1989年に朝日選書として出た『
スペイン戦争―ジャック白井と国際旅団
』に大幅な加筆をして文庫として出版された書です。著者は出版当時（2013年）法政大学名誉教授で、スペイン現代史に関する著作が多い研究者です。私もこれまでスペインに関する著者の書を、『
スペイン学を学ぶ人のために
』『
スペイン検定―あなたが知っている、知らないスペインの四択・百問
』『
現代スペイン読本 知っておきたい文化・社会・民族
』『
マドリードとカスティーリャを知るための60章
』と読んできました。
今回の『ジャック白井と国際旅団』は、スペイン内戦（1936－1939年）時に共和国政府軍側に立って戦った国際旅団の中に身を置いた北海道出身の白井という人物の足跡を追いながら、スペイン内戦の歴史をたどっていくものです。
スペイン内戦についてはGeorge Orwell『Homage to Catalonia』を読んである程度の知識はあるつもりでしたが、今回改めて知ったことがあります。
◇欧州各国はスペイン内戦が自国内に拡大するのを恐れて「スペイン不干渉委員会」を設置。スペインの孤立を図った。その一方でスターリン・ソ連は安定した援助を継続し、ソ連共産党から派遣された義勇兵という形を提言。これを受けてスペイン社会労働党（PSOE）のラルゴ・カバリェロ内閣が国際旅団の創設を認めたが、これによってスペイン国内で共産党の発言力が強まった。
◇叛乱軍のマドリード総攻撃を受けて共和国政府は首都をバレンシアに移したが、これにはアナキストの全国労働連合（CNT）が猛反対していた。また公的な機関や政治家・公務員がバレンシアに去ったことは、マドリードを一大拠点として防衛陣を敷こうとした共産党が伸長するきっかけとなった。
◇アメリカは自国民が国際旅団に参加することを認めなかった。国務長官マックレイナルドは外国の戦争に参戦する者には3000ドルの罰金刑か1年間の禁固刑に処すと発表した。
◇国際旅団の創設者のひとりでフランス人のアンドレ・マルティは反トロツキストであり、叛乱軍との戦闘よりも身内のスパイの摘発に専念。国際旅団の義勇兵500人を処刑したとされる。ヘミングウェイは『
誰がために鐘は鳴る
』の中でマルティを辛辣に批判したため、アメリカ共産党やスペインからの帰還義勇兵の団体と対立した。しかし戦後の赤狩り時代に帰還義勇兵は共産主義者として弾圧された中、ヘミングウェイは彼らの支援を続けた。
◇カリフォルニア大学経済学部専任講師のロバート・メリマンは集団農場を研究するためソ連に留学中だったが、直接ソ連からアメリカ人義勇兵のリンカン大隊に参加。初代大隊長となった。ロバート・メリマンはヘミングウェイの『
誰がために鐘は鳴る
』の主人公ロバート・ジョーダンのモデルと目されている。
◇共和国派内部では共産党が、性急な革命主義を廃し、戦争の勝利のためには民兵隊ではなく人民軍を創設することを主張した。その一方、アナルコ・サンジカリスト系のCNTと、トロツキスト系の統一マルクス主義労働者党（POUM）は「戦争と社会革命の同時進行」と「軍の一元化の拒否と民兵隊の維持」を主張して対立した。
◇フランコ叛乱軍による空爆のとき、マドリード市民は地下鉄を防空壕代わりに使った。これを見たイギリスの義勇兵大隊のトム・ウィントリンガム大隊長はドイツによるロンドン空爆時に地下鉄ホームの効用を大々的に指導した。
こうしたスペイン内戦の諸事情が大変興味深く――そのかたわら、ジャック白井の即席はあまり印象に残らず――読むことができました。
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