本書の構成は大きく2つである。1つはマグダラのマリア像の形成過程,もう1つはマグダラのマリア信仰の変遷である。
マグダラのマリアはキリスト教カトリックでは重要な聖女であるが,他の教派ではそうでもない。なぜなら,『聖書』における彼女の活躍は,実は描写が少ない。残りの「設定」,つまりマルタ・ラザロの妹であったり娼婦であったりするするのは後世のカトリック教会による後付に過ぎないからだ。確かにその数少ない描写は,イエスの復活に最初に気づいた人であり,いわゆるノリ・メ・タンゲレの場面であるから,重要には違いない。が,そこだけなのである。残りの設定は元々,「別のマリア」(ベタニアのマリア,罪深い女)のものであったが,カトリック教会はあえて同一視を進めた。この後付がなぜ,どのように行われたのかを見ていくのが第1章である。
残りのすべて,つまり第2章から第4章はマグダラのマリア信仰の変遷を扱っている。当初のマグダラのマリアは悔悛する姿が強調された。最も罪深い娼婦であっても,深く悔悛すれば救われる代表例などとして扱われた。ゆえに,彼女は地味な描かれ方であった。ところがルネサンスが到来した頃から,「元は娼婦なんだから着飾ってる美女で当然」,「いつかは悔悛すればいいのだから若い内は人生を楽しんで良いというのがマグダラのマリアの教訓」という論理の転倒が行われ,実在の高級娼婦や有力者の愛人をモデルに,きらびやかにも自慢の金髪をたなびかせるマグダラのマリアが量産されていった。その後,宗教改革・反宗教改革の流れで服装自体は地味になるが,一方で金髪美女の設定は残る。そしてバロック期に今度は「聖女だから,悔悛後・苦行後でも美しさは失われない」という理屈が加わり,さらにアビラのテレサに代表される「法悦」の概念も強調されていく。
結果としてさまざまな要素が合体し,「服はボロだけど金髪美女がなんか恍惚として香油の壺かドクロを持ってる」という,我々のよく見るマグダラのマリア像が完成した。金髪美女のエロティックな姿を描く良い口実になっていったのである。本書はこれらの流れを,中世から近世にかけての絵画作品や当時の知識人たちの文章を引用して,詳細に追っている。特に図版が多く,図版自体がマグダラのマリア像の変遷をよく示しているので,非常にわかりやすい。中世→ジョット→ボッティチェリ→ティツィアーノ→グイド・レーニと見ていくと,想像以上にイメージがころころと変わっているのがわかり,おもしろい。
ところで,本書のあとがきではマグダラのマリアが登場するフィクションが多く挙げられており,創作の良い種になっていることが説明される。しかし,『ダ・ヴィンチ・コード』について一切触れられていない。本書の初版が2005年で,『ダ・ヴィンチ・コード』は2003年に英語版,2004年に日本語版であるから,挙げようと思えば挙げられたはずである。加えて言えば,2004年の映画『PASSION』は挙げられていた。というよりも,マグダラのマリアをキリストの妻として扱った作品は一切挙げられていない。著者としては,その説だけはない,ということなのだろうか。
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マグダラのマリア: エロスとアガペーの聖女 (中公新書 1781) 新書 – 2005/1/1
岡田 温司
(著)
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聖母マリアやエヴァと並んで、マグダラのマリアは、西洋世界で最もポピュラーな女性である。娼婦であった彼女は、悔悛して、キリストの磔刑、埋葬、復活に立ち会い、「使徒のなかの使徒」と呼ばれた。両極端ともいえる体験をもつため、その後の芸術表現において、多様な解釈や表象を与えられてきた。貞節にして淫ら、美しくてしかも神聖な〈娼婦=聖女〉が辿った数奇な運命を芸術作品から読み解く。図像資料多数収載。
- ISBN-104121017811
- ISBN-13978-4121017819
- 出版社中央公論新社
- 発売日2005/1/1
- 言語日本語
- 本の長さ238ページ
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登録情報
- 出版社 : 中央公論新社 (2005/1/1)
- 発売日 : 2005/1/1
- 言語 : 日本語
- 新書 : 238ページ
- ISBN-10 : 4121017811
- ISBN-13 : 978-4121017819
- Amazon 売れ筋ランキング: - 201,913位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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2014年5月10日に日本でレビュー済み
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2011年10月12日に日本でレビュー済み
昔の西洋世界では、特に女性の場合、同名の人物が多く、
マリアと名のつく女性もけっこうたくさんいたそうです。
そこで、彼女たちを区別する為に’〇〇のマリア’とか’△△のマリア’とか呼んでいたそうです。
もともと聖書に登場する’マグダラのマリア’は、キリストの親愛厚い貞節なる人物で、
’マグダラ’というのは、地名なんだそうです。
私たちが彼女に対して、なんとなく持っている’娼婦’というイメージは、
後年、彼女の存在を貶めようとした教会側のイメージ戦略によるものであった、とのこと。
彼女と同名である’娼婦マリア’と’マグダラのマリア’を意図的に結びつけ(混同させて)、
教会の方針である男性優位のイメージを宣伝・流布させるのに使った、とか。
このことがわかっただけでも、この本を読んで良かったです。
ただ、全体的には、絵画に関して専門的な用語・人物名が多く、
読み通すのにパワーが必要でした。
素人にもわかりやすくまとめて欲しかったところです。
マリアと名のつく女性もけっこうたくさんいたそうです。
そこで、彼女たちを区別する為に’〇〇のマリア’とか’△△のマリア’とか呼んでいたそうです。
もともと聖書に登場する’マグダラのマリア’は、キリストの親愛厚い貞節なる人物で、
’マグダラ’というのは、地名なんだそうです。
私たちが彼女に対して、なんとなく持っている’娼婦’というイメージは、
後年、彼女の存在を貶めようとした教会側のイメージ戦略によるものであった、とのこと。
彼女と同名である’娼婦マリア’と’マグダラのマリア’を意図的に結びつけ(混同させて)、
教会の方針である男性優位のイメージを宣伝・流布させるのに使った、とか。
このことがわかっただけでも、この本を読んで良かったです。
ただ、全体的には、絵画に関して専門的な用語・人物名が多く、
読み通すのにパワーが必要でした。
素人にもわかりやすくまとめて欲しかったところです。
2023年12月28日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
福音書の記述からはじまって、マグダラのマリア像が長い時間をかけて描かれていったんだと分かりました。良い本でした。キンドルで読むのをおすすめします。画像が見やすくなります。巻末近くの参考の映画を観てみます。
2016年10月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
新書を読むのは久しぶりですが、面白かったです。聖書は表面のあらすじをなぞるぐらいで、浅い読み方しかしていませんでしたが、この「マグダラのマリア」のイメージの変幻自在なこと。「何者?」と引き込まれます。様々な角度から、興味深い説明がなされています。
2013年9月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
キリストから罪を許され、復活したキリストの最初の証人になった女性。売春婦だった人と目され、人々からさげすまれていた人。
2005年2月20日に日本でレビュー済み
クリスチャンを除いて、マグダラのマリアを知っている日本人は殆どいないと思う。
この本を初めて手にとって聖書にこんな女性が登場していたのかと
聖書のイメージを良い意味で壊してくれていると思う。
また、クリスチャンにとってもマグダラのマリアのことは聖書では
あまり詳しく紹介されていないので、良い情報源にはなると思います。
特に時代時代によって、マグダラのマリアの捉え方がどう変わって、
今後も変わり続けていくような、本当に彼女の存在は今も生きていることが分かりました。
ただ、あまりに時代の流れを詳しく調べるが故、筆者の持論と言うのがほとんどないのが残念である。
また、内容もノンクリスチャンも読むことを想定して書かれているので
紹介記事もどっち付かずの中途半端な感は否めません。
それから、一番気になったのが、挿絵とそれを説明しているページが離れていたり絵が多すぎて、
著者の意図としては詳しく解説しているつもりだろうが、
逆にぼやけてしまっているように感じられる。
そう言う意味もあって評価は厳しくしましたが、貴重な本と言うことは間違いないので、
再版された時に、もう少し分かりやすいレイアウトになることを望みます。
この本を初めて手にとって聖書にこんな女性が登場していたのかと
聖書のイメージを良い意味で壊してくれていると思う。
また、クリスチャンにとってもマグダラのマリアのことは聖書では
あまり詳しく紹介されていないので、良い情報源にはなると思います。
特に時代時代によって、マグダラのマリアの捉え方がどう変わって、
今後も変わり続けていくような、本当に彼女の存在は今も生きていることが分かりました。
ただ、あまりに時代の流れを詳しく調べるが故、筆者の持論と言うのがほとんどないのが残念である。
また、内容もノンクリスチャンも読むことを想定して書かれているので
紹介記事もどっち付かずの中途半端な感は否めません。
それから、一番気になったのが、挿絵とそれを説明しているページが離れていたり絵が多すぎて、
著者の意図としては詳しく解説しているつもりだろうが、
逆にぼやけてしまっているように感じられる。
そう言う意味もあって評価は厳しくしましたが、貴重な本と言うことは間違いないので、
再版された時に、もう少し分かりやすいレイアウトになることを望みます。
2022年2月28日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
思ったより本の状態 中の状態も良かったし
値段も安い。
これからも中古で探します。
値段も安い。
これからも中古で探します。