところが物語に光を与え、救いとなっているのは良かった。
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ドラゴン・ティアーズ 下巻 (新潮文庫 ク 33-2) 文庫 – 1998/7/1
- 本の長さ334ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日1998/7/1
- ISBN-104102143122
- ISBN-13978-4102143124
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登録情報
- 出版社 : 新潮社 (1998/7/1)
- 発売日 : 1998/7/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 334ページ
- ISBN-10 : 4102143122
- ISBN-13 : 978-4102143124
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,234,780位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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上位レビュー、対象国: 日本
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2012年5月13日に日本でレビュー済み
「チクタク、チクタク、おまえを夜明けまでに殺す」。ハリー刑事の前に出現した”チクタクマン”は、そう言い残して土くれと化した。”チクタクマン”に友人を殺害されたハリーは、相棒のコニーとともに”チクタクマン”の追跡を開始する ・・・
殺戮の限りをつくす不死身の”チクタクマン”に魅入られたハリーが、危機に瀕しながらも死力を尽くして立ち向かうというスーパーナチュラルなストーリー。夜明けまでの12時間というタイムリミットで、正体不明の異能者を突き止めるという怒涛のジェットコースター的展開をみせる。
クーンツのいつものお約束の登場人物としては、個性的な美人女性刑事コニーそして、犬のウーファー。”チクタクマン”に追われる浮浪者のサミーと、ホームレスのジャネットとダニー親子が、ハリーの仲間となっていく。
”チクタクマン”を創造する異能者が”愛”を知らない男という設定になっていて、クーンツ定番の必ず愛が勝つは本書でも明快だ。土くれから怪人を創り出すだけでなく、時を止めることができるという究極の異能者をどのように倒すのかが見どころになっている。時が止まった世界で繰り広げられる緊迫の攻防シーンもよい。
ハラハラドキドキや、取ってつけたようなグロテスクなシーンがあって、まさにB級SF映画の趣だ。登場人物たちが人生の意味を問い直すという横軸を、きっちり組み込んでいるのがクーンツらしい。
「ときに人生はドラゴンの涙のごとき苦きもの、しかしドラゴンの涙が苦いか甘いか、それはその人の舌しだい」
これがタイトルに込められた本書のテーマということだろう。破たんをみせずに荒唐無稽な話を組み立てていく技は、さすがにベストセラー作家ならではである。
ただ、サミーと、ジャネット親子が”チクタクマン”に追われる理由が判然としなかったり、彼らが何ら活躍せずにラストを迎えるのには不満が残る。ハリーがコニーを超常現象的事件に巻き込むための物言いも説得力を欠いていて、読んでいる方が恥ずかしさすら感じてしまうし。まぁ、多少の事は目をつぶるというのが、クーンツを楽しむコツかもしれないなぁ。
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