アドルフ・ヒトラーの政権獲得の運動からナチス政権樹立以降の政策にヒトラー自身の演説がどのような効果を生んだのかを年代別に考察する。
ヒトラーと言えば「群集が熱狂するような演説で大衆を扇動した」というようなイメージを抱いている方も多いだろう。しかし、必ずしもそうではないようだ。
運動のごくごく初期の段階で党内でヒトラーが地位を固めるに当たって彼の演説が他の党員に比して力があり、聞いている人間を魅了したという点は間違いない。事実としてシュペアー、ヘス、レームといった後のナチスの中核を成していくメンバーもヒトラーの演説に魅了されてナチスに入党している。
しかし、ヒトラーは時に興奮のあまり訳の分からない事を言ったり論理が矛盾したりと言うことも多々あり、効果的な演説技術を身に付けるために講師を招いて秘密裏に指導を受けたことも判明している。
ミュンヘン一揆が失敗して釈放されたヒトラーは得意の演説を一時期禁止されてしまい、それに伴ってナチスの勢力も衰え始める。しかし、世界恐慌で国内が混乱した事でナチスを支持する人々が増え始め、ちょうど演説を聞く聴衆の数が増え始めて、ヒトラーがビヤホールで直接語りかけるような規模ではなくなってきたタイミングでラウンドスピーカーが登場して多くの聴衆にもヒトラーの声が届くようになったのは好都合だった。
政権獲得後はラジオ放送でヒトラーの演説を国民に広く聞かせることができるようになった。
宣伝大臣のゲッベルスがわざわざ国民に安価なラジオを配ってまで強制的に演説を聞かせるようにしたのだが、これは失策であった。国民の多くが強制的に聞かされる演説に飽き始めてしまったのだ。
さらに政権獲得後は「平和」を口にしていたヒトラーが徐々に戦争の準備を進め始める。
ポーランド侵攻の際でも国民の多くは「早期の戦争終結」を望んでおり、東方への領土拡大を目指すヒトラーとは意識に乖離があった。
やがて戦況は独ソ戦を境に激化するが、戦況を正確に報告しないヒトラーに国民の心は徐々に離れていく。
そもそもヒトラー演説は「白か黒か」という対比で片方を選ぶように仕向けたり、単純な言葉を繰り返し繰り返し教え込んだり、具体的な内容に乏しい抽象的な言葉ばかりを挙げたり、話のレベルを一番頭の悪い大衆のレベルまで下げることを意識したりと大衆を扇動する為に都合のいいことばかり言っている。
戦争が長期化するとヒトラーは心身を病んで国民の前で演説することも叶わなくなる。
さらに戦況の悪化がそれに追い討ちをかけて、「状況が好転しないので演説はできない」というヒトラーの理論が益々ヒトラーへの国民の信頼を失わせてしまう結果になった。
戦争をせずにオーストリアやスデーデン地方を割譲・併合させたところまでは国民もヒトラーを支持したのだが、戦争が始まることまでは国民は望んでいなかったので実際に戦争が始まると国民の関心は「いつ戦争が終わるのか」に絞られてしまい、ヒトラー自身が戦争終結の時期を考えていないのでそもそもその問題には回答ができず、国民の不満が高まるという悪循環に嵌り込んで行く。
最早、演説では実際の戦況を覆すことができなくなった時、進退窮まったヒトラーはベルリンでその命を絶ったのだ。
プライム無料体験をお試しいただけます
プライム無料体験で、この注文から無料配送特典をご利用いただけます。
非会員 | プライム会員 | |
---|---|---|
通常配送 | ¥410 - ¥450* | 無料 |
お急ぎ便 | ¥510 - ¥550 | |
お届け日時指定便 | ¥510 - ¥650 |
*Amazon.co.jp発送商品の注文額 ¥2,000以上は非会員も無料
無料体験はいつでもキャンセルできます。30日のプライム無料体験をぜひお試しください。
新品:
¥880¥880 税込
ポイント: 9pt
(1%)
無料お届け日:
3月21日 木曜日
発送元: Amazon.co.jp 販売者: Amazon.co.jp
新品:
¥880¥880 税込
ポイント: 9pt
(1%)
無料お届け日:
3月21日 木曜日
発送元: Amazon.co.jp
販売者: Amazon.co.jp
中古品: ¥130
中古品:
¥130

無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
ヒトラー演説 - 熱狂の真実 (中公新書 2272) 新書 – 2014/6/24
高田 博行
(著)
{"desktop_buybox_group_1":[{"displayPrice":"¥880","priceAmount":880.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"880","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"LmRCEvdm9CVOBqjuJ2KaIf4jyPxM6lkMOdrGGnUP8mxE0DOYR%2B81%2BFe45gfgu8%2Bb%2BEAMMY3haL8w2NE2cw1VlXkYTYQcMmg8g5zFHr3hjqJ9EXmyE48A7hsAZOChuqkm9KuAaV8FDr8%3D","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"NEW","aapiBuyingOptionIndex":0}, {"displayPrice":"¥130","priceAmount":130.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"130","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"LmRCEvdm9CVOBqjuJ2KaIf4jyPxM6lkMbnKwpMcthyd%2BxvMZY0rTW202Eiu1o4Q%2FK4498vuflhWOaMFggXIJFtOAMq9GgpJfz6FrqDbPZ2u9JAMDcSSFWsJNFY%2FKO34FPOTAF1en%2FRtZXwP6KKe2F4XFIpta2IKS7t%2BluHVJg27z31W1PRBN4Q%3D%3D","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"USED","aapiBuyingOptionIndex":1}]}
購入オプションとあわせ買い
ヒトラーの何が人々を熱狂させたのか。二五年間、一五〇万語の演説データで「語りの手法」の変遷を辿り、煽動政治家の実像に迫る
- 本の長さ286ページ
- 言語日本語
- 出版社中央公論新社
- 発売日2014/6/24
- ISBN-104121022726
- ISBN-13978-4121022721
よく一緒に購入されている商品

対象商品: ヒトラー演説 - 熱狂の真実 (中公新書 2272)
¥880¥880
最短で3月21日 木曜日のお届け予定です
残り12点(入荷予定あり)
¥2,800¥2,800
3月 23 - 24 日にお届け
残り14点 ご注文はお早めに
総額:
当社の価格を見るには、これら商品をカートに追加してください。
ポイントの合計:
pt
もう一度お試しください
追加されました
一緒に購入する商品を選択してください。
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
登録情報
- 出版社 : 中央公論新社 (2014/6/24)
- 発売日 : 2014/6/24
- 言語 : 日本語
- 新書 : 286ページ
- ISBN-10 : 4121022726
- ISBN-13 : 978-4121022721
- Amazon 売れ筋ランキング: - 89,419位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 470位中公新書
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。

著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2022年6月21日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2023年12月25日に日本でレビュー済み
本書エピローグにも書かれていますが、
「演説に熱狂」したということ自体も宣伝で
それが今でも生き残っていることを考え直すきっかけに
「演説に熱狂」したということ自体も宣伝で
それが今でも生き残っていることを考え直すきっかけに
2018年8月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ヒトラーはプロパガンダの天才だった。
その点について、異論を挟む人はほとんどいないだろう。
しかし、プロパガンダは常いかなる時でも効果を発揮したのか。
この本では、そうではないと結論付けている。
ナチ党が政権を取るまでは、プロパガンダは非常に有効に機能した。
ヒトラーは様々な技術を用いて、大衆を熱狂させる演説を行い、党の支持拡大の原動力となった。
しかし、ナチ党が政権を取ってからは、言葉だけでなく実績が求められる様になる。
ナチ党が弱小勢力であったころは自ら責任を負う事なく政権批判を口に出来たが、自分達が政権を担当する側になれば、今度は批評・非難される側になる。
成果が出せなければ、いかに自分たちの正当性を巧みな話術で語り、批判を恐怖政治で封じ込めようとしても、プロパガンダに騙される者はいない。
口だけ達者でも、やがて化けの皮は剥がされるのだ。
日本でも、旧民主党はマスコミの支援を受けて政権与党となったが、能力の無い者たちに政治を任せた代償は小さくはなかった。
無責任な立場の人間の美辞麗句や勇ましい夢物語は無益であるだけでなく、有害ですらある。
その事を我々は、歴史から学ばなければならない。
その点について、異論を挟む人はほとんどいないだろう。
しかし、プロパガンダは常いかなる時でも効果を発揮したのか。
この本では、そうではないと結論付けている。
ナチ党が政権を取るまでは、プロパガンダは非常に有効に機能した。
ヒトラーは様々な技術を用いて、大衆を熱狂させる演説を行い、党の支持拡大の原動力となった。
しかし、ナチ党が政権を取ってからは、言葉だけでなく実績が求められる様になる。
ナチ党が弱小勢力であったころは自ら責任を負う事なく政権批判を口に出来たが、自分達が政権を担当する側になれば、今度は批評・非難される側になる。
成果が出せなければ、いかに自分たちの正当性を巧みな話術で語り、批判を恐怖政治で封じ込めようとしても、プロパガンダに騙される者はいない。
口だけ達者でも、やがて化けの皮は剥がされるのだ。
日本でも、旧民主党はマスコミの支援を受けて政権与党となったが、能力の無い者たちに政治を任せた代償は小さくはなかった。
無責任な立場の人間の美辞麗句や勇ましい夢物語は無益であるだけでなく、有害ですらある。
その事を我々は、歴史から学ばなければならない。
2024年1月17日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
かなり読み応えがありますが、
背景などもしっかりと描かれているため
満足できます。
背景などもしっかりと描かれているため
満足できます。
2015年4月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本書の題名を見てヒトラー演説の中味の解説書かと思ったがそうではなかった。
本書はビッグデータその他の手に入る限りの資料を分析してヒトラー演説の徹底解剖を試みている。
著者は、その「あとがき」で述べているように、学習院大学ドイツ文学科に着任後、コンピュータソフトを用いて
「ヒトラー演説150万語データ」を完成し、それを元にヒトラーがどの時代にどのような単語やフレーズを多用していたかを
徹底分析して見せてくれる。
しかし、それだけでは単なる統計データの提供に過ぎない。
著者は巻末に多数のドイツ語や日本語の参考文献を挙げているが、これらの文献から興味深いヒトラーの演説に対する勉強ぶりを分析して
見せてくれている。
マイクロフォンが発明される以前は、ヒトラーの演説はビヤホールや公共の広場で行われたが
いかにしたら遠くの席まで自分の声が届くかオペラ歌手を呼んで徹底的に勉強している。
また演説中の身振り手振りなどは舞台俳優から指導を受けていることがわかる。
マイクロフォンが発明されトーキー映画が出来ると、ヒトラーはそれらを自己の演説をラジオ放送を通じたりニュース映画を見るように
国民に強制したりして宣伝にこれ務めている。もちろん、これらのアイデアはゲッペルス宣伝相に追うところが大きい。
トラックによるキャラバンを組んで演説会、ニュース映画会などを開催し、こんにちで言えばマスメディアを利用して
自己の宣伝にこれ務めている。
しかし、ヒトラーが演説に熱心だったのは総統として政権トップに上り詰めるまで
あるいは第二次世界大戦の戦果が誇れる時代までであった。
連合国との戦況が段々不利になるにつれ、ヒトラーはラジオを通じて国民に演説をすることを避けるようになってきた。
またニュース映画でも自己の声のは消去するように命じて映像のみを流すようになった。
映画に映るヒトラーの姿に疲れが目立つようになった。
私の思うところ、鬱になっていたのではないか。
そしていきつく先は1945年4月30日。
ヒトラーは地下塹壕で最後を迎えることになるのである。
本書はビッグデータその他の手に入る限りの資料を分析してヒトラー演説の徹底解剖を試みている。
著者は、その「あとがき」で述べているように、学習院大学ドイツ文学科に着任後、コンピュータソフトを用いて
「ヒトラー演説150万語データ」を完成し、それを元にヒトラーがどの時代にどのような単語やフレーズを多用していたかを
徹底分析して見せてくれる。
しかし、それだけでは単なる統計データの提供に過ぎない。
著者は巻末に多数のドイツ語や日本語の参考文献を挙げているが、これらの文献から興味深いヒトラーの演説に対する勉強ぶりを分析して
見せてくれている。
マイクロフォンが発明される以前は、ヒトラーの演説はビヤホールや公共の広場で行われたが
いかにしたら遠くの席まで自分の声が届くかオペラ歌手を呼んで徹底的に勉強している。
また演説中の身振り手振りなどは舞台俳優から指導を受けていることがわかる。
マイクロフォンが発明されトーキー映画が出来ると、ヒトラーはそれらを自己の演説をラジオ放送を通じたりニュース映画を見るように
国民に強制したりして宣伝にこれ務めている。もちろん、これらのアイデアはゲッペルス宣伝相に追うところが大きい。
トラックによるキャラバンを組んで演説会、ニュース映画会などを開催し、こんにちで言えばマスメディアを利用して
自己の宣伝にこれ務めている。
しかし、ヒトラーが演説に熱心だったのは総統として政権トップに上り詰めるまで
あるいは第二次世界大戦の戦果が誇れる時代までであった。
連合国との戦況が段々不利になるにつれ、ヒトラーはラジオを通じて国民に演説をすることを避けるようになってきた。
またニュース映画でも自己の声のは消去するように命じて映像のみを流すようになった。
映画に映るヒトラーの姿に疲れが目立つようになった。
私の思うところ、鬱になっていたのではないか。
そしていきつく先は1945年4月30日。
ヒトラーは地下塹壕で最後を迎えることになるのである。
2018年9月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
「我が闘争」を読む為の事前準備として読んだはずなのですが、あまり印象に残っていません。
この本が下らない訳ではなく「我が闘争」が読むに耐えないキ〇ガ〇の戯言だったのが原因です。
ヒトラーというモンスターを生み出した背景を知るには良い本だと思います。
多分???
この本が下らない訳ではなく「我が闘争」が読むに耐えないキ〇ガ〇の戯言だったのが原因です。
ヒトラーというモンスターを生み出した背景を知るには良い本だと思います。
多分???
2014年8月6日に日本でレビュー済み
「ドイツ国民の復活はなにもしないでもひとりでに始まるなどと、私はみなさんに約束
するつもりはない。われわれはこれから仕事をなしていきたいと思うが、ドイツ国民の
手助けなしにはできない。自由、幸福、そして生がなにもせずに突如として天から
もらい受けられるなどとけっして考えてはならない。すべての根本は、まさに自らの
意思、自らの仕事にあるのだ」。
もし仮に「国があなたに何をするかではない、あなたが国に何をできるか」との
JFKの台詞を名演説と称えるならば、そこから遡ること四半世紀前に発せられた
このドイツ国民への呼びかけに同等の賞賛をどうして与えずにいられようか。
ただ一点、この檄の主がアドルフ・ヒトラーであった、ということを除いては……。
「ヒトラーの演説が聴衆を熱狂させたとすれば、熱狂させた秘密はどこにあったので
あろうか。演説文の表現のどこにどんなことばの仕掛けがあり、ヒトラーがどのような
音調で語り、どの箇所でどのようなジェスチャーを用いたからであろうか。また、
どのような政治的・歴史的状況のなかで聴衆の心を捉えたのだろうか」。
「民衆の圧倒的多数が女性的な性向と態度をとり、冷静な熟考よりもむしろ感情的な
知覚で自らの思考と行動を決定する」。
「最も単純な概念を千回繰り返して初めて、大衆はその概念を記憶することができる」。
ポピュリズム論然り、広告手法然り、既視感を見出さずにはいられないフレーズ。
ただしこの雄弁家が魅了した対象は何も「大衆」ばかりではない。
ピンチをチャンスに変える、を地で行ったこの男、クーデターの不発をもって失脚を
余儀なくされたかに見せて、その裁判の法廷はたちまちにして独演会の場と化する、
そして遂には検事から「ドイツ精神に対する自信を回復させようとした彼の誠実な
尽力は、なんと言おうともひとつの功績でありつづける」とのことばを引き出す。
という具合に、世に溢れるビジネス書をはるか凌駕して、パブリック・リレーションズ、
マーケティングのテキストとしてまずは優れた一冊。
とはいえ、本書の優位は古典的な弁論術の参照などの定性的な分析に留まらず、
「ヒトラー演説150万語データ」に基づき、各年代別の単語の使用頻度などから
その傾向を浮上させる定量的な観測の手腕にこそある。
ラジオやスピーカーといった技術によってはじめてヒトラーの演説が完成したように、
本書もまた、各種ITの導入をもってようやく可能となる。
そうした点で今、改めて書かれるべき価値を持つテーマと見える。
あえて不足と言えば、大戦期の描写が淡泊との印象が否めないことだろうか。
本人自体が雲隠れして、演説の回数も数えるほど、開戦当初からの劣勢にしても
周知の事実で、あまり語ることがないというのも分かるが、やはり子細な分析を通して
演説の面からもその不利を検証してもらわないことには竜頭蛇尾との念が拭えない。
単なる文献精読、歴史研究の域を越えて、社会学的、マーケティング的見地からの
大衆動員の研究として見ても、技術的なアプローチの仕方から見ても、ヒトラーの
雄弁術に新たなアスペクトを加えてみせた価値ある一冊。
するつもりはない。われわれはこれから仕事をなしていきたいと思うが、ドイツ国民の
手助けなしにはできない。自由、幸福、そして生がなにもせずに突如として天から
もらい受けられるなどとけっして考えてはならない。すべての根本は、まさに自らの
意思、自らの仕事にあるのだ」。
もし仮に「国があなたに何をするかではない、あなたが国に何をできるか」との
JFKの台詞を名演説と称えるならば、そこから遡ること四半世紀前に発せられた
このドイツ国民への呼びかけに同等の賞賛をどうして与えずにいられようか。
ただ一点、この檄の主がアドルフ・ヒトラーであった、ということを除いては……。
「ヒトラーの演説が聴衆を熱狂させたとすれば、熱狂させた秘密はどこにあったので
あろうか。演説文の表現のどこにどんなことばの仕掛けがあり、ヒトラーがどのような
音調で語り、どの箇所でどのようなジェスチャーを用いたからであろうか。また、
どのような政治的・歴史的状況のなかで聴衆の心を捉えたのだろうか」。
「民衆の圧倒的多数が女性的な性向と態度をとり、冷静な熟考よりもむしろ感情的な
知覚で自らの思考と行動を決定する」。
「最も単純な概念を千回繰り返して初めて、大衆はその概念を記憶することができる」。
ポピュリズム論然り、広告手法然り、既視感を見出さずにはいられないフレーズ。
ただしこの雄弁家が魅了した対象は何も「大衆」ばかりではない。
ピンチをチャンスに変える、を地で行ったこの男、クーデターの不発をもって失脚を
余儀なくされたかに見せて、その裁判の法廷はたちまちにして独演会の場と化する、
そして遂には検事から「ドイツ精神に対する自信を回復させようとした彼の誠実な
尽力は、なんと言おうともひとつの功績でありつづける」とのことばを引き出す。
という具合に、世に溢れるビジネス書をはるか凌駕して、パブリック・リレーションズ、
マーケティングのテキストとしてまずは優れた一冊。
とはいえ、本書の優位は古典的な弁論術の参照などの定性的な分析に留まらず、
「ヒトラー演説150万語データ」に基づき、各年代別の単語の使用頻度などから
その傾向を浮上させる定量的な観測の手腕にこそある。
ラジオやスピーカーといった技術によってはじめてヒトラーの演説が完成したように、
本書もまた、各種ITの導入をもってようやく可能となる。
そうした点で今、改めて書かれるべき価値を持つテーマと見える。
あえて不足と言えば、大戦期の描写が淡泊との印象が否めないことだろうか。
本人自体が雲隠れして、演説の回数も数えるほど、開戦当初からの劣勢にしても
周知の事実で、あまり語ることがないというのも分かるが、やはり子細な分析を通して
演説の面からもその不利を検証してもらわないことには竜頭蛇尾との念が拭えない。
単なる文献精読、歴史研究の域を越えて、社会学的、マーケティング的見地からの
大衆動員の研究として見ても、技術的なアプローチの仕方から見ても、ヒトラーの
雄弁術に新たなアスペクトを加えてみせた価値ある一冊。
2017年9月18日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
政治的思想はおいておき、なぜ、多くの人を熱狂させたのか?
ジェスチャーなのか、声色なのか、構成なのか?
もし、ジェスチャーだと思っているのであれば、この本を一読の価値あり。
私たちは未だ、ナチスのプロパガンダから逃れられていない。
ジェスチャーなのか、声色なのか、構成なのか?
もし、ジェスチャーだと思っているのであれば、この本を一読の価値あり。
私たちは未だ、ナチスのプロパガンダから逃れられていない。