『回送電車』は分冊化された濃密で珠玉のエッセイ集。
どの一冊でもいいから、バッグのすきまにしのばせるといいと思います。
この『アイロンと朝の詩人』に収録された、「運動と停滞」がまた、すばらしい! それは、著者が惹かれるテキストとはどのようなものか、について述べられているからです。
つまり、散文と詩が精密に織り込まれ、さらに物理的な移動の身体感覚をも自然に溶け込ませているテキストを読むのが好きだ、と。
高校生のときから惹かれていた『伊勢物語』を例にあげ、
“…盗人のいる平野に火を放てと命ずる追っ手の残忍さをつめこんで鮮烈なイメージを焼きつけ、またそれを増幅させているのは、まちがいなくあいだに挿入されている歌の力だ… (かなり乱暴な中略) …身体感覚は、土地から土地への移動、および作者が仕掛けた長短さまざまな段の配列のなかでの呼吸の仕方に由来している。(28-29頁)”
“運動と停滞、前進と後退、疾駆を匍匐がまじりあって楽音をひびかせるテキストに寄せる親和は、…(中略)…ジャック・レダの『パリの廃墟』をはじめて読んだときにも感じたことであった。(29頁)”
『パリの廃墟』にしても、同様の感覚で読まれています。
また、『郊外へ』執筆の動機付けは、四冊目の『象が踏んでも』の51頁目にあり、そのエッセイ「架設避暑地の陽光」から、読むではなく書くとなると、すこしちがった感覚でなされていることがわかります。
『おくのほそ道』や『笈の小文』になぜか言及がないことも、ある意味、興味をかきたてられます。
気に入る文章にも、いくつも出会えます。あえてひとつだけ選んであげるとすると、「門と壁のあいだで汗ばむこと」のなかの、岩波文庫の装丁についてのエッセイで、
“…薄手の、ときには乾燥して油っぽく変色し縁がパリパリと剥がれ落ちる粗末なグラシン紙を巻いただけの、質素な面もち。いうまでもなく岩波文庫である。服を脱がせるまえにもう脱いでいるようなその大人のたたずまいに、私はすっかり魅了された。(98頁、途中で段落あり)”
この『アイロンと朝の詩人』の装丁も、さりげなくグラシン紙でされていたら、なんとすばらしいのでしょう!
私はカバーをはぎとって読み、ひととおり読み終えてから、かけなおしました。
文庫化されている四冊、すべてがすばらしいエッセイなので、ここはぜひまとめて、アマゾンで買いましょう!
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アイロンと朝の詩人: 回送電車3 単行本 – 2007/9/1
堀江 敏幸
(著)
- 本の長さ287ページ
- 言語日本語
- 出版社中央公論新社
- 発売日2007/9/1
- ISBN-104120038661
- ISBN-13978-4120038662
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登録情報
- 出版社 : 中央公論新社 (2007/9/1)
- 発売日 : 2007/9/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 287ページ
- ISBN-10 : 4120038661
- ISBN-13 : 978-4120038662
- Amazon 売れ筋ランキング: - 384,491位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 11,823位エッセー・随筆 (本)
- - 39,968位ビジネス・経済 (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
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1964(昭和39)年、岐阜県生れ。1999(平成11)年『おぱらばん』で三島由紀夫賞、2001年「熊の敷石」で芥川賞、2003年「スタンス・ドット」で川端康成文学賞、2004年、同作収録の『雪沼とその周辺』で谷崎潤一郎賞、木山捷平文学賞、2006年、『河岸忘日抄』で読売文学賞を受賞。おもな著書に、『郊外へ』『いつか王子駅で』『めぐらし屋』『バン・マリーへの手紙』『アイロンと朝の詩人―回送電車III―』『未見坂』ほか。
カスタマーレビュー
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2008年3月7日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
まず一番最初の『ネクストバッターズサークル』の詠う物語から、惹きつけられる。それからフランス文学についての散文詩、日常における散文詩など続いていく。
文学の海の中をたゆたう航海を、美しい言葉の唄と一緒に、だた一人の航夫になって旅をしていく錯覚に陥る。陽の当たる部屋で読んでいると、自分の頭の影がページに映りこんで、澱みを残す。それが能動的に舵を操る本当の読者の姿かもしれない。
文学の海の中をたゆたう航海を、美しい言葉の唄と一緒に、だた一人の航夫になって旅をしていく錯覚に陥る。陽の当たる部屋で読んでいると、自分の頭の影がページに映りこんで、澱みを残す。それが能動的に舵を操る本当の読者の姿かもしれない。
2012年12月3日に日本でレビュー済み
入り口は広いのに、奥の部屋に入ったら究極の異性と二時間ゆっくりすごせた。
みたいなエッセイ集
どれくらい深いのか計測できないところが本物の証
みたいなエッセイ集
どれくらい深いのか計測できないところが本物の証
2007年11月6日に日本でレビュー済み
短い文芸評論とエッセイを集めたもの。
著者の書く小説とは違って、詩のような文体で書かれています。
一言一言をゆるがせにせず、ときにはいくらか突飛な比喩が使ってあります。
平易な言葉による弛緩と、比喩による緊張の絶妙なバランスとリズム感が
感じられる作品です。
文芸評論読むと自分がいかに不勉強か、表現力がないか、
感性に欠けているかを思い知らされて、胸が苦しくなりますが、
軽めのエッセイで一息つけます。
表題作の「アイロンと朝の詩人は」フランス語初歩の女子学生たちが、
まじめにお行儀よく勉強し、先生が穏やかに見つめているている教室の雰囲気が
伝わってきます。今の大学の語学の教室って、こんな感じなんですね。
著者の書く小説とは違って、詩のような文体で書かれています。
一言一言をゆるがせにせず、ときにはいくらか突飛な比喩が使ってあります。
平易な言葉による弛緩と、比喩による緊張の絶妙なバランスとリズム感が
感じられる作品です。
文芸評論読むと自分がいかに不勉強か、表現力がないか、
感性に欠けているかを思い知らされて、胸が苦しくなりますが、
軽めのエッセイで一息つけます。
表題作の「アイロンと朝の詩人は」フランス語初歩の女子学生たちが、
まじめにお行儀よく勉強し、先生が穏やかに見つめているている教室の雰囲気が
伝わってきます。今の大学の語学の教室って、こんな感じなんですね。
2007年10月11日に日本でレビュー済み
堀江さんの中でも、この回送電車シリース゛は私にはタマラナく好みのタイプの本です。短い散文集というかエッセイというか、書評も交じってるし、捕らえどころが、う〜ん...、というカテゴライズされる事を嫌う様な、いつもの堀江さんの文章です。
いつもの通りの、計算されていない様に感じさせる、そこから生じる素朴感を失わせずに、恐らくは緻密な計算のもとに書かれている、読ませているのであろう細かな伏線や気づき、些細な物事のささやかな違い、そこから感じられる穏やかな視線や、気遣いなどを読み手の心に余韻を残す、いつもの文章です。
中でも私が気に入ったものは、「ネクストバッターズサークル」の何処にも所属していない、宙ぶらりんのような円と、雨の日のバスに乗り込むときの濡れた傘との関係や、「メロンと瓜」の細かな記憶の糸がたどらせ、めぐり合わせたメロンと瓜から広がっていく世界の中の【顔】の事や、「古書センターで一万円がっちり買いまショウ。」の堀江さんが選ぶ本の関係性や、「新宿の西から早稲田の西へ」の受験生から新入生への変化の時期の人と人の些細な繋がりがもたらす変な感情、「プルーストへの感謝」の骨董店店主と私のやりとりのおかしみ、「この指と、この指と、この指が」の武田百合子の素晴らしさ!、「明かりの質」の白熱電灯への偏愛の吐露、「ドーラについて私が知っていること」のドーラと私と携帯電話の奇妙な関係、「スポーツマンの猫」のモーニングセットから繰り出される妄想の世界への旅立ち、「ファラオの呪いが町田まで。」の短い旅行記とも言える行程とファラオの呪いの正体、などなどさりげない、何気ない日常をたまらない何かに変えるチカラをもった文章が素敵です。
特に表題作「アイロンと朝の詩人」は素晴らしいです、「彼女はスラックスのうえを行ったり来たりする」から私が想像してしまったものと、朝の、知らないうちに詩人になってしまっていた生徒と先生の間柄は好きです。
堀江さんファンなら是非!、また知らなかった事に気づく楽しみを味わいたい方にオススメ致します、日常が変化していきます。タイトルをつけるセンスも(私個人が)好きです。
いつもの通りの、計算されていない様に感じさせる、そこから生じる素朴感を失わせずに、恐らくは緻密な計算のもとに書かれている、読ませているのであろう細かな伏線や気づき、些細な物事のささやかな違い、そこから感じられる穏やかな視線や、気遣いなどを読み手の心に余韻を残す、いつもの文章です。
中でも私が気に入ったものは、「ネクストバッターズサークル」の何処にも所属していない、宙ぶらりんのような円と、雨の日のバスに乗り込むときの濡れた傘との関係や、「メロンと瓜」の細かな記憶の糸がたどらせ、めぐり合わせたメロンと瓜から広がっていく世界の中の【顔】の事や、「古書センターで一万円がっちり買いまショウ。」の堀江さんが選ぶ本の関係性や、「新宿の西から早稲田の西へ」の受験生から新入生への変化の時期の人と人の些細な繋がりがもたらす変な感情、「プルーストへの感謝」の骨董店店主と私のやりとりのおかしみ、「この指と、この指と、この指が」の武田百合子の素晴らしさ!、「明かりの質」の白熱電灯への偏愛の吐露、「ドーラについて私が知っていること」のドーラと私と携帯電話の奇妙な関係、「スポーツマンの猫」のモーニングセットから繰り出される妄想の世界への旅立ち、「ファラオの呪いが町田まで。」の短い旅行記とも言える行程とファラオの呪いの正体、などなどさりげない、何気ない日常をたまらない何かに変えるチカラをもった文章が素敵です。
特に表題作「アイロンと朝の詩人」は素晴らしいです、「彼女はスラックスのうえを行ったり来たりする」から私が想像してしまったものと、朝の、知らないうちに詩人になってしまっていた生徒と先生の間柄は好きです。
堀江さんファンなら是非!、また知らなかった事に気づく楽しみを味わいたい方にオススメ致します、日常が変化していきます。タイトルをつけるセンスも(私個人が)好きです。
2007年11月20日に日本でレビュー済み
むかし和文タイプを打ったことがあります。そのときの一文字一文字を拾い上げていく感覚を覚えました。ぞんざいに言葉を選ばず、丁寧に、丁寧に。
文学のこと、身の回りのこと、世の中のこと、題材はさまざまです。
まったく知らない名前の文学者が出てきても楽しく読めました。
本当は一日ひとつづつ読みたかったのですが、タイトルに惹かれて、次々と頁をめくることになりました。
文学のこと、身の回りのこと、世の中のこと、題材はさまざまです。
まったく知らない名前の文学者が出てきても楽しく読めました。
本当は一日ひとつづつ読みたかったのですが、タイトルに惹かれて、次々と頁をめくることになりました。