ゴダールでは60年代の白壁から80年代のランプシェードに変わってきたし(P.274, 288)、ダニエル・シュミットでは向かい合った女は男に殺されるし(P.179-180)。ジョン・フォードでは物を投げるし(P.65)、ジャック・ベッケルでは扉を開閉するし(P.150)、マックス・オフュルスでは作中人物が小走りする(P.143)。こういう批評のスタイルを、文芸評論家の石原千秋は「あった、あった主義」と名づけて揶揄する。
しかし、小津では、女優がタオル、マフラー、手ぬぐいなどを投げ捨てる時、決まってそれは拒絶や憤りの表現になるというあたりになると(P.98-99)、「あった、あった主義」を通り越して、「細かすぎて伝わらない」的なネタになっているし、溝口と言えば船だから、『祇園の姉妹』や『西鶴一代女』には船が出ていなくても「彼のあらゆる作品には、見えない船がまがまがしく波間にたゆたっている」、とさえ言ってのける(P.92)。凄い。この歳になると、心の目を開いて、見たいものが見えるようになるのだろうか。
「まあ一応聞いてもらえる声の大きさはある」と自信たっぷりなわりには(P.417)、そんな「蓮實先生の批評が世界で孤立していた」ことを、カンヌに行って青山真治はよく分かったらしい(P.436)。だから、「批評を書く側も、批評を受け取る側も、たった一人の言葉を信用してはなりません。何かを納得するには、複数の視点に触れねばなりません。……、それにはどうしても生活のゆとりが必要となります」、と(P.18-19)。蓮實も丸くなったなぁと思う。
話頭にのぼった数百本の映画を、実は一本も見たことはない。映画なんて、ジャッキー・チェンぐらいしか知らない。それでも、一応、話の筋は追うことが出来た。だから、読めば分かると思う。蓮實映画論の中級編である。あるいは、最初からこれを読んでしまって良いかも知れない。これだけのボリュームで2,600円というのはお値打ちである。大学系の出版社は、安いのだろうか。
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映画論講義 単行本 – 2008/9/27
蓮實 重彦
(著)
世界の映画批評ネットワークの中心にいて、ますます旺盛な批評活動を展開する著者の最新講演集。映画の豊かな歴史と可能性を、作家・作品に即して語る。ハワード・ホークス、ジャン・ルノワール、ジョン・フォード、そして溝口健二、小津安二郎、成瀬巳喜男。さらに、ジャック・ベッケル、グル・ダット、ダニエル・シュミット、クリント・イーストウッド、侯孝賢、賈樟柯。聴衆を魅了してやまない著者の講義を、です・ます体で再現。
- 本の長さ516ページ
- 言語日本語
- 出版社東京大学出版会
- 発売日2008/9/27
- ISBN-10413083049X
- ISBN-13978-4130830492
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商品の説明
著者について
蓮實 重彦(はすみ・しげひこ):1936年生まれ。フランス文学者、文芸評論家、映画評論家。元東京大学総長。主な著書に、『監督 小津安二郎[増補決定版]』(筑摩書房 03)、『映画狂人』シリーズ(河出書房新社 00-04)、『「赤」の誘惑』(新潮社 07)、『映画崩壊前夜』(青土社 08)、ほか多数。
登録情報
- 出版社 : 東京大学出版会 (2008/9/27)
- 発売日 : 2008/9/27
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 516ページ
- ISBN-10 : 413083049X
- ISBN-13 : 978-4130830492
- Amazon 売れ筋ランキング: - 143,574位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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2008年11月27日に日本でレビュー済み
ここ10年ほどの蓮實重彦の映画評論(にかぎらずこれは彼の批評についてもいえることだと思うが)以前、あれほどいとも簡単に映画を物語に還元してしまうことにひたすらあがない続けることで生み出された、従来の映画評論に楔を打ち込み新たなる地平を開いたあの蓮實節はすっかり影を潜めてしまい、それとともにその内容までもきわめて凡庸な作品解説にとどまってしまっている感が否めない。本人も以前インタヴューを受けたときに(こうした文体を使用するという)戦略の有効性というのを話していたことを記憶しているのだが、いったいなにが蓮實重彦をこうも変えてしまったのか?とにかくあの文体に魅力されたものにとっては蓮實重彦がなにか批評現場の最前線にはもういないのだということを感じざるをえなかった。ある意味で映画を取り巻く環境もそれだけ成熟してしまったともいえるのだろうが。
2009年6月26日に日本でレビュー済み
蓮實先センセイと青山くんの対談が収録されていますが痴呆老人と介護士のおしゃべりのようで、なかなか興味深かったです。