「生きるというようなことは召使に任せて置けばいい」との奇抜な警句で始まる「山運び」を巻頭として、知覚・認識や記憶と言った人間心理メカニズムに関する卓越した考察を、幻想味と諧謔味とユーモアに溢れた9つの奇譚に仕立て上げた傑作短編集。
題名が「怪奇な話」であり、実際に魔法使い、妖女、酒精、幽霊等が登場するが、通常の怪談を再構成したと言うレベルを遥かに越えている。そもそも"恐怖"を主眼としていない。理知的考察であると共に遊び心が横溢しているのだ。根底に、作者の大らかな文学観があると思う。短編「幽霊」で「聊斎志異」を引用しているが、作品の意匠には勿論独自性がある。このように各編に独創性があるのは無論だが、ワザと読点を使用しない捻った文体(英語における関係代名詞を用いた文の様)を用いながら、良く読むと論旨がスッキリしている独特の文章も魅力的。更に、この文体がユーモア味をも醸し出している。人間の知覚と時空の拡がりとの相関性の描写が多いのも印象的。月、山、海といったありふれた風景が不思議な透明感を持って迫って来るのも幻視感を高めている。光と闇の美しい対比的描写も読む者の想像力を膨らませる。また、人とモノと精神の同化・包含関係が混沌としている点も物語に玄妙な錯綜感を与えている。そして、何と言っても各編を読む度に、頭がリフレッシュされる読後感が堪らない。もっとも、読んで意味を汲み取ると言うよりは、作者が構築する世界の内で陶酔感に浸るという感が強いのだが。
9つの短編の甲乙も付け難い。冒頭で言及した「山運び」の奇想にも驚くし、次の「お化け」(特に富籤売りの老婆)の味も捨て難い...、と言う具合。通常の認識・知覚が心地良く揺さぶられる珠玉の短編集。
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怪奇な話 (中公文庫 A 50-6) 文庫 – 1982/8/10
吉田 健一
(著)
- 本の長さ223ページ
- 言語日本語
- 出版社中央公論新社
- 発売日1982/8/10
- ISBN-104122009472
- ISBN-13978-4122009479
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登録情報
- 出版社 : 中央公論新社 (1982/8/10)
- 発売日 : 1982/8/10
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 223ページ
- ISBN-10 : 4122009472
- ISBN-13 : 978-4122009479
- Amazon 売れ筋ランキング: - 729,100位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2010年5月21日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2012年12月15日に日本でレビュー済み
1977年に出た単行本の文庫化。
「山運び」「お化け」「酒の精」「月」「幽霊」「老人」「流転」「化けもの屋敷」「瀬戸内海」の9篇が収められている。
雑誌『海』1976-77年に連載されたもの。著者最晩年の作品集である。
吉田健一の文章を読むのは10年ぶりくらいだったのだが、その独特の文体に(もう一度)慣れるまでが大変だった。句読点が極端に少ないので、とても読みにくい。
内容は、お化けや幽霊といったものを観念的にイメージしてみたといった感じで、幽霊とはどんなものか、いたらどんなふうに見えるのか、人間と交流は出来るのか、幽霊も死ぬのかといったアイデアが延々と展開されていく。
ストーリーはあってないようなもの。
とても不思議な読書体験だった。
「山運び」「お化け」「酒の精」「月」「幽霊」「老人」「流転」「化けもの屋敷」「瀬戸内海」の9篇が収められている。
雑誌『海』1976-77年に連載されたもの。著者最晩年の作品集である。
吉田健一の文章を読むのは10年ぶりくらいだったのだが、その独特の文体に(もう一度)慣れるまでが大変だった。句読点が極端に少ないので、とても読みにくい。
内容は、お化けや幽霊といったものを観念的にイメージしてみたといった感じで、幽霊とはどんなものか、いたらどんなふうに見えるのか、人間と交流は出来るのか、幽霊も死ぬのかといったアイデアが延々と展開されていく。
ストーリーはあってないようなもの。
とても不思議な読書体験だった。