今年のノ−ヘル文学賞を受賞したアリス・マンロ−の本はたくさん日本で翻訳されていますが、受賞後全部店頭から消えてしまいました。ようやく、増刷が終わり、手に入るようになっています。短編集「小説のように」。マンロ−の短編小説の最高峰を収めた本として名高い。裏表紙には、「マンロ−は、・・・家庭における悲喜劇の物語を、広く深い次元へとひろげていくのだ、魔術のように」、というニョーヨ−ク・レヴュ−の記事が紹介されています。
長い年月を見渡す視線を心に持つことができるマンロ−により、主人公の女性が忘れたはずの過去がそれを見ていたひとりの少女の手になる小説の中によみがえる短編、「小説のように」。
誰もが羨んだ夫婦に突然訪れる危機。そんなはずがないじゃないの、「月並みな考えを頑固にとぼとぼ辿りながら、足取りも鈍重で、頭の回転も鈍重な大工見習のエディ」に、主人公ジョイスの夫ジョンが惹かれるはずがない。けれども、気がついた時にはもう遅かった。「落ちる、・・今、ジョンはエディ−と恋に落ちてはいない。カチッ。今度は恋に落ちている。とてもじゃないけれど、こんなことがあるとは思えない。・・・人間を無能にしてしまう運命の一撃。澄んだ目をみえなくしてしまうたちの悪い冗談。」
ひとりの新人の小説。「酒浸りで大工見習の母が孤児院から引き取ったその少女は、美しく聡明な音楽の女性教師にあこがれていた。音楽教師はある時から、少しの間だけ、その少女にとても優しくなる。その少女は、大人になり、その時の音楽教師の質問の意味などを考え始めている。音楽教師は その少女の母親と新しい父親のことを質問して、つまるところ何を聴きたがっていたのだろう。やがて音楽教師はその少女の母親といれかわりに新しい父親の家を去る。」
ジョイスは、その少女の小説を偶然のなりゆきで手にとる。出版記念のためにその少女だった著者によるサイン会がジョイスの今住んでいる町の本屋で行われる。ジョイスは出かける。遠い日の自分を見つめていた一人の少女に会うために。
ジョイスは自身の容貌や才能に油断していただけだろうか。ジョイスと友達との日常的な会話。「男なんて、男のやることなんて。ほんとうに馬鹿げてて、いやんなっちゃう。とても信じられないわよ。」、女には男のことが理解できない。そのことがマンロ−の手により時間を人質にしてゆっくりと小説の背景を流れていく。そして日常に潜む危機を気づかせてくれる。
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小説のように (Shinchosha CREST BOOKS) 単行本(ソフトカバー) – 2010/11/1
- 本の長さ429ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2010/11/1
- 寸法13 x 2.8 x 18.8 cm
- ISBN-104105900889
- ISBN-13978-4105900885
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登録情報
- 出版社 : 新潮社 (2010/11/1)
- 発売日 : 2010/11/1
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 429ページ
- ISBN-10 : 4105900889
- ISBN-13 : 978-4105900885
- 寸法 : 13 x 2.8 x 18.8 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 286,822位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 82,614位文学・評論 (本)
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2013年11月14日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2013年11月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
わが敬愛するイタロ・カルビーノによれば、評論、批評などには惑わされず、作家には直接作品にあたるべし(「なぜ古典を読むのか」)ということなのだが、今回もまさにそうだった。
申し訳ないが、クレストのアンソロジーに入っているマンローの2作は実につまらなく、この作家、本当に「女王」なのかと思っていたら、ノーベルなんちゃらまでとってしまい、まあ、それはそれで昨今のアトウッドやマクラウド、ギルバートらのカナダ文学の活況のおかげかとも思い、めでたいのだが、なんとも落ち着かない気持ちで「小説のように」を読み始めた。
巻頭の「次元」で納得がいった。
すばらしい。これは見事な「喪失と獲得」の物語。
ダメな男にずるずると自分を見失い、喪失して行った主人公が、最後で(偶然とはいえ)すばらしいものを獲得する。
べつにオチがあるので良いとは言わないが、これには心打たれた。
ということで、後は読まなくとも期待できるのはまちがいないと感じた(いま読んでますが)。
思えば、チェーホフも通常の作品よりも、「賭け」などの方が好きな自分だし、その辺りが気に入ったのだろう。
もちろん、この長老だけでなく、他のカナダ作家にも注目です。
申し訳ないが、クレストのアンソロジーに入っているマンローの2作は実につまらなく、この作家、本当に「女王」なのかと思っていたら、ノーベルなんちゃらまでとってしまい、まあ、それはそれで昨今のアトウッドやマクラウド、ギルバートらのカナダ文学の活況のおかげかとも思い、めでたいのだが、なんとも落ち着かない気持ちで「小説のように」を読み始めた。
巻頭の「次元」で納得がいった。
すばらしい。これは見事な「喪失と獲得」の物語。
ダメな男にずるずると自分を見失い、喪失して行った主人公が、最後で(偶然とはいえ)すばらしいものを獲得する。
べつにオチがあるので良いとは言わないが、これには心打たれた。
ということで、後は読まなくとも期待できるのはまちがいないと感じた(いま読んでますが)。
思えば、チェーホフも通常の作品よりも、「賭け」などの方が好きな自分だし、その辺りが気に入ったのだろう。
もちろん、この長老だけでなく、他のカナダ作家にも注目です。
2011年2月5日に日本でレビュー済み
「事実は小説より奇なり」とひとは言う。
たしかに、世の中に、じぶんの身近にでさえ信じ難い出来事は少なくない。
それが世間を大きく騒がすようなスキャンダラスなものではなくても、だ。
十の物語のうち、最後の「あまりに幸せ」は実在した女性数学者の一生を
最期の数日を描きつつ振り返ったもの。これほどスケールは大きくはないけれど、
ほかの九編は身近な誰かの、あるいは自分自身の人生の一部と言っても過言ではない。
ああ、冒頭の「次元」もそれほど頻繁にあるシチュエーションとは言えないか。
あってほしくない、というのが本音だ。
どれもこころにちくりと針を刺されたような読後感がある。
とりわけ「子供の遊び」「女たち」「深い穴」…。
深い雪に囲まれて読んだせいか「木」も、ひとの愛情と生活について考えさせられた。
でもいちばんすきなのは「顔」。
ウォルター・デ・ラ・メアの"Away"という詩が、とても象徴的に使われているのだ。
原詩はこちらのサイトで見られる。
→http://www.humanitiesweb.org/human.php?s=l&p=c&a=p&ID=482&c=224
ウィリアム・トレバーといい、このマンローといい、
人生の酸いも甘いも噛み分けた短編の名手たちには、まだまだ驚嘆させられる。
たしかに、世の中に、じぶんの身近にでさえ信じ難い出来事は少なくない。
それが世間を大きく騒がすようなスキャンダラスなものではなくても、だ。
十の物語のうち、最後の「あまりに幸せ」は実在した女性数学者の一生を
最期の数日を描きつつ振り返ったもの。これほどスケールは大きくはないけれど、
ほかの九編は身近な誰かの、あるいは自分自身の人生の一部と言っても過言ではない。
ああ、冒頭の「次元」もそれほど頻繁にあるシチュエーションとは言えないか。
あってほしくない、というのが本音だ。
どれもこころにちくりと針を刺されたような読後感がある。
とりわけ「子供の遊び」「女たち」「深い穴」…。
深い雪に囲まれて読んだせいか「木」も、ひとの愛情と生活について考えさせられた。
でもいちばんすきなのは「顔」。
ウォルター・デ・ラ・メアの"Away"という詩が、とても象徴的に使われているのだ。
原詩はこちらのサイトで見られる。
→http://www.humanitiesweb.org/human.php?s=l&p=c&a=p&ID=482&c=224
ウィリアム・トレバーといい、このマンローといい、
人生の酸いも甘いも噛み分けた短編の名手たちには、まだまだ驚嘆させられる。
2017年8月14日に日本でレビュー済み
まず、誤解のないように記しておきますが、アリス・マンローは素晴らしい小説家です。
しかし、本書はアリス・マンローの描く「普通の人々の、世の中にとっては取るに足らない事象でも本人にとっては大事件」
ではなく、他の方書いていますが、「映画のような」出来事。「強盗」「殺人」などスキャンダラスな内容が多いようです。
これは好みの問題かもしれませんが、「イラクサ」など他のマンローの作品で感じた「深み」や「現実感」があまり感じられず、
上滑りのような感じがしました。
初めてマンローの作品をお読みになる方には「イラクサ」を強くお勧めします。
しかし、本書はアリス・マンローの描く「普通の人々の、世の中にとっては取るに足らない事象でも本人にとっては大事件」
ではなく、他の方書いていますが、「映画のような」出来事。「強盗」「殺人」などスキャンダラスな内容が多いようです。
これは好みの問題かもしれませんが、「イラクサ」など他のマンローの作品で感じた「深み」や「現実感」があまり感じられず、
上滑りのような感じがしました。
初めてマンローの作品をお読みになる方には「イラクサ」を強くお勧めします。
2013年12月13日に日本でレビュー済み
今年のノーベル文学賞受賞作家の短編小説集です。平易な言葉で書かれているのですが、中身が濃いので通読するのに気力を要し、幾度か読み返すこともありました。注意深く読まないと大事な箇所を見落としそうです。短編らしからぬ濃密さで人生の機微を描いた物語を読むごとに私は深い余韻に包まれました。
表題作「小説のように」は、子連れの若い女に夫を奪われた音楽教師が、新しい夫と再婚して何不自由なく暮らしている時にかつての自分のことを書いた小説を読み、胸が疼くという話です。このように本書には、悲しい話や苦い話が多く集められています。平穏な日常が予想もできないことで急展開し、人生を狂わせていくのです。人生の苦さを知った読者にこそふさわしい大人の短編集と言えるでしょう。村上春樹氏が彼女の小説を「間違いなく上級者向け」と評したのは納得できました。どうやらマンローの作品は読者を選ぶようです。
帯に「現代のチェーホフ」とあるのには違和感を覚えました。チェーホフの短編においては何も変わったことは起こらず、作家は人物の内面をひたすら描いて共感を呼ぶのです。チェーホフは流麗な文章によって読者を心地よい感傷に浸らせてくれます。それに対して、マンローは登場人物の突然の出来事や過酷な境遇を、感情を排して淡々と細密画のように描くのです。何十年もの人生を追い、それを凝縮して短編にして差し出すのです。その意味でマンローは、チェーホフよりもむしろウイリアム・トレーバーに近いと感じました。国際ブッカー賞の審査委員長が「彼女は30ページの中に他の作家の1冊分を詰め込む」と語ったのは有名な話です。
表題作「小説のように」は、子連れの若い女に夫を奪われた音楽教師が、新しい夫と再婚して何不自由なく暮らしている時にかつての自分のことを書いた小説を読み、胸が疼くという話です。このように本書には、悲しい話や苦い話が多く集められています。平穏な日常が予想もできないことで急展開し、人生を狂わせていくのです。人生の苦さを知った読者にこそふさわしい大人の短編集と言えるでしょう。村上春樹氏が彼女の小説を「間違いなく上級者向け」と評したのは納得できました。どうやらマンローの作品は読者を選ぶようです。
帯に「現代のチェーホフ」とあるのには違和感を覚えました。チェーホフの短編においては何も変わったことは起こらず、作家は人物の内面をひたすら描いて共感を呼ぶのです。チェーホフは流麗な文章によって読者を心地よい感傷に浸らせてくれます。それに対して、マンローは登場人物の突然の出来事や過酷な境遇を、感情を排して淡々と細密画のように描くのです。何十年もの人生を追い、それを凝縮して短編にして差し出すのです。その意味でマンローは、チェーホフよりもむしろウイリアム・トレーバーに近いと感じました。国際ブッカー賞の審査委員長が「彼女は30ページの中に他の作家の1冊分を詰め込む」と語ったのは有名な話です。
2013年10月29日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
たいへん清潔な美しい状態での発送をありがとうございます。人気が出ていることもあって多少、手元に届くのが遅れたことも、クレストの表紙を撫でれば、凪いでゆきました。
2011年11月5日に日本でレビュー済み
10篇とも長編小説を読んだ後のような歯ごたえのある読後感を残す濃密な短編小説で、10篇とも長編にすることも可能とさえ思わせる凝縮された作品世界で驚かされます。それらを敢えて長くしないで一瞬の閃光のようにまとめる手腕に著者の人並み外れた筆力を感じました。その1篇1篇も普通小説、サスペンス風、短い伝記等どれも似ていないオリジナリティーがありながら全てにアリス・マンローが書いたという統一感があるというレベルの高い作品集。作品の傾向は違いますが嘗てのスタンリィ・エリンのような凄みを感じました。私見ですが、もしかしたら重厚長大な小説が多いなか短くても素晴らしい小説は書ける、人間の一生を凝縮できる、という著者マンローの静かな主張なのかなとも思いました。10篇全て傑作の傑作集。心から堪能できました。