2001年から2006年までの期間、主に著者が大学の総長(東京大学)だったときの入学式や学位授与式における学生向け式辞の話、対談、新聞に寄稿した文章の再録です。巻末に2003年に制定したという東京大学憲章というものが出ています。時事的なトピックが多く、この手の本が、大学人の発言録として古典になる見込みは少ないでしょう。 とりあえず、学長退任直後に出版しましたという本です。
大学が独立行政法人になった後、どんどん高コストとなり迷走をつづけています。時代に見合った活動ができているか、将来の日本を担うための活動ができているか、まるで独自の指針を示すことができていません。そのくせ、グローバル化、「生き残りをかけた大学競争激化の時代」、「世界の○○大学になる!」などと大合唱をつづけています。それは、この人物が学長をしていた大学も同様です。自分の大学が立地する日本を確固たる軸に活動する基本方針が豊かに築かれないまま、何ができるのでしょうか。何が大学の伝統になっていくのでしょうか。さっぱり見通しがありません。
一般企業とは大きく異なり、大学は、すべてを(営利目的の)経営効率で判断して歩み続けるわけではありません。従業員のリストラができるわけでもありません。組織の長(学長)の権限は非常に限られています。ただ、文部科学省の方針に見合った体制をつくり、国民の税金(補助金)をできるだけ多く確保しようとする高コスト体質は変わっていません。
話が少しそれますが、研究者個人のレベルでは、「競争的資金の獲得」などという一般の人々が見たこともないような言葉で、あたかも、研究者としての実績が語られるようになってきましたが、これも、何のことはありません。研究をやっているぞ、研究をやるぞと見せかけて、国民の税金(科研費)を1円でも多く、研究目的で手にしたというだけのことです。さまざまな研究分野があるので、一概には言えないところもありますが、「科研費」は、自由な研究への出資を前提とするもので、成果を問われない費用です。このことは、ほとんど知られていません。
もちろん、科研費を受け取る人々は、場当たり的にレポートを出したり、発表をしたり、論文を書いたりしますが、それらが、自分たちが受け取る「競争的資金」に見合った価値を本当に公共に提供しているかどうかという厳密な判断プロセスはもたない場合がほとんどです。大学によっては、この「競争的資金」の獲得のために、URA : University research administrator などというポストをつくっているところもあります。これも高コストな文部科学省のおさがりです。どこまでも自助努力ではなく、官僚思考で、税金を引っ張ってきて活動しようとする高コスト体質です。
過去20年、デフレに合わせて学費が下がっていればいいのですが、国公立を含む、大学の学費はひたすら右肩上がりです。これからも上がる一方でしょう。 上がる一方なのに、奇妙な「大学無償化」を主張する人々が出てきました。現役の大学教職員もいるようです(この本の著者ではありません)。高コストなまま、何もかも国民の税金につけを回せと平然と主張しているに等しい。自分と自分の所属する大学組織を低コストに運用する案を一つも出さずに、いったい何を考えているのでしょうか。良識を疑います。
少子化時代の大学の構想は、大学の教職員を何十年もつとめたような、いわゆる「大学人」が音頭を取ってやるのは到底無理でしょう。税収ベースで予算をもとに考えている文部科学省、官僚などは論外です。教育や研究は、最初に一定額の費用(税収)ありきで、それに見合った活動をつくりこむのではありません。まず、長期的な視点で見て、日本に真に必要な教育活動・研究活動を打ち出し、選択と集中で絞り込むことがスタート地点になるはずです。さまざまな立場で活動する人々が議論して、このスタート地点をつくる動きは、本書を読む限りでも、まだまだ先のようです。
「時代は変わった。では大学はどうする?」そういう視点で、いわゆる「大学人」が適当に好き放題言いたいことを言っている段階が、まだ続いています。そして、大学もひとりひとりの教員も、何やかんやと理由をつけて、必死に国民の税金をかすめとる争奪戦に関心を集中させている。こんなことで、本当にいいのでしょうか。一人でも多くの国民が、大学(院)の危機的状況に関心を持ち、多くを知り、発言する必要がある時代です。 放置しても、大学はよくなることはありません。どんどんよくない方向に行くだけなのです。
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知識基盤社会と大学の挑戦: 国立大学法人化を超えて 単行本 – 2006/11/1
佐々木 毅
(著)
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- 本の長さ264ページ
- 言語日本語
- 出版社東京大学出版会
- 発売日2006/11/1
- ISBN-104130033255
- ISBN-13978-4130033251
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登録情報
- 出版社 : 東京大学出版会 (2006/11/1)
- 発売日 : 2006/11/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 264ページ
- ISBN-10 : 4130033255
- ISBN-13 : 978-4130033251
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