「はじめに」と「おわりに」を除くと、目次は以下のようになっていて、それだけでかなりユニーク。「1954年論:水爆映画としてのゴジラ−中曽根康弘と原子力の黎明期−」「1957年論:ウラン爺の伝説−科学と反科学の間で揺らぐ「信頼」−」「1965年論:鉄腕アトムトオッペンハイマー−自分と自分でないものが出会う−」「1970年論:大阪万博−未来が輝かしかった頃−」「1974年論:電源三法交付金−過疎と過密と原発と−」「1980年論:清水幾太郎の「転向」−調和、安保、核武装−」「1986年論:高木仁三郎−科学の論理と運動の論理−」「1999年論:JCO臨界事故−原始力的日光の及ばぬ先の孤独な死−」「2002年論:ノイマンから遠く離れて−」。
この構成を著者は次のように説明している、「この本において試みた諸問題群の再編集法は、そんな重層性を少しでも解きほぐすための挑戦だった。視線を少しでも深く核の問題が孕む本質に向かって届かせるために、かえって幾つもの迂回路を通る作業をした。メインカルチャーだ、大衆的意識がより表出しやすいサブカルチャーも横断的に各論を総合することで「核」観の輪郭が描きだせれば良いと思った」と(pp.255-256)。
要は核がどのように扱われてきたか、その来歴を王道で、また回り道をしながら論じたのが、この本の内容である。したがっていろいろなことが、一方で俯瞰的、歴史的に、他方で微視的、具体的によくわかる。原子力委員会を、科学者の警告を無視して、たちあた正力松太郎、そして原子炉構造予算2億3500万を国会で通過させた中曽根康弘、それは第五福竜丸の被爆ニュースが公にされた直前のことだった。
日本の原子炉政策のスタートはこのように危険で、強引なものだった、ということ。そして、原子炉をどのように設置するのか、この難問を後押ししたのが電源三法交付金。過疎・過密の解消するかのような幻想をふりまく、この法律は実は過疎・過密を前提し、固定化する内容のものであり、また原子炉反対派がよく言う「原子炉を推奨するならそれを東京につくればいいのではないか」という物言いに対して、すでに東京には作れないことを巧妙に盛り込んだものであった。
著者は原子炉がなければたちゆかなくなっているこの社会を「原子力的日光の中でのひなたぼっこ」と捉え、この原子力的日光の認識こそが核の影が落ちている現代社会を理解するカギと考え、この本を執筆したようである。核が偏在する世界の状況を描き出し、そうした状況を生きる覚悟や技術を書こうというわけである。
その核問題に対しては原子力エネルギー利用への取り組みに対しても、そのハンタイ派の運動にも思考パターンにも「非共感的」姿勢を貫き、「つまりどちらを向いても共感できない状態において原子力に対峙し、なんとか活路を見出そうそした」と「あとがき」で、執筆にさいしての苦労を開陳している(p.254)。
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「核」論: 鉄腕アトムと原発事故のあいだ (中公文庫 た 70-3) 文庫 – 2006/2/1
武田 徹
(著)
「豊かさ」への渇望ゆえに核の力を借りる選択をした、唯一の被爆国??批評的まなざしによる「各」論が、混迷する戦後日本の姿を浮き彫りにする。〈解説〉東雅夫
- 本の長さ267ページ
- 言語日本語
- 出版社中央公論新社
- 発売日2006/2/1
- ISBN-104122046572
- ISBN-13978-4122046573
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登録情報
- 出版社 : 中央公論新社 (2006/2/1)
- 発売日 : 2006/2/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 267ページ
- ISBN-10 : 4122046572
- ISBN-13 : 978-4122046573
- Amazon 売れ筋ランキング: - 992,533位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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著者について
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1958年生まれ。ジャーナリスト・評論家。恵泉女学園大学人間社会学部教授。国際基督教大学教養学部を経て、同大学大学院比較文化研究科博士課程修了。
メディアと社会の相関領域を主な執筆対象とするとともに、国際基督教大学、東京大学、恵泉女学園大学などで、メディア、ジャーナリズム教育に携わってきた。
『流行人類学クロニクル』(日経BP社)でサントリー学芸賞受賞。ほかに『殺して忘れる社会』(河出書房新社)、『原発報道とメディア』(講談社現代新書)、『私たちはこうして「原発大国」を選んだ——増補版「核」論』『原発論議はなぜ不毛なのか』(中公新書ラクレ)、『NHK問題——二〇一四年・増補改訂版』(Kindle版)など著書多数。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2003年2月14日に日本でレビュー済み
核問題をスイシン派にもハンタイ派にも組しないで、ぎりぎりまで、科学的思考の理性で球を持ちこたえて、リリース・ポイントを延ばし、道理につなげて、心のこもった一球を投じようと、作者は巧みな工夫を凝らした各論で読者を取り込んで、新しい展望を模索する。非常に良心的な本である。
“We are out here enjoying the warmth of atomic energy”と、
GHQの准将ホイットニーが喋った言葉、原子力的陽だまりの中での解釈を巡って、日本国憲法誕生の検証から入り、鉄腕アトム、ゴジラと時系列の各論ならず、核論で核の傘の下の日本国を論じる。
“We are out here enjoying the warmth of atomic energy”と、
GHQの准将ホイットニーが喋った言葉、原子力的陽だまりの中での解釈を巡って、日本国憲法誕生の検証から入り、鉄腕アトム、ゴジラと時系列の各論ならず、核論で核の傘の下の日本国を論じる。