「二〇〇四年六月の月命日には,故人の愛した地中海の空や海の青と白い大理石柱をかたどった完璧な装幀の全集の第一巻を,ぶじ墓前に供えることができた.木々の枝を過ぎるさわやかな風に乗って,黒い揚羽蝶が一羽ふわりと近寄ってきたのは,出版を喜ぶ辻邦生の魂だったかもしれない。」p46
中世ヨーロッパ美術史家の辻佐保子氏が「たえず書く人」であった夫辻邦生の文学を解説する。美術史家であったからこそ、夫の著作の題材、思想、背景に密接にリンクしていた妻の思い(親しみ,愛、尊敬、戸惑い、不安)が伝わってくる。
辻邦生ファン、辻邦生研究者には必携の珠玉。

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「たえず書く人」辻邦生と暮らして (中公文庫 つ 27-1) 文庫 – 2011/5/21
辻 佐保子
(著)
些細な出来事や着想から大きな一つの作品を構築していく作家の仕事ぶりを、その傍らでつぶさに見てきた夫人の手による作品論的エッセイ。
- 本の長さ242ページ
- 言語日本語
- 出版社中央公論新社
- 発売日2011/5/21
- ISBN-104122054796
- ISBN-13978-4122054790
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登録情報
- 出版社 : 中央公論新社 (2011/5/21)
- 発売日 : 2011/5/21
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 242ページ
- ISBN-10 : 4122054796
- ISBN-13 : 978-4122054790
- Amazon 売れ筋ランキング: - 507,813位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 3,452位中公文庫
- - 71,995位ノンフィクション (本)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2010年8月4日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2013年2月10日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
この本は、辻邦生全集の月報を単行本の形にしたものですが、それぞれの本の内容を紹介するのではありません。良き理解者であり、よき伴侶であり、ご自身もキリスト教思想と美術に造詣の深い奥様からみた、作品の構成意図や背景が記されていて、これを読んで多くの疑問が氷塊した気がします。私自身、一時は、辻文学の大フアンで、「背教者ユリアヌス」や「安土往還記」は何度も読み返し心から満たされていましたし、パリ日記に記された思索と勉強の日々にもあこがれていました。ただ、その後の「嵯峨野明月記」、「春の戴冠」や「西行花伝」はあまりにも長く、登場人物が複雑で、途中で投げ出してしまいました。 その半面、年を召されてからの旅や読書関係の軽いエッセイは、また楽しませて頂いています。 このように、辻邦生(敬称略)は、私の中ではとても明暗の際立った不思議な作家でした。しかし、この本によって、作品をめぐる説明を読み、ようやく謎がとけたような気がしました。「複雑極まりない多重構造、同時多画面」の繊細な芸術作品を仕上げようとしたのが中期の大作だったのではないでしょうか。 評者もそれなりに年をとり、西行花伝の意図や山荘で静かに浅間山を眺め続けた作家の姿に共感できるようになりました。今、仕事が忙しくて、繊細な芸術作品を愛でることができる自信が私にはありませんが、「少数の幸福な読者」を辻さんが確かに得られていることがこの本によって十分に得心できたことは大きな収穫でした。 何時の日か、「幸福な読者」の仲間に入れる自分がいたら、それは私の人生にとって限りなく幸せなことでありましょう。
2008年5月7日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
辻邦生は「美や愛、生と永遠のすばらしさを生涯書き続けた小説家」(帯より)です。
学生時代から邦夫氏の人生を支えながら、自らの道も歩まれてきた佐保子さんが、邦夫氏の没後、ようやくひとりの小説家としての人生を同志の目で語りかけてくれた作品です。
夫人としてではなく、最も邦夫氏の身近にいた我々読者の代表として、彼の作品を愛を込めて語っています。
邦夫氏が学生時代に婚約の決まっていた佐保子さんに恋をして、ついに佐保子さんの心を射止めたことはほほえましいエピソードとして有名ですが、この本の中に流れている佐保子さんからの「love you」の想いこそが、邦夫氏の求めていた美と愛であろう、と思います。
ユリアヌス、サンドロ、フーシェ、西行・・・邦夫氏の没後10年を経て、彼の描こうとしていた人間らしい美と愛が、佐保子さんの中で成熟し、しっとりと花咲いたのでしょう。
理想的な夫婦の魂のつながりが醸し出す愛のエネルギーが、インクの香りのように心地よく感じられる秀作です。
学生時代から邦夫氏の人生を支えながら、自らの道も歩まれてきた佐保子さんが、邦夫氏の没後、ようやくひとりの小説家としての人生を同志の目で語りかけてくれた作品です。
夫人としてではなく、最も邦夫氏の身近にいた我々読者の代表として、彼の作品を愛を込めて語っています。
邦夫氏が学生時代に婚約の決まっていた佐保子さんに恋をして、ついに佐保子さんの心を射止めたことはほほえましいエピソードとして有名ですが、この本の中に流れている佐保子さんからの「love you」の想いこそが、邦夫氏の求めていた美と愛であろう、と思います。
ユリアヌス、サンドロ、フーシェ、西行・・・邦夫氏の没後10年を経て、彼の描こうとしていた人間らしい美と愛が、佐保子さんの中で成熟し、しっとりと花咲いたのでしょう。
理想的な夫婦の魂のつながりが醸し出す愛のエネルギーが、インクの香りのように心地よく感じられる秀作です。
2015年2月2日に日本でレビュー済み
優れた美術史家だった佐保子夫人が書いた辻邦生作品の背景を描くエッセイ。
『春の戴冠』『嵯峨野明月記』『西行花伝』などの薫り高い数々の名作の
執筆の際、辻氏がどのような資料を読み、どういった精神状態であったのか
佐保子夫人にしかわからない事実が抑制のきいた美しい文章で描き出されています。
私は高校時代に『背教者ユリアヌス』を読んで以来、
辻ファンになりましたが、本書で取り上げられている名作のうち
未読のものもいくつもありますので
これからじっくりとこれらの素晴らしい作品に
向き合いたいと思います。その上で本著はまたとない手引きになってくれるでしょう。
それにしても辻邦生氏と佐保子夫人、教養に溢れているばかりか、
お互いに高め合い、刺激を与え合う実に素晴らしいご夫婦でした。
森有正や埴谷雄高など、優れた知識人との交流の記述、
またお二人の結婚記念日は辻氏が敬愛していたトーマス・マンの
誕生日(6月6日)であったことなども興味深いです。
佐保子夫人の夫君に対する尊敬と思慕にあふれた本書は
辻邦生というたぐい稀な文学者に向けられた最高のオマージュだと感じました。
『春の戴冠』『嵯峨野明月記』『西行花伝』などの薫り高い数々の名作の
執筆の際、辻氏がどのような資料を読み、どういった精神状態であったのか
佐保子夫人にしかわからない事実が抑制のきいた美しい文章で描き出されています。
私は高校時代に『背教者ユリアヌス』を読んで以来、
辻ファンになりましたが、本書で取り上げられている名作のうち
未読のものもいくつもありますので
これからじっくりとこれらの素晴らしい作品に
向き合いたいと思います。その上で本著はまたとない手引きになってくれるでしょう。
それにしても辻邦生氏と佐保子夫人、教養に溢れているばかりか、
お互いに高め合い、刺激を与え合う実に素晴らしいご夫婦でした。
森有正や埴谷雄高など、優れた知識人との交流の記述、
またお二人の結婚記念日は辻氏が敬愛していたトーマス・マンの
誕生日(6月6日)であったことなども興味深いです。
佐保子夫人の夫君に対する尊敬と思慕にあふれた本書は
辻邦生というたぐい稀な文学者に向けられた最高のオマージュだと感じました。
2008年11月9日に日本でレビュー済み
辻邦生全集20巻の月報を元にまとめられた20章。佐保子夫人による辻作品の解説。
該当巻所収の作品の客観的な内容紹介はほとんど期待しない方が良く、その作品が生まれたモチーフ、背景、エピソード、文学的意義などがちりばめられている。そのうちでも身近にいた夫人でないと分からない事柄が結構多くて、この本の特徴となっている。夫人の邦生への思いも率直に書かれていて、うっかりすると、邦生の気持ちと夫人のそれとが区別できないような記述も再三見られるほどだが、それは二人の緊密度の強さを示すのかも知れない。
したがって、新たにこれから辻作品を読もうとする人にもそれなりに理解のいとぐちを与えてくれるだろうけれど、主な作品をすでに読んだ人に一層インフォーマティブな書きぶりとなっている。つまり、辻邦生ファンなら、いたるところで作品の場面や記述を思い浮かべつつあちらこちらで心の高まりを覚えずにいられないだろう。
該当巻所収の作品の客観的な内容紹介はほとんど期待しない方が良く、その作品が生まれたモチーフ、背景、エピソード、文学的意義などがちりばめられている。そのうちでも身近にいた夫人でないと分からない事柄が結構多くて、この本の特徴となっている。夫人の邦生への思いも率直に書かれていて、うっかりすると、邦生の気持ちと夫人のそれとが区別できないような記述も再三見られるほどだが、それは二人の緊密度の強さを示すのかも知れない。
したがって、新たにこれから辻作品を読もうとする人にもそれなりに理解のいとぐちを与えてくれるだろうけれど、主な作品をすでに読んだ人に一層インフォーマティブな書きぶりとなっている。つまり、辻邦生ファンなら、いたるところで作品の場面や記述を思い浮かべつつあちらこちらで心の高まりを覚えずにいられないだろう。
2008年6月20日に日本でレビュー済み
辻邦生の全集の月報に連載された、奥様で中世美術研究者の辻佐保子による思い出をまとめたもの。高校の時に『背教者ユリアヌス』に出会って以来、辻邦生の小説はおそらく全部読んでいるし、その他もかなり読んでいる。いわば、私にとっても人生をともに過ごした(と勝手に思っている)作家の思い出は、深い思い入れなしには読むことが出来なかった。特に前半に取り上げられている小説は、タイトルと登場人物、象徴的な場面に言及される度に、小説全体の雰囲気と読んだ時の気分まで思い出してしまって、なつかしい気持ちで満たされた。ああ、ゆっくり読み返したい。
全集が出たことは知っていたのだが、全20巻という大部に恐れをなしたのと、どうせ買っても今は読む時間もないと買わずにあきらめていた。本書を読んで、買っておけば良かったとちょっと後悔してます。インターネットで古書の流通も良くなっているし、老後の楽しみリストでも作って、一番に赤丸をつけておくことにしましょう。
全集が出たことは知っていたのだが、全20巻という大部に恐れをなしたのと、どうせ買っても今は読む時間もないと買わずにあきらめていた。本書を読んで、買っておけば良かったとちょっと後悔してます。インターネットで古書の流通も良くなっているし、老後の楽しみリストでも作って、一番に赤丸をつけておくことにしましょう。
2012年1月23日に日本でレビュー済み
『「たえず書く人」辻邦生と暮らして』(辻佐保子著、中公文庫)は、辻邦生ファンには見逃せない一冊である。
辻邦生は、私の最も好きな日本の現代作家であるが、中でも『雲の宴』『フーシェ革命暦』『ある生涯の七つの場所』が気に入っている。
辻邦生の夫人・辻佐保子の手に成るこの本は、夫の没後、『辻邦生全集』(全20巻)の月報に連載した文章をまとめたものだが、半世紀を共にし、創作の現場に立ち会った夫人が最愛の人を偲びながら綴っただけあって、辻邦生の創作の神秘や秘密――「それぞれの作品の着想に始まり、執筆段階での試行錯誤や、次作にむけての軌道修正など」――を垣間見ることができる。
ファンにとってはこれだけでも嬉しいのに、端正な文章、端整な風貌の辻邦生が意外とお茶目な面も持っていたことが分かり、得した気分になってしまった。例えば――「うちでは、『背教者ユリアヌス』を『ユリちゃん』、『春の戴冠』を『ボチ(画家・ボッティチェルリの意)くん』と呼んでいた。『ユリちゃん』ばかり文庫版増刷の通知が届くため、『かわいそうなボチくん』と言うのが口癖だった」。
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