家付き娘と妻帯し子を成したため僅か三日間だが特攻の出撃命令が遅れて生きながらえた父。その父がある日ふらりと死んだ。その意味が掴めず苦悩する長女。己の生は父の部下たちへの裏切りによって得られたものだったのか? 長女は父を探す不思議な旅に出かけた。
「眠れる月」では特攻で死んだ部下の息子を訪ね、戦火の中で父が脛に傷を負った理由を知り、また部下の長女が語り手と重なり、巡回する川の謎を聞かされる。
「海からの客」では父がかつて通った臨海の研究所で夜中にカブトガニとなって現れる死者たちに浚われる父と重なる研究所長を語り手と重なる所員の若い女とともに見送る。
「鳥たちの島」ではダイビング中に幻聴を聞いて早めに浮かび上がった語り手が重力が三倍ある島に流れ着いてトッコウ鳥と変わった死者たちの仲間に父が死後加わったらしいと知る。
「燃える塔」では潮が満ちれば崩れてしまう砂の聖堂の精巧なレプリカ(本物は火事で消失)を作り続けるTという男と、偶然それを発見した幼い娘やその母たちと係わりになった語り手が最後には全員でレプリカ作りに参加して……
最終話は予定調和だが、落とし方としてはこうなるか、あるいは正反対の結末になるかしかないだろうと思う(少なくとも文学の範囲では……)。幻想譚だと思って読み始めなかったので第一話での表現の巧みさに脳天をカチ割られた。さらにそうと知って読み続けた第二話や第三話でもその威力は持続し、完結篇の第四話では読者を欺くように語りを始めて驚愕させる。仕掛けとして気に入ったのは夢破りの実の設定で語り手の長女が少なくとも一度は父を生に繋ぎとめていたことが知らされる。
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燃える塔 単行本 – 2001/2/1
高樹 のぶ子
(著)
- 本の長さ244ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2001/2/1
- ISBN-104103516062
- ISBN-13978-4103516064
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
戦争中特攻隊中隊長だった父は生き残ったが、ある日私の前から消えた。真実を知るため4つの不思議な旅に出た私。父に近づくほど戦争の亡霊が取り囲み、官能の匂いをまとい始める。時間と空間を超え父をつかまえられるのか?
登録情報
- 出版社 : 新潮社 (2001/2/1)
- 発売日 : 2001/2/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 244ページ
- ISBN-10 : 4103516062
- ISBN-13 : 978-4103516064
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,178,040位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 27,145位日本文学
- カスタマーレビュー:
著者について
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1946(昭和21)年、山口県生れ。東京女子大学短大卒。
1984年「光抱く友よ」で芥川賞を、1995(平成7)年『水脈』で女流文学賞を、1999年『透光の樹』で谷崎潤一郎賞をそれぞれ受賞。著書として他に『百年の預言』『罪花』『ナポリ 魔の風』『fantasia』など多数。
カスタマーレビュー
星5つ中4つ
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2010年8月26日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
これは著者の“父の物語”です。
後藤正治の<表現者の航跡>に「父はなぜ高木家の養子となり子をつくったのか、妻帯し父親となれば特攻の出撃が後回しにされるからであったのか、戦後の沈黙と含羞はなにゆえであったのか、そもそも父は何者であったのか」とあります。
自ら命を縮めた父の幻影を求めてわたしは父の関係者に会う。そこには幼い自分らしい子供がいて、関係者は父のようであり、わたしは父と交わろうとする(第一話)。先に逝ったものはカニになりトリになって、生きながらえている父を苛み、連れにくる。この第二話第三話には引き込まれます。
でも「私自身の生命の発生現場を確かめる作業をしておきたかった」せいか、性をからめてしまう表現に、時間が急に過去に飛ぶ表現に、とってつけたような違和感が残ります。
この父親のことを技巧に走らずに描いて欲しかったです。
後藤正治の<表現者の航跡>に「父はなぜ高木家の養子となり子をつくったのか、妻帯し父親となれば特攻の出撃が後回しにされるからであったのか、戦後の沈黙と含羞はなにゆえであったのか、そもそも父は何者であったのか」とあります。
自ら命を縮めた父の幻影を求めてわたしは父の関係者に会う。そこには幼い自分らしい子供がいて、関係者は父のようであり、わたしは父と交わろうとする(第一話)。先に逝ったものはカニになりトリになって、生きながらえている父を苛み、連れにくる。この第二話第三話には引き込まれます。
でも「私自身の生命の発生現場を確かめる作業をしておきたかった」せいか、性をからめてしまう表現に、時間が急に過去に飛ぶ表現に、とってつけたような違和感が残ります。
この父親のことを技巧に走らずに描いて欲しかったです。