筒井氏が断筆宣言をした後に綴ったエッセイを纏めたもの。全体で9章から成るが、中心となるのは1章の「現代世界と文学のゆくえ」と2章の「表現の自由に関する断章」であろう。
1章の「現代世界と文学のゆくえ」では、常に時代の最先端を行く著者が"果たして文学に未来はあるのか"というテーマを根幹に据え、筒井なりの分析と展望を語ったもの。資本主義下における文学の存在意義、著作権の問題、隠蔽された差別の問題などを中心に文学表現の可能性を追求する。特にSFの主題において「越境」と「エイリアン」がキーワードであり、社会における被差別者である「エイリアン」が本気で「越境」するテーマに可能性を見い出す。また、ドーキンスのミーム概念に関連して、"文学と死"の概念を論じる辺りも面白い。本章の節中で筒井の専門分野である「SFと虚構性」を論じているのも興味深い。
2章の「表現の自由に関する断章」は断筆宣言の元となった「てんかん騒動」の顛末を綴ったものだが、言葉狩り、表現の自由の問題を扱っていて、文学の本質に迫る内容。「日本てんかん協会会長」の抗議文も載っていて興味深い。
後半は軽めの内容になっていて、他の作家の新刊本への推薦文(これらの本に可能性を見い出しているのだろう)、畏友への追悼文(これはシミジミとしている)などが載っている。
中身の濃いエッセイなので、とても全部は触れられないが、筒井がこうした纏めた形で文学論を発表するのは極めて珍しい。筒井ファンならずとも、文学愛好者必読の傑作エッセイ。
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小説のゆくえ (中公文庫 つ 6-23) 文庫 – 2006/3/1
筒井 康隆
(著)
小説に未来はあるか。永遠の前衛作家が現代文学へ熱きエールを贈る「現代世界と文学のゆくえ」ほか、断筆宣言後に綴られたエッセイ100篇の集成。〈解説〉青山真治
- 本の長さ381ページ
- 言語日本語
- 出版社中央公論新社
- 発売日2006/3/1
- ISBN-104122046661
- ISBN-13978-4122046665
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登録情報
- 出版社 : 中央公論新社 (2006/3/1)
- 発売日 : 2006/3/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 381ページ
- ISBN-10 : 4122046661
- ISBN-13 : 978-4122046665
- Amazon 売れ筋ランキング: - 604,133位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 4,064位中公文庫
- - 9,728位近現代日本のエッセー・随筆
- - 58,694位ビジネス・経済 (本)
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著者について
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1934(昭和9)年、大阪市生れ。同志社大学卒。
1960年、弟3人とSF同人誌〈NULL〉を創刊。この雑誌が江戸川乱歩に認められ「お助け」が〈宝石〉に転載される。1965年、処女作品集『東海道戦争』を刊行。1981年、『虚人たち』で泉鏡花文学賞、1987年、『夢の木坂分岐点』で谷崎潤一郎賞、1989(平成元)年、「ヨッパ谷への降下」で川端康成文学賞、1992年、『朝のガスパール』で日本SF大賞をそれぞれ受賞。1997年、パゾリーニ賞受賞。他に『家族八景』『邪眼鳥』『敵』『銀齢の果て』『ダンシング・ヴァニティ』など著書多数。1996年12月、3年3カ月に及んだ断筆を解除。2000年、『わたしのグランパ』で読売文学賞を受賞。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2003年5月23日に日本でレビュー済み
新作かと思いきや、中身は後書きや推薦文の寄せ集め。
しかもある程度文学に精通している必要ありの「読ませる」内容となっている。
歯ごたえ自体は十分で、このてのものの応用編という位置付けなら星は五つ。
しかもある程度文学に精通している必要ありの「読ませる」内容となっている。
歯ごたえ自体は十分で、このてのものの応用編という位置付けなら星は五つ。
2006年4月20日に日本でレビュー済み
一見、何を考えているのかさっぱり読者には理解できず、人によっては「狂人」扱いするかもしれないが、実際の筒井康隆は冷徹なほどに事物を眺める理知的な人物である。まあ、俳優でもあるので「狂人の作家」を演じている、と言ったほうが正しいかもしれない。
で、この本でございますが、え〜、前半は重厚な内容です。相当程度濃厚な文学理論を書き上げており、筒井康隆という作家の知性の一端が伺えます。そら単なる「狂人」だったら『虚航船団』『残像に口紅を』『虚人たち』なんて作品は生み出せません。論理的に文学を考察し、そして熟練した筆力でもって書き上げる。この人、一線級の文学者ですよ。もう少し若ければ大学の講師なんかすれば相当凄いことになったんじゃないですかね。まあ、この人、原稿料だけで充分すぎる収入があるんで、ありえない話ですけど(笑)
ただし、後半は色んな所からのスクラップみたいになっている。ちょっとそこは残念。
で、この本でございますが、え〜、前半は重厚な内容です。相当程度濃厚な文学理論を書き上げており、筒井康隆という作家の知性の一端が伺えます。そら単なる「狂人」だったら『虚航船団』『残像に口紅を』『虚人たち』なんて作品は生み出せません。論理的に文学を考察し、そして熟練した筆力でもって書き上げる。この人、一線級の文学者ですよ。もう少し若ければ大学の講師なんかすれば相当凄いことになったんじゃないですかね。まあ、この人、原稿料だけで充分すぎる収入があるんで、ありえない話ですけど(笑)
ただし、後半は色んな所からのスクラップみたいになっている。ちょっとそこは残念。
2003年4月25日に日本でレビュー済み
すわ、筒井康隆の新作だ、と思い手に取った。が、書き下ろしではなくこれまで(1993~2003)雑誌などに掲載したエッセイや批評を集めたもの。第1章が「現代世界と文学のゆくえ」なので躓きそうになる。ここを越えると理解もだいぶ楽。「表現の自由に関する断章」では「文学もしくは作家のペンは剣より強いかもしれないが、作家そのものはあきらかに剣より弱い」(p80)と書いている。ごしごしごんごん書いていくことの大切さを感じる。「読み、語り、聞かせること」では幼児への読み聞かせを習慣化という話も印象に残った。ただ、断筆後作品執筆を控えていたためか「着想の技術」や「短篇小説講義」を凌駕するような文学的論理は見えない。タイトルに内容が追いついてない印象。