『百年の孤独』
かつて一冊の本を読むのに、こんなに足止めを食らってしまうことがあっただろうか? というくらい時間が掛かってしまいました。
まさに百年くらい時が過ぎた感じです。
それもそのはず。
この小説、一ページあたりの情報量がダンチなのです。
だから、一ページ読んだだけでも体力をかなり消耗して、眠たくなってしまうのでしょう。
だからと言って誤解しないでいただきたい!!
この小説、右ページから左ページに移るまでに物語上の時間が何年も進んでる事が良くありますが、決して文体が難しいわけでもなく、かと言って細々とした説明によって情報量が多くなってるわけではないのです。
これがホントに不思議と言うか、随分読んだな、と感じてもほんの二、三ページしか進んでいなかったことも多く、まさに「魔術を体感させられている」と言わざるを得ないのです。
僕が思うに、ここが『20世紀の傑作100選』とかそんな感じの企画でよく選ばれる理由なんじゃないでしょうか?
つまり、この『百年の孤独』には、少ない言葉数で読者を物語の世界に引き込んでしまう力がある、のです。
読者の想像力をかき立てるようになっているわけですから、読者がこの世界にのめり込めばのめり込むほど、情報量がとんでもないことになっていくように感じるのです。
とはいえストーリー自体は単純で、「ある一つの家族と街の始まりから終わりを描いた百年くらいの話」で、ファンタジーです。
変な描写、狂ってる描写が出てきて、楽しいやら苦しいやらです。
まず、いいかげんにしてくれ、と言いたくなるのが登場人物の名前です。
主役一家の間で同じ名前を何度も繰り返し名づけちゃうので、読んでいるとかなり混乱します。家系図が巻頭にありますけど「アルカディオ」と「アウレリャノ」ばかりで、「この一家は、いったい何を考えているのか?」といった感じです。
また、魔法の絨毯が普通にある世界なのに人々はそれを大した物とは考えず、鉄道を引こうと躍起になってたりします。
ハタリハタマタ、幽霊も出てきますし、一度死んだ老人が生き返ったり、かと思うと重要人物が死ぬシーンは稀に感動的な描写だったりします。
果たして、僕は読み終えたときに――得体の知れない満足感はあったものの――作者が何を伝えたかったのかはよく分かりませんでした。
……が、巻末の解説を読んで、なるほどな、と思ったのです。
ガルシア=マルケスは、幼いころに「語る」ことに興味を持ち、それが好きだったようで、『語りたがり』であったようです。
要するに「人に楽しんでもらえる話を語りたい」ということなんだろうと思います。
僕自身も――ひとつとして上手く行ったことは無かったけど――十代の頃からいろいろと創作活動をしてきた口なものですから、彼の気持ちはよくわかったのです。
……ということですから、もしかしたらこの作品は万人向けでは無いのかも知れません。
この本を読まなかったからといって、世間や数多の作品の文脈について行けなくなることは無いはずですし、人生にも影響は無いでしょう。
ただ、自身で物語を作ったりしている人たちにとっては、必読書になる可能性があります。
特に、何が楽しくて創作活動を続けているのか忘れたり、見失ってしまった貴方には。
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百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez) 単行本 – 2006/12/21
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- 本の長さ496ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2006/12/21
- 寸法13.9 x 2.8 x 19.7 cm
- ISBN-104105090119
- ISBN-13978-4105090111
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登録情報
- 出版社 : 新潮社 (2006/12/21)
- 発売日 : 2006/12/21
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 496ページ
- ISBN-10 : 4105090119
- ISBN-13 : 978-4105090111
- 寸法 : 13.9 x 2.8 x 19.7 cm
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- - 4位スペイン文学
- - 7位スペイン・ポルトガル文学研究
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2022年1月3日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
この物語、ひいてはこの小説を読むという行為は、砂浜に砂の城を建てるようなものだと感じた。
砂浜に、本来はそこに存在しない架空の砂の城を建てる。城を取り巻く物語を空想しながら様々な困難を乗り越えて建てる。最終的には消えて無くなる運命だと知りながら。
では、最終的に無くなるのであれば、その砂の城を建てることに意味はないのだろうか?
そうではない。
その建てている間、その行為が面白い。
この物語は、ありもしない世界の実在しない一族の運命を描く。
物語の中で何が消えようとも、私達が生きる世界には何も影響がない。ただ創造したものが、想像の中から消えるだけだ。ゼロがゼロに戻る。
しかし、実在する要素も混ぜながら、現実と架空の間を漂い進む物語は、砂の城を建てたあの時のように、孤独で苦しくも夢中にさせる。
物語を読むこと自体の面白さを再認識させてくれた本。
砂浜に、本来はそこに存在しない架空の砂の城を建てる。城を取り巻く物語を空想しながら様々な困難を乗り越えて建てる。最終的には消えて無くなる運命だと知りながら。
では、最終的に無くなるのであれば、その砂の城を建てることに意味はないのだろうか?
そうではない。
その建てている間、その行為が面白い。
この物語は、ありもしない世界の実在しない一族の運命を描く。
物語の中で何が消えようとも、私達が生きる世界には何も影響がない。ただ創造したものが、想像の中から消えるだけだ。ゼロがゼロに戻る。
しかし、実在する要素も混ぜながら、現実と架空の間を漂い進む物語は、砂の城を建てたあの時のように、孤独で苦しくも夢中にさせる。
物語を読むこと自体の面白さを再認識させてくれた本。
2024年4月9日に日本でレビュー済み
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初めて読んだ『百年の孤独』は鼓直先生の日本語訳です。素晴らしい日本語との出会いだと思っています。
これからの翻訳作家はそこまで日本語で原作を再現できるかどうか分かりません。
これからの翻訳作家はそこまで日本語で原作を再現できるかどうか分かりません。
2024年5月3日に日本でレビュー済み
6月に文庫化されるそうで、現在アマゾンのブックチャートでベストセラー1位となっている。それが「伝承・神話」カテゴリーというのが笑える。
小生も最近、こちらの古い版を読んでみたが、世界的に賞賛されているらしいのに、不思議にさっぱり面白くなかったのである。評価されている理由を知りたくて関連書をいくつか読んでみると、どうやら次のようなことらしい。
①現代の小説において文学の起源にある神話や叙事詩の形式を援用し、一つの共同体の歴史をでっち上げることを通じて、作家個人の一族からラテンアメリカ、さらに人類のあらゆる文明の縮図を描きこんでしまうというアイデアの新しさ(バルガス=リョサの評から)
②ダダ、シュルレアリズム等の実験小説により衰退した小説ジャンルに、文学言語的に若いラテンアメリカのエネルギーが新しい血を流し込み、キューバ革命、ゲバラ人気等、政治的な背景もあって、世界的に沸き起こったラテンアメリカ小説ブーム
こうした理由から本作は世界的大ベストセラーとなり、これに影響を受けた作品が世界中で書かれたらしいのだが、個人的に思い浮かぶのは大江健三郎『同時代ゲーム』だろうか。
大江本人も「私の好きな作家たちは皆、グラスにしろリョサにしろ、ああした大盤振る舞いのような大作の仕事に入っていたんですよ。私も落着いてはいられませんでした。血気にはやるというか(笑)」と語っていて、その視野に本作も入っていたのは間違いないだろう。以後、小生は大江を読むのを止めたのだったが。
さて背景や影響を書いてはみたものの、それで本作が面白くなるというものでもないだろう。ただ、ガルシア=マルケスの筆力は疑いなく、一作ごとに文体を変えた彼がリアリスティックなタッチで描いたという『コレラの時代の愛』は暇があったら読んでみたいなと思う。
小生も最近、こちらの古い版を読んでみたが、世界的に賞賛されているらしいのに、不思議にさっぱり面白くなかったのである。評価されている理由を知りたくて関連書をいくつか読んでみると、どうやら次のようなことらしい。
①現代の小説において文学の起源にある神話や叙事詩の形式を援用し、一つの共同体の歴史をでっち上げることを通じて、作家個人の一族からラテンアメリカ、さらに人類のあらゆる文明の縮図を描きこんでしまうというアイデアの新しさ(バルガス=リョサの評から)
②ダダ、シュルレアリズム等の実験小説により衰退した小説ジャンルに、文学言語的に若いラテンアメリカのエネルギーが新しい血を流し込み、キューバ革命、ゲバラ人気等、政治的な背景もあって、世界的に沸き起こったラテンアメリカ小説ブーム
こうした理由から本作は世界的大ベストセラーとなり、これに影響を受けた作品が世界中で書かれたらしいのだが、個人的に思い浮かぶのは大江健三郎『同時代ゲーム』だろうか。
大江本人も「私の好きな作家たちは皆、グラスにしろリョサにしろ、ああした大盤振る舞いのような大作の仕事に入っていたんですよ。私も落着いてはいられませんでした。血気にはやるというか(笑)」と語っていて、その視野に本作も入っていたのは間違いないだろう。以後、小生は大江を読むのを止めたのだったが。
さて背景や影響を書いてはみたものの、それで本作が面白くなるというものでもないだろう。ただ、ガルシア=マルケスの筆力は疑いなく、一作ごとに文体を変えた彼がリアリスティックなタッチで描いたという『コレラの時代の愛』は暇があったら読んでみたいなと思う。
2024年3月22日に日本でレビュー済み
これに関しては文句なしでしょう。
Netflixでドラマ化されるみたいだが、予告公開されて数年が経つ笑
いつになることやら。
これの執筆過程を描いたグラフィックノベル『Gabo: Memorias de una vida mágica』の翻訳も期待したい。
Netflixでドラマ化されるみたいだが、予告公開されて数年が経つ笑
いつになることやら。
これの執筆過程を描いたグラフィックノベル『Gabo: Memorias de una vida mágica』の翻訳も期待したい。
2024年4月2日に日本でレビュー済み
文庫本が6月に出るみたいだけど,kindle版を出してほしい。少しづつ手元に置いて読みたい。
2021年7月9日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
映画の事前学習に買った。24時間たたずに届いたのでびっくりした。
物語の世界にどっぷりはまり一気に読んだ
重いとか軽いとか、そういう物語ではない。小説の小が似つかわしくない。
壮大なほら話だ
物語の世界にどっぷりはまり一気に読んだ
重いとか軽いとか、そういう物語ではない。小説の小が似つかわしくない。
壮大なほら話だ
2016年11月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
1967年の作品。1982年ノーベル文学賞を受賞している。読者は、語り部G・ガルシア
=マルケスの長い饒舌に耳を傾けることになる。『百年の孤独』は「大人の童話」でもあ
る。人類史の寓意でもないし、象徴的な物語でもない。彼は語っている。「幼年時代に影
響を受けた経験を文学作品のなかに書き残そう」「幼年時代の世界を詩的な形で書き残し
ておきたい」(『グアバの香り』1982年)と思ったにすぎない。また、語り口は祖母の話
し方を参考にしている。「祖母は、身の毛もよだつほど恐ろしいことを、今そこで見てき
たようにしれっとした顔で話す。祖母みたいにさまざまなイメージをちりばめ、すました
顔をして語ると、どんなことでも本当らしく聞こえることに気づいた」(『グアバの香り
』)と。読者は難しく考えないで彼の語りを素直に読み取り、彼の想像力を楽しむことだ
。話を複雑にしているのは、「語り」であるがため、一族にかかわる様々な出来事が時系
列ではなく奔放に錯綜されてくることにある。また、作中人物は、同じような名前が登場
する。ラテンアメリカ的な慣習で祖父や父の名前をつけているためである。したがって、
一族の名前や関係する人物たちを整理し、彼らがどういうことを考え行動していくかを把
握しながら読み進めたい。
舞台は、「コマンド」という架空の町。作中人物たちが、未開の土地に町を築き上げ、
繁栄させ、そして没落に向かい、一族も町もろとも消え去り廃墟になる百年の歴史を歩む。
マコンドは、一族の「心の中の世界」でもある。
作中人物は、「ホセ・アルカディオ・ブエンディア」と「ウルスラ・イグアラン」夫妻、
息子「ホセ・アルカディオ」、「アウレリャノ・ブエンディア大佐」、娘「アマランタ」
の家族から始まり、夫妻の玄孫(やしゃご)「レナータ・レメディオス(メメ)」の子ども
「アウレリャノ・バビロニア」と、同じく玄孫「アマランタ・ウルスラ」のあいだに「豚
のしっぽ」がついている「アウレリャノ」が生まれ、蟻の大群に死骸を持ち去られるまで
の歴史である。甥、叔母の近親相姦の結果である。ブエンディア夫妻もいとこ同士の結婚
であり、いとこに「豚のしっぽ」がある人間が生まれている。夫妻は「豚のしっぽ」がつ
いた子どもが生まれることを心配していた。しかし、百年後の子孫に生まれてしまったの
だ。また、一族以外でジプシーの一人である「メルキアデス」という老人が一族の歴史を
羊皮紙にサンスクリット語で記録し百年後を見通していた。これを一族最後の人間「アウ
レリャノ・バビロニア」が読み解き、町コマンドとともにブエンディア一族は崩壊に向か
い「人間の記憶」から消え去る。「百年の孤独を運命づけられた家系は反復の可能性がな
いこと」が予想されている。愛情のない結婚や不幸な死を迎える女性たちの生活、性の饗
宴描写、幻想的光景、ユーモアの表現などが「語り」のなかにちりばめられていく。
・男たちからみていこう
「ホセ・アルカディオ・ブエンディア」は、コマンド立ち上げの指揮をとり、土地を分
配したり、町に「アーモンドの樹」を植えたりして信望が厚かった。一方、メルキアデス
と親交を結び奇想天外な研究に没頭し、妻ウルスラに経済的な負担をかける。たとえば、
ゼンマイ仕掛け人形と時計を結び付けたり、銀板写真に凝って「神」の写真を撮るといっ
てみたり、錬金術師になったりする。そして、神経を病み、放心状態から妄想、狂気には
しり「栗の樹」の下につながれ、「一晩中町に空から雨のように降り注ぐ小さな黄色い花」
のなかで死んでいく。
「ホセ・アルカディオ(長男)」は、十四歳の時点で「想像力に乏しいこと」がはっき
りしていた。ある日、ジプシー娘と村を去り、国籍不明の水夫として六十五回も世界を回
り、刺青がない個所を探せない体で帰ってくる。日本海で遭難したほか奇想天外な経験を
してきた。母親のまたいとこである「レベーカ」と結婚するが、情婦「ピラル・テルネラ」
に「アルカディオ」を産ませる。アルカディオは税金や、死人埋葬で取り立てた公金着服
で銃殺処刑される。ホセ・アルカディオは、理由不明だがピストル自殺をする。右耳から
出ていく一筋の血の流れはウルスラが三十六個の卵を割ろうとしていた台所まで続く。長
い経路を辿る血流の描写がある。
「アウレリャノ・ブエンディア大佐(次男)」は、コマンドで誕生した最初の人間であ
る。町長ドン・アポリナル・モスコテの娘「レメディオス・モスコテ」と結婚するが、兄
の情婦ピラル・テルネラとのあいだに「アウレリャノ・ホセ」をもうける。アウレリャノ・
ホセは、父と武装蜂起で村を出るが銃殺処刑される。大佐は、自由党(フリーメイソン会
員)と保守党(キリスト教、権威を振り回す)の闘争の革命軍総司令官として反乱を三十
二回おこしたが、そのつど敗北した。情婦を十七人もち息子を十七人産ませている。しか
し、十七人の息子たち全員は悲劇的な死を遂げる。「聖体拝領」を受け、額に印をつけら
れたが消えない「灰の十字架のある兄弟」であった。大佐は戦争に虚しさを覚え、「戦争
など二度とごめんだという気になり」停戦後、金の魚細工で老後をおくる。一方、息子た
ちと「氷」の製造販売を拡大させ、鉄道を引く事業を起こし、花いっぱいの「黄色い汽車」
を走らせた。しだいに、「他人の家に迷い込んだような気分におちいった」気持になり、
父とジプシーのところへ「氷」を見に行ったことなどを思い出しながら、父が死んだ栗の
木の幹に頭をあずけて死ぬ。
「ホセ・アルカディオ・セグンド」は、アルカディオと結婚した「サンタ・ソフィア・
デ・ラ・ピエタ」のあいだの双子の長男。叔父の大佐そっくりの痩せぎすな男で、銃殺を
見学したり、軍鶏の世話をする。神学論争の術にたけ、闘鶏場の駆け引きにも通じている。
水路を開く計画を実行したが「筏」をうかべるくらいの川だった。バナナ栽培労働者のス
トライキを扇動しようとしたが、町民や子どもたちが軍隊に射殺されていく。「三千人は
いたはずだ」ということが頭から離れない。「戦争がどういうものか説明するのに、恐怖、
この一言で足りる」と痛感する。「メルキアデス」の部屋で「羊皮紙」を読みふけり、「
孤独な闇の世界」で生きていく。「三千人以上の人間が海に捨てられたのだ」と言って死
んでいく。結婚せず、女性関係は情婦ぺトラ・コテスだけだった。
「アウレリャノ・セグンド」は、ホセ・アルカディオ・セグンドの双子の弟。語りのな
かで二人が入れ替わっている場面もあるように思える。祖父(ホセ・アルカディオ)に似
た巨漢だった。メルキアデスの部屋の遺品に興味をもち、彼(すでに死んでいるが、ブエ
ンディア家の一室に住んでいた)と交信できる関係である。羊皮紙の草稿は「百年たたな
いうちは、誰もその意味を知るわけにはいかんのだ」と言われる。アウレリャノ・セグン
ドは、しだいに怠け癖、放蕩の兆候を示し始め、情婦ぺトラ・コテスのそばで暮らすよう
になる。ぺトラのおかげで、飼育しているウサギや牝牛が嘘のように繁殖していった。そ
して、アコーディオンの名手になりお祭り騒ぎが日常茶飯事になる。紙幣を屋敷に貼るく
らいの浪費家になっている。そして、カーニバルで知り合った女王「フェルンダ・デル=
カルピオ」と結婚するが、相変わらずぺトラの家に入り浸っている。毎日十一時に着く汽
車でシャンペン、ブランディーの箱を取り寄せパーティーを開く。「まるで情婦の夫にな
り、妻の愛人になったような」生活をしている。幸運は続かない。天候不順から「四年十
一か月と二日」の雨が続き、家畜が死んで流されていく。度を過ぎた大食、大食い競争、
金遣いの荒さの結果、妻フェルナンダと喧嘩が絶えず、彼女の愚痴がしつこく続く。そし
て、母親ウルスラが隠したという金貨が入った袋を探すが見つからず、喉痛の病で兄と同
じ時刻に死ぬ。
「ホセ・アルカディオ」は、アウレリャノ・セグンドとフェルンダ・デル=カルピオの
長男。教皇になるためイタリアの神学校へ送り出される。しかし、聖職につくことは嘘だ
った。ローマに着くか着かぬかに神学校をやめた。母親をだましていたのだ。「母親との
手紙のやりとりは絵空事だった」。帰宅後、母親フェルナンドの葬式をだし、祭壇の聖者
像を燃やす。しかし、百歳をこえ痴ほう状態になっているウルスラは彼を法王と思って祝
福する。ウルスラの死後、彼女の寝室から「黄色い光」が見え、七千二百四十枚もの金貨
が入った袋を発見する。その金で屋敷を「淪落のパラダイス」にし、ギリシャ神話の美少
年アドニスのような生活を送る。日課の水浴のとき取り巻きの少年たちに溺死させられ金
も盗まれる。
「アウレリャノ・バビロニア」は、ホセ・アルカディオの妹「レナータ・レメディオス」
(愛称メメ)とバナナ栽培労働者「マウリシオ・バビロニア」に生まれた未婚の子どもで
ある。出生証明書は「捨て子」と記載されている。メメが修道院に入れられたあとに出産
し、尼僧が屋敷に連れて来たのだ。彼は、捨て子扱いのため学校に行かせてもらえなかっ
たが、英語の文章を解し、羊皮紙研究をし、六巻の百科事典を最後まで読みあげていた。
「なんでもわかるんだよ」が口癖である。ホセ・アルカディオのもう一人の妹「アマラン
タ・ウルスラ」がブリュッセルから結婚相手と帰ってくるが、アウレリャノ・バビロニア
と関係ができてしまう。甥と叔母の関係である。アウレリャノ・バビロニアは彼女が叔母
とは知らなかったし、彼自身の「出生にまつわる記録を求めて台帳」を調べたがわからな
かった。二人のあいだに「豚のしっぽ」がついた「アウレリャノ」が生まれるが、アマラ
ンタ・ウルスラは産後死に、「ふくれあがったまま干からびた皮袋のような赤ん坊の死体
が、蟻の大群によって運ばれていった」。メルキアデスの羊皮紙の題辞が浮かんでくる。
「この一族の最初の者は樹につながれ、最後の者は蟻のむさぼるところとなる」。アウレ
リャノ・バビロニアは、サンスクリット語で書かれた「百年前にメルキアデスによって編
まれた一族の歴史」を読み解いていく。ページを繰り、自分の出生の秘密を探すと「仄暗
い浴室に群れる蠍(さそり)と黄色い蛾のなかで彼自身の受胎の瞬間にいきあたった」の
である。ページを飛ばし、現に生きている瞬間を解読すると、「蜃気楼の町は風によって
なぎ倒され、人間の記憶から消える」景色が見えた。マコンドとブエンディア一族が消え
去る光景である。
・女性たちの歴史もみておこう
「ウルスラ・イグアラン」は、ブエンディア一族の繁栄と没落を体験し、夫、子どもた
ち、孫たち、玄孫たちを育て、百二十歳をはるかに超えて死ぬ。失明しても「一年を通じ
て太陽の位置の移動と、廊下に座る者たちが無意識に坐る場所を変えること」を感じてい
る頭の冴えは残っていた。そして、自然の変調、たとえば、薔薇が藜(あかざ)のように
匂い、エジプト豆が入った瓢箪が落ち、その一粒一粒が完全に幾何学的な模様を描いて、
海星(ひとで)のかたちに床にならんだなどの光景が続いた朝に死んだ。小鳥たちが大量
に死んだ。
「アマランタ」は、ホセ・アルカディオとアウレリャノ・ブエンディア大佐の妹である。
生涯独身を通したが、自動ピアノのイタリア人技術者「ピエトロ・クレスピ」への片思い
や兄の友人「ヘリネルド・マルケス大佐」からの求愛も拒否した。一方で、大佐の子ども
アウレリャノ・ホセと近親相姦の関係にあった。また、兄嫁レベーカへの嫉妬心が強く彼
女の経かたびらを編んだり、ピエトロ・クレスピを自殺に追いやったりする激しい女性で
ある。そして、死神から告げられた自分自身の経かたびらを編み上げ、死者のもとへ手紙
を届けるのに自分が適していると町中の人に伝える。「冥途への郵便物」配達人になり死
んでいく。郵便物は彼女の棺のなかに入れられた。
「レベーカ」は、ウルスラのまたいとこで、両親の遺灰をもってブエンディア家にきた。
神経を病むと、中庭の湿った土と壁から剥がした石灰を食べ、指をしゃぶる。「伝染性の
不眠症」をもちこんでくる。世界をまわって帰ってきたホセ・アルカディオと結婚するが
アマランタから嫌がらせを受け、夫の死後、廃墟で人知れず死んでいく。
「小町娘レメディオス」は、アルカディオとサンタ・ソフィア・デ・ラ・ピエタの長女。
サンタ・ソフィア・デ・ラ・ピエタは愚痴をこぼさずに孤独と沈黙の一生を子どもたちの
養育に捧げたが、屋敷の老化とともに「降参よ、この屋敷は、とても私の手に負えないわ」
と言って屋敷をでていく。小町娘レメディオスには、双子の兄弟ホセ・アルカディオ・セ
グンドとアウレリャノ・セグンドがいる。カーニバルで女王に選ばれたり、二十歳になっ
ても読み書きができず、食卓でフォークやナイフを使わず手で食事をする。屋根瓦をはが
し、彼女の入浴を見ようとした男が転落死したり、彼女の手に触れた男が馬に蹴られて死
んだり、「愛の香りではなく死の匂い」を発散させている女である。ある日、シーツに包
まれながら体が宙に浮き永遠に姿を消した。
「フェルナンダ・デル=カルピオ」は、アウレリャノ・セグンドの妻である。母親から
「私たちには大変なお金があるのよ。いつかきっと、あなたも女王になれるわ」と吹き込
まれながら育つが、一家が没落し「葬儀用の棕櫚編み」の仕事をしていた。結婚後、自分
の先祖から伝わった「しきたり」を強引に持ち込もうとし、ウルスラの死後、一家の采配
をふるう。「家族の他の者には何の期待もしていないが、それでも夫からは、もう少し大
事にされてもいいのではないか」と愚痴を言いながら痴ほう状態にはいっていく。「黄色
っぽいテンのマント」と「黄色のボール紙の王冠」を身に着けた女王の姿で死ぬ。
ブエンディア一族の歴史に登場する関係者は、それぞれが存在感を示している。ホセ・
ラケル・モンカダ将軍、ニカルノ・レイナ神父、二百歳近い作曲家フランシス・エル・オ
ンブレ、ニセ医者(テロリスト)で砂糖入りの丸薬で治療するアリリオ・ノゲーラ、繫留
気球を売りながらバナナ栽培会社を起こすアメリカ人ミスター・ハーバート、アマランタ・
ウルスラのイタリア人の夫ガストン、自動ピアノ技術士でイタリア人ピエトロ・クレスピ
など、彼らにまつわる悲劇的でもあり喜劇的でもある話によって、一族の人間模様が側面
的に装飾されていく。ただ、これらの「語り」の飛び方が突然なので「聞き手」に話を複
雑にさせている要因になっている。
語り手の「語り」の内容は、長編であり、多くの人物を交錯させ、各人がさまざまな物
語をもちこんでくる。語り手の自由な想像力がそうさせているのだ。しかし、聞き手は、
どんどん過去の話を忘れ去る。同じような名前の人物が動き回り、妻や愛人たちが同じ存
在力をもち、『千夜一夜物語』のようでもあり、『ドン・キホーテ』のようでもある不思
議でユーモアを感じる話が、魔法のランプから自在に浮かび上がってくる。作中人物のそ
れぞれの人物像をつかむためには、全篇を通じて散らばっている話を丹念に拾い上げてい
くしかない。聞き手が読み手になり精細な整理する以外にないのだ。もちろん「聞き捨て」
でもかまわない。
もと古典文学の教師だったカタルニャ生まれの学者が本屋を開いている。著者は、そこ
に集まるアウレリャノ・バビロニアの友人の一人アルバロに言わせている。「文学は人を
からかうために作られた最良のおもちゃである」と。「語り」に登場する「ラブレー詩集」、
「ノストラダムス」、「黄色」を多用していること、「数字」がやたらと細かく表現され
ていることなどの「記号」にだまされてはいけない。著者の思うつぼだ。著者も述べてい
る。「真面目に書いた小説ではない。親しい友人たちに向けられた合図、知人にしか読み
解けない目配せがたっぷり込められている」(『グアバの香り』)と。本書を読んで世界
中の誰かがほくそ笑んでいる光景が目に浮かぶ。ほっそりとした首と眠たげな眼をした「
メルセデス」は著者の妻だろうか。
=マルケスの長い饒舌に耳を傾けることになる。『百年の孤独』は「大人の童話」でもあ
る。人類史の寓意でもないし、象徴的な物語でもない。彼は語っている。「幼年時代に影
響を受けた経験を文学作品のなかに書き残そう」「幼年時代の世界を詩的な形で書き残し
ておきたい」(『グアバの香り』1982年)と思ったにすぎない。また、語り口は祖母の話
し方を参考にしている。「祖母は、身の毛もよだつほど恐ろしいことを、今そこで見てき
たようにしれっとした顔で話す。祖母みたいにさまざまなイメージをちりばめ、すました
顔をして語ると、どんなことでも本当らしく聞こえることに気づいた」(『グアバの香り
』)と。読者は難しく考えないで彼の語りを素直に読み取り、彼の想像力を楽しむことだ
。話を複雑にしているのは、「語り」であるがため、一族にかかわる様々な出来事が時系
列ではなく奔放に錯綜されてくることにある。また、作中人物は、同じような名前が登場
する。ラテンアメリカ的な慣習で祖父や父の名前をつけているためである。したがって、
一族の名前や関係する人物たちを整理し、彼らがどういうことを考え行動していくかを把
握しながら読み進めたい。
舞台は、「コマンド」という架空の町。作中人物たちが、未開の土地に町を築き上げ、
繁栄させ、そして没落に向かい、一族も町もろとも消え去り廃墟になる百年の歴史を歩む。
マコンドは、一族の「心の中の世界」でもある。
作中人物は、「ホセ・アルカディオ・ブエンディア」と「ウルスラ・イグアラン」夫妻、
息子「ホセ・アルカディオ」、「アウレリャノ・ブエンディア大佐」、娘「アマランタ」
の家族から始まり、夫妻の玄孫(やしゃご)「レナータ・レメディオス(メメ)」の子ども
「アウレリャノ・バビロニア」と、同じく玄孫「アマランタ・ウルスラ」のあいだに「豚
のしっぽ」がついている「アウレリャノ」が生まれ、蟻の大群に死骸を持ち去られるまで
の歴史である。甥、叔母の近親相姦の結果である。ブエンディア夫妻もいとこ同士の結婚
であり、いとこに「豚のしっぽ」がある人間が生まれている。夫妻は「豚のしっぽ」がつ
いた子どもが生まれることを心配していた。しかし、百年後の子孫に生まれてしまったの
だ。また、一族以外でジプシーの一人である「メルキアデス」という老人が一族の歴史を
羊皮紙にサンスクリット語で記録し百年後を見通していた。これを一族最後の人間「アウ
レリャノ・バビロニア」が読み解き、町コマンドとともにブエンディア一族は崩壊に向か
い「人間の記憶」から消え去る。「百年の孤独を運命づけられた家系は反復の可能性がな
いこと」が予想されている。愛情のない結婚や不幸な死を迎える女性たちの生活、性の饗
宴描写、幻想的光景、ユーモアの表現などが「語り」のなかにちりばめられていく。
・男たちからみていこう
「ホセ・アルカディオ・ブエンディア」は、コマンド立ち上げの指揮をとり、土地を分
配したり、町に「アーモンドの樹」を植えたりして信望が厚かった。一方、メルキアデス
と親交を結び奇想天外な研究に没頭し、妻ウルスラに経済的な負担をかける。たとえば、
ゼンマイ仕掛け人形と時計を結び付けたり、銀板写真に凝って「神」の写真を撮るといっ
てみたり、錬金術師になったりする。そして、神経を病み、放心状態から妄想、狂気には
しり「栗の樹」の下につながれ、「一晩中町に空から雨のように降り注ぐ小さな黄色い花」
のなかで死んでいく。
「ホセ・アルカディオ(長男)」は、十四歳の時点で「想像力に乏しいこと」がはっき
りしていた。ある日、ジプシー娘と村を去り、国籍不明の水夫として六十五回も世界を回
り、刺青がない個所を探せない体で帰ってくる。日本海で遭難したほか奇想天外な経験を
してきた。母親のまたいとこである「レベーカ」と結婚するが、情婦「ピラル・テルネラ」
に「アルカディオ」を産ませる。アルカディオは税金や、死人埋葬で取り立てた公金着服
で銃殺処刑される。ホセ・アルカディオは、理由不明だがピストル自殺をする。右耳から
出ていく一筋の血の流れはウルスラが三十六個の卵を割ろうとしていた台所まで続く。長
い経路を辿る血流の描写がある。
「アウレリャノ・ブエンディア大佐(次男)」は、コマンドで誕生した最初の人間であ
る。町長ドン・アポリナル・モスコテの娘「レメディオス・モスコテ」と結婚するが、兄
の情婦ピラル・テルネラとのあいだに「アウレリャノ・ホセ」をもうける。アウレリャノ・
ホセは、父と武装蜂起で村を出るが銃殺処刑される。大佐は、自由党(フリーメイソン会
員)と保守党(キリスト教、権威を振り回す)の闘争の革命軍総司令官として反乱を三十
二回おこしたが、そのつど敗北した。情婦を十七人もち息子を十七人産ませている。しか
し、十七人の息子たち全員は悲劇的な死を遂げる。「聖体拝領」を受け、額に印をつけら
れたが消えない「灰の十字架のある兄弟」であった。大佐は戦争に虚しさを覚え、「戦争
など二度とごめんだという気になり」停戦後、金の魚細工で老後をおくる。一方、息子た
ちと「氷」の製造販売を拡大させ、鉄道を引く事業を起こし、花いっぱいの「黄色い汽車」
を走らせた。しだいに、「他人の家に迷い込んだような気分におちいった」気持になり、
父とジプシーのところへ「氷」を見に行ったことなどを思い出しながら、父が死んだ栗の
木の幹に頭をあずけて死ぬ。
「ホセ・アルカディオ・セグンド」は、アルカディオと結婚した「サンタ・ソフィア・
デ・ラ・ピエタ」のあいだの双子の長男。叔父の大佐そっくりの痩せぎすな男で、銃殺を
見学したり、軍鶏の世話をする。神学論争の術にたけ、闘鶏場の駆け引きにも通じている。
水路を開く計画を実行したが「筏」をうかべるくらいの川だった。バナナ栽培労働者のス
トライキを扇動しようとしたが、町民や子どもたちが軍隊に射殺されていく。「三千人は
いたはずだ」ということが頭から離れない。「戦争がどういうものか説明するのに、恐怖、
この一言で足りる」と痛感する。「メルキアデス」の部屋で「羊皮紙」を読みふけり、「
孤独な闇の世界」で生きていく。「三千人以上の人間が海に捨てられたのだ」と言って死
んでいく。結婚せず、女性関係は情婦ぺトラ・コテスだけだった。
「アウレリャノ・セグンド」は、ホセ・アルカディオ・セグンドの双子の弟。語りのな
かで二人が入れ替わっている場面もあるように思える。祖父(ホセ・アルカディオ)に似
た巨漢だった。メルキアデスの部屋の遺品に興味をもち、彼(すでに死んでいるが、ブエ
ンディア家の一室に住んでいた)と交信できる関係である。羊皮紙の草稿は「百年たたな
いうちは、誰もその意味を知るわけにはいかんのだ」と言われる。アウレリャノ・セグン
ドは、しだいに怠け癖、放蕩の兆候を示し始め、情婦ぺトラ・コテスのそばで暮らすよう
になる。ぺトラのおかげで、飼育しているウサギや牝牛が嘘のように繁殖していった。そ
して、アコーディオンの名手になりお祭り騒ぎが日常茶飯事になる。紙幣を屋敷に貼るく
らいの浪費家になっている。そして、カーニバルで知り合った女王「フェルンダ・デル=
カルピオ」と結婚するが、相変わらずぺトラの家に入り浸っている。毎日十一時に着く汽
車でシャンペン、ブランディーの箱を取り寄せパーティーを開く。「まるで情婦の夫にな
り、妻の愛人になったような」生活をしている。幸運は続かない。天候不順から「四年十
一か月と二日」の雨が続き、家畜が死んで流されていく。度を過ぎた大食、大食い競争、
金遣いの荒さの結果、妻フェルナンダと喧嘩が絶えず、彼女の愚痴がしつこく続く。そし
て、母親ウルスラが隠したという金貨が入った袋を探すが見つからず、喉痛の病で兄と同
じ時刻に死ぬ。
「ホセ・アルカディオ」は、アウレリャノ・セグンドとフェルンダ・デル=カルピオの
長男。教皇になるためイタリアの神学校へ送り出される。しかし、聖職につくことは嘘だ
った。ローマに着くか着かぬかに神学校をやめた。母親をだましていたのだ。「母親との
手紙のやりとりは絵空事だった」。帰宅後、母親フェルナンドの葬式をだし、祭壇の聖者
像を燃やす。しかし、百歳をこえ痴ほう状態になっているウルスラは彼を法王と思って祝
福する。ウルスラの死後、彼女の寝室から「黄色い光」が見え、七千二百四十枚もの金貨
が入った袋を発見する。その金で屋敷を「淪落のパラダイス」にし、ギリシャ神話の美少
年アドニスのような生活を送る。日課の水浴のとき取り巻きの少年たちに溺死させられ金
も盗まれる。
「アウレリャノ・バビロニア」は、ホセ・アルカディオの妹「レナータ・レメディオス」
(愛称メメ)とバナナ栽培労働者「マウリシオ・バビロニア」に生まれた未婚の子どもで
ある。出生証明書は「捨て子」と記載されている。メメが修道院に入れられたあとに出産
し、尼僧が屋敷に連れて来たのだ。彼は、捨て子扱いのため学校に行かせてもらえなかっ
たが、英語の文章を解し、羊皮紙研究をし、六巻の百科事典を最後まで読みあげていた。
「なんでもわかるんだよ」が口癖である。ホセ・アルカディオのもう一人の妹「アマラン
タ・ウルスラ」がブリュッセルから結婚相手と帰ってくるが、アウレリャノ・バビロニア
と関係ができてしまう。甥と叔母の関係である。アウレリャノ・バビロニアは彼女が叔母
とは知らなかったし、彼自身の「出生にまつわる記録を求めて台帳」を調べたがわからな
かった。二人のあいだに「豚のしっぽ」がついた「アウレリャノ」が生まれるが、アマラ
ンタ・ウルスラは産後死に、「ふくれあがったまま干からびた皮袋のような赤ん坊の死体
が、蟻の大群によって運ばれていった」。メルキアデスの羊皮紙の題辞が浮かんでくる。
「この一族の最初の者は樹につながれ、最後の者は蟻のむさぼるところとなる」。アウレ
リャノ・バビロニアは、サンスクリット語で書かれた「百年前にメルキアデスによって編
まれた一族の歴史」を読み解いていく。ページを繰り、自分の出生の秘密を探すと「仄暗
い浴室に群れる蠍(さそり)と黄色い蛾のなかで彼自身の受胎の瞬間にいきあたった」の
である。ページを飛ばし、現に生きている瞬間を解読すると、「蜃気楼の町は風によって
なぎ倒され、人間の記憶から消える」景色が見えた。マコンドとブエンディア一族が消え
去る光景である。
・女性たちの歴史もみておこう
「ウルスラ・イグアラン」は、ブエンディア一族の繁栄と没落を体験し、夫、子どもた
ち、孫たち、玄孫たちを育て、百二十歳をはるかに超えて死ぬ。失明しても「一年を通じ
て太陽の位置の移動と、廊下に座る者たちが無意識に坐る場所を変えること」を感じてい
る頭の冴えは残っていた。そして、自然の変調、たとえば、薔薇が藜(あかざ)のように
匂い、エジプト豆が入った瓢箪が落ち、その一粒一粒が完全に幾何学的な模様を描いて、
海星(ひとで)のかたちに床にならんだなどの光景が続いた朝に死んだ。小鳥たちが大量
に死んだ。
「アマランタ」は、ホセ・アルカディオとアウレリャノ・ブエンディア大佐の妹である。
生涯独身を通したが、自動ピアノのイタリア人技術者「ピエトロ・クレスピ」への片思い
や兄の友人「ヘリネルド・マルケス大佐」からの求愛も拒否した。一方で、大佐の子ども
アウレリャノ・ホセと近親相姦の関係にあった。また、兄嫁レベーカへの嫉妬心が強く彼
女の経かたびらを編んだり、ピエトロ・クレスピを自殺に追いやったりする激しい女性で
ある。そして、死神から告げられた自分自身の経かたびらを編み上げ、死者のもとへ手紙
を届けるのに自分が適していると町中の人に伝える。「冥途への郵便物」配達人になり死
んでいく。郵便物は彼女の棺のなかに入れられた。
「レベーカ」は、ウルスラのまたいとこで、両親の遺灰をもってブエンディア家にきた。
神経を病むと、中庭の湿った土と壁から剥がした石灰を食べ、指をしゃぶる。「伝染性の
不眠症」をもちこんでくる。世界をまわって帰ってきたホセ・アルカディオと結婚するが
アマランタから嫌がらせを受け、夫の死後、廃墟で人知れず死んでいく。
「小町娘レメディオス」は、アルカディオとサンタ・ソフィア・デ・ラ・ピエタの長女。
サンタ・ソフィア・デ・ラ・ピエタは愚痴をこぼさずに孤独と沈黙の一生を子どもたちの
養育に捧げたが、屋敷の老化とともに「降参よ、この屋敷は、とても私の手に負えないわ」
と言って屋敷をでていく。小町娘レメディオスには、双子の兄弟ホセ・アルカディオ・セ
グンドとアウレリャノ・セグンドがいる。カーニバルで女王に選ばれたり、二十歳になっ
ても読み書きができず、食卓でフォークやナイフを使わず手で食事をする。屋根瓦をはが
し、彼女の入浴を見ようとした男が転落死したり、彼女の手に触れた男が馬に蹴られて死
んだり、「愛の香りではなく死の匂い」を発散させている女である。ある日、シーツに包
まれながら体が宙に浮き永遠に姿を消した。
「フェルナンダ・デル=カルピオ」は、アウレリャノ・セグンドの妻である。母親から
「私たちには大変なお金があるのよ。いつかきっと、あなたも女王になれるわ」と吹き込
まれながら育つが、一家が没落し「葬儀用の棕櫚編み」の仕事をしていた。結婚後、自分
の先祖から伝わった「しきたり」を強引に持ち込もうとし、ウルスラの死後、一家の采配
をふるう。「家族の他の者には何の期待もしていないが、それでも夫からは、もう少し大
事にされてもいいのではないか」と愚痴を言いながら痴ほう状態にはいっていく。「黄色
っぽいテンのマント」と「黄色のボール紙の王冠」を身に着けた女王の姿で死ぬ。
ブエンディア一族の歴史に登場する関係者は、それぞれが存在感を示している。ホセ・
ラケル・モンカダ将軍、ニカルノ・レイナ神父、二百歳近い作曲家フランシス・エル・オ
ンブレ、ニセ医者(テロリスト)で砂糖入りの丸薬で治療するアリリオ・ノゲーラ、繫留
気球を売りながらバナナ栽培会社を起こすアメリカ人ミスター・ハーバート、アマランタ・
ウルスラのイタリア人の夫ガストン、自動ピアノ技術士でイタリア人ピエトロ・クレスピ
など、彼らにまつわる悲劇的でもあり喜劇的でもある話によって、一族の人間模様が側面
的に装飾されていく。ただ、これらの「語り」の飛び方が突然なので「聞き手」に話を複
雑にさせている要因になっている。
語り手の「語り」の内容は、長編であり、多くの人物を交錯させ、各人がさまざまな物
語をもちこんでくる。語り手の自由な想像力がそうさせているのだ。しかし、聞き手は、
どんどん過去の話を忘れ去る。同じような名前の人物が動き回り、妻や愛人たちが同じ存
在力をもち、『千夜一夜物語』のようでもあり、『ドン・キホーテ』のようでもある不思
議でユーモアを感じる話が、魔法のランプから自在に浮かび上がってくる。作中人物のそ
れぞれの人物像をつかむためには、全篇を通じて散らばっている話を丹念に拾い上げてい
くしかない。聞き手が読み手になり精細な整理する以外にないのだ。もちろん「聞き捨て」
でもかまわない。
もと古典文学の教師だったカタルニャ生まれの学者が本屋を開いている。著者は、そこ
に集まるアウレリャノ・バビロニアの友人の一人アルバロに言わせている。「文学は人を
からかうために作られた最良のおもちゃである」と。「語り」に登場する「ラブレー詩集」、
「ノストラダムス」、「黄色」を多用していること、「数字」がやたらと細かく表現され
ていることなどの「記号」にだまされてはいけない。著者の思うつぼだ。著者も述べてい
る。「真面目に書いた小説ではない。親しい友人たちに向けられた合図、知人にしか読み
解けない目配せがたっぷり込められている」(『グアバの香り』)と。本書を読んで世界
中の誰かがほくそ笑んでいる光景が目に浮かぶ。ほっそりとした首と眠たげな眼をした「
メルセデス」は著者の妻だろうか。