実人生というものが、悲劇だけでもなければ喜劇だけでもない、その2つのないまぜだということは誰もが経験的に知っている。また、世の中の大半を占めているのは卑小な人間たちであり、それら小人たちが時代の流れにいやおうもなく押し流されながら、それぞれに小市民としての生活を送っていることも。だが、こういった人生観を実際に小説世界に映し出そうとすると、それは途方もなく難しいことなのだ。
信じがたいことに、アトキンソンの『博物館の裏庭で』はそれを軽々とやり遂げてしまった。スラスラと読め、一見通俗的なユーモア小説の装いをしたこの小説の軽妙な文体にだまされてはいけない。「信頼できない」、「全知の」一人称の語り手の導入という前衛的な語りの技法といい、総勢150名近くにもなる登場人物を配し、4世代にわたる家族の歴史を「補注」つきであますところなく描いた力量といい、どう見てもアトキンソンはただ者ではない。なにしろ、ロサンゼルス・タイムズ紙の書評子をして、イギリスの文豪ディケンズの代表作『デビッド・コッパーフィールド』の上を行く「コッパーフィールド」ぶりだ、と言わしめたほどなのだ。
誤訳が皆無だとは言わないが、問題になるほどではない。むしろ、原作の持つ軽妙なタッチをそのまま日本語に移しかえ、イギリス小説の「偉大な伝統」を受け継ぐこの傑作を日本人読者に紹介した功績を評価したい。
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
博物館の裏庭で (Shinchosha CREST BOOKS) 単行本 – 2008/8/1
大家を押しのけ、権威あるウィットブレッド賞を受賞。懐かしく、滑稽で、豊穣な、ある家族の年代記。
曾祖母の冒険、祖母の恋、母の夢。そして二度の世界大戦。四世代にわたる家族の歴史は、さながら無数の物語が詰まった博物館。その陰には、語られざる秘密があった――。一人ひとりの小さな物語を横糸に壮大な歴史を編み上げる、新しい「偉大なる英国小説」。イギリス各紙誌が絶賛した、恐るべき処女長篇。
曾祖母の冒険、祖母の恋、母の夢。そして二度の世界大戦。四世代にわたる家族の歴史は、さながら無数の物語が詰まった博物館。その陰には、語られざる秘密があった――。一人ひとりの小さな物語を横糸に壮大な歴史を編み上げる、新しい「偉大なる英国小説」。イギリス各紙誌が絶賛した、恐るべき処女長篇。
- 本の長さ484ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2008/8/1
- ISBN-104105900692
- ISBN-13978-4105900694
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
登録情報
- 出版社 : 新潮社 (2008/8/1)
- 発売日 : 2008/8/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 484ページ
- ISBN-10 : 4105900692
- ISBN-13 : 978-4105900694
- Amazon 売れ筋ランキング: - 958,554位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 10,028位英米文学研究
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
カスタマーレビュー
星5つ中4.2つ
5つのうち4.2つ
全体的な星の数と星別のパーセンテージの内訳を計算するにあたり、単純平均は使用されていません。当システムでは、レビューがどの程度新しいか、レビュー担当者がAmazonで購入したかどうかなど、特定の要素をより重視しています。 詳細はこちら
4グローバルレーティング
虚偽のレビューは一切容認しません
私たちの目標は、すべてのレビューを信頼性の高い、有益なものにすることです。だからこそ、私たちはテクノロジーと人間の調査員の両方を活用して、お客様が偽のレビューを見る前にブロックしています。 詳細はこちら
コミュニティガイドラインに違反するAmazonアカウントはブロックされます。また、レビューを購入した出品者をブロックし、そのようなレビューを投稿した当事者に対して法的措置を取ります。 報告方法について学ぶ
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2008年12月9日に日本でレビュー済み
2008年11月7日に日本でレビュー済み
話自体は三ツ星くらいでしょうか。恐るべき処女長編とまでは思いません。
それに何より誤訳があちこちに散らばっていて、原書と照らし合わせて読むと苛々させられました。もう少し良心的に作っていただきたいものです。
それに何より誤訳があちこちに散らばっていて、原書と照らし合わせて読むと苛々させられました。もう少し良心的に作っていただきたいものです。
2013年7月12日に日本でレビュー済み
「あたし」という一人称の語り手であるルビーがこの世に存在するところから、この年代記は始まる。存在するといっても、それは誕生ですらなく、「受胎」の瞬間からなのだ。
つまり、ルビーは「観る人」であり、彼女を通して、本来ならば彼女が立ち会うはずのない母の、祖母の、曾祖母の子ども時代、娘時代、人生が語られていく。
繰り返される愚かな選択。女性が人生をやり直そうとするならば、結婚(または男)以外に手段がない時代。
時には、ポーカーの手を全取っ替えするように、大勢の子どもと夫を捨てていく。
「間違った」結婚は、ルビーの実の母バンティをも蝕み、子ども達の生活を悲惨なものにする。楽しみにしていた家族旅行が、クリスマスが最悪の結果に終わる。そして、どの世代においても病気で、戦争で、事故で、ばたばたと人が死に、家族が欠けていく。
だが、作者は感傷を一切排除し、淡々とルビーに語らせる。巧妙なしかけ=ルビーにつきまとう喪失感と、「パール」という名前の謎はこの大部な本の終わりになって、ようやく解明される。
巻頭に4世代に渡る系譜図がついているが、最初のうちは誰が誰やら、特に兄弟姉妹の名前を忘れ、混乱し、何度も系譜図を確かめた。
これだけの長編なのだから(しかも、時代が行ったり来たりする)、各章に中心となる人物の名をつけてくれたら、、と思わずにいられなかった。
にもかかわらず、大いに楽しめた。あとがきに、庶民女性版「戦争と平和」といってもよい、と、あったけれど、それはどうだろうか。
いつでも、どこにでも、ちょっと人聞きの悪い、だらしなくかっこわるい親戚はいるもので、かくいう私も他から見ればそういう人間だろう。
小野寺健氏の訳は半分あたりまでは、「ーーのだ」「ーーなのだ」「ーーなのだった」の頻出に参ったが、終盤はわりあいスムーズになってくる。
だが、本の見返しにある、「ピンク色のボタン、兎の足のお守り。そんな小さなものたちが、それぞれの記憶を語り始める」−−というリードを真に受けるとえらいことになる。
本書はそのような連作短編ぽい物語ではなく、読むのにも体力の必要な人生の理不尽さの詰まった年代記なのである。
つまり、ルビーは「観る人」であり、彼女を通して、本来ならば彼女が立ち会うはずのない母の、祖母の、曾祖母の子ども時代、娘時代、人生が語られていく。
繰り返される愚かな選択。女性が人生をやり直そうとするならば、結婚(または男)以外に手段がない時代。
時には、ポーカーの手を全取っ替えするように、大勢の子どもと夫を捨てていく。
「間違った」結婚は、ルビーの実の母バンティをも蝕み、子ども達の生活を悲惨なものにする。楽しみにしていた家族旅行が、クリスマスが最悪の結果に終わる。そして、どの世代においても病気で、戦争で、事故で、ばたばたと人が死に、家族が欠けていく。
だが、作者は感傷を一切排除し、淡々とルビーに語らせる。巧妙なしかけ=ルビーにつきまとう喪失感と、「パール」という名前の謎はこの大部な本の終わりになって、ようやく解明される。
巻頭に4世代に渡る系譜図がついているが、最初のうちは誰が誰やら、特に兄弟姉妹の名前を忘れ、混乱し、何度も系譜図を確かめた。
これだけの長編なのだから(しかも、時代が行ったり来たりする)、各章に中心となる人物の名をつけてくれたら、、と思わずにいられなかった。
にもかかわらず、大いに楽しめた。あとがきに、庶民女性版「戦争と平和」といってもよい、と、あったけれど、それはどうだろうか。
いつでも、どこにでも、ちょっと人聞きの悪い、だらしなくかっこわるい親戚はいるもので、かくいう私も他から見ればそういう人間だろう。
小野寺健氏の訳は半分あたりまでは、「ーーのだ」「ーーなのだ」「ーーなのだった」の頻出に参ったが、終盤はわりあいスムーズになってくる。
だが、本の見返しにある、「ピンク色のボタン、兎の足のお守り。そんな小さなものたちが、それぞれの記憶を語り始める」−−というリードを真に受けるとえらいことになる。
本書はそのような連作短編ぽい物語ではなく、読むのにも体力の必要な人生の理不尽さの詰まった年代記なのである。