高階氏の絵画論について論じる前に、氏の静謐かつ豊かな表現に満ちた文章について語ることを避けて通ることはできない。
そもそも絵画(特に、近代の抽象絵画など)とは、言葉で表すことのできない美を表現するためにその存在価値があると言ってしまえば、質の低い評論に遭遇して落胆してしまうのは必然であり、実際そのようなことがたびたび起こる。
そういう意味で、極めて主観性の高い絵画に対して、我々読者にあらためてその魅力を知らしめ、さらに新たな視点や興味を呼び起こしてくれる氏の文章は、私にとっては大きな魅力を持っている。
高階氏は、現在大原美術館の館長をされていて、ほとんどテレビの美術番組などで拝見することはないが、やはり氏の評論の価値は、著書からしか感じられないのかもしれない。
上下巻にわたる本書の中心は、やはり印象主義から、フォーヴィズム、キュビズム、シュルレアリズムに至る大きな潮流についての部分だと思うが、なかでも特筆すべきは、第15章、16章のマティスを中心としたフォーヴィズムについてだろう。
一般に、フォーヴィズムは、印象主義やキュビズムほど多く取り上げられることはないが、本書では、モローの寛容な(個性を大事にする)指導を受けたマティスやマルケに始まった豊かで独創的な色彩を用いた表現主義としてのフォーヴィズムが、ヴラマンクやドランとともに広がりを見せていく様が、わかりやすく解説されている。さらに、その流れが絶頂期を迎えた後、急速に衰えていくなかで、マティスだけは、その理知的な性格を発揮して、他のフォーヴ同様大胆な色使いではあるが、その一方で整然とした安定感と豊かな秩序を守り続けていく。
また、後年、キュビズムにおいて中心的な役割を果たすことになるブラックをフォーヴィズムに導いたのもマティスであり、キュビズムが生まれるための底流をつくった彼の役割も紹介されている。
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近代絵画史 下: ゴヤからモンドリアンまで (中公新書 386) 新書 – 1975/2/25
高階 秀爾
(著)
近代の西欧美術を概観してもっともスタンダードな"読める"通史
- ISBN-104121003861
- ISBN-13978-4121003867
- 出版社中央公論新社
- 発売日1975/2/25
- 言語日本語
- 本の長さ216ページ
登録情報
- 出版社 : 中央公論新社 (1975/2/25)
- 発売日 : 1975/2/25
- 言語 : 日本語
- 新書 : 216ページ
- ISBN-10 : 4121003861
- ISBN-13 : 978-4121003867
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