敬愛する名文家でフランス文学者の杉本秀太郎氏がご逝去されて半年がたとうとしています。
本書の筆者である杉本氏は国際日本文化研究センター名誉教授で、日本芸術院会員であり、日本エッセイスト・クラブ賞、芸術選奨文部大臣新人賞、読売文学賞、大佛次郎賞などを受賞した京都を代表する名文家です。生家の京呉服商「奈良屋」は町家建築の代表と言うべき建物で、杉本家住宅として保存維持活動をされています。
本書では、日本文化や芸術に造詣が深い筆者の遺し、発表されてきた美術評論を1冊の本にまとめられたものでした。特に俵屋宗達に関する評論は美術史家のような精緻で鋭い感覚で書かれていますし、日本文学の半端ない知識の深さが随所に感じられ、読み応えがあります。
他の項目もそうですが、カラーの図版が時折挿入されてあり、絵画のイメージがつかめるように配慮してありますので、文章だけの本とは見やすさに一線を画していました。
100ページほどの分量で「宗達のこと」「宗達経験」を論じており、これだけでも十分でしたが、次の章の「絵画と記憶」「ウッチェロ―サン・ロマノの合戦図」「ピサネロ小記」「ピサネロまたは装飾論」とかなり専門的な評論が続きます。
14世紀にイタリアのヴェローナに残されている画家ピサネロについての言及は、まるで西洋美術史家が描く画家の略伝のようであり、正当な美術評論でした。152ページにピネサロの代表作の一つ「エステ家の姫君(ルーヴル美術館)」の図版が掲載してありますが、見事な肖像画です。
19世紀フランスの印象派の画家ゴーギャンについては、「ゴーギャンの一点」「ゴーギャン画中の鯨」の2つの評論で、時代も国も越えて論じるところが博覧強記でならした筆者の本領発揮と言えるでしょう。いずれも美しい日本語で綴られており、文章読本の見本になるような美しい文章が続きます。
249ページ以降は「余技の画人たち」「額縁について」「アール・ヌーヴォーの寄生木」「見る悦び」「リュルサの光」「クレー落日の風景」「見つけた水差」「応挙供養」「雪舟留学」「浅井忠の水彩画―秋林」「形の生態誌」という幅広い美術ジャンルへの言及でした。まさしく知識の深さを知るには、この方の本を読めば真の教養とは何かということを教えられることでしょう。『見る悦び』という書名が全編を貫いていました。
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見る悦び - 形の生態誌 単行本 – 2014/9/24
杉本 秀太郎
(著)
宗達の屏風から、ある時ふと目にした日常の水差しまで、美の正体に言葉で迫る。縦横無尽・天衣無縫の美術論。カラー図版多数収載。
- 本の長さ389ページ
- 言語日本語
- 出版社中央公論新社
- 発売日2014/9/24
- ISBN-104120046532
- ISBN-13978-4120046537
登録情報
- 出版社 : 中央公論新社 (2014/9/24)
- 発売日 : 2014/9/24
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 389ページ
- ISBN-10 : 4120046532
- ISBN-13 : 978-4120046537
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,309,316位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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