著者である石田氏は以前自らのエッセーにおいて「僕は読者にどう気に入られるかではなく好きなものを書いている、伝えたい・訴えたいというような類のものは無い」というような主旨の記述をしていたように記憶している。
しかし、本作を含め石田作品には、その時代時代に対する彼なりのメッセージ性を感じずにはいられない。
本作は男勝りのキャリア・ウーマン千晶と、どこか億手で女性的なオタク系男子秀紀が、お互いの性を偽って登録したソーシャル・ネットワーキング・サービスのウェブサイトで交流を深め、しだいに恋愛に発展していく様を描いている。魂から共感できるパートナーを求めつつも、伝統的な男女観を意識して挑む現実の恋愛市場では上手くいかない二人、当初はお互いの性を偽ったやり取りに完結していたが、その関係は彼女らの現実世界とリンクしていき―。
物語のタッチは非常に軽快かつ、キャリア・ウーマンの方は恵比寿にある海外ブランドバイヤー、一方のオタク男子も実は今をときめくIT企業の敏腕ウェブ・デザイナーであり、物語の舞台となるのも恵比寿やお台場、汐留を彷彿とさせる都会のロケーション、そこで織りなされる恋愛模様と、トレンディ―ドラマ的である。
また著者の作品に共通して言えることだが、ロケーションや服装についての描写が非常に具体的である。数々のメディアに頻繁に登場し、洒脱な雰囲気を醸し出す著者らしく、その辺りの描写は十八番であるように思える。今回は特にアパレルブランドを扱う主人公の話とあって、ファッションの描写も多彩である。好き嫌いははっきり分かれるだろうが、都会的な作風が好きな読者にとっては非常に魅力的な作品であろう。
一方で、軽快な物語の根底には一貫して、伝統的な男女観に対するアンチテーゼを感じ取ることができる。
目の前の仕事、親からのプレッシャー、過去の恋愛に対するトラウマ―。結婚を強く意識する年代に差しかかってた現代の若者たちの微妙な心理や、伝統的な男女の在り方に対して微妙な違和感を覚えつつ、恋愛の形を模索している現代の若者の心理を巧みにとらえている。
あらゆる要因が相まって晩婚化が進んでいる現代。
恋愛に踏み出したいが「良い男(良い女)が居ない」という人もいるだろう。また、「良い男」「良い女」を演じることに疲れている人もいるだろう。
「男らしく、女らしく」という意識的あるいは無意識的なフレームを取り払ってみれば、恋愛に対する意識が変わってくるかもしれない―。そうした著者の囁きが聞こえるようである。
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REVERSE 単行本 – 2007/8/1
石田 衣良
(著)
- 本の長さ275ページ
- 言語日本語
- 出版社中央公論新社
- 発売日2007/8/1
- ISBN-104120038602
- ISBN-13978-4120038600
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登録情報
- 出版社 : 中央公論新社 (2007/8/1)
- 発売日 : 2007/8/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 275ページ
- ISBN-10 : 4120038602
- ISBN-13 : 978-4120038600
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,654,834位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 39,400位日本文学
- カスタマーレビュー:
著者について
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1960年東京生まれ。成蹊大学卒業。代理店勤務、フリーのコピーライターなどを経て97年「池袋ウエストゲートパーク」でオール讀物推理小説新人賞を受賞しデビュー。2003年『4TEENフォーティーン』で直木賞、06年『眠れぬ真珠』で島清恋愛文学賞を受賞(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『 5年3組リョウタ組 (ISBN-13: 978-4043854059 )』が刊行された当時に掲載されていたものです)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2013年5月4日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2011年6月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
石田氏の本は、いまどきの東京を垣間見る感じがして面白いですね。
すごい読みやすくて、2時間もののドラマを観終わったときみたいな感覚になりました。
それぞれの人物像も分かりやすく書かれていて
仕事の出来る人たちの恋愛って感じが、とても素敵です。
50歳になる私でも憧れます。
携帯もパソコンもなかった私たちの世代には考えれないけど
息子や娘が、こんな風に人と知り合い結ばれていくかもしれないですよね。
実際には、顔も姿も知らないけど、その内面で人間として惹かれあい
大切な人となっていく。
て、いうことは、私でも、今から始まるかも、なんて思わせてくれます。
すごい読みやすくて、2時間もののドラマを観終わったときみたいな感覚になりました。
それぞれの人物像も分かりやすく書かれていて
仕事の出来る人たちの恋愛って感じが、とても素敵です。
50歳になる私でも憧れます。
携帯もパソコンもなかった私たちの世代には考えれないけど
息子や娘が、こんな風に人と知り合い結ばれていくかもしれないですよね。
実際には、顔も姿も知らないけど、その内面で人間として惹かれあい
大切な人となっていく。
て、いうことは、私でも、今から始まるかも、なんて思わせてくれます。
2007年9月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ネット上での人格入れ替え(男→女、女→男)を使ったテーマながら、
読み薦めていく上でやはりいこれkんでしまうのは、著者の力量に拠るものだろうか。
最初は気軽に悪気もなく人格を入れ替えてそれぞれの気の合う相手とのコミュニケーションをとっている。
しかしながら、気の合うからこそ、ネットだからこそいえる事。
本音の相談を持ちかけながら、ずいずいと惹かれていく。
惹かれあえば惹かれあうほど、
リアルな世界が重くのしかかる。
真実が伝わった後の二人の行方が見所です。
読み薦めていく上でやはりいこれkんでしまうのは、著者の力量に拠るものだろうか。
最初は気軽に悪気もなく人格を入れ替えてそれぞれの気の合う相手とのコミュニケーションをとっている。
しかしながら、気の合うからこそ、ネットだからこそいえる事。
本音の相談を持ちかけながら、ずいずいと惹かれていく。
惹かれあえば惹かれあうほど、
リアルな世界が重くのしかかる。
真実が伝わった後の二人の行方が見所です。
2014年5月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
それぞれが性別を偽ってるのがどうやってバレてしまうのか期待しながら読み進めました。
バレてしまってからの展開がいきなり方向性が違ってしまった気がしてちょっと"うーん…"となりましたが、結論は静かに今の日本社会に一石を投じていると思います。
バレてしまってからの展開がいきなり方向性が違ってしまった気がしてちょっと"うーん…"となりましたが、結論は静かに今の日本社会に一石を投じていると思います。
2014年3月19日に日本でレビュー済み
丹野千晶が朝目覚めて最初にするのは、ノートパソコンの電源を入れることだった。
それは氷水のような雨が降る一月の暗い朝でも、うんざりするような日ざしが照りつける八月のまぶしい朝でも変わらなかった。だが、今朝は風薫る五月。一年で一番気持ちのいい季節であるうえに、待ち望んだメールがきているかもしれないのだ。自然に鼻歌がでてしまうのもあたりまえだった。 P3(ハードカバー)
それは氷水のような雨が降る一月の暗い朝でも、うんざりするような日ざしが照りつける八月のまぶしい朝でも変わらなかった。だが、今朝は風薫る五月。一年で一番気持ちのいい季節であるうえに、待ち望んだメールがきているかもしれないのだ。自然に鼻歌がでてしまうのもあたりまえだった。 P3(ハードカバー)
2014年7月18日に日本でレビュー済み
2度読みました。
1度目は、何年も前です。
その時は、楽しんだけど、気に入らなかったようです。
「変な設定の、普通の若者の恋の一つ」
だと思ったようです。
今回読んだら
「性差別問題への強烈な解決策ではないか?」
と思いました。
面白かったです。
いいと思いました。
1度目は、何年も前です。
その時は、楽しんだけど、気に入らなかったようです。
「変な設定の、普通の若者の恋の一つ」
だと思ったようです。
今回読んだら
「性差別問題への強烈な解決策ではないか?」
と思いました。
面白かったです。
いいと思いました。
2018年5月31日に日本でレビュー済み
石田衣良の小説は好きだけど、この小説の文章は少しカッコつけている感じがしました。
以前読んだ40代独身女性を主人公にした小説、確か、眠れぬ真珠?は良かったです。
あと娼年とか1ポンドの悲しみとか。
男性だけど女性的な視点・感性を持った方ですね。
以前読んだ40代独身女性を主人公にした小説、確か、眠れぬ真珠?は良かったです。
あと娼年とか1ポンドの悲しみとか。
男性だけど女性的な視点・感性を持った方ですね。
2007年8月29日に日本でレビュー済み
恋愛小説だけどHなシーンは全くありません。
でも、ストーリー展開がテンポ良く、キャラクターががみな魅力的で、どんどん引き込まれていき、
いつのまにか一気に読み終えていました。
男らしさ、女らしさに縛られ、恋愛も仕事も生きにくい世の中。
人を好きになるとはどういうことか、
男女の壁を超え、人間としてその人を好きになる
・・・そんな形もあっていいのではないか、と考えさせられました。
「アキヒト」こと千晶と「キリコ」こと秀紀が、数え切れないほどのメール交換をとおして心を通い合わせ、
会いたくてたまらなくなる気持ちは、読んでいる方まで切なくなってきます。
オフラインで会うことになってからの急展開&石田さんらしい?素敵なラストをどうぞお楽しみに!
でも、ストーリー展開がテンポ良く、キャラクターががみな魅力的で、どんどん引き込まれていき、
いつのまにか一気に読み終えていました。
男らしさ、女らしさに縛られ、恋愛も仕事も生きにくい世の中。
人を好きになるとはどういうことか、
男女の壁を超え、人間としてその人を好きになる
・・・そんな形もあっていいのではないか、と考えさせられました。
「アキヒト」こと千晶と「キリコ」こと秀紀が、数え切れないほどのメール交換をとおして心を通い合わせ、
会いたくてたまらなくなる気持ちは、読んでいる方まで切なくなってきます。
オフラインで会うことになってからの急展開&石田さんらしい?素敵なラストをどうぞお楽しみに!