榎本武揚。
数ある幕末物語に登場しながら脚光を浴びることは多くない。
幕府艦隊の実質的指揮官であり、蝦夷共和国の総裁になったこと、そして結局新政府への降伏を決めたことだけが語られたりもする。
ときに旧幕府軍の戦力的な最後の拠り所として描かれ、ときに「総裁として無難な人選」として描かれ、ときに「最後まで戦い抜けなかった根性無し」的な扱いを受けさえする。
彼は優等生過ぎた。
優秀であることは間違いないが、突き抜けた天才ではありえなかった。
人徳を備えた「いい人」ではあったが、強烈な個性やカリスマ性を持ち得なかった。
律儀さ・勤勉さ・行動力・好奇心・責任感・使命感etc.・・・、それらを全てハイレベルで持ち合わせながら、その「キレイにまとまった人間性」は英雄のものでは有り得なかったということになるのかもしれない。
既述したような諸作品での扱いは、そこに起因するのだろう。
しかし、だからこそこの物語は爽やかな感動を呼び起こしてくれる。
なにせそんな彼が、共和制を掲げて蝦夷国独立を目指すのだから。
綺羅星の如く英雄・天才が現れたこの時代に、決して英雄でも天才でもない彼が、である。
手順と理論、道理を踏み外さない彼の「凡庸な優秀ぶり」は、それはそれで強烈な個性であることにようやく気付かされるクライマックス。
読後には、歴史教科書は「榎本武揚」の名を大書すべきだ!と叫びたくなること請け合いです。
淡々と進む物語であり、主要な登場人物もあまり有名ではない人が多いので、幕末小説を読みなれない方には少々退屈に感じるかもしれません。
その点を考慮して☆は一つ減らしておきます。
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武揚伝 1 (中公文庫 さ 45-4) 文庫 – 2003/9/1
佐々木 譲
(著)
- 本の長さ397ページ
- 言語日本語
- 出版社中央公論新社
- 発売日2003/9/1
- ISBN-104122042542
- ISBN-13978-4122042544
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登録情報
- 出版社 : 中央公論新社 (2003/9/1)
- 発売日 : 2003/9/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 397ページ
- ISBN-10 : 4122042542
- ISBN-13 : 978-4122042544
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,173,035位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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1950(昭和25)年、北海道生まれ。広告代理店、自動車メーカー勤務を経て、79年に『鉄騎兵、跳んだ』でオール讀物新人賞受賞。90年、『エトロフ 発緊急電』で日本推理作家協会賞、山本周五郎賞、日本冒険小説協会大賞を受賞。2002年、『武揚伝』で新田次郎文学賞を受賞。また、2010年には『廃 墟に乞う』で直木三十五賞を受賞した(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『 鉄騎兵、跳んだ (ISBN-13:978-4167773823)』が刊行された当時に掲載されていたものです)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2016年3月18日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
佐々木譲さんは最近読みはじめました。 ストックホルムの密使やら択捉やら臨場感あふれる描写も展開の速さも読んでいて飽きないです。
人物の生涯が描かれた伝記物も好きですが武揚伝は竜馬が行くよりもテンポが軽快でくどい説明もなく楽しめます。
人物の生涯が描かれた伝記物も好きですが武揚伝は竜馬が行くよりもテンポが軽快でくどい説明もなく楽しめます。
2016年1月17日に日本でレビュー済み
最近何故か幕末に関し、幕府側の人物を主人公にした小説を読む機会が増えたが、本書は榎本武揚の幼少期から五稜郭での敗戦までをじっくりと描いた骨太な大作である。
本書を読むと、オランダに留学した榎本武揚が西洋文明に通じた大変な知識人であり、五稜郭で自治政府を樹立しようとした取り組みが単なる反乱ではなく、大きな志に基づくものであることがよくわかった。
本書を読むと、オランダに留学した榎本武揚が西洋文明に通じた大変な知識人であり、五稜郭で自治政府を樹立しようとした取り組みが単なる反乱ではなく、大きな志に基づくものであることがよくわかった。
2011年5月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
榎本釜次郎武揚(えのもとかまじろうたけあき)の半生の話です。つまり箱館戦争までと言っていい。
そのためか、この書き手にしてなお読み進むのが苦しい。この話の後半が負け戦の連続だからでしょう。
物語の前半ですっかり釜次郎ファンになって、共に欧米の知識を入れた新しい国の姿を思い描いてしまうと、残念すぎる間違いや不運が続きすぎます。新造軍艦「開陽」への大きな期待も、史実を知る身ではただただ悲しい結末へ向けてページを捲る手が止まるばかり。「歴史にもしもがあったなら」と思わされるのは作者の術中にはまったということでしょうけれども。
恥ずかしながら箱館戦争についての本を始めて読んだのですが、丁寧に書かれた地名はなじみのある場所で、共にそこの地を歩き、戦い、追い込まれる思いがしました。なんとも苦しい。
でも、その夢破れる敗軍の将の姿が、めちゃくちゃかっこいいです。その姿を見るために、苦しい読書をする価値があります。
榎本武揚の夢が何だったかは、明瞭に主張されています。大きな夢です。見果てぬ夢に、男の夢に泣きそうになります。
蛇足ながら、函館出身者の私としてはNHK大河ドラマになって欲しい。
そして、最初の北海道新幹線には「かいよう(開陽)」と名前がつけられるともっといいのだが。
榎本釜次郎武揚らの夢に比べると、なんとも小さい夢ですけれども。
そのためか、この書き手にしてなお読み進むのが苦しい。この話の後半が負け戦の連続だからでしょう。
物語の前半ですっかり釜次郎ファンになって、共に欧米の知識を入れた新しい国の姿を思い描いてしまうと、残念すぎる間違いや不運が続きすぎます。新造軍艦「開陽」への大きな期待も、史実を知る身ではただただ悲しい結末へ向けてページを捲る手が止まるばかり。「歴史にもしもがあったなら」と思わされるのは作者の術中にはまったということでしょうけれども。
恥ずかしながら箱館戦争についての本を始めて読んだのですが、丁寧に書かれた地名はなじみのある場所で、共にそこの地を歩き、戦い、追い込まれる思いがしました。なんとも苦しい。
でも、その夢破れる敗軍の将の姿が、めちゃくちゃかっこいいです。その姿を見るために、苦しい読書をする価値があります。
榎本武揚の夢が何だったかは、明瞭に主張されています。大きな夢です。見果てぬ夢に、男の夢に泣きそうになります。
蛇足ながら、函館出身者の私としてはNHK大河ドラマになって欲しい。
そして、最初の北海道新幹線には「かいよう(開陽)」と名前がつけられるともっといいのだが。
榎本釜次郎武揚らの夢に比べると、なんとも小さい夢ですけれども。
2009年8月8日に日本でレビュー済み
この前、司馬遼太郎の土方歳三もの『燃えよ剣』を読んだので、今度は、榎本武揚の本が読みたくなり、探し回って、やっと見つけたのがこの本。
もともと、榎本武揚には興味があったけど、あまり知る機会がなかった。時代小説なんかでは、あまりいい書き方されていない人だったけど、実は、とっても当時の日本人としては面白い人だと思う。
まだ、一巻。ようやく若き武揚がオランダに着いたところで終わる。
もともと、榎本武揚には興味があったけど、あまり知る機会がなかった。時代小説なんかでは、あまりいい書き方されていない人だったけど、実は、とっても当時の日本人としては面白い人だと思う。
まだ、一巻。ようやく若き武揚がオランダに着いたところで終わる。
2011年8月21日に日本でレビュー済み
幕末、明治の有名人の中でも比較的地味で、他の有名人との絡みも少ない?榎本武揚が主人公です。
蝦夷地への旅行や、長崎でオランダ人から教育を受ける姿様子など、(どこまで正確な描写か分かりませんが)他の幕末を舞台にした小説ではあまり描かれない様子が描かれています。
とはいえ、ペリー来航のころから描かれているのにかかわらず、武揚自身が係わっていないからか、そのあたりの説明やエピソードは淡白です。
蝦夷地への旅行や、長崎でオランダ人から教育を受ける姿様子など、(どこまで正確な描写か分かりませんが)他の幕末を舞台にした小説ではあまり描かれない様子が描かれています。
とはいえ、ペリー来航のころから描かれているのにかかわらず、武揚自身が係わっていないからか、そのあたりの説明やエピソードは淡白です。
2004年4月28日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
『榎本武揚』という人物について、まず真っ先に浮かぶのは
戊辰戦争で最後まで闘った幕臣というイメージだと思います。
もちろん、それは真実です。
ですが榎本武揚はそれだけではありませんでした。
幕臣という枠を超えて、世界の中の日本を自分の中に作り出し、
完全な未来の日本の青写真(例え他人にしたら不完全でも)を持って闘っていました。
それがこの本において得た知識です。
これを読んだ時、私は長州や薩摩など討幕派側視点からの小説、
資料しか読んでいなくて
イメージが固定されつつあった(徳川側は滅んで当然など)のですが、
この場において見事にぶち壊さた事を覚えています(苦笑)。
しかし、歴史を知る上においてはそれはとても重要なのだと今更ながら感じます。
戊辰戦争で最後まで闘った幕臣というイメージだと思います。
もちろん、それは真実です。
ですが榎本武揚はそれだけではありませんでした。
幕臣という枠を超えて、世界の中の日本を自分の中に作り出し、
完全な未来の日本の青写真(例え他人にしたら不完全でも)を持って闘っていました。
それがこの本において得た知識です。
これを読んだ時、私は長州や薩摩など討幕派側視点からの小説、
資料しか読んでいなくて
イメージが固定されつつあった(徳川側は滅んで当然など)のですが、
この場において見事にぶち壊さた事を覚えています(苦笑)。
しかし、歴史を知る上においてはそれはとても重要なのだと今更ながら感じます。
2011年3月6日に日本でレビュー済み
35年前、高校生の時分に安部公房の「榎本武揚」を読んだ。つまらなくはなかったが、特に印象に残ることはなかった。司馬遼太郎の幕末維新物に接する以前であり、基礎知識が不足していたせいもあるが、榎本という人物より箱舘(函館)戦争に重点が置かれており、主人公が本書ほど生き生きと描かれていなかったためだろう。その後司馬氏の「竜馬が行く」を読み、歴史小説であると同時に良質な青春小説であることに感銘、以来最高度の賛辞を送っているが、佐々木譲の本書はこれに迫る作品だと思う。少なくとも土方歳三を描いた司馬氏の「燃えよ剣」に見劣りはしない。
少年期の武揚が、伊能忠敬の随員として全国行脚に伴った父、円兵衛から薫陶を受け、秀才として嘱望されながらも出世コースである儒学の道を外れ、ほとばしる学問的興味から蘭学、造船や機械工学の分野に進み、本人の努力と幸運が重なり幕府留学生として宿願だったオランダ留学を果たし、維新の混乱の中で、帰国時に乗船していたオランダ製新鋭軍艦開陽丸を主力とする幕府海軍の艦隊司令官を引き受けることになり、函館戦争に至る経緯が、時代背景と本人の成長がシンクロナイズする形で活写されている。
著者は北海道出身で、年代により題材を変えながら北海道を舞台としてオートバイ、警察官、太平洋戦争に絡んだ佳作をコンスタントに書き続けている。毎回、正義感や若さのエネルギーに任せて規範の枠を踏み外してしまう主人公が登場し、臨場感豊かに物語が展開していく。ハラハラさせられると共に自分も小説に引き込まれてしまうが、この作品はその中でも屈指の傑作だと思う。
少年期の武揚が、伊能忠敬の随員として全国行脚に伴った父、円兵衛から薫陶を受け、秀才として嘱望されながらも出世コースである儒学の道を外れ、ほとばしる学問的興味から蘭学、造船や機械工学の分野に進み、本人の努力と幸運が重なり幕府留学生として宿願だったオランダ留学を果たし、維新の混乱の中で、帰国時に乗船していたオランダ製新鋭軍艦開陽丸を主力とする幕府海軍の艦隊司令官を引き受けることになり、函館戦争に至る経緯が、時代背景と本人の成長がシンクロナイズする形で活写されている。
著者は北海道出身で、年代により題材を変えながら北海道を舞台としてオートバイ、警察官、太平洋戦争に絡んだ佳作をコンスタントに書き続けている。毎回、正義感や若さのエネルギーに任せて規範の枠を踏み外してしまう主人公が登場し、臨場感豊かに物語が展開していく。ハラハラさせられると共に自分も小説に引き込まれてしまうが、この作品はその中でも屈指の傑作だと思う。