なんて魅力的なタイトルでしょう。
今年の4月22日で99歳になられてもまだまだお元気で、さらなる新作映画への情熱を抱いておられる、日本映画界の重鎮である新藤兼人監督ですが、彼の映画を1本でもご覧になった方はおられるでしょうか?
オギャアと生まれた時から古今東西の映画を五万と観てきた私の眼に狂いがなければ、失礼ながら、新藤映画ほど洗練されていない、泥臭い、不格好な、それこそ地を這うような庶民の視点で撮られた映画も、おそらく他に類例がないのではないかと思われます。
初期作品『原爆の子』で、世界各国の映画賞を総なめにしたのも1952年ですからすでに59年前。戦前戦中を松竹の脚本家として力を蓄えた彼は、敗戦後いっきに会社を飛び出して独立プロの先駆をなす近代映画協会なるものを設立して、はきだすように自主製作映画(最近はインディペンデント映画とか洒落た言い方をするそうですが)への道をまっしぐらに突き進んでいきます。
自分の撮りたい映画を好きなように撮るという自主映画は、その後に続々と『Complexe=微熱の玻璃あるいは悲しい饒舌ワルツに乗って 葬列の散歩道』の大林宣彦や、『ヒロシマから遠く離れて』の大森一樹、そして『おかしさに彩られた悲しみのバラード』と『初国知所天皇(はつくにしらすめらみこと)』の原将人(正孝)や、『白い肌に狂う牙』の黒沢清などへ、確実に日本映画の奔流として脈々と受け継がれていくばかりか、16ミリ・8ミリだけでなくビデオが普及してきた現代において、誰でも手軽にいとも簡単に映画を撮れる情況にあるということでもあります。
なにしろ私でさえ数本の映画を、シナリオから照明まで入念な準備をして脚本・監督・主演女優を兼ねて作っているほどの大衆化です。
それはともかく、彼は『裸の島』や『午後の遺言状』や『一枚のハガキ』などの地味で深い映画だけでなく、『北斎漫画』や『墨東綺譚』のような艶やかで生のエネルギーにみなぎった映画も作る、可哀そうに、否、うらやましいばかりの映画に取り憑かれた人です。
もちろん私は、次回作も期待して待っていないわけはありません。
記述日 : 2011年07月16日 07:11:53
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挫折する力: 新藤兼人かく語りき 単行本 – 2011/4/1
中川 洋吉
(著)
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- 本の長さ313ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2011/4/1
- ISBN-104103295511
- ISBN-13978-4103295518
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登録情報
- 出版社 : 新潮社 (2011/4/1)
- 発売日 : 2011/4/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 313ページ
- ISBN-10 : 4103295511
- ISBN-13 : 978-4103295518
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- - 156,072位文学・評論 (本)
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2011年10月14日に日本でレビュー済み
毎回テーマを決めた上で、新藤兼人に十数回に及ぶインタビューを行い、その内容をまとめたもの。インタビューアーである著者の解説、コメントが所々に入る。
新藤兼人は自身の手による著作が多く、そのなかで幼少期の思い出、映画制作の苦労、妻であった乙羽信子のことなど自伝的内容などはすでに書き綴られている。インタビューの内容はこれまでの新藤自身の著作などで書かれてきたことと重なる部分は多いけれど、映画監督や俳優に対する新藤の講評でここまで詳細なものは他の著作にはあまりなかったように思う。90を超えた映画界の長老だけに、遠慮はない。他者や他者の作品に対する観察眼の鋭さ、率直な物言いがとても興味深い。
新藤の語り口の面白さ、リズムも文章から伝わってくる。途中で挟まれる著者による注釈との組み合わせによって、優れたドキュメンタリー映画のような著作となった。ほぼ一世紀を生きた映画人の人生を掘り下げることによって、昭和の日本映画史、そして戦中戦後の社会風俗史がダイナミックに浮かび上がってくる。
新藤兼人は自身の手による著作が多く、そのなかで幼少期の思い出、映画制作の苦労、妻であった乙羽信子のことなど自伝的内容などはすでに書き綴られている。インタビューの内容はこれまでの新藤自身の著作などで書かれてきたことと重なる部分は多いけれど、映画監督や俳優に対する新藤の講評でここまで詳細なものは他の著作にはあまりなかったように思う。90を超えた映画界の長老だけに、遠慮はない。他者や他者の作品に対する観察眼の鋭さ、率直な物言いがとても興味深い。
新藤の語り口の面白さ、リズムも文章から伝わってくる。途中で挟まれる著者による注釈との組み合わせによって、優れたドキュメンタリー映画のような著作となった。ほぼ一世紀を生きた映画人の人生を掘り下げることによって、昭和の日本映画史、そして戦中戦後の社会風俗史がダイナミックに浮かび上がってくる。