ピューリッツァー賞の受賞者でもあるアメリカのジャーナリスト、デイヴィッド・ハルバースタム(1934 - 2007)の大著 “The Fifties”(1993)の邦訳書。原著は1巻本だけれど、筑摩書房版の邦訳は3分冊。本巻は第2巻で、前巻は
『ザ・フィフティーズ1』
、次巻は
『ザ・フィフティーズ3』
。
巻末には、文化研究家の越智道雄と映画評論家の町山智浩の対談つき。
急速な経済成長をとげた1950年代アメリカにおいて、現代にまでいたる消費社会の礎が築かれた。反対に、その繁栄の裏側には、冷戦、核兵器、人種差別、女性差別、“性” の抑圧といった問題がひそみ、60年代に表面化することになる。著者の狙いは、そうした50年代アメリカ社会の光と闇を明らかにすることである。
以下は第2巻の目次。
23. リチャード・ニクソン
24. フーヴァーのFBI
25. CIAの暗躍
26. グアテマラのクーデター
27. 国務長官ダレス
28. 分離主義の違法判決
29. 反動と闘争
30. 集団移住
31. エルヴィスとディーン
32. ゼネラル・モーターズの繁栄
33. 広告の時代
34. テレビの中の「理想」
35. 『灰色の服を着た男』『ホワイト・カラー』
解説対談 50年代アメリカの虚像と実像⑵ 越智道雄 × 町山智浩
本巻の前半部における中心的な話題は、アメリカの政治史の暗部。第二次大戦中に原爆を製造したことでアメリカの “英雄” となったオッペンハイマーが、戦後は一転して “アカ” の嫌疑をかけられてしまう、というマッカーシズムの恐ろしさ。水爆実験。CIAによるイラン・モサデク政権やグアテマラ・アルベンス政権の転覆作戦。冷戦下のアイゼンハワー政権がどれほどパラノイアに襲われていたのか。FBI長官フーヴァー、国務長官J・F・ダレス、CIA長官A・W・ダレスを軸して語られる。
中盤は、公民権運動のはじまり。白人と黒人は「分離すれども平等」という欺瞞的な建前を覆した、公立学校における人種隔離に対する違憲判決。保守的な白人層による抵抗。差別が激しく賃金が安い南部から、より差別が薄く賃金を稼げる北部への黒人たちの大規模な移住。それらが、最高裁長官ウォーレン、ホワイトハウス初の黒人大統領補佐官フレデリック・モローほか、様々な人物たちの個人の物語の集積から描き出される。
続く題材は文化。黒人音楽を白人音楽へと移植したエルヴィス・プレスリー、親世代に対する反抗の象徴となったジェームズ・ディーン。ふたりがいかにして若者たちのアイコンに祭り上げられたか。時代背景とともに丁寧に綴られる。
著者によれば、50年代の水面下での黒人のうねりは、プレスリーが見出された保守的な都市メンフィスでも音楽をとおして渦巻いていた。その地ではプレスリー登場以前においても、白人保守層は「通りや学校や公共の建物に限れば、人種分離を維持しつづけられた」としても、夜になれば、ラジオから流れる黒人音楽が「人種を統合してし」(p.239)ており、すでにロックンロール誕生の舞台の準備はすでに整っていたというのだ。
このように黒人の置かれた境遇は、複数の章を結びつけるファクターとして機能している。本書では個々人の視点で50年代が描写されているため、さほど各章につながりがないように見える。しかし著者は50年代に共通のファクターを各章に盛り込むことで、章どうしのダイナミックなつながりを生み出しているのだ。
後半部は、広告やテレビについて。消費主義の時代において欲望がいかに “スタイリング” されたか、また、テレビ普及の時代において “理想” がいかに形成されたか。それらが明らかにされる。“男らしさ” に訴えかけるタバコの広告。テレビのホームドラマのなかの理想化された家族像。アメリカにおける “良き時代” という50年代のイメージが “捏造” がされていく過程が考察されている。
そして本巻における最終章では、理想化されたイメージの裏側にある、50年代アメリカの実像が暴かれる。
巻末の解説では前巻に引き続き、越智氏と町山氏が、本巻で語られる内容をより広い文脈のなかで説明することにより、著者ハルバースタムの論を補足している。
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ザ・フィフティーズ 第2部: 1950年代アメリカの光と影 (新潮OH文庫 169) 文庫 – 2002/8/1
- 本の長さ424ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2002/8/1
- ISBN-104102901698
- ISBN-13978-4102901694
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登録情報
- 出版社 : 新潮社 (2002/8/1)
- 発売日 : 2002/8/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 424ページ
- ISBN-10 : 4102901698
- ISBN-13 : 978-4102901694
- Amazon 売れ筋ランキング: - 98,135位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2015年12月17日に日本でレビュー済み
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2014年8月19日に日本でレビュー済み
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1950年代を小学生で過ごし、何故か米国万能みたいに思っていた時代のカラクリを理解したような気がしました。 NHKでやっていたリッキーネルソンのファミリードラマなどを見て「アメリカの家庭って何でこんなに自由なんだろう!」って思い違いをした理由もわかった気がしました。 ハルバースタムの本は、とっても長いのが多いですが、とても多くの情報をくれるので楽しく読んでいます。
2021年2月15日に日本でレビュー済み
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90年代のアメリカについて詳しく知りたいと言う方にすごくお勧めの本
2018年1月14日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
第一巻に引き続く50年代のアメリカの繁栄の光と影を詳細に描いている。
第二巻の各章ごとの構成は他のレビューアーの方が詳細に書いておられるので、私は総括的な読書感想を試みます。
我々は戦後の白黒ニュース映画やアメリカの娯楽映画を通してアメリカの富と繁栄を嫌と言うほど感じておりました。
光の部分は第一巻に引き続きGM(ゼネラルモータース)の強大な力です。
一時は全米販売車数7000万台の半数をGMが占めたほどであった。GMこそはアメリカの中で最もアメリカ的なものを象徴していた。
私は1972年から約7年間アメリカに駐在していたが、そのころでもGMのナンバーワンとしての地位はゆるぎなく
コマーシャルソングでは最も案アメリカ的なものとして
ベースボール、ホットドッグ、アップルパイとシボレーと言うがテレビやラジオでしょっちゅう流されていた。
そのGMも時には他社に追い上げられるときもあったがV-8エンジンの開発などで再びに他社に大きく水をあけたのである。
しかし、アメリカの政治は映画などで見られたほどクリーンなものではなかった。
マッカーシーの赤狩り、これに協力したニクソンやFBI長官フーバーなどである。FBI長官フーバーと言えば、アメリカ映画ではギャングどもの心胆を寒からしめる存在であったが、実際は多くのスタンドプレーにより自己の存在を際立たせ、フーバーファイルなる政治家のプライベートな部分を調査したファイルをちらつかせ、政治家を思うままに操った悪党として書かれている。
また国務長官のジョン・フォスター・ダレスとCIA長官アレン・ダレスは兄弟で、イランのモサディク政権打倒のクーデターを成功させ、グアテマラでも政権転覆を図るなど、まさに世界の中の悪徳警察官としての地位を確立したのであった。
一般民衆レベルでは、この時代、まだ黒人差別は著しく、黒人少年のリンチ殺人事件などは裁判で無罪となった。かかる事件に反発した黒人層の公民権運動のうねりが強くなっていった。
そのころ、白人のエルビス・プレスリーは黒人音楽のロックンロールで全米を席巻、すくなくとも音楽分野での人種差別はなくなりつつあった。
会社レベルでは、繁栄のアメリカの会社員はなにひとつ苦労がなかったように見えたが実は長時間労働などに苦しんでいた。この辺の事情は日本での最近の電通の女子社員自殺事件などと非常に良くにている構図になっている。
本書を通じて、アメリカの50年代は、表面は繁栄、裏では陰謀と権謀術数、人種差別、労働強化などの渦巻く波乱含みの時代であったことが分かる。
一二巻を通じて巻末に越智道夫氏と町山智浩氏の解説的対談が掲載されているが、せっかく面白く読んだ本文を台無しにするような、持って回った議論を続けており、こんな対談は不要である。
第二巻の各章ごとの構成は他のレビューアーの方が詳細に書いておられるので、私は総括的な読書感想を試みます。
我々は戦後の白黒ニュース映画やアメリカの娯楽映画を通してアメリカの富と繁栄を嫌と言うほど感じておりました。
光の部分は第一巻に引き続きGM(ゼネラルモータース)の強大な力です。
一時は全米販売車数7000万台の半数をGMが占めたほどであった。GMこそはアメリカの中で最もアメリカ的なものを象徴していた。
私は1972年から約7年間アメリカに駐在していたが、そのころでもGMのナンバーワンとしての地位はゆるぎなく
コマーシャルソングでは最も案アメリカ的なものとして
ベースボール、ホットドッグ、アップルパイとシボレーと言うがテレビやラジオでしょっちゅう流されていた。
そのGMも時には他社に追い上げられるときもあったがV-8エンジンの開発などで再びに他社に大きく水をあけたのである。
しかし、アメリカの政治は映画などで見られたほどクリーンなものではなかった。
マッカーシーの赤狩り、これに協力したニクソンやFBI長官フーバーなどである。FBI長官フーバーと言えば、アメリカ映画ではギャングどもの心胆を寒からしめる存在であったが、実際は多くのスタンドプレーにより自己の存在を際立たせ、フーバーファイルなる政治家のプライベートな部分を調査したファイルをちらつかせ、政治家を思うままに操った悪党として書かれている。
また国務長官のジョン・フォスター・ダレスとCIA長官アレン・ダレスは兄弟で、イランのモサディク政権打倒のクーデターを成功させ、グアテマラでも政権転覆を図るなど、まさに世界の中の悪徳警察官としての地位を確立したのであった。
一般民衆レベルでは、この時代、まだ黒人差別は著しく、黒人少年のリンチ殺人事件などは裁判で無罪となった。かかる事件に反発した黒人層の公民権運動のうねりが強くなっていった。
そのころ、白人のエルビス・プレスリーは黒人音楽のロックンロールで全米を席巻、すくなくとも音楽分野での人種差別はなくなりつつあった。
会社レベルでは、繁栄のアメリカの会社員はなにひとつ苦労がなかったように見えたが実は長時間労働などに苦しんでいた。この辺の事情は日本での最近の電通の女子社員自殺事件などと非常に良くにている構図になっている。
本書を通じて、アメリカの50年代は、表面は繁栄、裏では陰謀と権謀術数、人種差別、労働強化などの渦巻く波乱含みの時代であったことが分かる。
一二巻を通じて巻末に越智道夫氏と町山智浩氏の解説的対談が掲載されているが、せっかく面白く読んだ本文を台無しにするような、持って回った議論を続けており、こんな対談は不要である。
2018年1月14日に日本でレビュー済み
デビッド・ハルバースタム「ザ・フィフティーズ 下巻」を読みました。上巻同様、400ページを超えるボリュームです。
1950年代のアメリカの黄金期の政治・経済・文化・社会の現象を概括しています。社会現象の主人公となった人物の行動と影響をドラマチックに描いて上巻同様にワクワクさせる読み物になっています。
団塊の世代にとっては馴染みのある事件が多く、ノスタルジーと歴史の流れを感じます。やがて来る60年代の混乱と翳りの予兆というべき事件・現象も多かったことが分かります。
エルビス・プレスリー、ジェームス・ディーン、GMの栄光と挫折、灰色の服を着た男たち、
プレイボーイ誌の成功、キング牧師、マリリン・モンロー、ペイトン・プレイス物語、ピル解禁、スプートニクスの屈辱、クイズショースキャンダル、
U-2撃墜、リトルロックの9人など、どれも懐かしい事件・現象ばかりです。
テレビの影響力、車社会の実現、性の解放、冷戦下での軍事競争などが際立っています。
ハルバースタムは骨っぽいジャーナリストです。私にとって目からウロコの歴史上の見解を述べています。
それは植民地の見方です。イギリス、フランスなどヨーロッパ諸国のキリスト教白人国は、数世紀に渡って植民地政策でアジア、アフリカを苦しめていました。
アメリカは、イギリスからの独立戦争を経て国家としての独立を勝ち取りました。そのため植民地政策を取らなかった、とされています。
しかしハルバースタムによれば、アメリカが国外に植民地を持たなかったのは、国内に「南部・黒人国」という植民地を持っていたから、その必要がなかったのだといいます。
この見方からすると、公民権運動は、「南部・黒人国」の独立戦争であり、キング牧師はガンジーの戦法をまねて非暴力・非服従運動で独立戦争を勝利に導いた建国の英雄というわけです。
1950年代は、南部に住む黒人が、アメリカ北部に大移動しましたが、これも「南部・黒人国」からの難民移動であったと考えれば合点がいきます。
ヴェトナム戦争後、命からがらで脱出した数百万人のボートピープルをはじめ、難民は今も絶えません。
先月も、地中海で中東・アフリカからの難民700名が、船の転覆で亡くなっています。
ハルバースタムの他の本にも、俄然、興味が湧いてきました。
1950年代のアメリカの黄金期の政治・経済・文化・社会の現象を概括しています。社会現象の主人公となった人物の行動と影響をドラマチックに描いて上巻同様にワクワクさせる読み物になっています。
団塊の世代にとっては馴染みのある事件が多く、ノスタルジーと歴史の流れを感じます。やがて来る60年代の混乱と翳りの予兆というべき事件・現象も多かったことが分かります。
エルビス・プレスリー、ジェームス・ディーン、GMの栄光と挫折、灰色の服を着た男たち、
プレイボーイ誌の成功、キング牧師、マリリン・モンロー、ペイトン・プレイス物語、ピル解禁、スプートニクスの屈辱、クイズショースキャンダル、
U-2撃墜、リトルロックの9人など、どれも懐かしい事件・現象ばかりです。
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ハルバースタムは骨っぽいジャーナリストです。私にとって目からウロコの歴史上の見解を述べています。
それは植民地の見方です。イギリス、フランスなどヨーロッパ諸国のキリスト教白人国は、数世紀に渡って植民地政策でアジア、アフリカを苦しめていました。
アメリカは、イギリスからの独立戦争を経て国家としての独立を勝ち取りました。そのため植民地政策を取らなかった、とされています。
しかしハルバースタムによれば、アメリカが国外に植民地を持たなかったのは、国内に「南部・黒人国」という植民地を持っていたから、その必要がなかったのだといいます。
この見方からすると、公民権運動は、「南部・黒人国」の独立戦争であり、キング牧師はガンジーの戦法をまねて非暴力・非服従運動で独立戦争を勝利に導いた建国の英雄というわけです。
1950年代は、南部に住む黒人が、アメリカ北部に大移動しましたが、これも「南部・黒人国」からの難民移動であったと考えれば合点がいきます。
ヴェトナム戦争後、命からがらで脱出した数百万人のボートピープルをはじめ、難民は今も絶えません。
先月も、地中海で中東・アフリカからの難民700名が、船の転覆で亡くなっています。
ハルバースタムの他の本にも、俄然、興味が湧いてきました。