およそ「政治と戦争」を語る本で、本書以上の本を見いだすことは難しい。
レビューがあまりにも良い評価だったので半信半疑で購入して正解でした。
それほど中身が濃く、戦争を単なる｢戦争の技術｣や｢戦術・戦略｣の位置に
おとしめるのではなく、国際政治構造の中で戦争を位置づけ、見事に説明しきっている。
内容は、ヨーロッパ各国における戦争とその当時の国内情勢・国際情勢を詳細に論じたもの。
近世ヨーロッパの戦争史であるが、本書の内容はヨーロッパのみならず世界で通用する内容。
例えば、戦術的変化として歩兵と騎兵の重要性から、武器(長槍やボウガン)の発達によって
「専門家による戦争」から｢一般国民も参加できる戦争｣へと変化したことを指摘している。
これだけではありきたりと思えるが、筆者はさらに論を進めて兵器の高度化によって
「戦闘技術が進化し」、それに伴って「戦争はさらに変化し再び専門性を帯び、専門家による戦争」
へと変貌したことをかみ砕いて説明している。
凡庸な専門家はすぐに、｢戦術の変化と戦略の変化｣を説くが、著者は「戦略と政治の繋がり｣を
重要視する。
その視点は、歴史の専門家ならではの、戦争と政治を俯瞰したように考察できる著者の才能に
よるところが大きい。
数多くの戦争に関する本を読んだつもりだが、本書ほど政治的視点から軍事・戦争を考えることの
重要性を突きつけられたことはなかった。
ページ数こそ少ないが、内容はあまりにも濃く、できれば上下巻でもよいからもっと膨らませて
欲しかったと思うほど。
解説にもあるが著者は自伝を書くほどの専門家。決して購入して後悔することはない。
ただ難点は、訳がこなれていないこと。かなり版を重ねているが、そのままでは意味をとりねる
箇所や意味不明な箇所が散見される。これが唯一の欠点。
不思議なことに、本書の中間部分に訳が悪い箇所が多く、おそらくは(間違っていたならすみません)
下訳者の訳をよく吟味せずにそのまま掲載したのか？
「弾丸そのものが溝に沿って広がる」こんな表現があり、おそらくは「銃口内部のライフル溝に
沿って弾丸が飛び出す」由であろう。本文のみを読むとまるで弾丸がアメーバー状に変化したとしか
思えない表現。しばらくは意味を測りかねた。
この他にも日本語として意味をなさない部分があるのは、著者にも失礼。
今後さらに版を重ねるであろうから、是非すぐれた邦訳を望みます。
かなりの自信を持ってお薦めします。
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