何の予備知識もなく本書を読み始めたので最初は少しこの物語の構成に戸惑った。物語は夫を亡くして寂しい生活を送る36歳の平安貴族の庶子の露子が、父親に頼まれて今まで会ったことのない産みの母親の書き残した文書を読み始めるところから始まる。
そこに書かれた内容は源氏物語のような愛欲の渦巻く世界で、美しい母親が14歳で後深草院と関係を持つところから始まり、寵愛を受けているにも拘わらず、その一方で様々な別の男性とも関係を持つ様子が赤裸々に描かれる。平安時代らしく、常に和歌のやり取りがあるところは優雅であるが、その相手は女性と関係を持つことを禁じられている高貴な僧侶であったり、後深草院の兄弟であったりと、本来あり得ない相手であることに驚く。
この調子で物語は終わるのかと思っていたところ、終盤でで物語は急転直下する。院から暇を賜わったこの母親は30歳を超えたばかりでいきなり出家して、まるで西行法師のように日本各地を行脚する生活に入るのだ。この部分になると記録は断片的となるが、その中に綴られた後深草院への想いや最後の別れの場面には胸を打たれた。
そして最後に驚いたのが、荒唐無稽な人生をおくった女性が、著者の創作の人物ではなく、昭和13年に発見された「とわずがたり」という文献の著者であったことだ。実在の人物であることを知り、あらためてこの女性の数奇な運命に思いを巡らせた。
![Kindleアプリのロゴ画像](https://m.media-amazon.com/images/G/09/kindle/app/kindle-app-logo._CB666561098_.png)
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
恋衣とはずがたり 単行本 – 2009/3/1
奥山 景布子
(著)
- 本の長さ260ページ
- 言語日本語
- 出版社中央公論新社
- 発売日2009/3/1
- ISBN-104120040151
- ISBN-13978-4120040153
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
登録情報
- 出版社 : 中央公論新社 (2009/3/1)
- 発売日 : 2009/3/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 260ページ
- ISBN-10 : 4120040151
- ISBN-13 : 978-4120040153
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,570,322位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 400,993位文学・評論 (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
![奥山 景布子](https://m.media-amazon.com/images/I/01Kv-W2ysOL._SY600_.png)
著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
カスタマーレビュー
星5つ中3.7つ
5つのうち3.7つ![](https://m.media-amazon.com/images/S/sash//GN8m8-lU2_Dj38v.svg)
全体的な星の数と星別のパーセンテージの内訳を計算するにあたり、単純平均は使用されていません。当システムでは、レビューがどの程度新しいか、レビュー担当者がAmazonで購入したかどうかなど、特定の要素をより重視しています。 詳細はこちら
32グローバルレーティング
虚偽のレビューは一切容認しません
私たちの目標は、すべてのレビューを信頼性の高い、有益なものにすることです。だからこそ、私たちはテクノロジーと人間の調査員の両方を活用して、お客様が偽のレビューを見る前にブロックしています。 詳細はこちら
コミュニティガイドラインに違反するAmazonアカウントはブロックされます。また、レビューを購入した出品者をブロックし、そのようなレビューを投稿した当事者に対して法的措置を取ります。 報告方法について学ぶ
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2019年12月7日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
歌は有名ですが、なんとなく地味な人間性に興味が持てない歌人でした。が、こんな素晴らしい人だったら私も恋をしてしまいそうです。二人の想いにドキドキして読みました。お勧めの1冊です。
2012年5月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ずっと迷っていたのですが。とうとう読んでしまいました。でも類似の先行作品(
現代語訳 とわずがたり (新潮文庫)
、
新とはずがたり (講談社文庫)
、
中世炎上 (新潮文庫)
をどの程度越えられたかというと、その点では物足りなさが残った作品でもあります。
著者は、二条の娘をこの作品で、二条の「とはずがたり」の語り部とするという新しい視角を導入しています。しかしその視角のユニークさにもかかわらず、作品に新しい生命を吹き込むことには成功したとは言えないようです。娘による母の人生の再追跡というドラマティックな構図にもかかわらず、ストーリーの展開はどうも躍動することはありません。というよりも、「とはずがたり」という原作自体が余りにもドラマチックな作品であるため、なまじっかな再解釈を寄せ付けないのかもしれません。
しかしながら、作品の締めくくりに関しては。いつもながら見事なまでの作者の手腕です。後知恵という余韻は否めませんが、原作自体が昭和の時代に何百年もの忘却からよみがえるという稀有な運命を持っているのですが、それを暗示する見事な仕掛けが、著者によって最後に組み込まれてしまいます。しかしながら、どうして女性はこれほどこの作品に魅かれるのか、その秘密はまだよくわかりません。
著者は、二条の娘をこの作品で、二条の「とはずがたり」の語り部とするという新しい視角を導入しています。しかしその視角のユニークさにもかかわらず、作品に新しい生命を吹き込むことには成功したとは言えないようです。娘による母の人生の再追跡というドラマティックな構図にもかかわらず、ストーリーの展開はどうも躍動することはありません。というよりも、「とはずがたり」という原作自体が余りにもドラマチックな作品であるため、なまじっかな再解釈を寄せ付けないのかもしれません。
しかしながら、作品の締めくくりに関しては。いつもながら見事なまでの作者の手腕です。後知恵という余韻は否めませんが、原作自体が昭和の時代に何百年もの忘却からよみがえるという稀有な運命を持っているのですが、それを暗示する見事な仕掛けが、著者によって最後に組み込まれてしまいます。しかしながら、どうして女性はこれほどこの作品に魅かれるのか、その秘密はまだよくわかりません。
2022年9月30日に日本でレビュー済み
原作である「とはずがたり」は、我国古典文学における精華であり、資料としての価値も非常に高く 観点を変え 私小説として読んでも、近代を含め 数多の国内私小説の水準を遥かに凌駕している。作品の中に横溢する、著者 後深草院二条の魅力は、拝読する者のこころを永く惹きつけてやまない。
著者・二条の執筆後 七世紀あまりの星霜を経て、英訳出版され、アメリカにおいて「1974年 全米図書賞」を受賞している。
清少納言や紫式部による御所生活を綴った枕草子あるいは紫式部日記といった作品もがあるが、それらは天皇(上皇)本人ではなく「天皇の中宮(夫人)」付き女官の御所生活であり、天皇(上皇)に直接仕え、起居を共にした著者による御所内部の実際の記述は、例えようもなく生き生きとしている(健御前による回想録「たまきはる」も同列)。
また、「上」すなわち、お仕えする方から「寵を得る」ことの実態は、著者・二条の場合は己の人生を賭け、体を張った「男と女の一対一の勝負」であって、中宮付の女官のそれとは、全く重みが違う。
1938年(昭和13年)に、現在の宮内庁書陵部で、著名な国文学者である山岸徳平教授が発見し、時勢もあって一般向けの出版は戦後になったが、昭和15年には学術誌上にて ”『増鏡』にも影響を与えた、『蜻蛉日記』や『更級日記』に匹敵する作品である” と発表した。
要すれば、山岸教授は 単なる日記文学を超えて「人間を描く作品」として源氏物語・枕草子にも並びうる 最高峰の古典であると その炯眼を以て即時に評価したのである。
厳しく、激しい御所の生存競争の中にあって著者は天賦のうつくしさ、機転の利く賢さを以て、我国の歴史上で朝廷を「南北朝」を分けた二人の天皇である後深草上皇(第89代天皇)、亀山上皇(第90代天皇)の二人、そして上皇の同母弟にあたる仁和寺法親王や、若き西園寺実兼(のちの関白太政大臣)などの心を、強く捉えてゆく。特に、後深草上皇からは「中宮以上」の寵愛を受け、序列No.1の女官として女御の座を窺う勢いで、まさに「時めいて」いる存在であった(・・・正妻である中宮から、再三の悋気の訴えが上皇に寄せられていることは、後深草上皇の寵愛ぶりを裏書きしているとみてよい)。
しかし、その愛の在り方は昨今の私利私欲に満ちた下衆な恋愛とは画然たる相違があり、実に自然で流麗であり、いわゆる彼女の作品にこと掛けて、自らの野合・交合に流された人生の自己弁護を取り繕う昨今の多くの者たちの「私利私欲の厭わしさ」が全く感じられない。
その生き方の潔さ、そして行間にあふれる二条の可愛いらしさ、頭脳の明晰さ、文章の燦爛たる美しさは、日本古典文学を代表する作品 として未来永劫 読み継がれるものと強く感じる。
なお、昭和13年に「発見」された、宮内庁書陵部の「とはずがたり」桂宮本5冊(天皇宸筆本、
現在唯一残されている孤本)については、近時、影本(=写真版)も出版されている。
著者・二条の執筆後 七世紀あまりの星霜を経て、英訳出版され、アメリカにおいて「1974年 全米図書賞」を受賞している。
清少納言や紫式部による御所生活を綴った枕草子あるいは紫式部日記といった作品もがあるが、それらは天皇(上皇)本人ではなく「天皇の中宮(夫人)」付き女官の御所生活であり、天皇(上皇)に直接仕え、起居を共にした著者による御所内部の実際の記述は、例えようもなく生き生きとしている(健御前による回想録「たまきはる」も同列)。
また、「上」すなわち、お仕えする方から「寵を得る」ことの実態は、著者・二条の場合は己の人生を賭け、体を張った「男と女の一対一の勝負」であって、中宮付の女官のそれとは、全く重みが違う。
1938年(昭和13年)に、現在の宮内庁書陵部で、著名な国文学者である山岸徳平教授が発見し、時勢もあって一般向けの出版は戦後になったが、昭和15年には学術誌上にて ”『増鏡』にも影響を与えた、『蜻蛉日記』や『更級日記』に匹敵する作品である” と発表した。
要すれば、山岸教授は 単なる日記文学を超えて「人間を描く作品」として源氏物語・枕草子にも並びうる 最高峰の古典であると その炯眼を以て即時に評価したのである。
厳しく、激しい御所の生存競争の中にあって著者は天賦のうつくしさ、機転の利く賢さを以て、我国の歴史上で朝廷を「南北朝」を分けた二人の天皇である後深草上皇(第89代天皇)、亀山上皇(第90代天皇)の二人、そして上皇の同母弟にあたる仁和寺法親王や、若き西園寺実兼(のちの関白太政大臣)などの心を、強く捉えてゆく。特に、後深草上皇からは「中宮以上」の寵愛を受け、序列No.1の女官として女御の座を窺う勢いで、まさに「時めいて」いる存在であった(・・・正妻である中宮から、再三の悋気の訴えが上皇に寄せられていることは、後深草上皇の寵愛ぶりを裏書きしているとみてよい)。
しかし、その愛の在り方は昨今の私利私欲に満ちた下衆な恋愛とは画然たる相違があり、実に自然で流麗であり、いわゆる彼女の作品にこと掛けて、自らの野合・交合に流された人生の自己弁護を取り繕う昨今の多くの者たちの「私利私欲の厭わしさ」が全く感じられない。
その生き方の潔さ、そして行間にあふれる二条の可愛いらしさ、頭脳の明晰さ、文章の燦爛たる美しさは、日本古典文学を代表する作品 として未来永劫 読み継がれるものと強く感じる。
なお、昭和13年に「発見」された、宮内庁書陵部の「とはずがたり」桂宮本5冊(天皇宸筆本、
現在唯一残されている孤本)については、近時、影本(=写真版)も出版されている。
2018年6月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
うまい。知識としては知っていた「とはずがたり」だが、これほど生々しくリアルな人物として浮き上がってきたのは、奥山先生の筆致の巧みさと、語り手を娘としたからか。うまいなあ、と。短い時間でさらっと読めるのに、濃厚で五感を刺激される。
とはずがたり自体は後深草院二条の手による日記文学であり、原本それ自体が相当に刺激的な日記とも創作ともつかぬ大作なのだが、こちらはそれを踏まえつつもそこから大きく飛翔して、小説として完成している。読み返したくなった小説は久しぶりだ。
平安の世にはない院政の時代の乱れ爛れた様子、教科書では「色好み」程度にしか触れられない歴史だが、実際の渦中にいた人物の罪深さや懊悩がふわっと浮き出してきたよう。それでいて最後のオチまで品良く柔らかさを失わないのは、奥山先生のお人柄を感じる。
とはずがたり自体は後深草院二条の手による日記文学であり、原本それ自体が相当に刺激的な日記とも創作ともつかぬ大作なのだが、こちらはそれを踏まえつつもそこから大きく飛翔して、小説として完成している。読み返したくなった小説は久しぶりだ。
平安の世にはない院政の時代の乱れ爛れた様子、教科書では「色好み」程度にしか触れられない歴史だが、実際の渦中にいた人物の罪深さや懊悩がふわっと浮き出してきたよう。それでいて最後のオチまで品良く柔らかさを失わないのは、奥山先生のお人柄を感じる。
2022年11月1日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
昭和になって発見された「とはずがたり」を、書き手〈二条〉の娘〈露子〉が読み解いてというか、読みながら一喜一憂する物語り。
二条は天皇とその弟、近臣たちと関係しまくる。程度の差はあれ、それは露子も同じ。
これが小説として成り立っているのは、架空の人物である露子を設定して、その視点も導入していることだと思う。
はじめは「またか」と退屈だったが、テンポとコンテンツに慣れてくるにしたがって、作者の術中にはまってしまった。
二条は天皇とその弟、近臣たちと関係しまくる。程度の差はあれ、それは露子も同じ。
これが小説として成り立っているのは、架空の人物である露子を設定して、その視点も導入していることだと思う。
はじめは「またか」と退屈だったが、テンポとコンテンツに慣れてくるにしたがって、作者の術中にはまってしまった。
2021年3月29日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
流れるような文体が、時代的にとても似つかわしくて、引き込まれて行った。雅な宮廷で繰り広げられた母の恋物語を、中世の貴族社会に身を置くその娘が辿ると言う形式が、読者を二重に虜にする。
目眩くような男と女の話を、家庭の主婦が厳しい眼で咎め立てしている。現代のワイドショーのような展開にも似ていなくもない。夢物語と現実の対比とも思えてくる。
とにもかくにも、ただただ面白く、読み始めると止まらなかった。当時の風俗、習慣、衣装、生活、遊興等々も知り得て、読みごたえのある作品でした。
目眩くような男と女の話を、家庭の主婦が厳しい眼で咎め立てしている。現代のワイドショーのような展開にも似ていなくもない。夢物語と現実の対比とも思えてくる。
とにもかくにも、ただただ面白く、読み始めると止まらなかった。当時の風俗、習慣、衣装、生活、遊興等々も知り得て、読みごたえのある作品でした。