本書『まなざしのレッスン〈2〉西洋近現代絵画』は、 『まなざしのレッスン〈1〉西洋伝統絵画』(2001)の続編。読みやすい講義調の語り口と、西洋絵画を主体的に「視る」ためというコンセプトは前作と同じ。
著者の区分による西洋伝統絵画とは「約束事や慣習的なシステムが確立していた」絵画を指す。反対に、西洋近現代絵画とは、「そのシステムが崩壊し、新たな価値観が芽生えていく」絵画を指す。両者の時代区分は、18世紀末から19世紀初頭を境にして設定されている。
そして前作で論じられる対象は伝統絵画であったが、本書では近現代絵画が扱われる。各章には、その章のテーマの理解を深めるための日本語で読める文献案内も掲載されている。しかし文献案内には、市販されていない展覧会公式カタログも含まれてもおり、近くに大きな図書館などがないとアクセスできない書籍があることは難点かもしれない。
商品説明に記載されている目次の項目以外にも、「戦争と記憶」「鉄道と絵画」「絵画と写真」「「魔術的芸術」とその系譜」「キュビスムの実験」「色彩と科学」「抽象絵画と宗教性」「イメージの戯れ」「美術館と展覧会」「アウトサイダー・アート」「絵画と文字」などのコラムが途中に挟まれており、内容も充実している。
ただし前作『まなざしのレッスン〈1〉』を読んでいない方は注意が必要。序章となる第1章で軽く前作のおさらいをするとはいえ、本書はある程度前作を読んでいることを前提にしているからだ。そのほかにも本文のなかで前作に掲載された図版を使って説明することもある。
さらに本書は前作と同様、西洋美術史の概説をしているわけでもない。著者が第1章で前置きしているように、ロマン主義、印象主義、キュビスム、フォービスムなどの「イズム」の変遷にさほど重きを置かれていないのだ。商品説明にあるように各章は、三つのテーマにもとづいて分類されている。第I部「主題とテーマ」では、何を描くようになったのか、つまり近現代において描かれるようになったモチーフや主題が提示される。第II部「造形と技法」では、いかに描くようになったのか、つまり近現代における造形表現や技法などの形式的側面が考証される。そして第III部「受容と枠組み」では、なぜ第I、II部で示された絵画が描かれるようになったのか、つまり芸術を受容する社会状況に焦点をあてて考察される。くわえてIII部の射程は「絵画」という範疇を越えて現代アートの領域にまで及ぶ。
だから前作を読んでいない、なおかつ西洋美術についての書籍にこれまでまったく触れてこなかった、けれど近現代絵画を知りたい、という方にはオススメできない。基本的に著者は芸術鑑賞には前提知識があった方が良いというスタンスをとっているため、本書でも近現代絵画について伝統的な西洋美術史の文脈をふまえたうえで説明している。少なくとも美術の教科書に載っているような画家や芸術作品についての知識がある程度あるという方でないかぎり、前作を読んでいない方にとって本書は向かないだろう。
しかし西洋美術鑑賞の初級から一歩から踏み出すためには優れた本だと思われる。
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まなざしのレッスン 2西洋近現代絵画 (Liberal Arts) 単行本 – 2015/3/31
三浦 篤
(著)
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近現代絵画をスッキリ解説、目からウロコの鑑賞入門
東京大学の講義をベースにした『まなざしのレッスン 1西洋伝統絵画』の続篇。印象派以降、伝統的な絵画の枠組みが崩れていくなか、画家たちは何をめざしたのか。難解な近現代絵画を解きほぐし、まったく新しい視点から実践的に読み解く。美術館に行くのが楽しくなる決定版テキスト第2弾。モノクロ図版161点、カラー口絵24点収録。
【主要目次】
第1章 西洋近現代絵画をいかに見るか
第I部 主題とテーマ
第2章 物語表現の変容
第3章 現実の表象I 近代都市の諸相
第4章 現実の表象II 人間と自然の新たな表現
第5章 幻視の世界
第II部 造形と技法
第6章 空間と平面
第7章 色彩と筆触
第8章 抽象と超越性
第9章 引用と遊戯性
第III部 受容と枠組み
第10章 制度と運動
第11章 異文化の受容、逸脱の系譜
第12章 絵画という枠組み
東京大学の講義をベースにした『まなざしのレッスン 1西洋伝統絵画』の続篇。印象派以降、伝統的な絵画の枠組みが崩れていくなか、画家たちは何をめざしたのか。難解な近現代絵画を解きほぐし、まったく新しい視点から実践的に読み解く。美術館に行くのが楽しくなる決定版テキスト第2弾。モノクロ図版161点、カラー口絵24点収録。
【主要目次】
第1章 西洋近現代絵画をいかに見るか
第I部 主題とテーマ
第2章 物語表現の変容
第3章 現実の表象I 近代都市の諸相
第4章 現実の表象II 人間と自然の新たな表現
第5章 幻視の世界
第II部 造形と技法
第6章 空間と平面
第7章 色彩と筆触
第8章 抽象と超越性
第9章 引用と遊戯性
第III部 受容と枠組み
第10章 制度と運動
第11章 異文化の受容、逸脱の系譜
第12章 絵画という枠組み
- 本の長さ260ページ
- 言語日本語
- 出版社東京大学出版会
- 発売日2015/3/31
- 寸法15 x 1.6 x 21 cm
- ISBN-104130830317
- ISBN-13978-4130830317
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商品の説明
著者について
三浦 篤:東京大学大学院総合文化研究科教授
登録情報
- 出版社 : 東京大学出版会 (2015/3/31)
- 発売日 : 2015/3/31
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 260ページ
- ISBN-10 : 4130830317
- ISBN-13 : 978-4130830317
- 寸法 : 15 x 1.6 x 21 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 83,609位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 23位一般西洋美術史の本
- カスタマーレビュー:
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2015年3月26日に日本でレビュー済み
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2022年3月2日に日本でレビュー済み
18世紀末から19世紀初頭にかけて絵画には大きな断絶がある、フランス革命や市民革命のような社会の動きに連動している。
「物語・歴史画」過去の理想への参照から個々人の主観に美が変わった、新しさの追求、デッサンよりも筆触や色彩を通じた個性の発現。
同時代の出来事の表現(フランス革命)はともかく、オルナンの埋葬のように超普通のことまで描くようになった。個人の哲学やヴィジョンを提示するようになったのも特徴。
グリーンバーグが絵画の本質を平面性と規定したことについて、何となくそのような理解をしていたが、マネの絵画のどこが平面的なのかが具体的に説明されていることでより深くその歴史(グリーンバーグが考える、だけど)を再認識することが出来た。
「物語・歴史画」過去の理想への参照から個々人の主観に美が変わった、新しさの追求、デッサンよりも筆触や色彩を通じた個性の発現。
同時代の出来事の表現(フランス革命)はともかく、オルナンの埋葬のように超普通のことまで描くようになった。個人の哲学やヴィジョンを提示するようになったのも特徴。
グリーンバーグが絵画の本質を平面性と規定したことについて、何となくそのような理解をしていたが、マネの絵画のどこが平面的なのかが具体的に説明されていることでより深くその歴史(グリーンバーグが考える、だけど)を再認識することが出来た。
2022年6月20日に日本でレビュー済み
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三浦さんは優れた本・論文を書いていて、私もたくさん勉強しています。
でも、誰もが多作による質の低下という地雷を踏むようですね。
内容的にはNHKのカルチャーネタ程度です。もっと、じっくり煮詰めた内容を期待します。
でも、誰もが多作による質の低下という地雷を踏むようですね。
内容的にはNHKのカルチャーネタ程度です。もっと、じっくり煮詰めた内容を期待します。
2017年1月4日に日本でレビュー済み
本書は大学の学部生向けに書かれた西洋美術史学入門書『まなざしのレッスン』の続編である。1巻は私の知りうる限り最優秀の,前近代の美術史学入門書である。「前近代の西洋美術は一種のパズルである」ことを示し,なぜ絵画を見るためには知識が必要なのかを説き,絵画に関する基礎知識について概説している。そこに趣味としての美術鑑賞の,学問としての美術史学の入り口が用意されているのである。入門書であるので平易な語り口であり,また読む上で必要な知識を極力減らしてあり,大学入りたての文系大学生や,西洋美術というものに疑問を持つ社会人がいかにもいだきそうな疑問にちょうどよく答える名著であった。
そして,2巻は近現代美術史編である。1巻で扱われた西洋美術のパズル的なルールが次第に崩壊していくというのが近現代美術史の特徴であるが,その崩壊過程が,やはり平易な説明で綴られている。単純な時代順で,つまりロマン派→自然主義→印象派→……と追っていく美術史ではなく,絵画ジャンルやルール別に「どう崩壊したか」という点に焦点を当てて,前近代のルールと比べながらその変容を述べていくスタイルをとっている。ゆえに,1巻同様に美術史の知識はおろか,西洋史の知識自体も常識的なものしか要求されず安心して読める。
おそらく「わからない美術」の筆頭たるカンディンスキーらの抽象絵画もかなり紙面を割いて解説されているので,気になる方は是非。楽しめるようになるかどうかや納得するかは別にして,こういうものが出てきた経緯や画家の意図はなんとなく説得された“気分”になれるだろう。
なお,本書はあくまで美術史学的な美術作品の鑑賞方法・楽しみ方を提供する意味での入門書であって,知識を提供するたぐいの入門書ではない。有名な作品を1作1作懇切丁寧に説明しているわけではないし,美術史の流れ(様式史)を説明した本でもない。また,1巻を読んでいることは前提として書かれているので,その点も注意を要する。
そして,2巻は近現代美術史編である。1巻で扱われた西洋美術のパズル的なルールが次第に崩壊していくというのが近現代美術史の特徴であるが,その崩壊過程が,やはり平易な説明で綴られている。単純な時代順で,つまりロマン派→自然主義→印象派→……と追っていく美術史ではなく,絵画ジャンルやルール別に「どう崩壊したか」という点に焦点を当てて,前近代のルールと比べながらその変容を述べていくスタイルをとっている。ゆえに,1巻同様に美術史の知識はおろか,西洋史の知識自体も常識的なものしか要求されず安心して読める。
おそらく「わからない美術」の筆頭たるカンディンスキーらの抽象絵画もかなり紙面を割いて解説されているので,気になる方は是非。楽しめるようになるかどうかや納得するかは別にして,こういうものが出てきた経緯や画家の意図はなんとなく説得された“気分”になれるだろう。
なお,本書はあくまで美術史学的な美術作品の鑑賞方法・楽しみ方を提供する意味での入門書であって,知識を提供するたぐいの入門書ではない。有名な作品を1作1作懇切丁寧に説明しているわけではないし,美術史の流れ(様式史)を説明した本でもない。また,1巻を読んでいることは前提として書かれているので,その点も注意を要する。