本書の単行本初版は1981年で、本書は、著者の「自伝論、自伝研究の2冊目」だそうです。
その第1冊目というのは『日本人の自伝』(講談社)になり、これは1974年に出ています。
少し前に、同じく中公文庫で出ている『伝記のなかのエロス』(単行本初版1990年)を読んで面白かったので、本書も手に入れて読んでみました。
『伝記のなかのエロス』は、話しことばに近いリーダブルこの上ない文体で書かれていますが、こちらのほうはまだしっかりとした文章体で書かれていて、著者の文体の変遷という意味でも興味深いものがあります。
残念ながら、評者は、本書で扱われている自伝、およびその自伝を書いた人物に特段の関心もなかったこともあって、著者のペンの後を追って、他人の思いもかけないような人生のエピソードやゴシップにあまり興奮することはありませんでしたが、まあ著者のとりあげた自伝をつうじて、蘇峰、藤村、鴎外、伊藤博文、前島密、福田英子、木下尚江、片山潜など近代日本を生きたそれなりに名のある人びとの生き生きとした姿を知ることができたことはたしかです。
本書にあった、自伝一般についてなされた指摘で興味深かった箇所を以下に抜き書きしておきます:
「じつの所、自伝は、大方の場合、不完全ジャンルだと、率直に認めよう。じつにしばしば中絶し、また自己防御、さらには世間的な配慮、気がねがつよく働いて、欠落あらわな自己表現にとどまっている。文学としてみれば、未だしであり、物足りない。しかし、そこにかえって、自伝ジャンルの魅力、説得力もひそんでいるというのは、どうした訳であろうか。どうやら、欠如と沈黙が、逆に自伝読者の想像力を刺戟し、こちら側で動き出さずにはいられない。多くの自伝はこうした読者の協力によって始めて、生きた文学になりうる。ジャンルとしてのあらわな欠陥が逆に読者を誘いこむ吸引力の源泉、説得力の根拠という逆接が成りたつのだ」
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近代日本の自伝 (中公文庫 さ 6-2) 文庫 – 1990/9/1
佐伯 彰一
(著)
- 本の長さ358ページ
- 言語日本語
- 出版社中央公論新社
- 発売日1990/9/1
- ISBN-104122017408
- ISBN-13978-4122017405
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登録情報
- 出版社 : 中央公論新社 (1990/9/1)
- 発売日 : 1990/9/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 358ページ
- ISBN-10 : 4122017408
- ISBN-13 : 978-4122017405
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,443,611位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 7,594位中公文庫
- - 175,552位ノンフィクション (本)
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