自治体がかかえこんだテーマパークと、それの再建にかりだされた公務員の奮闘記です。
駒谷アテネ村というギリシアふうテーマパークは市が予算をつぎこんだ事業でしたが、赤字続き。これを立て直すよう命じられた主人公、啓一はお役所組織の壁にはばまれ、あちこちで老害やら利権の垣根に右往左往しながら、ゴールデンウィーク中の売り上げを昨年一年間の4分の1まで達成します。
つぶれた隣のファミリーパークから動物や遊具をもらってきたり、昔いた前衛的な劇団の座長に声をかけてきてもらったり、と、普通の公務員である啓一のせいいっぱいの働きがみのった成果です。とくにこの劇団「ふたこぶらくだ」の面々の破壊的パワーによって、ペガサス企画の若手プランナーのたてた「不思議の国のアリス」の世界が、見事に立ち上がります。彼も、そして、啓一の下のこの出向部署に配属された部下も、謎の無口な女性公務員もいきいきと自分を発揮してゆきます。
しかし・・・政治と組織の壁は厚かった。市長が、女性評論家に選挙で敗れたとたん、アテネ村は廃止が決まり、新しい風が吹くかと思った啓一一家も、やっぱりいつも頭上には広々とした空ではなく「低い天井がある」ことをかみしめます。
最初は、テーマパークというものにほれ込んだ市役所の公務員が、夢を実現しようとする話(境港市のように)かなと思っていましたが、主人公は特にテーマパークに思い入れが強いわけではなく、ただ新しい企画を軌道にのせようという熱意で動いている感じでした。
それはそれでまた痛快でしたし、「前例がない」「慣例だ」「改変したら、これまでの自分たちがまちがっていたのを認めることになる」など、お歴々からの発言にいちいち憤ったりがっくりしたりしているうち、これこそまさに「アリス」のナンセンス世界だ、と感得するところも読みどころでした。
そして、あたかも進歩的で平等を標榜する世界を約束してくれるかに見えた新政権も、公約遵守、そして画一的なフェミニズム政策の実現など、やっぱり組織になったとたんに硬直してゆき、「どこか違う」。新たな「アリス」のコーカスレースが始まっただけ、と啓一は悟るのですが、家族のきずなはこの一連の事件で強まり、最後に、廃止されるメリーゴーランドに夜、みんなで乗りにゆくシーンはあたたかいものを胸にともしてくれます。
お役所とはこういうもの、なのですが、あきらめて心から切り捨てるのではなく、アリスの世界とわりきった主人公の心境が気持ちよく、久々に、リアルなのに失望でおわらずにすむ角度をもった、ユーモアの効いた社会小説を読んだ気がします。
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メリーゴーランド 単行本 – 2004/7/1
荻原 浩
(著)
こ、この俺が、超赤字テーマパークを立て直す?!――地方都市の村興しに翻弄される公務員の、可笑しくてやがて哀しき奮闘を描く「宮仕え小説」の傑作!
- 本の長さ341ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2004/7/1
- ISBN-104104689017
- ISBN-13978-4104689019
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
超赤字テーマパークを立て直すことになったのは、新しい部署に移ったばかりの一公務員。地方都市の村興しと権力闘争に翻弄され、優雅なアフター5はままならない。おかしくて哀しき奮闘を描く宮仕え小説。
登録情報
- 出版社 : 新潮社 (2004/7/1)
- 発売日 : 2004/7/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 341ページ
- ISBN-10 : 4104689017
- ISBN-13 : 978-4104689019
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,505,534位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 35,502位日本文学
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2012年3月28日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2013年12月3日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
この本を読んで、とてもさわやかな感動をおぼえました。
大人になって仕事や子育てしてて、昔の何かに夢中だったころの大切な思い出を思い出す事があります。
そんな自分の感覚とふと重なってしまうところがあります。
引っ越しでなくしてしまったので、再購入。
時々読みたくなるし、人にすすめることもできます。
大人になって仕事や子育てしてて、昔の何かに夢中だったころの大切な思い出を思い出す事があります。
そんな自分の感覚とふと重なってしまうところがあります。
引っ越しでなくしてしまったので、再購入。
時々読みたくなるし、人にすすめることもできます。
2017年11月20日に日本でレビュー済み
自分自身の読解力の無さを棚上げにしての感想なので星ひとつ上乗せで。
残念ながら、この作者が何を伝えたいのか分からないまま読み終わった。
印象に残るのはユーモア描写の多用。
それが強すぎて内容が頭に残らない。
登場人物が多いのによく似たキャラが多い。
げきだんの座長とねねこと咲太郎はまとめて同一人物にしていい。
かえでもいらない。
林田も理事長もいらないし、挙げ句の果てには室田もいらないと思った。
アテネ村無くす話書く前に、もう少しなくすものがあるだろう。
ダラダラと長く、高評価されているのに疑問を感じる。
本当に読むのが苦行だった
残念ながら、この作者が何を伝えたいのか分からないまま読み終わった。
印象に残るのはユーモア描写の多用。
それが強すぎて内容が頭に残らない。
登場人物が多いのによく似たキャラが多い。
げきだんの座長とねねこと咲太郎はまとめて同一人物にしていい。
かえでもいらない。
林田も理事長もいらないし、挙げ句の果てには室田もいらないと思った。
アテネ村無くす話書く前に、もう少しなくすものがあるだろう。
ダラダラと長く、高評価されているのに疑問を感じる。
本当に読むのが苦行だった
2011年6月30日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
最初はあまり期待していなかった。冒頭に出てきた男は、主人公なのかどうかわからないけれど、あまり頭はよくなさそうだし、これでテーマパークの再建?結構な長編小説だけど途中で飽きてしまうのでは、と少々心配しながら読み始めた。
主人公がバリバリ仕事ができる有能なキャリア官僚なんかだったら、先が読めてしまってつまらなかったかもしれない。どこにでもいる平凡な善き家庭人、むしろ無駄な争いごとは避けたいタイプだと思うが、そういう人間だからこそ感情移入しやすかったのかもしれない。
天下り先で自分の利益しか考えない爺さん達に腹をたてている自分がいた。
ただ現実はそう甘くない。アテネ村リニューアルは思わぬ方向に進んでいく。こういうとき、社会の仕組みに嫌気がさして、自分を殺してただただ長いものに巻かれる人生を選ぶか、現実を受け入れながらもその中で自分の本当の幸せを探す手段を考えるか。
啓一は後者を選んだのではないかと思う。所々に出てくる啓一の子ども達も無邪気でかわいらしくて、啓一奮闘の機動力となっている。読後がなんとも爽やかな小説だった。
主人公がバリバリ仕事ができる有能なキャリア官僚なんかだったら、先が読めてしまってつまらなかったかもしれない。どこにでもいる平凡な善き家庭人、むしろ無駄な争いごとは避けたいタイプだと思うが、そういう人間だからこそ感情移入しやすかったのかもしれない。
天下り先で自分の利益しか考えない爺さん達に腹をたてている自分がいた。
ただ現実はそう甘くない。アテネ村リニューアルは思わぬ方向に進んでいく。こういうとき、社会の仕組みに嫌気がさして、自分を殺してただただ長いものに巻かれる人生を選ぶか、現実を受け入れながらもその中で自分の本当の幸せを探す手段を考えるか。
啓一は後者を選んだのではないかと思う。所々に出てくる啓一の子ども達も無邪気でかわいらしくて、啓一奮闘の機動力となっている。読後がなんとも爽やかな小説だった。
2013年6月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
サラリーマンの自分が元気になる本です。
現実と理想、会社と家族・・・
大好きな本で、昔読みましたがもう一度買ってしまいました。
現実と理想、会社と家族・・・
大好きな本で、昔読みましたがもう一度買ってしまいました。
2017年3月7日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
非常に良い、との情報で購入したが帯こそあるものの、本のかどは白くかすれており中身も折れ目が入っていて、残念に思った。
2013年1月13日に日本でレビュー済み
地方都市に取り残されたテーマ―パークの再建。
いや再生いやいや推進と自治体の体面丸出しのプロジェクトを任された市職員。
これといったアイデアが無くゴールデンウィークスペシャルが近づく。
しかしかれの前に立ちはだかるのは天下りの仕事もろくにできないテーマパークのトップたち。
あれこれ画策し何とか成功裏に終わらせたが、新市長の公約通り赤字経営のため閉館してしまう。
主人公遠野敬一の振る舞いがどうも釈然としない。
間違ったことでも上司へは一切反抗しないどころか、長いものには巻かれろ式の人生が読者に共感を与えない。
一般文学通算912作品目の感想。2013/01/13 17:10
いや再生いやいや推進と自治体の体面丸出しのプロジェクトを任された市職員。
これといったアイデアが無くゴールデンウィークスペシャルが近づく。
しかしかれの前に立ちはだかるのは天下りの仕事もろくにできないテーマパークのトップたち。
あれこれ画策し何とか成功裏に終わらせたが、新市長の公約通り赤字経営のため閉館してしまう。
主人公遠野敬一の振る舞いがどうも釈然としない。
間違ったことでも上司へは一切反抗しないどころか、長いものには巻かれろ式の人生が読者に共感を与えない。
一般文学通算912作品目の感想。2013/01/13 17:10
2016年11月15日に日本でレビュー済み
市役所に勤めている主人公が、廃業寸前のテーマパークを再建させるために奮闘する物語。
まず気になるのは「メリーゴーラウンド」ではないのかというところ。
作中に一度だけ「メリーゴーラウンド」とサブキャラが喋っている場面があるので、恐らく著者はあえてメリーゴーランドと表記しているのだろう。
表紙の英語表記には”Merry-Go-Round”と書かれているのだが…。
内容はなかなか面白い。市役所のお役所仕事から離れて仕事に打ち込む主人公に心打たれる人もいるだろう。
世の中の理不尽と闘う姿はかっこいい!と思えるものである。
結末も決して悪いものではなかった。こういう終わり方も”あり”なのだろうと思う。
ただ、作品前半、つまり「主人公がテーマパーク再建に取り組むまで」の物語がとにかく退屈。
作品の1/4くらいは「市役所の仕事は楽でヒマなんだなぁ」ということ以外の感想が無かった。
もちろんこれは中盤以降の話への布石でもあるし、対比でもあるのでしょうが、あまりにも暇すぎて、途中読み飛ばしてしまった。
この本も十分面白いのだが、個人的には同著者の「ファイヤーボール」をおススメする。この作品はテーマパーク再建ではなく、町おこしがテーマである。本質は似ており、この作品が楽しめた人はこの本も楽しめるだろう。
この作品のレビューで紹介するのは本来ご法度なのかもしれないが、内容が似ており、同じ著者の作品なのでご愛敬ということで…。
まず気になるのは「メリーゴーラウンド」ではないのかというところ。
作中に一度だけ「メリーゴーラウンド」とサブキャラが喋っている場面があるので、恐らく著者はあえてメリーゴーランドと表記しているのだろう。
表紙の英語表記には”Merry-Go-Round”と書かれているのだが…。
内容はなかなか面白い。市役所のお役所仕事から離れて仕事に打ち込む主人公に心打たれる人もいるだろう。
世の中の理不尽と闘う姿はかっこいい!と思えるものである。
結末も決して悪いものではなかった。こういう終わり方も”あり”なのだろうと思う。
ただ、作品前半、つまり「主人公がテーマパーク再建に取り組むまで」の物語がとにかく退屈。
作品の1/4くらいは「市役所の仕事は楽でヒマなんだなぁ」ということ以外の感想が無かった。
もちろんこれは中盤以降の話への布石でもあるし、対比でもあるのでしょうが、あまりにも暇すぎて、途中読み飛ばしてしまった。
この本も十分面白いのだが、個人的には同著者の「ファイヤーボール」をおススメする。この作品はテーマパーク再建ではなく、町おこしがテーマである。本質は似ており、この作品が楽しめた人はこの本も楽しめるだろう。
この作品のレビューで紹介するのは本来ご法度なのかもしれないが、内容が似ており、同じ著者の作品なのでご愛敬ということで…。