令和2年11月25日の本日は、奇しくも著者の三島由紀夫の命日である。
職場からの帰路、ふとそのことを知った私は、三島最後の戯曲かつ唯一Amazonで購入した作品である本書を思い出して、レビューを遺さんとしたのであった。
本作品は、三島が取材旅行でアンコール・ワットを訪れたことをきっかけに書かれたものである。
主人公はカンボジアの王・ジャヤーヴァルマン7世。周辺の敵を打ち破り、まさに栄光の絶頂にあった彼だったが、「不治の病」ライ病はその肉体を徐々に蝕んでいく。
死期を悟った彼は、狂ったようにアンコール・ワットの造営に情熱を傾けるようになり、彼の周辺の人物たちもその渦に巻き込まれ、或る者は彼を裏切り、別の或る者は彼の元を去り、そして別の或る者は彼への愛に殉ずるといった、様々な人間模様を見せるのであった・・・
しかし何といっても、本作品の見所は、完成したアンコール・ワットを前にして、独りとなった王がその最後の瞬間の刹那に、彼の「精神」と「肉体」が交わす「対話」ではないだろうか。
ここで「肉体」の「精神」への優位のみならず、前者の不滅さが高らかに謳われているのだが、一見すると逆ではないかと思われるのではないか。
だが、「精神」(霊魂)のみの人間はこの世に存在せず、「肉体」の主張の通り、精神の働きは肉体を通して行われるのである。
アンコール・ワットは確かに王の精神から生まれた。しかし更に言えば、その建築に関わった大勢の肉体から生み出されたのである。
人間の肉体ー生涯ーは短く、儚い。だが、それが生み出した物はーそれもいつかは朽ち果てる運命にあるとしてもー幾世代も亘って悠久の時を「生きる」のである。
「青春こそ不滅、肉体こそ不死なのだ」ー「肉体」が高らかに宣言したこの言葉の意味は、上記の事だったのではないだろうか。
ところで、本作品は過去に二度舞台化(注)されているという。どちらも観たことが無いので、機会があれば映像作品で是非観たいと思った。
(注)最初の主演は北大路欣也、二度目のは鈴木亮平である。

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癩王のテラス (中公文庫 A 12-4) 文庫 – 1975/8/10
三島 由紀夫
(著)
- 本の長さ125ページ
- 言語日本語
- 出版社中央公論新社
- 発売日1975/8/10
- ISBN-104122002397
- ISBN-13978-4122002395
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登録情報
- 出版社 : 中央公論新社 (1975/8/10)
- 発売日 : 1975/8/10
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 125ページ
- ISBN-10 : 4122002397
- ISBN-13 : 978-4122002395
- Amazon 売れ筋ランキング: - 71,087位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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(1925-1970)東京生れ。本名、平岡公威。
1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。1949年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。
主な著書に、1954年『潮騒』(新潮社文学賞)、1956年『金閣寺』(読売文学賞)、1965年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。1970年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2020年11月25日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2011年7月14日に日本でレビュー済み
カンボジア、アンコールワットのバイヨン寺院を建てたジャヤヴァルマン七世の話を
戯曲にしたものです。
勇敢で信仰の厚かった七世が、敵に奪われた領土を取り戻し、更に敵の領土も奪い、
華々しく凱旋したその日、神の御加護への感謝とし、バイヨン寺院を建てる事を発願した。
皮肉にも、その日からライ病となり、日に日に衰弱して生く、王にとって、
バイヨン寺院の建立は、掛け替えのないものとなっていく。
命を賭けて完全なる美を創造した寺院の姿に王の息吹が宿っていく時間過程の表現が素晴らしい。
戯曲にしたものです。
勇敢で信仰の厚かった七世が、敵に奪われた領土を取り戻し、更に敵の領土も奪い、
華々しく凱旋したその日、神の御加護への感謝とし、バイヨン寺院を建てる事を発願した。
皮肉にも、その日からライ病となり、日に日に衰弱して生く、王にとって、
バイヨン寺院の建立は、掛け替えのないものとなっていく。
命を賭けて完全なる美を創造した寺院の姿に王の息吹が宿っていく時間過程の表現が素晴らしい。
2016年11月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
精神と肉体、健康と病、美と醜、愛と嫉妬、すべてが対立するようで共存している…というようなことを考えさせられました。
絢爛豪華で、舞台(というより題材となったカンボジアの風景)がありありと浮かぶような作品です。
もともと三島由紀夫が好きで、今回カンボジア旅行に先立ってこの作品を読みました。
この作品を知ってから訪れたアンコール・トムのバイヨンは、また格別な味わいでした。
絢爛豪華で、舞台(というより題材となったカンボジアの風景)がありありと浮かぶような作品です。
もともと三島由紀夫が好きで、今回カンボジア旅行に先立ってこの作品を読みました。
この作品を知ってから訪れたアンコール・トムのバイヨンは、また格別な味わいでした。