新刊で手に入る戸塚さんの本はすべて読んできました。フランス、パリに向ける視線は、日本ではかなり特別なものがあると思います。それだけに人の好みも多種多彩ですが、私は戸塚さんの、華やかではないけれども美しい、ときに厳しくさえ感じられるけれども根底にやさしさのにじみでる、質実で簡素な生活の筆致がとても好きです。
文章の向こうに、パリという歴史の重み（日本人には見えにくくなっている「階級」の縛りなども含めて）と革新とを重ねてきた都市に足をつけて生きてきた強靭でしなやかな一人の日本人女性の姿、その驕らない誇りと謙譲な知性と豊かな感性とが垣間見える思いがするのです。
とりわけこの本、読むことで何度パリはカルチェラタンを経廻ったかわかりません。大路小路の風景ばかりでなく空気の匂い、物の手触り、石畳を歩く靴底の感触まで感じられます。本文にある辻邦生さんの言葉を借りるなら、この本を読むことは私にとって、「真弓さん、『地上にある幸せ』」です。
「最期の日にも自分の作った食事を食べたいなと思っている」という一文で締め括られる本書。戸塚さん、どうぞぜひ、戸塚さんの書いた文章を、「地上にある幸せ」を、味わい続けさせてくださいますように。…と思っていたら『じゃがいもびいき』が出ました。「幸せ」がまたひとつ増えました、ありがとう。
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