私の義母はひめゆりの生き残りである。それゆえか、なかなか冷静に読めるものではなかった。
しかし、圧倒的な筆力である。「線」でも思ったが、文体が素晴らしい。読みやすい文体ではないが、それがかえって良い方向へ作用しているように思う。いわゆる体験話法というのか、直接引用でもなければ間接引用でもない表現はもう少し徹底させても良かったような気がするが、さまざまなところで感動した。ネタバレになるかもしれないが、四人の遊兵が現れるシーンの緊迫感には心拍数が異常に上がった。ラストは目頭が熱くなった。個人的に今年の小説(大して読んでいないが)ナンバーワンである。
この本をもとに、「炎628」のような、自然の美しさと人間のおぞましさを同居させたような狂気のような映画ができないものか。まちがいなくアメリカ製の硫黄島の映画なんかよりも数倍すごい映画ができそうな予感がする。ただし、最初の部分を同映像化するかは思案のしどころ。そしてもし可能なら、俳優はすべてシロウトを使い、演技させないこと。特に死に様の演技は不要。そしてこの小説の文体が、映画で言うならば、そういう不必要な演技をそぎとったような、かといってドライというわけではない、実にこのテーマを描くのに相応しい文体だと思った。
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接近 単行本 – 2003/11/15
古処 誠二
(著)
献身の代償が裏切りだとしても、それでも僕は信じていたかった……想像を絶する凄惨な時代に翻弄された、少年の歪みなき信念。新鋭が描く慟哭の長編。
- 本の長さ185ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2003/11/15
- ISBN-104104629014
- ISBN-13978-4104629015
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
凄惨な時代に翻弄された11歳の少年。歪みを知らない信念が守り通そうとしたものは何だったのか。極限状況の「沖縄」を研ぎ澄まされた筆致で描く長編小説。『新潮』掲載を単行本化。
登録情報
- 出版社 : 新潮社 (2003/11/15)
- 発売日 : 2003/11/15
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 185ページ
- ISBN-10 : 4104629014
- ISBN-13 : 978-4104629015
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,198,939位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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- - 27,749位日本文学
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2009年12月17日に日本でレビュー済み
2004年1月29日に日本でレビュー済み
この人の『ルール』を読んだ時の衝撃は忘れられない。「戦争」という重い題材を、安易な出来合いの言葉で語るのではなく、痛いほど真正面からの問いを重ねながら丁寧に綴っていることに、同じ70年代生まれとして感銘を受けた。
この『接近』で3作目となる“戦争もの”だが、端正な筆致は変わっておらず、内容構成も練られている。ただ、白沢の突然の態度の変化に十分な理由が示されていないなど、人物描写が淡白で、(前作などと比べて)やや物足りなさを感じた。個人的には、この白沢の変貌ぶりに「軍=悪」という公式が前提として隠されているようで、そのような前提が主人公の思惟が進むにつれ覆されるのを古処作品の醍醐味として受け取っている側としては、もっと書き込んでほしかったという思いがある。尤もこの本の力点はタイトル通り、本来出会うはずのなかった者たちの「接近」にあるのだから、それは本筋からは外れた感想なのだろう。
以上の理由から、佳作とは思うものの3作中での私的順位は『ルール』→『分岐点』→本作『接近』。そろそろまた野上・朝霞ものを読みたい。
この『接近』で3作目となる“戦争もの”だが、端正な筆致は変わっておらず、内容構成も練られている。ただ、白沢の突然の態度の変化に十分な理由が示されていないなど、人物描写が淡白で、(前作などと比べて)やや物足りなさを感じた。個人的には、この白沢の変貌ぶりに「軍=悪」という公式が前提として隠されているようで、そのような前提が主人公の思惟が進むにつれ覆されるのを古処作品の醍醐味として受け取っている側としては、もっと書き込んでほしかったという思いがある。尤もこの本の力点はタイトル通り、本来出会うはずのなかった者たちの「接近」にあるのだから、それは本筋からは外れた感想なのだろう。
以上の理由から、佳作とは思うものの3作中での私的順位は『ルール』→『分岐点』→本作『接近』。そろそろまた野上・朝霞ものを読みたい。
2006年7月28日に日本でレビュー済み
サイパンが陥落し、沖縄決戦へと突入しつつある1945年春。国民学校の生徒である弥一は、本土からやってきた兵に協力し、国を守ることこそが皇国民の義務と信じていた。本土の兵を悪し様に言う大人たちを軽蔑していた。そんなある時、防衛召集からの帰りに日本兵同士の争いを目にする。負傷して残された北里、仁科と名乗る上等兵への援助を周囲の人々は厭うものの、弥一は一人、彼等への援助を決意する。
今作、まず読みながら思ったのは、古処誠二氏の他作品との比較である。終戦直前という舞台の中でも、沖縄戦というのは『遮断』と同じ、軍国少年という意味では『分岐点』と同じである。特に、『分岐点』との比較で色々と感じることが多かった。
同じ軍国少年とは言え、『分岐点』の成瀬少年は揺るぎ無い信念を持っている少年。一方、今作の主人公・弥一少年はそうではない。「国を守る」という名の元にやってきた本土からの兵士たち。自分の身近にいた白沢伍長、自分が助けた北里、仁科は「兵士らしい兵士」。そんな彼等を大きく信頼する。しかし、その一方で、大本営発表とは裏腹にどんどん苦しくなってく現状、余裕さえ感じられる米軍の様子。さらには、自分達を裏切るような行為を繰り返す日本兵たち。そんな状況に、揺れ動いていく弥一少年の心。そして、最も信頼していたはずのものが崩れた時に彼が取った決断…。
舞台は極限状態の沖縄であるし、現在とは事情が大きく異なる、というのは事実。でも、この弥一少年の感情に近いものを持つ人は少なからずいるのではないか? 他者が悪し様に言おうと、自分にっとは信頼できるもの。そして、その信頼が崩れそうになればなるほど、自らを鼓舞し、より信じようと試みて行く…。どうだろう?
古処誠二氏の終戦前後の作品も色々と読んできたけれども、個人的には今作が一番好きだ。
今作、まず読みながら思ったのは、古処誠二氏の他作品との比較である。終戦直前という舞台の中でも、沖縄戦というのは『遮断』と同じ、軍国少年という意味では『分岐点』と同じである。特に、『分岐点』との比較で色々と感じることが多かった。
同じ軍国少年とは言え、『分岐点』の成瀬少年は揺るぎ無い信念を持っている少年。一方、今作の主人公・弥一少年はそうではない。「国を守る」という名の元にやってきた本土からの兵士たち。自分の身近にいた白沢伍長、自分が助けた北里、仁科は「兵士らしい兵士」。そんな彼等を大きく信頼する。しかし、その一方で、大本営発表とは裏腹にどんどん苦しくなってく現状、余裕さえ感じられる米軍の様子。さらには、自分達を裏切るような行為を繰り返す日本兵たち。そんな状況に、揺れ動いていく弥一少年の心。そして、最も信頼していたはずのものが崩れた時に彼が取った決断…。
舞台は極限状態の沖縄であるし、現在とは事情が大きく異なる、というのは事実。でも、この弥一少年の感情に近いものを持つ人は少なからずいるのではないか? 他者が悪し様に言おうと、自分にっとは信頼できるもの。そして、その信頼が崩れそうになればなるほど、自らを鼓舞し、より信じようと試みて行く…。どうだろう?
古処誠二氏の終戦前後の作品も色々と読んできたけれども、個人的には今作が一番好きだ。
2005年11月12日に日本でレビュー済み
新境地とでも言おうか。七十年代という若い世代でありながら真っ向から戦争ものをかくという試み。今(昔でもか)戦争ものを書くならば、相当の課題をクリアしなくてはならないのだが、これはしっかりとその水準をクリアしている。
生々しい描写から、巧みな人物造形、さらには繊細な少年の心。
戦争という地獄の最後で少年は何を選び取ったのか。
さらにこの作戦の特色は林京子の祭りの場、灰谷健次郎の太陽の子などと違い、エンターテイメント的な仕上がりを見せているという点である。すなはち、誰がスパイなのか、兵隊を信用することができるのか、そういった掛け合いが起こる極限の中での緊張とミステリ的な部分が融合され、今までにない特色を持った戦争ものとなっている。
生々しい描写から、巧みな人物造形、さらには繊細な少年の心。
戦争という地獄の最後で少年は何を選び取ったのか。
さらにこの作戦の特色は林京子の祭りの場、灰谷健次郎の太陽の子などと違い、エンターテイメント的な仕上がりを見せているという点である。すなはち、誰がスパイなのか、兵隊を信用することができるのか、そういった掛け合いが起こる極限の中での緊張とミステリ的な部分が融合され、今までにない特色を持った戦争ものとなっている。