ドストエフスキーの長編で彼が最も愛していた『白痴』の謎とき。
著者の謎ときシリーズは、罪と罰、カラマーゾフと本編で途絶してしまったので、『悪霊』のそれはない。最近では亀山先生のものが出ているが、未完でも遺稿があれば出して欲しいものだ。
ところで、著者は例によって『白痴』に宗教と神話の要素を視る。
まず、主人公のムイシュキンがキリスト公爵であり、最も美しい人間としてのキリストを描こうとしたという事。ロシア−スイス−イタリアを実際に往還する著者は、主人公に一切暴力的ではない無能者を設定する。精神を病み狂気に彷徨う主人公を、見紛うばかりの豪華絢爛とした天国のようなキリスト教国の方から、故郷である極寒の地のロシアに帰還させ、頻り男女関係に塗れさせた上で再び、その間のスイスの地に再び幽閉してしまうというわけだ。
最も女性的な女性ナターシャは、フルネームがマグダラのマリアを髣髴とさせ、その名通りアナスタセー（復活）によって和解し得るだろう地に死ぬ間際行きたがる、それは彼女の故郷でもあった。
他方では、恋敵であり親友であるロゴージンは著者は言及していないものの顔（ロージャ）と言うよりギリシア語のロゴスだろうし、アグラーヤは明確に言及されるようにギリシア語の光である。三姉妹はギリシア神話の三美神（カリテス）アグライア、エウプロシュネ、タリアを象徴している。正に理性の光にペテルブルクでの主人公ムイシュキンは取り囲まれている。
生の復活（宗教）と理性の光（哲学）、どちらもドストエフスキーは認めた上で、神／悪魔の問題に改めて取り掛かるべきだ、と考えていたのかもしれない。これらが自明のものとして、教会や大学で組織的に規定通り訓詁学のように教えられるものとしてではなく、飽く迄深刻に問われるものとして。
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