近くの園芸センターで、鮮やかなオレンジ色の花が咲きこぼれるエラチオールベゴニア、ピンクのかわいらしい小さな花たちが寄り添っているプリムラマラコイデス、黄色い果実と、それが割れて現れた赤い種子の交ざり具合が面白いツルウメモドキを購入しました。小振りの鉢のツルウメモドキは、複雑に絡み合った根が地上にも表れていて、得も言われぬ趣があります。
閑話休題、『地中海都市周遊』(陣内秀信・福井憲彦著、カラー版中公新書)は、小さな宝石のような書物です。「地中海は人類の歴史にとって、豊かな文明を生み出す重要な舞台であった。この海を媒介にして、多くの民族が行き交い、また争い、この交流の中で多彩な文化が育まれ、各地に特徴ある都市を形成してきた」。地中海諸都市はキリスト教とイスラムの子供たちなのです。
「地中海世界は魅力的だ。海を懐に抱いた広くて多様な世界である。しかし多様でありながら、訪れた各地で通奏低音のように心に響いてくるのは、そこに暮らす人たちがほんとうに人生を楽しんでいるように、おたがいの関係を、そして町と自分たちとの関係を、豊かに濃密に生きている様子である」。
著者の二人が地中海のグラナダ、コルドバ、トレド、マラケシュ、フェズ、ダマスクス、アレッポ、ヴェネツィア、ヴェネトといった都市を巡り歩く足音、語り合う声が聞こえてくるような錯覚に陥ってしまいます。
ヴェネツィアでの会話は、こんな風に展開していきます。
「福井:僕は裏が好きだから(笑)。裏道を歩いていると本当におもしろい。やっぱり、よく迷宮都市といわれたりするけど、地形とか通りが全然まっすぐじゃないんですよね。微妙によじれたり、角張ったり。
陣内:やっぱり古い時代にできたところのほうが自然体でできているので、運河も曲がっているし、変化に富んでいる。
福井:ですから、まあ、ヴェネツィアの人はかなり早足で歩いているという話もありましたけど、ゆったり歩こうと思えば、また、ゆったり歩いたおもしろさがある。随所にマリア像があったり、あれも一種の道祖神じゃないですが、おさえですよね。それがあって、そんなのを眺めているだけでも本当におもしろい」。
ヴェネツィアは、光と影が交錯して水辺が煌めき、路地が入り組む、まさに迷宮都市なのです。
「陣内:(ゴンドラの)船頭は、ゴンドリエレというんですが、一人で漕ぐわけですね。左後方に立つんです。右側に艪を入れるんで、それで、バランスを考えながら漕いでいくわけですけれども、荷重が左後ろにかかるんで、均等にかからないことになる。そちら側に浮力を働かせないとひっくり返っちゃうわけです。それで、腰をキュッとひねったような非対称形になるわけなんです。それが美しい。だから、単純にシンメトリーというのはどうもおもしろくないわけで、ヴェネツィアというのは非シンメトリーの美学であって、非西欧的ですね。
福井:うん、非西欧的というか、非ルネサンス的で非近代的という感じ。ある種、生命的なものをすごく感じさせる。
陣内:だから、バランス、有機性。あらゆる機能と形態とセンスみたいな感じ。総合化されてすべてができている」。
またまた、ゴンドラに乗りたくなってしまいました。
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地中海都市周遊―カラー版 (中公新書 1542) 新書 – 2000/7/1
- 本の長さ256ページ
- 言語日本語
- 出版社中央公論新社
- 発売日2000/7/1
- ISBN-104121015428
- ISBN-13978-4121015426
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登録情報
- 出版社 : 中央公論新社 (2000/7/1)
- 発売日 : 2000/7/1
- 言語 : 日本語
- 新書 : 256ページ
- ISBN-10 : 4121015428
- ISBN-13 : 978-4121015426
- Amazon 売れ筋ランキング: - 615,784位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 2,359位中公新書
- - 4,273位紀行文・旅行記
- - 7,418位海外旅行ガイド (本)
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2009年3月1日に日本でレビュー済み
イタリア建築とフランス史の専門家が、地中海の魅力溢れる都市について語り合った内容をまとめた本です。空間的にも時間的にも複雑な成り立ちを持つ地中海地域について、専門家ならではの視点でありながら、あくまで親しみやすい言葉で語られています。
お二人の著者がこの土地を心から楽しみ、そこに住む人々を愛している様子が生き生きと伝わってきて、読んでいて気持ちのよい本です。私はこの本を読んでいる時間は、地中海地方へ旅をしている気分に浸っていました。
カラー写真などもバランスよく掲載されいて、一般向けの新書版書籍として良心的な内容と価格だと思います。最近多く出版されている素人の旅行記などに物足りなさを感じている人にはお勧めです。
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