最近は書店にも行かないし、アマゾンで自動で推薦してくる本にも含まれることはまずない。
図書館で紀行文の特集をやっていて、そこに並んでいた1冊なのである。
今年から図書館を愛用しているが、そうでなかったら手に取らなかっただろう。
戸井十月の名前は知っていたが、読むのは初めてだと思う。
調べてみると、彼は秩父事件の研究者として有名な戸井昌造の息子であり、水戸黄門俳優の西村晃の甥でもある。
本書は、オートバイによる五大陸走破の一環として2004年に行われた南米一周の旅の記録である。
その時の著者は56歳である。
支援スタッフと資材車が同行しているとはいえ、4カ月の旅はかなりハードだ。
それでも、こうした極限的な紀行文の面白いところは、自分がその旅に同行しているような、切羽詰まったときには切実な、またほんのりとして時にはそのような気持ちにさせてくれるところである。
同じ南米といっても、ずいぶん国によって文化風土が異なることが、本書では描かれている。
チリ人は質実剛健で穏健柔和、理知的でラテンぽくないというのが著者の見立てだ。
税関などで賄賂を要求されることもないという。
ブラジルは多民族国家で人種差別は少なく、旅人に優しい。
他の国では、相当ひどい目に遭う。著者の南米行は過去数度にも及ぶが、その感想である。
一番ひどいのが、仏領ギアナである。
今もって、仏領という植民地である。
通貨はユーロで、流通している商品はほぼすべてフランスから持ち込まれたもの。
何も生産せず、そのおこぼれだけで生きていると著者は言う。
(20年後の現在もそうであるかは定かではないが)
本書のテーマは、五大陸走破の一環であるとともに、ゲバラとの「再会」である。
著者は、ゲバラが20代前半におこなったバイク2人乗りによる南米縦断の旅をイメージしており、『モーターサイクリスト・ダイアリー』が何度も引用される。
(この本は日本では旧知の太田昌国さんの現代企画室が翻訳出版しているし、映画にもなっている。本は未読だが、映画は20年以上前に観た)
この旅の直前に、ゲバラの埋葬地が発見され、そこを訪ねるというのが、この度の目的の1つなのである。
ゲバラは1967年にボリビアの山中で射殺されるが、埋葬地はゲバラを支持する人たちの「聖地」となることを恐れた政府によって秘匿されてきた。
それが、21世紀直前になって当時の軍幹部によって明らかにされたのだ。
著者はそこを訪れる。
ところが、そこで驚くべき出会いが待っていた。
ゲバラが捕らえられて小学校の教室に連行されたとき、その小学校の教員だった少女フリアが、スープを家から持ってきて彼に与えたのだが、その少女だったフリアに出会うのである。
「恐がらなくていいよ。私が食べるのは君じゃなくてスープなんだから(笑)」
「とても美味しかったよ。こんなにちゃんとしたものをお腹に入れたのは本当に久しぶりだ」
そんな最後のゲバラの言葉が生々しい。
そしてフリアは、スープを持って行ったことを理由に、共産主義者、ゲバラの愛人と非難され、教師の職も失ったという。
ゲバラについては思うことが多すぎて、ぼくも言葉がうまく綴れない。
戸井は、この旅の後に彼女を再訪し、インタビューしてゲバラについての本『ゲバラ最期の時』をまとめている。
あの時代にしか生まれえなかった特異な革命家に、読みながら思いをはせる。
4カ月3万キロのバイク旅・・・。
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遥かなるゲバラの大地 単行本 – 2006/6/29
戸井 十月
(著)
- 本の長さ256ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2006/6/29
- ISBN-104104031054
- ISBN-13978-4104031054
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登録情報
- 出版社 : 新潮社 (2006/6/29)
- 発売日 : 2006/6/29
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 256ページ
- ISBN-10 : 4104031054
- ISBN-13 : 978-4104031054
- Amazon 売れ筋ランキング: - 598,497位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 1,326位日本文学(日記・書簡)
- - 4,277位紀行文・旅行記
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2007年10月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
戸井さんの本は2冊目になる旅の本。久々に読みました。
本書は、戸井さんの五大陸をバイクで走破するという壮大な計画途上のものです。
南米圏を語る書籍はアジア系に比べるとすごく少なく、そういった意味でも関心を抱く本でした。
ギアナ、スリナム、ガイアナといったあまり知られていない国を訪れているところは珍しいですね。
また、パタゴニアやアマゾンといった過酷な自然環境を肌で感じた部分は壮絶な体験であり見どころです。
それも南米大陸一周をバイクに跨って走破するという雄大なロマンを感じさせるものです。
チェ・ゲバラを敬愛するファンとして、その足取りを肌に感じ交錯しながらノスタルジックに旅を楽しんでいる戸井さんの様子が伺われています。
本書は、戸井さんの五大陸をバイクで走破するという壮大な計画途上のものです。
南米圏を語る書籍はアジア系に比べるとすごく少なく、そういった意味でも関心を抱く本でした。
ギアナ、スリナム、ガイアナといったあまり知られていない国を訪れているところは珍しいですね。
また、パタゴニアやアマゾンといった過酷な自然環境を肌で感じた部分は壮絶な体験であり見どころです。
それも南米大陸一周をバイクに跨って走破するという雄大なロマンを感じさせるものです。
チェ・ゲバラを敬愛するファンとして、その足取りを肌に感じ交錯しながらノスタルジックに旅を楽しんでいる戸井さんの様子が伺われています。
2008年1月4日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
バイクで南米大陸を駆ける筆者の冒険魂を感じる1冊。読みすすめるうちに、かのゲバラが若かりし医学生の時に敢行した「バイクでの南米大陸縦断」の時代を彷彿とさせる光景が広がる。そして、今回の旅でゲバラの最期の地を見届けたいという筆者の熱い思いが、広大で複雑な南米大陸の気候風土、そこで暮らす様々な人々の生の生き様をリアルに伝えてくれる。厳しい気候、道路条件のもと、バイクを駆る姿から、私には未知の土地、南米大陸の風を感じた。ゲバラという一人の革命家が生き、そして眠る大地を、ゲバラの息遣いとともに、ぐっと読み手側に引き寄せてくれる。その力に引き込まれて一気に読んでしまった。
2007年10月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
旅行記としては良いと思います。
でも、タイトルのゲバラはほとんど出てこない。
残念!
でも、タイトルのゲバラはほとんど出てこない。
残念!
2006年8月22日に日本でレビュー済み
56歳となった筆者が、南米ペルーからチリ、アルゼンチン、ブラジルなどを通り、オートバイで南米一周を行った旅行記です。
熱帯から寒冷の地方へ、ジャングルや高原を通り、走り続けます。
現地の様子。地方独特の人々の暮らし。人達との交流。次々起こるトラブル。その中で筆者の感じたこと、が紹介されています。
ゲバラに関しては、旅行の日記が所々に引用されている、最後を迎えた場所で、その時の様子が紹介されている、程度です。
旅行記のおもしろさ、楽しさが、満喫できる本です。自分の旅行をしているような気になり、どんどん進み、一気に読みきりました。
やっぱり、知らない土地の話を読むのは、面白いです。
熱帯から寒冷の地方へ、ジャングルや高原を通り、走り続けます。
現地の様子。地方独特の人々の暮らし。人達との交流。次々起こるトラブル。その中で筆者の感じたこと、が紹介されています。
ゲバラに関しては、旅行の日記が所々に引用されている、最後を迎えた場所で、その時の様子が紹介されている、程度です。
旅行記のおもしろさ、楽しさが、満喫できる本です。自分の旅行をしているような気になり、どんどん進み、一気に読みきりました。
やっぱり、知らない土地の話を読むのは、面白いです。
2006年10月1日に日本でレビュー済み
「ゲバラ」を題名にしており、文章の端々にゲバラに関する事柄が少しずつは出てきますが、ボリビアでの一部分しかゲバラを主体には書いていません。故に☆一つ減点。
但し、ゲバラに最後の食事を運んだとされるフリアさんへのインタビューだけでも、ナマのゲバラに触れているという点において、ゲバラファンには興味深いです。
本の主体はバイク旅行記で、時折著者の今迄の旅や経験のエッセンスがまぶされ、巷の旅本とは一風変わった仕上がりになっており、50台半ばにしてのこのような「旅」こそ、チョイ不良ではないかと思わせます。
但し、ゲバラに最後の食事を運んだとされるフリアさんへのインタビューだけでも、ナマのゲバラに触れているという点において、ゲバラファンには興味深いです。
本の主体はバイク旅行記で、時折著者の今迄の旅や経験のエッセンスがまぶされ、巷の旅本とは一風変わった仕上がりになっており、50台半ばにしてのこのような「旅」こそ、チョイ不良ではないかと思わせます。