結論から言えば、「冗長」では無いが、やや「散漫」という印象は拭えない書。
著者が本書で展開している「各論」はどれも中々興味深い内容が多くて面白いのではあるが、これらの「各論」から結局著者が1冊の書籍全体として何を訴えたいのか?という「幹」の部分が伝わって来ないのはもどかしい。
ただ、これは著者の責任というより、結局「クール・ジャパン」に確固たるビジョンなど何もなく、全てが中途半端という「成長戦略と謳っているにも関わらず、『戦略』が全然見えない」(実に「アベノミクス」的ではあるが)「クールジャパン機構」の無能無策な実態を反映させている結果と言えそうだ。
本書で個人的に最も興味深かったのは、第四章のクールジャパンの「海外における実態」(P.124~)。著者は自身が渡米した際の体験の中で「日本アニメと、ディズニーやハリウッドはフラットな市場の上でフラットに競争している」という著者自身が「屈託なく」持っていたイメージを「実際にはそうではないようだ」と修正せざるを得ない経験をしている。また、米国(を含む海外)では、「日本のアニメ」は受け手が能動的にアプローチしないと「見る事」すら容易では無い事や、米国という国はあまりに広大で、「国土」という概念を「日本にいるときから180度変えなければならない」と感じた(P.152~)という記述は、米国と言えば大都会というイメージしか湧かない多くの日本人の認識に対する「警鐘」とも読める。要は、「日本人が日本で想像するような形で日本文化が海外で受け入れられている訳ではない」というキビシイ現実が、海外に行けばイヤでも見えてくるという事だろう。
ただ、そういう「冷酷」な「現実」を受けて、ならば「クール・ジャパン」にどのように取り組んでいくべきかを論ずるのかなと期待した第五章~第六章が、整然と論を展開はしているが、どことなく「他人事モード」という感じに終わっているのはやや拍子抜け。もっともそれが自称「クール・ジャパン」の実態であると言うなら、それはそれで納得出来るのが哀しいが。
2017/11/06の日経新聞の一面で、クールジャパン機構が出資した案件の過半数が収益などの計画が未達である、という事がとり上げられている。結局のところ、それは「何をどう売り込んでいくか」という緻密な戦略も無しに、「とりあえず『ニッポン』というブランドさえ押し出せば、黙っていても売れるし、商売になる」という極甘の認識と思い上がりが招いた当然の結果とも言える。今や「メード・イン・ジャパン」と掲げていれば、何もしなくとも有難がられて売れる、という時代では残念ながら無い。世界の厳しい「現実」を見据えて、「日本ブランドの過去の栄光」にすがり続ける事無く、キチンと「戦略」を持って「ニッポン」を売り込まないと、新興国で圧倒的な存在感を放っている韓国、中国、台湾等のメーカーの商品から市場を奪回する事は困難と思うのだが、そういう危機感は本書からはあまり伝わらないのは残念である。
「クール・ジャパン」を「クール」と思っているのは実は「ジャパン」の人々だけであるという大悲劇を認識しないで、緻密な戦略も無しに「クール・ジャパン」を続けるのはただの国家的マスターベーションにすぎない事にそろそろ気付くべきではないか。

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クール・ジャパンはなぜ嫌われるのか - 「熱狂」と「冷笑」を超えて (中公新書ラクレ 491) 新書 – 2014/4/9
三原 龍太郎
(著)
「秋元康氏発言炎上事件」に象徴されるクール・ジャパン周辺に 充ち満ちている不満。なぜ人は実態を知らないままに嫌い、反発するのか? そもそもクール・ジャパンはどこから生まれ、これからどこへ向かうのか? かつて「オタク官僚」として政策の最前線に立ち、 現在は英国オックスフォード大学で研究を続ける著者が、 「文化」「社会」「歴史」「政策」「海外の実態」から縦横無尽に論ずる、 クール・ジャパン検証の決定版!
- 本の長さ261ページ
- 言語日本語
- 出版社中央公論新社
- 発売日2014/4/9
- ISBN-104121504917
- ISBN-13978-4121504913
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登録情報
- 出版社 : 中央公論新社 (2014/4/9)
- 発売日 : 2014/4/9
- 言語 : 日本語
- 新書 : 261ページ
- ISBN-10 : 4121504917
- ISBN-13 : 978-4121504913
- Amazon 売れ筋ランキング: - 743,560位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 650位中公新書ラクレ
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2017年11月10日に日本でレビュー済み
2023年9月17日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本書はクールジャパンを批判する本ではありません。本当にクールジャパンが批判される理由を説明しています。著者はどちらかというとクールジャパンを擁護する立場をとっているので、「食わず嫌いな態度で嫌うのはやめましょう」というのがこの本の全体的なメッセージではないかと思います。
本の内容に関しては賛否両論あると思いますが、アメリカで日本のアニメがどういうふうに広まっていったのかに関しては大変勉強になりました。その内容というのが専門家の研究を引用したりしているのではなくあくまでも著者本人の分析に頼っているとはいえ、なかなか他の本や記事では接する機会のない見解だと思います。
ただ私は「自分で自分のことをクールと言うのはクールではない」という主張に結構同調しているので、本書で著者が「全ての広告・宣伝行為には自己肯定の要素が含まれるので、それを言い出すと、全ての広告・宣伝を否定しなければならないという反論がありうる」と言及した上で、札幌市の地域振興を例にあげている内容関しては少し納得ができませんでした。
クールジャパンというネーミングから私は少しナショナリズム的なニュアンスを感じてしまいます。私は「愛国心」は「ナショナリズム」と「パトリオティズム」に分かれると思っています。前者が排他性を持っているならば、後者は排他性は持たずにあくまでも自己肯定的な要素だけを持っているというのが私なりの理解です。札幌市の地域振興だけではなくあらゆる自治体の町おこし政策には基本的に排他的な要素を感じないのに対し、昨今のなんでもかんでも「日本最強」「日本が世界一」などと騒がれる中でクールジャパンはこうした雰囲気に絶妙なタイミングで現れてきたような気がして、意図はしてなくとも、ナショナリズムと同様少し排他性を帯びていないかという疑問を感じました。
もちろん著者はあくまでも「食わず嫌いな態度で嫌うのはやめましょう」と言っているだけで、どうしても好きにならないならそれは仕方ないではないかと言っているので、本書ではそういった排他性を容認するようなことは一切書いてないので意見の相違こそあれ、不快に感じることはありませんでした。
ただ本書はあくまでも「クールジャパンが嫌われる理由」に関する本ですので、「クールジャパン政策は何が問題なのか」について知りたい方にはおすすめしません。
本の内容に関しては賛否両論あると思いますが、アメリカで日本のアニメがどういうふうに広まっていったのかに関しては大変勉強になりました。その内容というのが専門家の研究を引用したりしているのではなくあくまでも著者本人の分析に頼っているとはいえ、なかなか他の本や記事では接する機会のない見解だと思います。
ただ私は「自分で自分のことをクールと言うのはクールではない」という主張に結構同調しているので、本書で著者が「全ての広告・宣伝行為には自己肯定の要素が含まれるので、それを言い出すと、全ての広告・宣伝を否定しなければならないという反論がありうる」と言及した上で、札幌市の地域振興を例にあげている内容関しては少し納得ができませんでした。
クールジャパンというネーミングから私は少しナショナリズム的なニュアンスを感じてしまいます。私は「愛国心」は「ナショナリズム」と「パトリオティズム」に分かれると思っています。前者が排他性を持っているならば、後者は排他性は持たずにあくまでも自己肯定的な要素だけを持っているというのが私なりの理解です。札幌市の地域振興だけではなくあらゆる自治体の町おこし政策には基本的に排他的な要素を感じないのに対し、昨今のなんでもかんでも「日本最強」「日本が世界一」などと騒がれる中でクールジャパンはこうした雰囲気に絶妙なタイミングで現れてきたような気がして、意図はしてなくとも、ナショナリズムと同様少し排他性を帯びていないかという疑問を感じました。
もちろん著者はあくまでも「食わず嫌いな態度で嫌うのはやめましょう」と言っているだけで、どうしても好きにならないならそれは仕方ないではないかと言っているので、本書ではそういった排他性を容認するようなことは一切書いてないので意見の相違こそあれ、不快に感じることはありませんでした。
ただ本書はあくまでも「クールジャパンが嫌われる理由」に関する本ですので、「クールジャパン政策は何が問題なのか」について知りたい方にはおすすめしません。
2014年8月1日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
著者は経済産業省OBで、現在はオックスフォード大博士課程在学中の、文化人類学研究者。
本書はクール・ジャパンの現状について、アニメを中心に、日本国内における批判、アメリカにおける受容、日本政府の政策などを俯瞰しています。
まず、最初の2章でクール・ジャパンの日本のネットにおいて評価が低いこと、どのような批判があるのかを整理したうえで、3章ではクール・ジャパン論の歴史を2002年のマッグレイの論文を中心に概観。
4章では、特にアメリカにおける日本アニメの受容の実態について詳述。特に日本と比べて消費が分散し情報量が減少する「拡散・減殺」という制約要因、この制約を克服すべく、アニメファンがインターネットを活用して活発な情報交換を行っていることを紹介した上で、非ネットでの流通強化が今後の課題ではと指摘。
5章は、日本の経済産業省のクール・ジャパン政策について、定義(9つのクリエイティブ産業)、目的(海外市場でのシェア獲得という輸出振興が最大目的で、政治・外交的な目的は副次的なもの)、手段(現状は資金援助とマッチングが中心)で、今後の課題は流通と異業種連携の強化、また制度設計や通商交渉部分でさらに政府が役割を発揮できるのではとしている。6章では、結語として、民間側はクール・ジャパンを食わず嫌いで遠ざけるのではなく、国をスポンサーと考え直して、利用できそうな部分は利用すべく真摯に対話すべき、国の側は政策の営業の仕方をさらに考えるべきとしている。
特に4章と5章はよくまとまっていて読み応えがあり、クール・ジャパンという言葉のイメージを越えて実態を把握する上でお勧めと感じました。
他方、クール・ジャパンへの批判がネット上では多いという事実からスタートしますが、非ネットメディアでは中立、あるいは好意的な取り上げ方も多いような気がします。ただ、その割りに経済が主、政治・外交は従という目的の優先順位については、経済産業省の視点を越えて、日本政府全体としてこのような優先順位付けが明確化しているのか、そしてそれについて国民の支持がどの程度あるのかは不明確なような気がしました。この点についての論考や、クール・ジャパンがどのように批判されるのかだけでなく、なぜ批判されるかについてもう少し掘り下げてあるとよかったです。また、海外市場における一定のシェア獲得が目標ということであれば、他の国のクリエイティブ産業との競争という視点が必要です。この点で米や仏については少し述べられていますが、彼らの具体的な政策について深掘りがあればなおよかったのと、おそらくクール・ジャパンの目指す市場として優先順位の高い、東南アジア、南アジア、ヨーロッパ市場あたりで強力なライバルとなりそうな中国、韓国などの政府の取り組みと比較してもよかったかもと思いました。
いずれにせよ、本書はクール・ジャパンについての筆者の「知的中間報告」ということで、現在は日本アニメのアジア展開について研究を行っているということなので、更なる論考にも期待が持てるでしょう。
本書はクール・ジャパンの現状について、アニメを中心に、日本国内における批判、アメリカにおける受容、日本政府の政策などを俯瞰しています。
まず、最初の2章でクール・ジャパンの日本のネットにおいて評価が低いこと、どのような批判があるのかを整理したうえで、3章ではクール・ジャパン論の歴史を2002年のマッグレイの論文を中心に概観。
4章では、特にアメリカにおける日本アニメの受容の実態について詳述。特に日本と比べて消費が分散し情報量が減少する「拡散・減殺」という制約要因、この制約を克服すべく、アニメファンがインターネットを活用して活発な情報交換を行っていることを紹介した上で、非ネットでの流通強化が今後の課題ではと指摘。
5章は、日本の経済産業省のクール・ジャパン政策について、定義(9つのクリエイティブ産業)、目的(海外市場でのシェア獲得という輸出振興が最大目的で、政治・外交的な目的は副次的なもの)、手段(現状は資金援助とマッチングが中心)で、今後の課題は流通と異業種連携の強化、また制度設計や通商交渉部分でさらに政府が役割を発揮できるのではとしている。6章では、結語として、民間側はクール・ジャパンを食わず嫌いで遠ざけるのではなく、国をスポンサーと考え直して、利用できそうな部分は利用すべく真摯に対話すべき、国の側は政策の営業の仕方をさらに考えるべきとしている。
特に4章と5章はよくまとまっていて読み応えがあり、クール・ジャパンという言葉のイメージを越えて実態を把握する上でお勧めと感じました。
他方、クール・ジャパンへの批判がネット上では多いという事実からスタートしますが、非ネットメディアでは中立、あるいは好意的な取り上げ方も多いような気がします。ただ、その割りに経済が主、政治・外交は従という目的の優先順位については、経済産業省の視点を越えて、日本政府全体としてこのような優先順位付けが明確化しているのか、そしてそれについて国民の支持がどの程度あるのかは不明確なような気がしました。この点についての論考や、クール・ジャパンがどのように批判されるのかだけでなく、なぜ批判されるかについてもう少し掘り下げてあるとよかったです。また、海外市場における一定のシェア獲得が目標ということであれば、他の国のクリエイティブ産業との競争という視点が必要です。この点で米や仏については少し述べられていますが、彼らの具体的な政策について深掘りがあればなおよかったのと、おそらくクール・ジャパンの目指す市場として優先順位の高い、東南アジア、南アジア、ヨーロッパ市場あたりで強力なライバルとなりそうな中国、韓国などの政府の取り組みと比較してもよかったかもと思いました。
いずれにせよ、本書はクール・ジャパンについての筆者の「知的中間報告」ということで、現在は日本アニメのアジア展開について研究を行っているということなので、更なる論考にも期待が持てるでしょう。
2016年10月25日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
タイトルはびっくりですが、ちゃんと整理されてまとまっています。大学院の論文調査に超絶役に立ちました。冗長とかコメントする人の学力を疑いますわ。
2014年7月2日に日本でレビュー済み
「カウンターカルチャーであるサブカルチャーが、政府の庇護の下に入るのは気持ち悪い」。こんな当たり前のことを言うだけのために新書にした冗長な本。中身なし。