小生は辞書ヲタクです。辞書を読んでは愉しんでいます。書店（古書店を含む）で手に入る辞書はほぼすべて持っている、まあ酔狂な奇人です。
さて、本書、のっけからおすすめします。と大上段に構えてしまいましたが、まあ、それは兎も角、出版社の宣伝文句を借りると、何せ、「事件」になった辞書、なのですね。いわゆる五大新聞の書評に取り上げられたのは勿論、東京新聞、共同通信（地方紙に配信）、時事通信、赤旗、河北新報、信濃毎日新聞、熊本日日新聞、紀伊民報、週刊現代、週刊ポスト、AERA、サンデー毎日、読売ウイークリー、週刊ダイヤモンド、…、NHKラジオ…など、各種メディア、こぞって絶賛、と帯にあります。
まあ、確かに、「事件」です。辞書がこれだけ注目されるのは。
ところで、その実力は如何にでありますが、これはもう太鼓判を押します。と大見得を切ってしまいましたが、そうなると理由を詳述せねばなりません。なので、お時間のお有りの方、少々お付き合いくださいませ。否、辞書ヲタクの駄文はもう結構とお思いの方には、本体9,500円の値打ちは有るとだけ申しておきましょう。
まず、申し上げたいのは、こんな漢和辞典はこれまでに無かったのみならず、今後も出て来そうもない、後にも先にも無い漢和辞典なのです。つまり、これまでの漢和辞典は、古代の中国語である「漢文」を読むために作られて来ました。「漢字源」然り、「漢字海」然り、その他数多の漢和辞典然りです。ところが、本書は、日本語の例えば熟語などの文章を読み書きするために作られた「漢字辞典」なのです。
例を挙げて説明しますと、秋刀魚です。熟字訓をご存知の方は良いですが、ご存知ではない方、読み方をどのようにして調べるかです。漢和辞典で秋の項を調べることになろうかと思います。「漢字源」は日本語読みを少しは載せている親切な漢和辞典なのですが、『シュウトウギョ・さんま』とあります。「漢字海」などの漢和辞典には載っていないのですね。なぜなら、「漢文」には秋刀魚は出て来ませんから。
秋桜はどう読みますか？他の漢和辞典には載っていません。浴衣も硝子も載っていません。
本書では、最初の漢字の、読み、画数などで、その漢字の項の熟語を当たると行き着く仕掛けになっています。
たとえば、硝子の硝は石偏の12画です。1591頁に有るとあります。硝の項に硝子があり、読みはガラス、語義と用例が載っています。
このように日本語の漢字熟語だけでなく漢文の漢字熟語を合わせて約４万７０００の熟語を載せています。
特筆すべきは、それらのすべてを五十音順で引ける熟語索引が巻末に収載されているところです。
たとえば、「しゃっくり」をどう書くか？「サンフランシスコ」をどう書くか？サンフランシスコなんて変換出来ますか？出来るにしても果たしてそれが正解かどうか分かりますか？辞書はその為に有ります。
勿論、漢和辞典、漢字辞典ですから、漢和辞典の体裁は整っています。解字は白川静先生の説を主として、常用漢字のすべてについて掲げています。
用例は、新潮文庫を主として明治以降の日本文学から収録されています。
熟語は先述しましたように微に入り細に入り収録されています。固有名詞も例に漏れません。
所謂、山車、躊躇う、蒲鉾、巫山戯る、我孫子、等々力、東海林、成吉思汗、英吉利、などなど。
熟語の読み書き、語義、用例などは読んでいて勿論面白いですが、出色の出来はやはり巻末の熟語索引でしょう。ボキャビルにもってこいだと思います。
と、最後までお読み頂きありがとうございます。兎に角、読んで面白い、日本語漢字辞典です。おすすめします。ぜひ一度手に取ってみてください。
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